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    merino/motis.

    @_mrn_motis

    20↑|刀BL|まつい左固定
    まつぶぜ中心、ぶぜぶぜなど自由に。
    らくがき、草稿、書き途中のものなど。
    後日加筆してpixivに収納しています。

    ▼完全版はpixivにあります
    https://www.pixiv.net/users/14199756

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    merino/motis.

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    松井(黒猫)と豊前と女審神者(三毛猫)/本丸の楽しい日常

    ある日、謎のバグで猫になってしまった審神者が、バグを意図的に利用して豊前の部屋に住んでいた黒猫の松井に遭遇し、マウントを取られまくる話。
    審神者視点、ほのぼのシュールギャグです。ゲストに村雲。

    CP左右設定なし/豊前強火担かつ同担拒否のつよつよ松井がいます。
    リクエスト作品です。

    ■pixivの完全版に差し替え済(8/5)

    ##刀+さに
    ##松と豊

    キャットファイト・サタデーナイトキャットファイト・サタデーナイト 強火担、という言葉がある。
     推しと呼ばれる崇拝対象、例えばアイドルなどに対して、熱狂的とも言える愛情を持って応援している者のことを言うらしい。
    (強火担だな……)
     いま目の前にいる碧い眼の黒猫に、『豊前の腕枕は絶対に渡さない』圧を掛けられながら、審神者はまさにその言葉を思い出していた。



       ◇

     種族、猫。
     毛色、三毛。
     猫の外見年齢はおそらく三~五歳ほど。
     職業――審神者。
     何がどうなったのかはわからないが、昔流行ったライトノベルにありがちな、『目が覚めたら猫になっていた!』というタイトルの本が一冊出せそうな状況に置かれていることを理解してから、すでに一時間ほどが経過していた。
     曜日は確か土曜日だ。頭上には夏色の空が広がっている。周囲はどうやら向日葵の景趣で、しかし今朝までの記憶とはいささか異なる見慣れない景色がそこにあった。
     青い空を背景にした見事な向日葵畑の丘の向こうに、綺麗な十字架が映えるごく細い三角の屋根が見える。少なくともあんな場所に礼拝堂は、あるいは教会のような建物はなかったし、縁側から見渡す中庭に関しても、こんな場所に洒落たガーデンテーブルセットなどは置かれていなかった筈だ。
     何処か別の本丸に迷い込んだか、はたまた何かの霊気的な干渉を受けて妙な時間軸にでも放り込まれたか。現状はなにひとつ解析出来ないが、とりあえずいま目の前に屈み込んだ刀剣男士が誰なのかだけは理解出来た。
    「おー、猫だ。三毛はめずらしーな。また押し入れから逃げちまったのか?」
    ――我が本丸の良心とも言える刀、豊前江だ。
     押し入れ? 何の話だろうか。いやそんなことはどうでもいい。慌てふためく内心に反し、至極あっさりとその手に柔らかい猫腹を乗せる形で掬い上げられてしまった審神者は、細く頼りない猫の四肢でもがきながらにゃーにゃーと事態を訴える。
    「なんだ、腹減ってんのか? しゃーねーなぁ」
     当然言語などは通じないようで、走ることと食べることが大好きな豊前らしい適当な翻訳をされながら、縁側から上がった屋敷の一室へと運ばれていくのがわかった。
     屋敷そのものは見慣れた和の景観だ。ごく一般的な本丸のつくりとも言えるだろう。無論、よそには審神者の趣味や生い立ちに基づき、庭のある洋館であったり、現世の学生寮のような建築物で暮らしている本丸も存在する。――いやそんなことは今は本当にどうでもいい。やけに話が早くて混乱する。
    「松井~。おーい。松井~?」
     豊前が松井江を呼んでいるようだ。そう認識した筈が、呼び声に応えるようにして姿を現したのは、どう見ても……
    「おっ、いたいた。なあ、こいつ、さっき庭で拾ったんだけどさ、腹減ってるみてーなんだよ」
    ――どこからどう見ても、ただの黒猫なのだが。
     そもそも松井は遠征中の筈だ。六日ほど前に、実務のリフレッシュも兼ねて単騎で赴きたいと言う申し出が本刃からあったため、日頃世話になっている恩もあり快く判を押して送り出している。
    (松井……? そういう名前ってこと?)
     ゆったりとした足取りで寄ってきた長毛種の黒猫の傍に屈み込み、豊前はその背中を慣れた手つきで少し強く撫でてやっている。黒猫も気持ちが良さそうに頭を上げ、ゴロゴロと喉を鳴らしているのがこちらまで聞こえてきた。
     だが次の瞬間、審神者は――猫審神者は、豊前の片手に四肢をだらんと垂らした布団のように掛けられたまま、だらだらと見えない冷や汗を掻き始めた。
     黒猫と目が合う。気高そうな佇まいの猫だ。美しい長毛には見事な艶があり、まるで高級ドールのような碧い眼をしている。碧い眼。まさに豊前がその名を呼んだ松井江のような、南国の澄んだ美しい海の色をした眼が――
    《ふうん》
    明らかにつまらなさそうな半目でこちらを値踏みするように見ている。
    (まっ――松井くんだーー!)
     審神者の勘は死んではいなかったらしい。
    「ちっと飯取ってくんよ。松井が好きなやつでいいよな? あと頼むぜ」
    《ああ。任せてくれ》
    (すっごい可愛い声で鳴いてるーー!)
     ようやく部屋の畳に下ろされる。
     しばらくの間様子を見てやってくれと、碧い眼の黒猫――松井に頼み、豊前は座敷を後にした。
     さっきの《ふうん》は何だったのかと言いたいくらいに、豊前には愛らしい猫なで声――猫本人に使用する言葉で合っているのかはわからないが――で鳴いてみせたその黒猫は、落ち着いた足取りでこちらへと歩み寄ってくると、鼻先を寄せてじっと眼を覗き込んでくる。猫のくせに相変わらず顔が良い。
    《それで?》
    《え?》
     猫語で話し掛けられて、自然と猫語で答える。そういった標準機能はきちんと備わっているらしい。中身は人間だが。
    《君はどこから来たの?》
    《えっ、ああ……ええっと……》審神者は焦る。
     どうやらこの感じでは、松井はこの新入り猫が自らを励起した審神者であるとは気付いていないらしい。おそらくどこぞの馬の骨――どこかの野良猫を、気のいい豊前が拾ってきたものだと勘違いしているのだろう。
    《すでに僕という猫がありながら……》
     猫審神者の身体がその場に立ったまま明らかに後ろに伸び、本能的に逃げようとしている。
    (やばい、嫉妬の圧がすごい)
     全身を大きく見せるべく伸び上がるようにして上から迫る黒猫松井に、耳が勝手にイカ耳になり、視線が逸れ、さながら地域のボス猫に押し負けたように目元がきゅっと瞑られる。自らの勝ちを確信したのだろう、威嚇に膨らんでいた黒猫松井の毛並みがようやく落ち着いた。
    《まったく豊前は……。愛猫は僕一匹でいいだろうに》
    (同拒だ、同担拒否だ! 古参の黒猫!)
     鼻をくっつけたり、尻を嗅がれたりといった猫同士の挨拶のようなことはしてこない時点で、やはり中身は人間(?)のままなのだろう。猫審神者はすっかりと耳を寝かせた姿で、先住猫に降参を示すようにか細い声を絞り出す。
    《――その、ちょっと……道に迷ってしまって。気が付いたらこのお屋敷に……》
     そんな筈がないだろう。心の中で思わず自分につっこんでしまう。
     本丸とは、審神者の霊力と政府からの術的支援によって維持されている仮想空間のようなものだ。景趣はあくまでシステムの一部であり投影されたもの。周辺には時間遡行軍の侵入を許さない強力な結界が張られている。そう易々と犬猫一匹、ねずみ一匹入ってこられては困るのだ。
     黒猫松井は、一応は納得してくれたらしい。
    《へえ。僕はね、豊前に拾われたんだ》
     と思ったが、何故だか何倍もドヤられてしまった。
    《豊前は優しいだろう? こんな姿になって、困り果てて本丸内を彷徨っていた僕を見つけて、心配して話し掛けてくれてね。ちょうどその日は小雨の降る日で寒かったから、僕の足は子鹿のように愛らしく震えていたのだけれど、わざわざ体温の残る上着を脱いで僕の身体を包んでくれて。『とりあえず、今夜は俺の部屋に来るか?』って優しく抱き上げてくれて――》
     うんぬん。
     今何か、ものすごくイケメン声を演じていたような。
    《しかもそのときつけてくれた名前が『松井』だったんだ。頭に一番に浮かんだものが、遠征で居ない僕だったってことだろう? フ……、豊前も隅に置けないな。まあ、君はたぶん、無難に『ねこ』とか『たま』とか『ぽち』とか、そんな平々凡々とした名前になるだろうね》
    (なんかすごいマウントされてる~~~~)
     黒猫松井のそれは鼻高々な自慢が始まり、初手から止まらなくなる。まさかそのマウント相手が、日頃は品良く王子然と振る舞っている自らの主だとは露とも思わないのだろう。
     猫審神者が漫画のように全身に見えない汗を掻いて言葉でのマウントを受け続けていると、
    「戻ったぜー」噂の優しい豊前江が戻って来たらしい。黒猫松井のしっぽが絵に描いたように真っ直ぐに立ち上がった。
     ドッと緊張が解けた思いで振り返ったところで、
    (えっ?)その手にある物を見て、猫審神者は凍り付いた。
    「おら、美味いぞー。食え!」
     意気揚々としたそれは人の好い笑顔で目の前に置かれたのは、何故か焼き餃子が乗ったどんぶりご飯だった。
    (!?)
     焼き立てらしいパリパリ餃子の香ばしさに、餃子のたれがたっぷりかかったつやつやの白米が見事にマッチしている。餃子は二切れで大きめの羽根付き、白米は見るからに炊き立てだろう。それはそれは美味しそうな――ではない。
    (餃子丼!? いやそれってどういう!?)
     屈んで膝に腕を置いた豊前が、相変わらずの顔と人当たりの良さで笑って見せる。
    「ちゃあんと玉ねぎは抜いてっからな。安心しろ」
    (そういう問題!?)
     そばに立つ黒猫松井から、『ドヤ~~~~!』という効果音が聞こえてきそうなほどの光を放つドヤ顔を感じる。まるで後光だ。よく見る絵画の麗しくも憂いを帯びた松井江のような、それっぽい宗教画風の背景に、更にそれっぽい後光のデザインを背負ったそれが今目の前にあるではないか。いや猫だが。
     猫とは思えないくらいに胸を張って松井は言った。
    《僕を拾った夜に、豊前は自分の夕餉を分けてくれたんだ》
    (そういう問題!? 猫に餃子丼って、そういう問題!?)
    「よーしよしよし。好きなだけ食っていいからな。まだおかわりもあっから遠慮なく言えよ」
     グローブを外した豊前の手に、わしわしガシガシと前脚が片方浮くほどに撫でられて全身が揺れる中、猫審神者は気が遠くなりそうな心地を覚えた。
    《豊前の作る餃子丼は最高だよ》
    《へ、へえ~~》
     声が裏返ってしまった。
     今更だがよくよく見ると、餃子丼の傍らには何故だかコーラが入った薄い皿が置かれていた。





    ――翌日。
    「あれ。どうしたの、主。随分やつれた顔してるけど」
     桃色の瞳を瞬かせた村雲江が、遠征の報告書らしき書類を手に、執務机越しに疑問符を浮かべてる。
     審神者は少々目の下に隈が浮かんだ顔をして、手元の帳面を見つめたまま遠くに飛んでいた意識をどうにか呼び戻して顔を上げた。
    「ああ……うん。今朝、ちょっと変な夢を見て……」
    「ふうん……? 大丈夫?」
    「大丈夫……」
     どう見ても瀕死だが。
    「あれっ、猫だ。どうしたの? この猫」
     よく男士たちがやって来てはお茶会を開いて気軽にくつろいでいる、本来は応接セットであるソファで寝ている黒猫に気付き、村雲の声が明るく弾む。村雲は犬だが、どうやら猫も好きらしい。
    「ああ……えっと、……そう! 知り合いの審神者さんから預かってて。すっかり懐いちゃったみたいで、ずっと離れなくて」
     そう、ずっと離れない。足元や傍らに常に寄り添い、膝からも、就寝時には腕枕からも。
    「へえ~、可愛い。まっくろいね」
     そう、まっくろい。毛並みも腹も、色々な意味で。
    「あっ、そう言えば主」
    「うん?」
    「松くんの単騎遠征って延長になったんだっけ? いつ帰ってくるの? 雨さんと三振りで激辛らーめん食べに行く約束してるんだ」
    「へ、へえ~。それは楽しみだね。松井くんは~、ええっと――」
     まるでその身の猫生を謳歌するように、身を横たえている黒猫が――ソファの肘掛けに頭とブーツを脱いだ長い脚を預け、すっかりと眉の力が抜けても怖ろしいくらいに端正な寝顔で仮眠を取っている豊前江の、静かな寝息に上下する胸板の上に身を預けきった姿で、のんびりと大きな欠伸をしている。
    「豊前、よく寝てるなぁ」
     ンナァ~と間延びして鳴いた黒猫の頭を、村雲が嬉しそうに撫でている。
    「しっぽふわふわだぁ」
     審神者はもう何度目かわからない内心で頭を抱えた。
    (――あーーもう! どうしよう! 上になんて報告したらいいの!? 松井くんも役得めでたししないで!)
     松井が単騎遠征を申し出たことは、思えば以前にも何度かあった。
     よくよく豊前に聴いてみると、この黒猫と暮らすのは初めてではなかったらしい。数ヶ月置きにふらっと姿を現しては、豊前の傍らから離れることなく数日間を過ごすのだそうだ。無論、就寝時には一晩中腕枕をしてやっているのだという。そうしてまたしばらくすると姿を見せなくなるらしく――不思議とそれは、松井が単騎遠征で個室を空けている時期に起こるのだという。
     審神者は嘆くように両手で顔を覆う。
     豊前はどうやらこの黒猫のことを、松井がこっそり押し入れか何処かで飼っている飼い猫で、遠征の度に何も言わずに自分に預けて行っているものだと思っているらしい。そんな遠回しな以心伝心があってたまるかと審神者は嘆く。
     いくらなんでもお人好しと松井への信頼度が高過ぎる。あの冷ややかな半目のコメント《ふうん》を無限リピートして聴かせてあげたいくらいだ。
    「主~? 大丈夫~?」
    「大丈夫……ありがとう雲くん……」
     間違いない。松井はバグの発生条件を解析済みなのだ。
     知った上で意図的に利用して、いじっている・・・・・・のだろう。
     昨日の昼間に見たあの違和感のある景色。教会らしき十字架に、西洋のお茶会を思わせる洒落たテーブルセット。あれはどうみても、この本丸における松井江という刀剣男士の要素・・が景趣に混じっているとしか思えない。
     おそらく最初にバグが起こったのは松井自身の身だったのだろう。
     松井は基本的に審神者の手を煩わせることを厭う実直な刀だ。そう、実直な刀なのだが……彼が豊前に対して抱いている感情は、まさに"強火"のそれだ。松井が言っていた『その日は小雨の降る日で寒かった』『僕の足は子鹿のように愛らしく震えていた』と言うのが事実だとすれば、ひとりで何とかしようとしてもどうにもならず、雨と寒さの中で途方に暮れていたに違いない。そんな時に何も知らない豊前――つまりは彼の"推し"に優しく迎えられ、図らずもうっかり癖になってしまった、というのが審神者の推察するところだった。
     長谷部や長義と並んでよく働いてくれるしっかり者の松井が、日々の疲れを癒やすにはこの上ない安息の地と、誰にも邪魔をされることのない安眠場所を得てしまったというわけだ。
     例えバグの大元の原因はわからずとも、実務が得意で実際に凄まじく頭の切れる彼には、きっとそう難しいことではない。現に今までにも数回、執務室や事務室のシステムがエラーを吐いた際に、そういった知識はない筈の松井に不思議と助けて貰っているから――
    (これだから神様は……)
     有能だが気紛れで、良い意味で厄介な、けれど愛おしい不思議な存在――それが人の身を得た彼らなのだ。
    「……ん……、……」
    「あ、起きた。おはよー豊前」
    「……ん~……、あー……結構寝ちまったな……。はよ。何してんだ? 雲」
     目頭を拭いながら息を吐いた豊前が、目に掛かる前髪を掌で崩しながら眠たげに赤い瞳を瞬かせる。
    「んー? 報告書持ってきた。あと猫撫でてた。可愛いね」
    「おー。こいつ、なんかすげー懐いててさ。たまに遊びに来るんだよ。な?」
     甘やかすように首を傾げて顔を覗き込まれた黒猫が、声を出さない鳴き真似、あるいは人間には聞こえない高い周波の声で鳴いてみせる、いわゆる『サイレントニャー』を豊前に返す。猫特有の愛情表現だ。
    「へ~」村雲は興味津々といった様子でそのやり取りを見守っていた。
     目を覚ました豊前が身を起こして大きく伸びをし、欠伸をこぼすと、膝に移動した黒猫も揃って大きな欠伸をこぼす。そこで豊前はふと、執務机から漂って来るただならぬ気配に気付いて視線を向けた。
    「うん? どうした? 主。なんかすげー絶望おーら背負ってっけど。なんかあったのか?」
     豊前の膝でふた振りに撫でられながら満足そうに右前脚の毛繕いをしている黒猫は、もはや本物の猫のようだ。どうやら今日中に元に戻るつもりは無いらしい。
    「……なんでもないよ……」
    (何もなかったことにしたい……したいけど、それはそれで未来の始末書が見えてる……)
     コーラは舌が痺れたが、餃子丼は確かに美味しかった。



    キャットファイト・サタデーナイト


     了

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    ある日、謎のバグで猫になってしまった審神者が、バグを意図的に利用して豊前の部屋に住んでいた黒猫の松井に遭遇し、マウントを取られまくる話。
    審神者視点、ほのぼのシュールギャグです。ゲストに村雲。

    CP左右設定なし/豊前強火担かつ同担拒否のつよつよ松井がいます。
    リクエスト作品です。

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    キャットファイト・サタデーナイト 強火担、という言葉がある。
     推しと呼ばれる崇拝対象、例えばアイドルなどに対して、熱狂的とも言える愛情を持って応援している者のことを言うらしい。
    (強火担だな……)
     いま目の前にいる碧い眼の黒猫に、『豊前の腕枕は絶対に渡さない』圧を掛けられながら、審神者はまさにその言葉を思い出していた。



       ◇

     種族、猫。
     毛色、三毛。
     猫の外見年齢はおそらく三~五歳ほど。
     職業――審神者。
     何がどうなったのかはわからないが、昔流行ったライトノベルにありがちな、『目が覚めたら猫になっていた!』というタイトルの本が一冊出せそうな状況に置かれていることを理解してから、すでに一時間ほどが経過していた。
     曜日は確か土曜日だ。頭上には夏色の空が広がっている。周囲はどうやら向日葵の景趣で、しかし今朝までの記憶とはいささか異なる見慣れない景色がそこにあった。
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