若い頃に東京を捨てて青森のなにもない、小さな漁港があるだけの町に引っ越してきた三十路の杉尾と、世界が滅ぶ夏の十日間の物語
杉元はラーメン屋をやっていて、尾形はイカの加工会社で事務をやっている。青森の日本海に面したなにもない町は本当になにもなくて、夜中に動くと噂の錆びかけたイカのモニュメントだけがある。車で30分のところにある海に隣接するちょっと有名な温泉にいくのが、なにもない町での楽しみ。
二人とも若い頃は荒れた暮らしをしていた。付き合ってからも上手くいかず、別れ話がでたことも何度もあった。生きることから逃げるみたいに東京を捨てた。行先はどこでもよかった。逃げられるだけ逃げて、北の果てにきた。今やっているラーメン屋はしんしんと降る雪の中で辿りついた店だった。
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