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    nonkasuneko

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    nonkasuneko

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    再録・初めてのエッチでバイブをぶち込まれる尾

     駅の裏手にあったラブホテルは、みんなピンク色をしていた。壁紙は小さなハート柄で、金色のストライプが入っている。ベッドもピンクだ。ベビーピンクのシーツに、ハート型をしたショッキングピンクの布団がかかり、天井からはこれもピンクのオーガンジーが、垂れさがっている。ソファだけはバランスを取ってか、ディープブラウンだが、テレビを置いてある棚は、やはりピンク色だ。ついでに、絨毯もピンク色をしている。
    「へへ、可愛いだろ」
     杉元が誇らしげに鼻の下を擦る。尾形は愛想笑いを返した。正直なところ、自分達が利用するには気持ち悪い部屋だ。もっと普通でよかった。しかし、杉元が必死でこの部屋を探してきたのかと思うと、少しかわいい。部屋ではなく、杉元が可愛い。かなり馬鹿な気もするが、まあいいかと思考停止を起こす程度には、尾形は杉元に惚れていた。
     杉元は会社に出入りしていた業者の男だ。丸きりのノンケだったのを、一年かけて落とした。何度も飲みに誘い、付き合うようになってからも、いきなりハメようとして、杉元が引かないようにデートを重ねた。そして今日、ついにラブホテルに来たのだ。多少の思考停止は許されたいと尾形は思う。
    「先にシャワー浴びてくるな」
     少し頬を赤らめながら、杉元が言う。尾形はそっと頷いた。杉元がシャワーを使いだしたのを確認してから、トイレに入る。ウオッシュレットで入念に尻を洗いながら、尾形は期待と緊張に震えた。ちゃんと入るだろうかと思いながら、自分の尻穴に触れてみる。そこはまだきゅっと閉じて、侵入を拒んでいる。
     尾形は処女だった。元々性的指向としては、ゲイでネコの自覚はあったが、男との経験はない。今夜が初めて経験になる。正直なところ、尾形は大変に期待していた。なにしろ杉元は顔がいい。性格もまあ悪くはないが、なんにせよ顔がいい。あの男に抱かれるのだと思うと、濡れたら色々マズいケツも濡れるというものだと、尾形は思う。
     散々ケツを洗い、芳香剤を撒いてからトイレを出ると、ちょうど杉元も浴室を出てくる所だった。交代でシャワーを浴び、全身を入念に洗う。ともすれば期待だけで勃起しかかるペニスをなだめつつ、セックス映えするようにシャツ一枚だけを羽織り、尾形は浴室を出た。
    「なんか、照れるな」
     ベッドに座ると、杉元がへへと笑った。面はゆそうな笑みが、また尾形の心臓をときめかせる。ロマンティストの杉元は、きっと優しく抱いてくれるだろう。そっと口付けて、何度も愛撫を繰り返して、それからペニスが入ってくる。想像すると、ケツの穴がキュン♡となった。
    「杉元……」
     尾形は呼んだ。杉元がそっと口付けてくる。尾形は薄目をあけたままキスを受けた。ごく近距離で見る杉元は、やはり顔がいい。興奮のせいか、いつもより瞳の色が薄く、獣のような美しさがある。尾形はうっとりと見惚れた。部屋中がピンク色をしているのが少し気になるが、まあいい。
    「尾形……」
     名前を呼んだ杉元が、そっと舌を差し入れてくる。軽く唇を開き、尾形は舌先を差し出した。杉元の舌が絡みついてくる。肉厚の舌はもっちりとしていて、よく動いた。口の中をぺちゃぺちゃと味わわれ、尾形とうっとりと目を細める。キスだけでぞわりとした快感が、腰の奥からこみ上げてきた。
    「ん…ッ」
     思わず声が漏れてしまい、尾形は杉元の肩をぎゅっと握った。興奮のせいか、杉元のキスが上手いのか、酷く気持ちがいい。だんだんと力が抜けてしまい、尾形は杉元に体重を預けた。
    「いいか……」
     脱力した体を一度ぎゅっと抱きしめ、杉元がそっとベッドに横たえる。尾形は小さく頷いた。本当は早くと強請りたいぐらい、飢えている。だが、やはり恥じらいは大切だ。特に純朴そうなノンケ相手では、控えめに行っておきたい。若干の打算も入りつつ、尾形は素直に身を預ける。杉元がゆっくりと、体を被せた。
     もう一度唇が重なる。舌を絡み合わせながら、尾形は杉元に腰を擦りつけた。もう既にペニスはすっかり勃起している。それは杉元も同様のようだった。下着の上からペニス同士を擦り合わせ、ちゅぱちゅぱと音を立てて、お互いの唇を貪りあう。だんだんと頭がぼんやりとして、後頭部から沈んていくような、気持ちよさがあった。
    「俺、男とは慣れてないからごめんな」
     尾形のシャツのボタンを外しながら、杉元が言う。尾形はゆっくりと首を横に振った。そんな事はどうでもよかった。尾形とて、男との経験はない。だが、杉元と繋がれるだけで満足だった。
    「でも色々調べてきたし、頑張るからな」
     杉元の顔に優し気な笑みが浮かぶ。そして、どこからかバイブを一本取り出した。尾形は一瞬、なにも理解できず、まじまじとバイブを見つめた。
    この部屋と同じまっピンクをしたバイブは、平均的なペニスと同じくらいの大きさをしている。めくれ上がった亀頭の形が生々しく、竿の部分には謎の捩じりが咥えられ、中のパールを透けさせている。尾形はゆっくりと瞬きした。しかし、目の前のバイブは消えない。ピンク色の照明に、ギラギラとした邪悪な姿を映えさせている。
    「お前を楽しませられるといいんだけどな」
     杉元が少し寂しそうに笑う。そんな風に笑うと、杉元は途端に色気を増す。だが、尾形はそれどころではなかった。なぜこんなものが出てきたのか、まっっったくわからない。頭がおかしい。
    「ちょっと待て」
    「ん、どうした?」
     杉元がちいさく首を傾げた。杉元の声はあくまでも優しい。しかし、右手にはバイブが握られている。それはなんだ、と尾形は言った。
    「え…、お前に楽しんでもらおうと思って買ってきた」
    「いや、なんでそうなる」
    「お前さ、モテそうだから……。俺じゃ楽しませらんねぇかもと思って」
    「いや、大丈夫だ。心配するな」
    「遠慮すんなよ。せっかく買ってきたし」
     杉元がバイブを握りしめたまま、頷いた。その顔はやはり優しい表情をしている。スケベなことをしたいがために、バイブを買ってきた男の顔に見えなかった。だからこそ、本当に頭かおかしいと尾形は思った。
    「楽しませてやるからな」
     杉元の唇が降ってくる。ちょっと待て、という声は、深い口付けの中に消えた。



     負けられぬ戦いがある、と杉元は思った。右手に握り込んだバイブが熱い。燃えるようだ。体の下に組み敷いた尾形は、なぜか少し引き攣った顔をしている気がするが、ちょっと緊張してるんだろうと、杉元は一人納得した。
     今日、尾形と初めてセックスをする。尾形は仕事で出入りしていた会社の社員で、最初はあまりの物言いのキツさに大嫌いだった相手だ。何度か口喧嘩をして、そのうちなぜか気が合ってしまい、二人で飲みに行くようになった。そして、一月前から付き合うことになり、今初めてのセックスをしようとしている。人と人はわからないものだと、杉元は思う。
     しかし、杉元にとってこの初エッチは、大変な戦いでもあった。尾形はどう見ても、男にモテた。雰囲気からして、随分と遊んできたようにも見える。だが、杉元は男性との経験がない。女性経験は人並みにあると思っているが、男のほうは尾形が初めてだ。いざセックスとなった時に、下手くそだったと、がっかりされるのは嫌だった。
    バイブを買ったのも、その為だ。尾形を楽しませるために、色々なプレイも調べてある。絶対に泣くほどよくしてやるからな、と杉元は心に誓っていた。
     バイブは握ったまま、もう一度尾形の唇を吸う。薄く見えた尾形の唇は、実際に触れてみると、ふんわりとして柔らかだ。それだけで興奮してしまい、杉元は更に深く求める。舌を押し込んて、ちろちろと上顎を擽り、それから舌と舌を擦り合わせる。ふっと尾形が鼻を鳴らした。
     ぺちゃぺちゃと音を立てて唾液を混ぜ、最後にちゅっと音を立てる。唇を離すと、尾形の目がとろんと潤んでいた。かわいいなと思いながら、体の位置を下げる。バイブはひとまず、ベッドの上に転がした。流石にずっと握っているのは、邪魔だった。
    「なんか、エロいな」
    「お前、そんなことより…なにをする気だ」
    「すげぇ、エロい」
    「人の話を…きけ!」
    「聞いてるぜ……」
     杉元は一人頷いた。本当はあまり聞いていなかったが、尾形がいやらしいので仕方ない。
    尾形は素肌に、カッターシャツ一枚だけを羽織っていた。黒いシャツから伸びた白い足が、酷く煽情的だ。それだけで煽られてしまい、杉元は生唾を飲む。
    喉に口付けながら、シャツのボタンを外していく。現れた肌は、更に一段色合いが淡い。むっちりとした胸筋の上に、うっすらと血管が透けるほどだ。それなのに、乳首はすっかり充血していた。ピンと尖って、存在を主張している。乳輪の色は、淡い茶だ。その中心にある乳首だけが、一段濃くなって血の色を透けさせている。
    「ぷっくりしてる……」
     尾形の乳首は標準より、少し大きめだった。乳輪は小さいのに、乳首だけはむっくりとしている。男にいっぱい吸われてきたかのような、そんなイヤらしい形状だ。乳首の形に他の男の影を見つけ、杉元は更に闘志を燃やした。この乳首を誰かが吸って、こんなスケベな形にしたのかと思うと、許しがたかった。俺の色に染めかえてやる、と心が燃える。
     すぐにむしゃぶりきたい衝動を堪えて、杉元は乳肌を撫でた。胸筋を下から掴み、軽く揉む。予想以上にしっかりと鍛えられた体は、ムチムチとして触りこごちがいい。何度も揉んでたっぷりと弾力を楽しんでから、だんだんと指先を乳輪に近づけた。
     まずは乳首だった。読んだセックスハウツー本には、とにかく乳首を攻めろと書かれていた。杉元は教本通りに、まずはさわさわと乳輪を刺激する。
    「はっ、ん……」
     何度も同じ動きを繰り返していると、尾形か切なそうに息を詰めはじめた。まだ触れていない乳首が、先程よりもぷっくりとしてきている。充血して更に大きくなった乳首が、酷く卑猥だ。いかにもスケベな体という感じがする。杉元は生唾を飲みながら、今度は両の乳首を指先でくりくりと転がした。
    「んっ」
     途端に尾形が、鼻を鳴らす。いやらしい尾形のぷっくり乳首は、感度までスケベなようだった。杉元はすっかりいい気分になって、こねこねと乳首を転がす。だんだんと尾形の呼吸が早くなっていく。
    「はあ、はあっ、ッ」
     尾形がぎゅっと歯を食いしばった。切なそうに胸が付きだされる。しかし、杉元は同じ動きを止めなかった。ただ優しくコリコリと乳首を転がし続ける。
    「っう、はあっ、すぎもとッ」
     尾形の腰が小さくうねりはじめた。少し苦し気な声が、名前を呼ぶ。視線を下に向けると、下着の中で尾形のペニスが、むっくりと存在を主張していた。
    「そんなすぐじゃつまらねぇだろ」
     尾形はもうかなり腰の辺りが切なそうに見える。だが、まだだと杉元は思った。一旦乳首から手を離し、今度はきゅっと締った腰を撫でる。脇腹から手を滑らせて、手の平全体で乳首を転がし、最後にきゅっと摘まむ。そのままくにくにと指の腹で、乳首をこねると、尾形の声が一段高くなった。
    「ひっ、う……」
     尾形の手がシーツを握りしめる。杉元は指先に力を込めた。すっかり充血しきった乳首を、ぎゅっと潰す。ああっと高い声があがった。
    「やっ、いた、い…ッ!」
     尾形がいやいやと首を振る。だが、下半身は別の反応だ。パンツの中のペニスが、ビクビクと跳ねている。
    「気持ちよくねえのか」
     杉元はふいに手を離した。ある程度押したら、今度は引けとセックス教本にも書いてあった。
    「う……」
     急にすべての刺激を止められ、尾形が眉を寄せる。熱を逃すように、はあっと湿った息を吐いて、軽く腰を揺らしている。杉元は小さく舌なめずりした。ただ気持ちよくしてやりたいとだけ思っていた筈なのに、すっかり加虐心が目覚めてしまっている。もっと尾形を感じさせて、追い詰めたくて仕方ない。
    「ここ」
     杉元は尾形の乳首に唇を寄せた。しかし、触れはせずに舌先を見せる。舐めて欲しいか、と問いかけると尾形がぎゅっと唇を噛んだ。
    「お前ッ…、なんなんだ」
    「なにが」
    「普段…と、ちがう」
     俺もそう思う、と杉元は思った。尾形と付き合いだして以来、杉元は尾形に喜んで貰おうと、趣味を全開にしてきた。前回のデートでは観覧車に乗って、天辺でキスをした。前々回のデートでは、生クリームたっぷりのふわふわパンケーキを、二人で仲良く半分こして食べた。確かにそこからこの乳首責めは、繋がらないのかもしれない。だが、これはこれ、それはそれだ。パンケーキで攻める日もあれは、乳首をコリコリして攻める日もある。それ多様性が人間というものだ。
    「そうでもねえよ」
     杉元はそっと尾形の右乳首を口に含んだ。だが、まだ刺激はしない。ただ口に咥えたまま、じっと反応を待つ。尾形がううっと小さく声をあげた。
    「乳首ジンジンしてんだろ」
    「うるさ…ッ!」
    「ぷっくりしちまってる」
    「だま、れ」
     尾形がいやいやと首を振る。杉元はそっと乳首を歯を当てた。そのまま前歯で挟みこみ、こりこりと転がす。
    「アッ!」
     ビクッと腰を跳ねさせて、尾形が体を捩る。逃げそうになった乳首を、杉元は更に力を入れて噛んだ。いてぇ! と尾形が鋭い声をあげる。杉元はすぐに歯を外し、今度は慰めるようにれろれろと舐める。
    「やっ…あ、あ…」
     優しい愛撫に切り替えた途端、尾形はまた腰を揺らしだした。切なそうにペニスがびくびくと揺れている。杉元は目を細めつつ、そっと内腿を撫でた。
    「んっ」
     膝上から腿の付け根へ向けて、さわさわと肌を撫でる。期待したように、尾形が腰を突き出してくる。だが、杉元は無視して、何度も腿だけを撫でつづける。尾形が苦しそうな声で、杉元と呼んだ。
    「ん、どうした」
    「この…とぼけるな」
     尾形の眦が鋭くなる。しかし、すっかり目が潤んでしまっている。まったく怖くない。ただ可愛いだけだ。
    「すぎもと」
     尾形が切なそうに呼ぶ。杉元は内心ガッツポーズを決めた。今の所、負けていないと心の中で確認する。しっかり尾形を感じさせている。もっと気持ちよくさせてやるからな、と杉元は一人頷いた。
    「こっちも触って欲しいんだろ」
     体を起こし、尾形の下着に手をかける。ゆっくりと引き下ろすと、尾形の目にあからさまな期待が浮かんだ。
    「ん…う」
     尾形が腰を持ち上げる。杉元はあえてゆっくりと、パンツを引き下げていった。勃起したものが、ずるりと布を押しのけて天井を指す。初めて見る尾形のものは、なかなかに立派だった。長さはそれほどではないが、ずっしりとして太い。カリ首はずるりと捲れて、竿にはしっかりと血管が巻いている。
    陰毛も濃く、恥骨の上にみっしりと生えている。その割に、陰嚢の発毛は淡い。腿の色が白いせいか、黒々とした毛がなにか酷く卑猥に見える。
    「うわ、エロ……」
     杉元は思わず呟いた。同性の性器など今まで、まるで興味がなかった。だが、尾形はペニスはなにか酷く猥褻に感じる。日頃スカした顔の尾形に、こんな生々しいものが付いているのだと思うと、杉元はなにかやたらと興奮した。
     だが、こちらに触れるのはまだ先の予定にしている。さんざん焦らすのが、快楽のコツだとセックス教本に書いてあったのだ。尾形のペニスに触れたい気持ちを堪え、杉元は尾形の膝裏に手を入れた。そのままぐっと膝を割り開く。はっ、と尾形が声をあげた。
    「おい…ッ! 杉元!」
     急に深い場所を晒され、尾形が抗議の声をあげる。しかし、杉元は自分のプレイを信じて疑わなかった。へへっ笑い、先程ベッドに隠しておいた、尾形のネクタイを手に取った。



     尾形は唖然とした。あまりになにが起きているのかわからず、うっかり抵抗するタイミングを逃してしまった。気が付けば両腕は自分のネクタイで縛られ、両足は杉元の手によって大開脚させられている。想定外の事態だった。
     ちょっと待て、と抗議の声をあげるが、杉元はよくしてやるからと、気の狂ったことをいうばかりだ。
    「いや、なんで」
    「気持ちよくしてやるから」
    「それはわかった」
    「ならいいだろ」
     杉元が笑う。尻の穴を晒させられながら、尾形はこれは一体どういう事だろうかと、何度目かの思考に突入した。
     ついさっきまで、杉元は完全なるピュアなノンケだった。デートとなれば、女の子の喜びそうなスポットに連れて行ってくれ、女の子の喜びそうな店で可愛らしいパンケーキなどを、食べさせられた。先週のデートでは、恐ろしく恥ずかしいことに、観覧車でキスまでしたのだ。あまりにも趣味でない、クソみたいな恋愛映画にも付き合わされた。
     それらに耐えてきたのは、あくまでも杉元がノンケであり、可愛らしい年下の男だったからだ。まさか初めてのセックスでさんざんに乳首を舐めしゃぶり、人様のネクタイを持ち出して手を縛り、あげくバイブを準備してくるような、ドセックス男だとは思わなかった。それならば、あんなデートには付き合わなかった。こんなに頭がアレならば……
    「はは、丸見え」
     杉元の指先が、そっと尻の穴に触れる。尾形はんっと息を詰めて、顔を背けた。あまり感情が豊かな方ではないが、やはり肛門を晒されるのは恥ずかしい。ましてや、両手を縛られて抵抗できない体勢では、猶更に屈辱感が増す。
    「やめ……」
     尾形はぎゅっと目を瞑った。こんな遊びのようなセックスは、あまりしたくない。杉元だからと思ってまだ我慢しているが、尾形は割と夢見がちなところがあった。いかにも遊んでいそうに見えて、所詮は処女であった。ごく普通に、かわいいと言われながら抱かれたい。杉元を思ってオナニーをする時も、優しく愛撫され、正常位で抱かれるという、結構甘ったるい妄想をしていた。
     しかし、現実は過酷だった。正常位には近い体勢だが、思い切り足を拡げられ、尻の穴を丸見えにされている。あげく杉元は、無遠慮にそこをじっと見つめ、ヒクヒク動いてるぜなどと言ってくる。やめてくれ、と尾形は思った。
    「すぎもと……」
     普通にしてくれ、と祈りながら杉元を呼ぶ。だが、杉元は更になにかを勘違いしたようだった。指欲しいのか、と言いながら、ローションを手に取っている。ついでにバイブも手元に引き寄せている。
    「いや、そうじゃない」
    「恥ずかしがるなよ……」
     ローションを絡めた杉元の指が、尻に触れる。指先がぬるぬると滑りながら円を描き、肛門の窄まり全体を揉んでくる。
    「ふっ…!」
     尾形が息をつめた。やめろと思ってはいるのだが、刺激されるとやはり気持ちいい。ぞわっとした感覚が上がってくる。先程さんざんに乳首を舐められ、すっかり勃起してしまっているので、体は刺激に飢えている。尾形は腰を捩る。待て、と細い声がでる。だが、杉元の指は構わずにずるりと入ってきた。
    「ん……ッ」
     根元まで中指を飲まされ、尾形はぎゅっと目を瞑った。セックスの経験はないが、アナルでのオナニーは何度もしている。既に馴染んだ快感が、尻から這いあがってくる。こんな意味不明の状況でも、やはり杉元の指というだけで、つい興奮してしまう。
    「あっ、は…、あ」
     尾形は喉を鳴らした。じわじわと指を動かされると、次々に甘い声が出てしまう。悔しい。だが、止められない。
    「ここ、敏感なんだな」
     反応に満足したのが、杉元が切れ長の目を細める。ローションと指を増やされ、尾形は更に喘ぎを漏らす。反応すると杉元を増長させる気がするのだが、初めて他人から与えられる゜内側の感覚は強烈だった。じんっと奥が熱くなって、だんだん頭がぼんやりとしてくる。
    「ふっ、うう…はあ、ああ、う」
     胸の前で縛られた腕を縮めて、尾形はこみ上げてくる息を噛み殺す。杉元の指の動きは、的確だった。かわいいノンケだと思っていたが、しっかりと前立腺を捉えて、くちくちと刺激してくる。指が動くたびに立つ水音が、余計に尾形を興奮させた。意味の分からないプレイをはじめられて、混乱はしている。だが、やはり杉元は好きな男だった。触れられれば、つい気持ちよくなってしまう。
    「そろそろ、いいか」
     顔を覗きこんで、杉元がニッと笑った。ぬるりと指が抜き取られる。その感触が気持ちよくて、尾形はつい頷いてしまった。抱いてもらえるのだとばかり、思い込んでしまった。
     しかし、出てきたのは先程のバイブだった。ピンク色の凶悪な玩具を片手に、杉元が待ってろよとひとり頷く。
    「ち、がッ…!」
    「遠慮するなよ……。ここ好きだろ」
     尾形の尻にバイブを押し当て、杉元が言う。待て、と尾形は思った。確かにそこは好きだ。入れられたいと思っている。だが、それは違う。そんなものを入れられたい訳ではない。なにより尾形は少し怖かった。アナルでオナニーはしているが、こんな太いものは入れたことがない。痛いのではないかと思うと、自然と体が強張る。このバカどうすれば、と考えているうちに、杉元がぐっと力を込めた。
    「うううッ!」
     たっぷりと塗られたローションのせいか、バイブは案外簡単に中に滑り込んできた。ずるずると太いものが侵入を深めていく。圧迫感と前立腺を押しつぶされる感覚に、尾形はんーっと鼻を鳴らした。
    「すげ、ずっぽり……」
     熱いため息をついて、杉元が尻の穴を凝視してくる。やめろ、と尾形は呻いた。すっかり肛門が広げられてしまった感覚がある。ぐっぽりとそこが伸びて、バイブを飲みこんでいる。想像すると酷く恥ずかしかった。
    「やめ、やめ…ッ」
     尾形は首を横に振った。両腕を縛られているせいで、あまり抵抗らしい抵抗はできない。ただぎゅっと目を閉じるだけだ。
    「嫌なのか」
     明らかに興奮の浮いた声で、杉元が訊く。尾形は当たり前だろうと答えた。
    「へえ、その割にはこっち凄いぞ」
     杉元の指先が、つぅーと勃起したものの裏筋を撫でた。急にペニスを刺激され、尾形はびくっと肩を震わせる。そっと目を向けると、勃起しきったペニスが、とろとろと先走り汁を垂らしていた。
    「それ、は…!」
    「ここにずっぽり飲みこんで興奮してんだろ」
     はっと笑った杉元が、ふいにバイブのスイッチを入れた。ヴーと振動しながら、バイブがうねうねと中で円を描く。唐突に刺激を増やされ、尾形はああっと高い声を放った。
    「やっ…! ま、てッ! あ、アあっ」
     尾形は内腿をびくつかせた。嫌だと思っているのに、体の中はバイブの動きに勝手な反応を返す。それ用の玩具だけあって、バイブの動きは気持ちが良かった。ペニスで言えば亀頭の部分が、ごりごりと前立腺を撫で、根元にはいった振動するパールが、敏感な入り口を刺激してくる。こんなもので、と思うのだが、やはり快感は快感だった。
    「はっ、ああ…あっ、うう」
     屈辱が変なスパイスになりはじめていた。うにうにとバイブが動くほどに、息が乱れていく。嫌だと思っているのに、ペニスが更に硬くなって、びくびくと跳ねるのを止められない。体の奥から熱いものがこみ上げて、喉から押さえられない声として、つい迸ってしまう。
    「いやぁ……、はあっ、はあ、ああ」
     勝手な痙攣が内腿を走っていく。だんだんと頭が痺れて、よくわからなくなる。こんな太いものは痛いだろうと思っていたのに、今はその拡張される感覚がたまらない。腹の中に太いものがあって、ぐりぐりとかき混ぜられている感触が、全身に電流のような喜悦を呼んでいる。
    「はあ、っう…も、いや…」
     本格的に気持ちよくなってしまい、尾形はシーツを握りしめた。ペニスが勝手にびくびくと痙攣し、どんどん中から粘液が溢れてしまう。気が付けば、いつの間にか腰がくねくねと揺れていた。
    「嫌じゃねえだろ…」
     杉元が目を細める。その顔はいつもよりも優し気だ。だからこそ、なにか不気味だった。もっとよくしてやるな、と杉元が言う。待ってくれ、と尾形は思った。
    「これ……」
     杉元の手が、尾形の尻から飛び出しているバイブの持ち手部分に触れる。ぐっと更に押し込まれ、尾形はびくっと跳ねた。入り込んでいる角度のせいか、強く前立腺が圧迫されている。そのままバイブがうねうねと振動すると、ひっと喉が鳴った。
    「だっ…ああ、あ、だめ、それ…やめ、ろ」
     引き攣れた喉で尾形は訴えた。しかし、杉元はにやりとした笑みを浮かべるばかりだ。本当にこの男が、ピンク色パンケーキを食べたがったとは思えない。なんで、と思っていると、バイブがずるりと半分ほど引き抜かれた。
    「はあっ…」
     前立腺への圧迫から解放され、尾形は大きく呼吸する。その体の力が抜けた瞬間を見計らって、今度はずんと突き上げられた。思わず、アアッと高い声があがる。
    「やっ、やめぇ…ッ」
     全身を強張らせ、尾形は身もだえた。しかし杉元の手は容赦せずに、ずこずことバイブを突き入れてくる。ぶりぶりとしたシリコン製の亀頭が、ぐりぐりと前立腺を突き上げる。その度に全身を快楽の電気が走る。
    「ははは、すげえ反応いいな」
     軽い口調で杉元が言う。尾形は杉元を睨みつけた。ごく普通に抱いてくれればいいのに、どうしてこんな事をされているのか、まったくわからない。楽しそうにしている杉元が、憎たらしくさえある。それなのに、体はどんとん反応してしまう。それが悔しくて、尾形は必死で奥歯を噛んだ。
    「うっ、うう…くうう」
     せめて喘いでやるものかと思うのに、声は次々にせり上がってくる。押し殺そうとすると、息もできないほどだ。それでも、必死で堪える。だんだんと息苦しくなり、涙が滲んだ。
    「なに我慢してんだ」
     ふっと短く笑い、杉元がバイブを前後させる手を早めた。先程よりも激しく、前立腺が押しつぶされる。尾形はシーツを握りしめて、うーうーと呻いた。快感で下腹が勝手に、びくびくと震えてしまう。堪えることで尻に力が入り、バイブを締めつけて、更に感覚が強くなってしまう。
    「じゃあもうちょい強くするか」
     杉元は声を堪えていることが不満なようだ。唇を尖らせてみせると、バイブのスイッチをいじった。途端に振動が強くなり、尾形はのけ反った。バイブの先端で押しつぶされた前立腺が、今度はぶるぶると振動している。たまらなかった。
    「ううッ! ふあっ、あ、はああっ! あ!」
    高い声が喉をついた。強い刺激に腰の奥に、射精への渇望が生まれ始めている。もういやだ、と尾形は思った。こんなのは嫌だった。しかし、快楽は少しも手加減をしてくれない。ぶるぶると震えながら、尾形の中で暴れまわってくる。
    「あ、はあっ、ぁあ…あ」
     陰嚢がぐっとせり上がってくる感覚があった。うっかりすると射精してしまいそうで、尾形は全身に力を入れる。杉元を振り払いたいのだが、ネクタイで拘束された両手が、それを夢してくれない。せめても抵抗に、背中を使ってずり上がるが、杉元はにやにやと笑いながら、すぐに追いかけてくる。いや、と尾形は細い声を漏らした。
    「っ、うう…はあっ、やだ、まて、やだ……」
     本当に射精してしまいそうで、尾形はいやいやをした。尻でオナニーをした事はあっても、尻だけでイッてしまったことはない。しかし今、尾形は達しそうになっていた。未知の感覚への恐怖が、背骨を震わせる。だが、杉元の手はまるで容赦がない。気持ちいいんだろ、と笑いながら、バイブを大きく前後にスライドさせてくる。
    「あ、ああう、…や、…いや…」
     両足を突っ張らせて、尾形は必死で快楽に抗う。腰の奥では、快感が爆ぜそうになっている。陰嚢は収縮しきってぷりぷりと硬くなり、ペニスは溢れた先走りでぐちょぐちょだ。今にも精液を吐きそうに、口をぱくぱくと収縮させている。
    「はあっ、あ、だめ…あ、でちゃ…でる…」
     体の中から真っ白くなるような、大きな波が打ち寄せてくる。尾形は震えた。せり上がってくる射精への欲求を、ただ必死で堪える。
    「おっ、あ…ああ、う」
     尾形は獣のような呻きを漏らし、内腿を強張らせる。下肢に力が入ったせいで、大きく開脚させられたまま、局部を杉元へ向けて突き出すような体勢になってしまっている。しかし、尾形にその恰好の恥ずかしさを思う余裕はない。ただ腹の中からくる快感と、射精欲と戦うことだけが、すべてになってしまっている。しかし、それももう限界だった。
    「うっ、ひ…う」
     尿道口から勝手にとろとろと精液が漏れはじめている。限界を超えた体が、尾形の意思を離れて精液のおもらしを始めていた。杉元がバイブを前後させるたびに、白濁がぷぴゅっと垂れてくる。
    「はは、精液でちまってる」
     笑った杉元が更にバイブを動かす手を早めた。ごつん、と乱暴に腹の中を叩かれ、尾形はあーと高い悲鳴をあげる。本当に限界だった。びゅっと精液が噴き出し、次々にあふれ出てくる。体の底から電流が駆け抜け、尾形は全身を痙攣させた。
    「ああ、あっ、ううッッ! あっ、あ、あ」
     どろどろに煮詰まった白濁を吐くたびに、喉から声が迸った。頭が真っ白に焼き切れて、もうなにも考えられない。ただ尻からの快感だけが、すべてになっていく。何度も声をあげながら、尾形はどろどろと大量に射精した。



     杉元は心の中でそっとガッツポーズを決めた。目の前にはバイブを尻に咥えこんだまま、精液を吐き出している尾形の痴態がある。これでひと先ずは、一度射精させることに成功した。バイブで攻めながら観察した尾形は、かなり気持ちよそうに見えた。少なくとも、これでド下手呼ばわりは避けられるだろう。しかし、まただ。もっともっと気持ちよくして、トロトロにしてやりたい。杉元は舌なめずりをした。
     正直な所、想像した以上に尾形はいやらしかった。何度もオカズにした空想上の尾形の数倍エッチだ。嫌だというのがまた加虐心を煽り、興奮する。もっとよくしてやるからな、と杉元は気合を入れた。
    「そろそろ本物が欲しいだろ」
     尾形の手を縛っていたネクタイをほどき、杉元は訊いた。もういやだ、と尾形が言う。目にうっすらと浮いた涙が、先程の快楽の深さを物語っている。ぜんぜん嫌そうには見えなかったけどな、と杉元は笑った。尻に埋めたままのバイブを握り、ゆるく前後させる。軽く前立腺を叩いてやると、尾形がまた高い声をあげた。
    「やっ、やめ…も、…やだ…」
     尾形が子供のようにいやいやとする。いつもの偉そうな態度が嘘のように、尾形はぐったりとしている。それがまた加虐審を煽る。もっともっと追い詰めて、普段とは違う顔を見せてほしい。ぐちゃぐちやに乱れて、泣きわめく顔が見たい。
    「ほら、抜いてやるから……」
     杉元は故意にゆっくりとバイブを引き抜いた。太い玩具に尻穴を擦られて、んんんと尾形が鼻にかかった声を漏らす。先程射精したばかりだというのに、尾形はもう新しい快感を拾いはじめているようだ。それがいやらしくて、心臓がどくどくと鳴った。
    「すげえ、口開けてる……」
     バイブをベッドの上に投げ、杉元は尾形の尻にそっと触れた。バイブを咥えこんでいた穴は、ぽかりと口を開けてしまっている。きゅっ窄まっていた放射状の皺が伸びて、中のピンク色の肉を覗かせていた。
    「やっ、みるな……」
     尾形がくの字に曲げた腕で、顔を覆う。その仕草がさらに杉元を興奮させる。見ているということをアピールするために、尾形の膝裏に手を入れる。そのまま更に大きく開脚させると、尾形がいやだ…と細く呻いた。
    「ひくひくさせてるのに嫌なのか」
    「うるさ……」
    「ほら、ここ震えちまってる……」
     杉元はゆっくりと穴の外周を撫でた。周囲の肌より色の濃い、くすんだ穴はくぱくぱと収縮を繰り返している。それに合わせて白濁に汚れたペニスが、びくびくと揺れる。酷く物欲しそうに見えた。
    「チンポ欲しくて動いてんじゃねえのか……」
     はあっと杉元は熱い溜息をついた。うるせえという尾形の声は、ねっとりとした湿り気を帯びている。こんなにいやらしい感じやすい体のくせに、尾形は酷く恥ずかしがりだ。それが更に杉元を興奮させる。
    「もっと焦らしてぇけど、もう限界」
     杉元は下着をずり下げた。完全に勃起しきったペニスが、ぶるんと飛び出してくる。先程からの高ぶりで、先端からは先走りがにじみ出ていた。
    「お前やらしすぎて、チンポいてぇ」
     見せつけるように、杉元は全体を扱いた。それから、尾形のローションに濡れた穴へと擦り付ける。亀頭でくりくりと穴を刺激すると、尾形がんっと鼻を鳴らした。
    「欲しいか」
    「うるさ、も、ほんと、なんなんだ……」
    「言えよ」
    「いやだ」
     うっと尾形が息を詰める。杉元は更にペニス全体を使って、穴を擦った。尻たぶの間を滑らせるようにして、きゅむきゅむ動く穴を刺激する。それだけでも気持ちいいものなのか、尾形は細かく肌を震わせている。
    「はあっ、あ…や」
     尻穴を擦られるだけで、尾形の息は乱れている。小さな穴が物欲しそうに、杉元の亀頭をちゅっちゅっと吸ってくる。欲しいと言わせたかったが、もう杉元のほうが限界だった。手早くゴムをつけて、もう一度押し当てる。入れるぞ、と耳元に囁くと、尾形がびくっと震えた。
    「すぎもと…ゆっくり」
     訴えてくる声には、ちいさな怯えがあった。気持ちよすぎて怖いのだろうかと思いながら、ぐっと腰を進める。先程バイブを入れていたせいか、抵抗はあまりなかった。亀頭の一番太い部分で一度止まったが、そこからはずるりと飲み込まれた。
    「っう~~!」
     一息に奥まで突き入れると、尾形が背中を反らして伸びあがった。全身がびくびくと細かく震えている。
    「ああ、や…いき、なり」
    「痛かったか」
    「おまえ、らんぼうだ…くそ……」
     妙に幼い口調でいって、尾形がううと呻く。らんぼうだ、と言ったた割に、尾形の体はしっかりと反応している。先程射精して勢いを落としていたペニスが、またすっかりと勃ちあがりきって、新しいよだれを垂らしている。感じてるじゃねえか、と杉元は笑った。
    「ちが、これは……」
     尾形が首を横に振る。なにが違うんだ、と言いながら、杉元はゆっくりと腰を使った。大きなストロークで奥まで入れては、抜けるギリギリまで引き抜く。亀頭のめくれ上がったところを使って、前立腺を擦ってやると、尾形は面白いように体をびくつかせる。あっ、あっと弱弱しい喘ぎ声を漏らす。
    「乱暴なの、嫌なんだよな」
     じわじわと刺激し、更に高ぶらせたところで、杉元は訊いた。一瞬質問の意味が理解できなかったのか、尾形が不思議そうな顔をする。杉元は優しくしてほしいか、と訊きなおした。
    「なに、企んで…やがる」
     先程までの行為のせいか、尾形が不審げな目を向けてくる。杉元は優しいほうが好きなのか、と柔らかな声色を作って、もう一度問いかける。
    「あや、しい」
    「怪しくねえよ」
    「うそだ」
    「お前をよくしてやりてぇだけだ」
     杉元は目を細めてみせた。だが、尾形の不審げな様子は消えない。じっと杉元を見つめたまま、口をきつく結んでいる。それがまた杉元に火をつける。余計に追い詰めてやりたくなる。
    「心配すんなよ。ゆっくりして欲しいんだろ」
     唇の端をあげて笑い、杉元は律動を再開した。尾形が先程言った通り、ゆっくりとゆっくりと腰を使う。深くは突き入れず、浅い場所だけをぬるーりぬるーりと擦る。えっ、と尾形が声をあげた。
    「や……」
     先程バイブでさんざん擦られた穴は、すっかり強い刺激になれてしまっている。これだけでまったく足りないのだろう。尾形が抗議の目を向けてくる。優しいのがいいんだろ、と言って、杉元は同じ動きを繰り返す。
    「く、そ…ほんと、なん、で……」
     じれったい刺激が苦しいのか、はあはあと胸を喘がせて、尾形が体を捩る。堪えるようにシーツを握る手が、白くなってしまっている。しかし、杉元は速度を上げない。あくまでもゆっくりと、浅い場所での律動を続ける。
    「あっ、ぁあ…やああ……」
     だんだんと尾形が、細かく震えはじめた。杉元を受け入れている内側の肉が、もっととばかりに吸い付いてくる。勃起しきった肉をちゅうちゅうと吸われて、杉元は熱い溜息をつく。
     男の尻に入れるのは初めての経験だが、狭い場所は酷く気持ちがいい。女のそことは違う狭窄さと、溶けそうな熱さが、堪らない快感をくれる。本当は好き勝手に、思うさま貪りたい。だが、尾形を楽しませたい一心で、杉元はゆるやかな動きを繰り返した。
    「はあー、あ…は…うう」
     尾形が苦し気に胸を上下させる。悔しそうに杉元を睨みつける目には、うっすらと涙が浮いている。いやだ…と小さく漏らして、尾形が腰を揺らしはじめた。深くペニスを受け入れようと、尻を突き出してくる。
    「おい、優しくして欲しいんだろ」
     快楽を欲して動く尾形の腰を、杉元はぐっと掴んだ。動けないように固定し、自分のぬるぬるとした動きだけを与える。はっと息をつめて、尾形が震える。や…と細い声が漏れ、恨みがましい視線が刺さった。
    「どした」
     素知らぬ顔をして、杉元は動きを止めた。亀頭の先を前立腺に押し当てたまま、じっと尾形を見つめる。ううと呻いて、尾形が顔を背けた。
    「ああ…あっ、うあ……」
     尾形の尻が動きたそうにもぞもぞと揺れる。どうして欲しいか言えよ、と杉元は囁いた。
    「はあっ、わかって…る、くせ…に」
    「わからねえから教えてくれ」
    「うそ、つく…な」
    「言えばいいだろ」
    「いや、だ……」
     尾形がぎゅっと歯を食いしばる。悔しそうな目と、反して揺れている尻が、杉元のペニスを更に硬くさせる。言えよ、と繰り返しながら、一度だけ軽く前立腺を突く。あ、の形に口を開いて、尾形がびくんと跳ねた。
    「うー…はあ、うう」
     快楽を堪えるように、尾形が身もだえる。なあ聞かせてくれよ、と杉元は、甘えた声を出した。
    「わかる、だろ……」
    「わかんねえから」
    「ばか」
    「尾形」
     柔らかい声を作って、呼ぶ。今度はゆるく突き上げると、尾形がうーと呻いた。唾液に濡れた赤い唇が、なにかを言いたそうにぱくぱくと動く。杉元は言ってくれよと、更に甘い声を出した。
    「うご…すぎもと、はあっ…動いて」
     酷く悔しそうに尾形が言った。唇がきゅっと結ばれている。眉はしかめられ、鼻梁にうっすらと皺が寄っている。そこにある屈辱が、杉元を更に煽る。もっと、もっと追い詰めて、快楽に泣く顔が見たいと思ってしまう。
    「はは、かわいい……」
     意外な気分で、杉元は自分の感情を見つめた。自分の中にこんな加虐を好む嗜虐があるとは、知らなかった。あるいは、尾形にはそういった感情をあおる、なにかがあるのだろうかと思う。なんにせよ、ここですぐに与えてしまっては、面白くない。わかったぜ、と言って、杉元はゆっくりとペニスを抜いた。
    「や…!」
     体の中を埋めていた肉を奪われ、尾形が信じられないという顔をした。なんで…と震える声が言う。杉元はにっと笑って、尾形の腰から手を離した。
    「ケツ、こっち向けろよ」
    「なん、で」
    「後ろからさせろ」
     今度は冷たい声で言う。尾形の目が更に鋭くなった。しかし、涙が浮いたままでは、ただ煽られるだけだ。クソ、うめいた尾形が体の向きを反転させる。腹ばいになり、しばらく躊躇ってから、ゆっくりと尻だけを持ち上げた。
    「すげ、丸見え……」
     杉元はうっとりとため息をついた。突き出された尻は、餅のように真っ白だ。肉が乗り、いかにも美味そうにむっちりとしている。二つの球体の中心は、そこだけ色が濃い。ぱくっと小さく口をあけた穴と、ローションでぺったりと張り付いた発毛が、ぬめぬめと光っている。その尻の向こうに、シーツに頬を置いてこちらを睨む尾形の顔がある。頬に屈辱的な体勢を強いられた悔しさが滲んでいる。その表情がまた興奮を煽り、杉元は生唾を飲んだ。
    「見てん、な……」
     息のような声で、尾形が言う。杉元はへへっと笑った。
    「早く欲しいか」
    「ちが……」
    「ほら、ひくひくしてる」
     開いた口にペニスの先端を押し当てる。そのままくりくりと擦ってやると、尾形の尻がじれったそうに揺れた。
    「はや、く、しろ……」
     尾形の目が強くなる。我慢できねえのか、と笑いながら、杉元はゆっくりとペニスを押し進めた。
    「んんーッ」
     鼻にかかった声あげて、尾形が背中を震わせる。尻に陰毛が付くまで押し込んで、杉元はふーと息をついた。やはり尾形の中は酷く狭くて、気持ちがいい。
    「はあっ、すげ……」
     ぐっと奥にペニスを押し当ててから、杉元はゆっくりと腰を引いた。抜こうとすると、中の肉が肉棒に絡みついてくる。その感触がたまらない。挿入を堪えて奉仕していた分、快感が深まっている。今すぐ乱暴に貪りたい衝動が沸く。だが、まだだ。もっと気持ちよくなれるように、いっぱい与えてやりたい。
    「動くぞ」
     杉元は尾形の尻を掴んだ。筋肉質に引き締まった体格に反して、尾形は尻だけがむっちりとしている。手触りのいいむちむちした肉を揉みながら、杉元は腰を前後させる。ぱんぱんと尻肉を打つ音が響き、更に興奮が増す。
    「ふうっ、う、ひあっ、ああ」
     ペニスの動きに合わせて、尾形が声をあげる。いつもは低く気だるげな声が、今は甘く高い。時折媚びを含んだような声が、すぎもとと呼ぶ。それが更に杉元を高ぶらせる。
    「はあ、あ…ああ」
     ぐっと尻を突き出して、尾形がくねくねと腰を揺らす。すっかり中の感覚に感じ入っているようだ。尻を揺らす尾形が卑猥で、杉元は舌なめずりをした。もっとこの光景を眺めたい、と思う。
    「尾形、ちょっと来い」
     後ろから抱いて、杉元は尾形の上体を引き起こした。そのまま後ろに倒れこみ、杉元は仰向けに横たわった。尻にペニスを挿したまま、尾形を腰の上へ座らせる。体位を背面騎乗位に変えて、杉元はもう一度尾形の尻を掴んだ。
    「このままケツ振れよ」
     ゆるく下から突き上げながら、杉元は言った。や、と尾形が声をあげる。
    「いや、だ……」
    「中、気持ちいいんだろ」
    「うるせ、え……」
     尾形がぎゅっと体を縮める。杉元は促すように、ゆっくりと腰を揺らす。だんだんと快楽への欲求に耐えきれなくなったのか、尾形が尻を振りはじめた。
    「うっ、うう…あ、あ、いやぅ……」
     嫌と言いながらも、尾形の動きはだんだんと大きくなっていく。杉元の目の前で、尻が持ち上がっては、にゅるりとペニスを飲み込む。白い肉たぶにペニスが埋まっていく様は、酷く卑猥だ。杉元は息を乱して、尾形の動きに合わせてペニスを打ち込む。
    「ああ、あ、やああ、あ」
     背中を震わせて、尾形が腰の上で踊る。杉元はペースを速めた。腹の奥めがけて、ごつごつとペニスを叩きこんでいく。尾形は奥の部分が感じるようで、深いところを刺激してやると、全身を跳ねさせる。杉元はそこを狙って、腰を使う。
    「あっあ、くる…も、くる……」
     ビクンと体を揺らし、尾形が急に切羽詰まった声をあげた。いく、と引き攣った声がいう。
    「出そうか」
     腰骨を撫でながら、杉元は訊いた。ん、イク、イクと尾形が繰り返す。快感で頭が飛んでしまったのか、先程とは違い酷く素直だ。じゃあイケよ、と言って杉元は尾形の手首を掴んだ。
    「えあ…あ」
    「自分でケツ振ってイケよ」
     手首を握り、杉元は更に腰の動きを大きくする。不安定な体勢で揺さぶられ、尾形がいやいやと首を振る。しかし、もう快楽には抗えないようで、自ら尻を擦り付けてくる。
    「はあ、あ、ぁっ、んふっ、うう、あ」
     尻を振りたてながら、尾形がいくつも喘ぎを放つ。動きはどんどん大胆になり、必死でペニスに内壁を擦り付けてくる。杉元は更に突き上げを強くした。
    「あっ、ぁあ、すご、おなか、やぶれ・…はあっ」
    「チンポそんなに気持ちいいかよ」
    「はあ、あ、すご、おかし、はあっ、きもち」
     尾形の声はどんどん大きくなっていく。もう絶頂が近いのだろう。背中にびくびくと痙攣が走る。
    「あ、イク、でる、でるッ、あああッッ!」
     ぐっと尾形の背がのけ反った。悲鳴じみた声をあげて、尾形が射精する。絶頂に合わせて、内側の肉が杉元のペニスをめちゃくちゃに絞ってくる。持っていかれそうで、杉元はぐっと奥歯を噛んだ。最後の一撃を突き込み、奥へと杉元も射精する。
    「ああ、あ、なか、あつ、い……」
    精液に反応したように、尾形がうっとりと呟く。快感はまだ続いているようで、白い尻がぶるぶると震えている。はああ、と尾形が深いため息をつく。次の瞬間、白濁で汚れたペニスの先から、ぷしゃーと小便が迸った。やああ、と尾形の悲鳴があがった。



    もう、本当に嫌だと尾形は思った。倒れこんだシーツは、自分の漏らした尿でじっとりと濡れている。ごく普通にセックスをしたかたっただけなのに、どうしてこんな事になってしまったのか、本当にまったくわからない。なんでだ、と思いながら、尾形は垂れてくる鼻水をすすりあげた。
     まだ体の中はじんじんと痺れて震えている。杉元のとセックスは確かに気持ちよかった。途中からは自分がなにをしているのか、なにをされているのか、まるでわからないほどだった。だが、気持ちよければいいという問題ではない。別に痛いだけでもいいから、ごく普通に、ごく平均的なセックスをしたかった。いきなりバイブをぶち込まれたあげく、騎乗位でケツを振らされ、おしっこを漏らすなどしたくなかった。
    「大丈夫か、尾形」
     杉元は先程の荒々しさが嘘のように、心配そうな顔をしている。なんなんだお前は、と尾形は思った。だんだんと腹が立ってくる。大丈夫かなどと今更言うなら、最初がやるなと言いたい。どうして付き合って初めてのセックスで、バイブなど買ってくるのだ。頭がおかしすぎる。
    「動けるか。風呂入らねえと……」
     杉元の手がそっと背中を撫でる。先程漏らしたおしっこが、だんだんと臭いはじめている。本当にもう嫌だ。クソがと思いながら、尾形は杉元の手を振り払った。
    「触るな、変態が」
     睨みつけると、杉元がえっという顔をした。なんで怒ってんだよ、と不安そうな声がいう。
    「気持ちよかっただろ」
    「そういう問題じゃねえ……」
     尾形は呆れた。杉元はまるで自分のした事を理解していない様子だ。やはり頭がおかしい。
    「こんな事されて、嬉しいわけねえだろ」
    「気持ちよさそうにしてたじゃねえか」
     頑張ったのに、と杉元の顔に書いてある。意味が分からん、と尾形は思った。
    「初っ端からあんな事されて喜ぶと思ったのか」
     初めてだったのに、とは流石に言えなかった。それはあまりにも女々しい。しかし、若干恨みに思っているのは確かだ。優しく大事にされたかった、とまでは思わないが、ごく普通にしたかったのは確かだ。
    「俺はただお前をよくしてやりたくて」
    「なんでそこで、あんな選択が出てくるんだ」
    「だって……」
     杉元が口籠る。そのまま俯いてしまった。尾形はため息をついた。それにしてもおしっこ臭い。漏らしたのなど、幼稚園の頃以来だ。シーツに染みた跡を見ると、屈辱で眩暈がする。
    「だってなんだ。言わないなら、俺は風呂に入る」
    「その」
    「さっさと言え」
    「お前が、すげえ経験豊富だから負けたくないと思って」
     は、と尾形は思った。杉元は俯いたまま、下手くそって思われたら嫌だし、それでお前に嫌われたら嫌だから、とブツブツ言っている。
    「俺は別に経験豊富じゃねえ」
    「え」
     杉元がぽかんと口をあける。尾形はため息と共に、お前が初めてだと言った。
    「へ」
     顎が外れそうなほど、杉元が口をあける。何度か瞬きし、それからはあっ?っと大きな声をあげた。
    「ちょっと待て、どういう事だよ」
    「だから、男との経験なんかねえ」
    「え、じゃあ俺は……」
     杉元の顔が見る間に青ざめていく。尾形は少しだけいい気分になって、フンと鼻を鳴らした。
    「よくも初めての俺にあんな真似を出来たものだなあ、杉元」
    「いや、だってお前」
    「だってじゃねえ」
     チッと舌を打ち鳴らし、尾形は杉元を睨みつけた。杉元の顔が更に萎れていく。ごめん、と弱弱しい声が言った。
    「お前を楽しませたくて、初めてだなんて思わなかったから」
    「勝手に思い込むんじゃねえ」
    「だって、お前モテそうだし……」
     ごめん、と言いながら杉元が腕を伸ばしてくる。ぎゅっと抱きしめられながら、尾形は仕方ねえなと思った。された事は自体は腹立たしい。だが、気持ちよくしてくれようとした、杉元の気持ち自体は悪い気がしない。仕方ねえな、と尾形は言った。
    「今度はもう少し考えろよ」
    「ああ、わかってる……」
     杉元がきゅっと腕に力を込めてくる。ごめんな、という声は優しい。
    「初めてだったんだもんな」
    「……ああ」
    「今度はもっと細いバイブにするな」
     はっ、と尾形は思った。何言ってんだコイツ、と思いながら杉元を見上げる。杉元の顔には、優しい笑みが浮いていた。まったく本気の顔をしていた。ぜんぜん冗談を言っている顔ではなかった。
     別れた方がいいかもしれない、と尾形は思った。大好きだぜ、尾形と杉元が言った。やはりとてもいい笑顔をしていた。
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