人妻(食用)飼育日記。6[なつやすみ]
夏休みになり、テストの反省も活かし早々に宿題も終えると、エレンはゆっくりと〝リヴァイ〟との時間を楽しんだ。家から出なくても最高に楽しいなど自分でも終わってると思うが、楽しいものは楽しいのだ。しかも今日は特典まであった。
「いっつも腹減ったって呟いたからか、まさかスイカまで届くなんてなぁ~」
ハンジに取りにおいでよと言われ、今まさに取りに行ったところだった。こんな大玉スイカ食えるなんてありがたい。さっそく食べるべく流し場に持っていく。
『?』
一緒についてきた〝リヴァイ〟が、突然現れた巨大な球体に首を傾げている。ぺちぺちと叩き、何かを確認しているようだった。
「これはな、スイカっていって、リヴァイさんの仲間みたいなもんだ」
正確には野菜なんだろうが、エレンの中では果物なのでそういうと、ふんふんと頷いた〝リヴァイ〟が何かをしゃべりかける。
『……、……、』
しかし当然ながら普通の果物は返事をしない。だんまりのスイカにきょとんと首を傾げた。
怪我をすると悪いので〝リヴァイ〟を安全な肩に乗せると、包丁でザクザク大きく切り分ける。すげぇ! 中は真っ赤で皮が薄く、棚落ちもしていない。最高かよ。ウキウキしながら半分はラップをかけて冷蔵庫に入れる。あと一回楽しみがあると思うと鼻歌さえ漏れた。それを聞いた〝リヴァイ〟も楽しそうにゆらゆら揺れる。可愛い。
プラスチックのお盆に大量のスイカを並べ、同時に食べ終わった皮を入れるボウルを用意すると、机に向かいいただきますとパンと手を合わせる。大口を開けかぶりつく。
しゃくっ
「うめぇ~っ!!!」
悶絶する。これぞ夏!って感じだった。
『、』
そばで食べる様子を見ていた〝リヴァイ〟も爪楊枝を持ってくると、真剣な顔で切り分けたスイカの種をせっせと取り始めた。
「リヴァイさんもありがとうな~」
なんて贅沢な時間だろうか。幸せを感じながら堪能する。昔はスイカなんて簡単に手に入った気がするのに、今では高級品だ。感謝しながら半分をぺろりと平らげる。
「あぁ、ウマかった……!」
ごちそうさまでした。満足する。腹が水分で満ちていた。
皮を片し、手伝ってくれた〝リヴァイ〟をたくさん褒めようと手を洗ってニコニコ戻る。と、黒い何かがリヴァイに圧し掛かっていた。
「……、は?」
一瞬何が起こっているのか理解できなかった。なんで……カブトムシ!?
何処から? よりもまず、
「わーッ! 危ないッ!!」
慌ててツノを掴みぐいと引き剥がす。しかし鈎爪のような足が服に引っ掛かりなかなか離さない。
「~~~っ」
クソッ、離れろよ害虫がッ!! 青褪めぐいぐい引っ張りなんとか引き剥がすと必死に〝リヴァイ〟を確認した。
「っ、大丈夫、だな!?」
『、』
〝リヴァイ〟はぽかんとびっくりした顔をしていたが、どこも欠けていなくて心から安堵した。寿命が縮んだかと思った。
忌々しく手の中でウゴウゴと動く虫を見つめる。オレのリヴァイさんを食うとかありえねぇ。――でも、こいつが悪いわけではないのは解っていた。網戸。隅っこが少し壊れているのを知っていたのに、放っておいた自分が完全に悪い。
「……いくら美味しそうでもお前が食っていいのはスイカだけだ。もう来るなよ」
言い聞かせながら網戸を開けカブトムシをぽいと放ると、しっかりと穴を塞ぎ念のため部屋をぐるりと確認する。
「ごめんな、怖かったよな」
『、』
〝リヴァイ〟はふるふると首を振ったが、自分の気が済まない。何度も頬ずりする。〝リヴァイ〟は遊んでくれてると思ったのか無邪気に喜んでいた。