そうして君と金色の朝 約二週間の海外旅行にしては小さなスーツケース。いつも通りのスリーピースのオーダーメイドスーツからは、バカンスに浮かれた様子もない。私物は大して入っていないわりに土産ばかりが山のようだ。
爽やかな初秋の風が吹く九月のある夜。両手が完全に塞がった状態でマンションのエントランスからエレベーターへと向かいながら、松井はとても取り出せそうにない鞄の中の携帯が、メッセージアプリの通知音を小さく響かせるのを聴いていた。桑名が無事に家に着いたのだろう。きっとその報せだ。
洒落た内装の箱に乗り込み、見慣れた階で荷物をどうにか押し出すようにして下りる。随分と懐かしい感覚を抱いて自宅ドアの前に立つと、一度荷物を置き、鞄から探り出したカードキーをセンサーにかざした。
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