キスの日「今日は何の日か知ってる?」
無邪気な声で暁人が言う。手にした文庫本に落としていた視線を声の方へと向けた。ソファに座る俺を見下ろす暁人の表情は、声と同じくとても無邪気に微笑んでいる。
こういう時のコイツは面倒だ。
正直に言えば、無邪気に笑顔を浮かべる暁人を可愛く思う。だが、面倒なのはコイツがそう言った表情を浮かべる時は何かしらの企みがあることを経験上知っているからだ。年下の恋人はこれで意外と計算高いのだ。
「今日?」
何を企んでいるのか。思案しつつ質問の意図を考える。
5月23日。ちらりとカレンダーに目をやるが、そこには予定の書き込みはないし、祝日というわけでもない。カレンダーに書いていない予定でもあったかと記憶をたどるが、思い当たるものは何もなかった。
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