ダーダム通り○番地△「うわ、ここ穴あいてんぜ」
「こっちなんか床剥がされてる。気をつけろ」
「もう撮ったらさっさと帰ろうな……」
ここはかつて、凄惨な事件のあった現場。
外壁は劣化が目立ち、床や屋根は穴だらけだ。
俺たち2人は創設したばかりの自分たちの動画チャンネルに、定期的にこういう動画を撮りに来ている。
「案外広いよな」
「キッチン前のテーブルとか丸々残ってるし」
経年劣化や天候の影響で薄汚れ、埃に埋もれた、かつての住民のかつての住居。
マスク越しにも灰色の空気が皮膚をくすぐり、顔を顰めながら奥への侵入を試みる。
ギリギリ太陽の残る夕方に来たとは言え、あんまり時間を掛けてしまうと夜になってしまう。
「あくまでお遊びなんだから、視聴者が見たいのはお前が霊媒体質だって売ってるとこを生かした例のお芝居だろ」
「わかってる。良い場所見つけてそこで始めて、お前が叫ぶなりしてさ」
チャンネルに投稿しているのは「編集に編集を重ねたお遊びのフェイク動画」で、俺たちはあたかもホンモノの場所でホンモノの心霊体験をしたと見せる。
「さーて、始めよう」
リビングのソファを起点にし、撮影を開始する。
定点カメラを設置し、撮影はいつも通りに行われた。
片方が霊に取り憑かれたふりをして、暴れ回り家具や壁に身体を打ち付けたり、挙句にカメラをひっくり返したり。
片方はそれを家の外で見て、驚いて駆けつける……そんなやり方。
映像は無事に撮り終え、荒らしたものも全てそのままにしてあっさりと退却。
家を出たあとのシーンとして、除霊をしたふりをして、今回は無事助かった旨を書く。
如何に此処は危険な場所で…軽い気持ちでは決して…などと、おどろおどろしい説明文を加える。
編集は手馴れたものだ。
フェイクなのかどうかを視聴者がどう見ているのかは知らないが、実際に次の投稿予定日も近い。
急ぐ必要もあるので、動画が完成したあと、俺たちはすぐに2人でテスト視聴をした。
【ダーダム通りに存在する、緑の外壁の不気味な廃墟】
【幽霊が最も出現するといわれる夕方に、我々はそこへ出向いた】
【「はぁ……、なんだか、埃もすごいな」】
【「リビングに、特に霊の念を感じる。」】
【「よし、そこで撮影をしよう」】
【未だ生活感の漂うリビングに、定点カメラを___】
「あれ?」
「どした、なんかミスあったか」
「……いや、なんか、そのキッチンの奥」
ぶるり、と身を震わせた。
キッチンの奥、ちょうどリビングに定点カメラを設置している時の映像。
「冷蔵庫の前」
「あ、あー……なんか映りこんだだけじゃね」
「いや違うだろ、これ、脚だろ」
「い、いやいやまさか」
爪先。ズボンの裾。膝、腰まで確認できる。
「これ……脚だけ映って……」
「俺、定点カメラ置く時1人だったんだぞ」
「ああ、確かに、俺は外で……」
「じゃあこれ何だよ、誰だよ」
黒のジーンズを履いた、裸足。
定点カメラを配置し終えた後も、その脚はあり続けた。
そして、リビングを荒らし始める出演者がカメラを倒す際に、キッチンを映さなくなったことで、やっと画面から姿を消す。
「俺たちの動画にマジなの映ったの初めてじゃん」
「……つかこれなんで腰から上が無いんだ」
ぎゅう。
背後から、何かに肩を抱かれていると、
俺たちが気付いたのは、
その声を聞いた時だった。
「おかえり」
「やっとかえってきてくれたんだね」