愛と笑う死んだと思われた高杉を抱き抱えて来たのは銀時だった。高杉は勿論直ぐに病院に運ばれたが、奇跡的に一命を取り留めた。生き急いでいたやつではあったが、身体はまだ生きながらえようと必死に動いていたのだった。そんな想像もしていなかった再開に、桂はどう反応したら良いのかがわからなかった。
「久々だって言うのに…シケたツラをしてるなァ、お前さんは。」
そう言って街ゆく桂に話しかけてきた。
「殆ど息絶えていた人間が、まず最初に友に言うことではないな。貴様こそ顔色が良くないぞ。これからまた墓場にでも還るのか?」
「クク、もうあんな冷てェ土の中なんてゴメンだね。」
こんな皮肉のような返しをするなんて、まるである海外の双子の再会のようである。憎まれ口を叩いているが、退院してきた高杉が一番最初に会いに来たのは自分だったと、後からまた子殿に聞いた。
実際には、会えることが嬉しくて堪らなかった。お互いにそう感じていたと思う。だが素直になれることなどなかったのだった。一度死に掛けても奴は奴のままだった。強いて言えば自分が英幽志士オバZになっていたくらいである。その他に何も変わりはない。コイツの帰りを待っていたことに変わりはない。
二人は人気の少ない路地裏に移動する。高杉は竹刀を桂に投げつけ、薄ら笑みを浮かべた。
「久々に一本勝負…するかィ?」
「…望むところだ。」
そんな挑発に乗らないわけには行かなかった。よくよく見ると高杉には左腕がなかった。いつも着物の中に腕を隠しているため、違和感がなかったのだった。だがそんなことを理由に手加減でもしたら侍として…否、元侍として無礼である。
「いざ…参る。」
高杉は病み上がりな上に片腕しかない割には粘ったが、やはり勝つことは無かった。二人は地面に仰向けになり、息を荒らげる。すると高杉は昔の頃のように笑い出した。それに釣られて笑い出す。一頻り笑ったあと数秒の沈黙が続く。この沈黙も昔程気まずいことは無い。むしろ安心出来るものであった。
高杉は桂の方へごろっと向き、桂の右手に自分の右手を添える。それに驚き高杉の顔を見ると、馬鹿でも分かるような愛おしそうな顔をしていた。薄く開いた口は、何か大事なことを自分に告げようと迷っている様だった。いくつになっても阿呆なんだな。そんな事、口にせずともわかるのに。自分だって同じ気持ちをずっと前から伝えたかったのだから。桂は高杉の右手を両手で包むように左手を添えた。すると高杉は見たことの無いくらい優しい顔をしていた。その表情に心を揺さぶられたことは、まだもう少し内緒にしておこうと思った。