痛みと微睡む最初は、僕の身体がふわりと浮いた。
次に、目と耳が繋がった。
3回目くらいに、何も残らなかった。
***
「大丈夫か?」
「うん…」
「ほぼ毎日悪夢が続いて、もう1ヶ月は経つって事か……よく今まで相談しないで耐えてたな」
「家の中、僕の話で暗くしたくなくて…」
今日は特別怖い夢だったから、叫びながら跳ね起きた。
流石に隣の部屋で寝ているマークにも聞こえてしまい、早朝だと言うのに相談に乗ってもらっている。
「んなこと気にするなよ。友達だろ」
大きいマークの手が、今朝夢で切断されたはずの僕の頭を優しく、包むように撫でてくれる。
「……ごめん…そうだよね」
匂いも、触った感触も、
日を増す事に現実に近くなっていく。
そんな、気持ちの悪い悪夢。
僕の、死ぬ夢。
「とりあえずなんか飲むか?」
マークの水色の瞳が、心配するように僕を観察し、顔を見つめた。
まだ現実と夢の境が曖昧なせいもあり、10秒ほど使いぼんやりする頭で僕は答える。
「コーンスープ……かな…」
***
黄色いスープに、小粒のコーンがぷかりと浮いている。
ほんのり暖かいスープの熱が、手に溶け込んで心地がいい。
「俺ってあんま悪夢とか記憶しないタチなんだけどさ。そもそも、そこまで悪夢の経験が無かったって思い出した」
辛かったろ。
マークの言葉が、昇ったばかりの太陽が照らす庭の緑色を受けて、綺麗な虹色を生んでいた。
ふぅふぅとスープを冷ますうち、やがてもう1つ隣の部屋の友人が起床したようだ。
「今日はさ」
「映画でも雑貨屋でも、お前が好きなとこ遊びに行こうぜ」
うん、うん。
頷きながらゆっくりとスープを口にする。
マークは眼鏡を掛け、テーブルにあった雑誌を手にして笑いかけた。
表紙に載ってるのは観覧車と回転木馬と……
ちょうど、気になってたテーマパークが先週開園したばかりだからと、僕が言ってたのをおぼえててくれたようだ。
「そうだ、これ。確か車で3時間位じゃないか?……サンドイッチでも作って車で食べながらさ」
うん、うん。
弾む気持ちと、スープの熱が心臓を高鳴らせて。
扉がノックされ、聞きなれた声も聞こえてくる。
「お前らもう起きてたのか」
雑誌片手にエドゥアルドへ歩み寄るマーク。
悪夢が、喉を伝って消化されていく音がした。