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    yowailobster

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    20211129 ちゃんと愛してるのに知らないから自覚できないのも単にお腹空いてるだけなのに幸福感強すぎてわかんなくなってるのも似たようなもの 可愛いね

    ##明るい
    ##全年齢

    不明瞭で満たされる 彼へ向ける愛がこの朝日のようにやわらかく暖かかったなら。もしくは日を透かしエアコンの風に揺れるカーテンのように優しい純白であれば。たとえぶつけてしまったとしても彼を苦しませることはなく、無かったことにしても自分の心には傷ひとつ付かない筈だ。
     そうであれば。願うのはそれが叶わないと知っているからに他ならない。自分は彼を傷つけたくないと形だけ取り繕い許されようとしているのだから卑怯な話だ。
     とはいえ、己の愛にそういった側面が一切無いとも思っていない。受け入れ難くはあるが。
     ひどく鋭利なそれの中にやわらかく、あたたかく、やさしい白が存在していたなど長らく気付かなかった。いや。きっと無理やりに忘れていたのだろう。大切に出来ないよう、感じられないように閉じ込めたそれを外側ごとめちゃくちゃにしてくれた運命候補兼イレギュラーの顔を思い出し、隣で眠る元少年と重ねる。あの日満身創痍だったにも関わらず涼やかに微笑んでいた唇は今ゆるく開き、強い意思を感じられた眉と目はふにゃふにゃ。見惚れたそれとはかけ離れた、気の抜けた寝顔。それでも見るうちに自然と口元は緩んでいた。これもまた受け入れ難くしかし尊い己の愛だ。けれど同時にそれより遥かにねばついた見るに耐えない愛も存在していることを否定出来ない。白と黒。あげたいものと受け入れて欲しいもの。どちらも真実だからこそ向かい合う度悩まされる。この両方を一人へ注ぐなどあまりに贅沢すぎる行いが許されるものか。本人へ訊いたところで別に大丈夫と一言で終わらせられ「あ、そう……」と納得出来ないまま二度と話に出せなくなるだけだろうし、万が一拒否されたならその日以降彼から逃げ回るようになる自信がある。自分は卑怯なだけでなく複雑で面倒な奴なのだ。付き合わされる方はさぞ大変に違いない、安らかに見える寝顔だって内には何を抱えているやら――そう思いながら夢の中までは覗こうとしない程度には。
     起こしたくはない。声に出さず名を呼んだ。
    「僕は君に、どうして欲しいんだろうね……」
     抱く白黒の感情へどう思い、何と告げて欲しいのだろう。
     分からないまま見つめていれば、目覚めが近付いたのか軽く身じろいだランガの脇腹から何とかしがみついていたタオルケットがとうとう落下した。暑い日が続く今日この頃だが既に弱く冷房をかけているしシャツもまくれている。冷やしてはいけない。そっとかけようとした手が、しかしタオルケットへ届く前に取られた。
    「……やあ。おはよう」
     弱々しい握力で掴んだ物をじっと見ていた寝起きの元少年はそれがこちらの手であると気付いたらしい。ろえん、と回っていない口で言って離しのろのろ起き上がる。
    「いいよ。僕の方こそ起こしてしまって」
    「うう、ん。おこされては……でも、よばれは……したかな……」
     瞳が一度、二度。瞬きをしながらこちらを捉えていく。遠い海に映る自分の顔はひどく強張っていた。緊張と、そして期待で。
     今ここで彼が訊いてくれたなら。まだぼんやりと見上げるだけの身体で、判断のひとつも満足に出来ないだろう頭で混ざりあう心の全てを君へ食らわせて良いかという問いへあっさりと頷いてくれたなら。自分はきっと白にも黒にも定めず戒めからも解放された愛を躊躇うことなくその身へ突き立てられる。
     それがいかに呆れた発想か理解しながら黙った瞬間真実己は愚か者になった。
     口が開く。待ちかねた瞬間がきたる――はずが。
     こちらの名を呼び少し首を傾げるとランガはどうしたのと尋ねなどせず両手を組み上へ。そうして気持ち良さそうに伸びをしたのち手を下ろし、ほ、と息を吐いた。更には出方を伺うこちらへ合わせた目を細め。
    「おなか、すいたね」
     そのままころんと再び横に。
     眠りへと旅立つ彼を見送って数秒、腹を押さえうずくまる。もう面白いやら馬鹿らしいやら。とにかく己が情けなすぎて出続けそうになる笑いを堪えることしか出来ない。
     腹部全体へ力を込めれば胃の辺りに大きな空白を感じた。
    「……ああ。うん」
     確かにそうだ。実感してまた笑う。そんな事にも気付かず、気付かないまま心を暗くし、その理由を勘違い、それもまた偶然彼に気付かされ。密かに抱いた願望に至っては存在を知られることなく粉微塵。自分がしたとは思えない失敗だ。知られでもしたら愧死待った無しだろう記憶。それが何故、彼を通すとこんなにも愛おしい。
    「ランガくん」
     呼び掛けを躊躇いはしなかった。
    指先でつついた頬は何年過ぎようと出会った頃のやわらかさを僅かに残している。変わる事も変わらない事も、変われないことも。どうしようもない事ばかりで、しかし一人こんなふうに欠けたままでいても仕方ないから。
    「僕もお腹が空いたからさ。一緒に起きて、朝ごはんにしようよ」
     何か食べて胃を満たして、考えるのはそのあとにしよう。満腹感にぼやけた頭では結局まともな答えなど出ないだろうけどそれでいい。色さえ持てない愛だとしても彼を通せば極上なのだ、これは幸せになってしまってもしかたない、そんなふうに今度は全部放って笑えるだろう。
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