好奇心でやけどする麒麟ちゃんのはなし 今まで五百年以上生きてきて、大抵のことは見聞きしてきたし体験してきたから、初めてのことなんてそうそう残ってはいない。あるとしたら色恋ぐらいだと不意に気付いて、そうして気付いてしまったら、それがどんなものなのか、六太は急に知りたくなってしまった。
「というわけで、してみたいんだけど」
「何故俺に言うんだ」
「だって、おれが尚隆以外に言うとぱわはらになってしまうだろ」
「ぱわはら」
「逆らえない立場の相手に無理強いするのは良くないだろう。その点お前なら問題ないじゃん」
「俺に強請るのは無理強いではないと」
「だからさあ、なあ一回ぐらい別にいいだろ減るもんじゃなし」
言い募る六太を、尚隆は目を細めて呆れたように見やった。ややあって、六太の身体を抱え上げ卓の上に座らせる。近くなった目線。温かくて大きな手のひらが六太の頬を撫でる。それが心地よくてつい自分から頬を擦るように顔を寄せると、尚隆の目が一層細まった。
「つまりだ、お前はこれから俺に恋をする訳だな」
愉快そうに笑う尚隆の顔が近づく。あ、違うこれ呆れてるんじゃない、
「尚隆、ま、っ……」
静止をする間もなく、顎をぐいと掴まれて唇を塞がれる。逃げを打つ身体を空いた方の腕で抱え込まれて、口付けは深くなった。
「……っ…、っ……!!」
くるしい。息が出来ない。目眩がする。顔が、熱い。
ほとんど頭が真っ白になりながら、必死で拳を振り上げる。どんどんと二、三度尚隆の胸を叩くと、ようやく唇が離れた。
肩で大きく息をしながら呼吸を整える。息が乱れて何も言えない六太の横で尚隆はくつくつと笑っている。
「麒麟の恋がいかようになるものか、楽しみだな。なあ、六太」
悪い顔で囁く尚隆に鬣を一房取られ、持て遊ばれる。そのまま耳朶に掛けるように撫でつけられて、鬣を梳かれても、六太は唇を震わすばかりで何も言えなかった。自分は選択肢を間違ったような気がする。尚隆を恋の相手にするなんて。
今更ながら六太は後悔したが、もうすでに口付けをする前の自分には戻れないことを、早鐘のように打つ鼓動と共に感じていた。
おわり