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    20220603 深夜テンション大ギャグ 本当の本当に大人が大人げない 子之介がいた(過去形)

    ##明るい
    ##全年齢

    大人の嫉妬、子供の 犬として由々しき事態である。飼い主と飼い主の恋人が喧嘩をした。さて私はどのように二人と接すればよいのだろうか。
     愛之介様が子供になられた。まあそれは数日前のことでありもう終わった話だ。だがそれが原因なのだ。紆余曲折経て子供の愛之介は馳河ランガと友好的な関係を築いたのだが、幸か不幸かその一部始終を屋敷内の隠しカメラが捉えていたのである。当然上映会が開かれ、そして。
    『ランガ!』
    「は?」
     愛之介様の瞳孔が開いた。
    『ここに居たんだな。探したぞ、もう』
    『どうしたの?』
    『どうしたのじゃないよ。僕に言わずにどこかへ行かないでって言ったのに。この家は広いから一人で動き回るのはあぶないんだ、迷子にならないように迎えに来た。ほら』
    『?』
    『手だよ。出して。部屋まで連れていってあげる』
    『そっか、ありがとう』
    『どういたしまして。まったく、僕よりずっとお兄さんなのにしょうがないなあランガは』
    「あ?」
    「珍しい。あんまり喋らない愛抱夢だ」
     馳河ランガ、そう言うな。きっと愛之介様の脳内が導きだしたもっとも的確な表現がそれなのだ。ですよね愛之介様。
    「……なんだこのガキ」
     違ったらしい。愛之介様の思考を犬が理解しようとするなど烏滸がましかったか。
    「ガキって」
    「ガキはガキだよ餓鬼と呼ばないだけ充分許していると思うけどなあ思わないかああそう」
    「どっちも同じじゃないの……?やめたほうがいいよ、愛之介は愛抱夢なんだから」
    「待ってくれ君今なんて?」
    「愛之介は愛抱夢で」
    「何かなその呼び方は……ランガくん僕のことは滅多にそう呼ばないくせにあんなちんちくりんは呼ぶのか……随分特別扱いだったんだね……?」
    「いやだって愛之介を愛抱夢って呼ぶのは変だし」
    「僕も愛之介だ」
    「愛抱夢だろ」
    「それはそうだけども、しかし」
    「俺がはじめてみたのは愛抱夢だから。呼ぶなら愛抱夢がいい。いや?」
     愛之介様が口ごもる。狙ったのなら恐ろしいことだが馳河ランガに限ってはないだろう。
    「良い子だったよ、愛之介」
    「本当に?嘘はつかなくていい。正直に話して」
    「何でそこまで疑うの?」
     確かにおかしい。愛之介様は幼少期の己を見て「ふむ。話題になりそうだな」と手癖が悪く承認欲求に飢えた議員SNS多数所持の前で落としてみせたお方だ。ともかく自信が無いわけでは、まったくもって、こと我が主愛之介様に限って絶対にあり得ないのだが。
     愛之介様が目を大うつしになった幼い愛之介様へ向けた。映像内の幼い愛之介様は馳河ランガを連れ回している。特にスケートは気に入ったらしい。
    『なんだそんなこともできるのか!すごいじゃないかランガ!じゃあ次はこれ!』
    『わかった』
    『うわ、できた!あはは!すごい、すごいぞランガ!』
    「僕はあんなワガママばかり言って相手を困らせるような子供ではなかった」
    「俺だからじゃない?」
     馳河ランガの発言は、幼い愛之介様と過ごしていた際私が言った言葉の引用に近い。私のような同世代の子供でなければ使用人達のような大人然とした大人でもない、かつ自由に遊べる相手として見られたのだろうと。しかし愛之介様は馳河ランガの発言を違った形で捉えたようだ。
    「君を君だと知っていたら尚更あんなことはしない。全身全霊で一日かけてもてなしてみせる」
    「そっちより俺は滑る方がいいかな、楽しいし」
    「もちろんスケートもするさ。僕らの要だ。ただ、僕なら君に滑らせるのではなく一緒に滑ると言いたかった」
    「愛之介も滑ってたよ」
    「一時間もせずバテたんだろう。僕なら三日三晩だって君と踊っていられるね!」
    「おとなげないな、あなた」
    「恋にそんなものは不要だ」
    「恋って……それならますます気にしなくていいのに……」
     馳河ランガの言葉を幼子の笑い声がかきけした。
    『ランガ、ランガ!ね、次!次は僕と滑ろう!ずーっと、僕がいいって言うまで滑ってよう!』
     愛之介様が奥歯を噛み締める。
    「こいつ、君のこと出来の良い玩具かなにかだと思ってないか」
     ぼそりと呟かれたそれは洒落た返事など期待していなかっただろう。窘められる前提のぼやきにも思えた。愛之介様の心中を察するなど犬の領分を越えているが、おそらく愛之介様は鬱憤を馳河ランガで晴らし――もとい、甘えたかったのだ。
     しかし馳河ランガの答えは私の予想はおろかおそらく愛之介様が予想していただろうそれともまるで違っていた。
    「まあ思ってても不思議じゃないよね、あの子も愛抱夢なんだし」
    「……ん?」
     本日三度目の一語文が繰り出された瞬間、神道愛之介様対馳河ランガ、いまだかつて類を見ない大喧嘩のゴングが鳴ったのだった。
     
     各々の部屋に籠ってしまった二人。どちらへ先に赴くかなど考える必要はない。いつだって犬が最優先すべきは主人なのだから。
    「……出ていけ」
     気分ではないようだ。ストレス解消に良いかと思って持ってきた鞭に愛之介様は目もくれない。なのでまあ出ていこうとしたのだが。
    「待て」
     引き留められた。どういうことだろうか。
    「……次は、ラ……彼のところに行くのか」
    「その予定です」
    「ならさり気無く促しておけ」
    「何をですか?」
    「……駄犬」
    「も、申し訳ありません」
     小さな声で愛之介様が「撤回」と呟く。なるほど。考えれば当たり前のことだった。恥ずかしい。
    「ついでに軽食でも持って行ってやるといい、気分が良くなるだろうからそこを狙え」
    「承知しました」
    「いいか。あくまで然り気無くだぞ」
     念押しする愛之介様の顔はどことなくかたい。全体的に照れとは違う赤みがさし、眉間には常に皺が寄っている。
    「僕は今彼と話せない。あんな言い方をされては許容できないが、僕のような大人が子供の意見を叩き潰すのは可哀想だからな。だから代わりにお前が彼に言うんだ」
     言いにくいかのように唇を噛んで、言葉を吐き出すのは苦々しい顔。
    「僕は絶対そんなこと思っていない……!」
     まるで図星を刺された時のようだった。もっとも愛之介様は誰からもそんなことをされないが。
     
     
    「撤回はしない」
     扉を開けた瞬間言われるとは。
    「聞いていたのか」
    「何を?」
     そういうわけではないようだ。相変わらずこの子供は何なのだろう。
    「まあとりあえず食べないか。軽食を持ってきた」
    「いい」
    「遠慮をするな。空腹だろう」
    「今お腹空いてない」
     そっぽを向かれてしまった。これでは話が進まない。焦った矢先室内にぐうと腹の音が響く。後々の手間を見越してでもかおりの強いものを選んで良かった。
    「減っているんじゃないか。食べろ」
    「いやだ、やだ」
     口元に持っていくと明らか食べ物だけに視線を向けながらランガはうめく。
    「だめなんだ……!お腹いっぱいになったら色々どうでもよくなる……!」
    「少しならどうだ」
    「……!そうか、少しなら……」
     いそいそテーブルにつく子供に若干不安が募った。なぜこんな御しやすい子供が時に愛之介の心をひとつきで再起不能寸前に追い込めるのか不思議でならない。
    「何がそんなに嫌なんだろう」
     予想通りあと一枚もう一枚と食べ続けたランガはあっさり饒舌になっていた。
    「愛抱夢のことは一番愛抱夢が知ってると思ってたんだけどな、あそこまで拒まれると思ってなかった」
    「嫌だし拒むだろう。愛之介様は君を愛しているんだ。行動にも表している。それなのに君から玩具としか見ていないと言われれば腹に据えかねるのはごく自然なことだ」
    「そこまで言ってない……あのさ、玩具じゃ駄目?」
    「何が言いたい?」
    「玩具だったら愛せないってこともないだろ。玩具だけど、すごく愛してる。それじゃ駄目なの?」
     駄目とも駄目でないとも私には言えなかった。だが愛之介様にとっては駄目なのだろう。だから馳河ランガの言葉を否定したに違いない、ならば私が言うべきは。
    「駄目だ」
    「ふーん。なんで」
    「……君は嫌ではないのか」
    「何が?」
    「愛之介様にとって君が玩具であることが、だ。恋人が自分を個人として見ていない。嫌だろう」
    「ううん、全然」
     最後の一枚を口へ放るとよく噛み飲み込んでランガは言った。
    「ねえスネーク。愛抱夢って遊ぶの好きだよね。で、遊ぶとき玩具って欠かせないよね」
    「……?ああ」
    「だから愛抱夢は絶対玩具を持ってる。それもたくさん」
    「まあ、そうかもしれないな」
    「だったらさ。スネーク。俺に教えて。たくさんある玩具のなかで愛抱夢が一番長く遊べて、一番楽しめて、一番好きなのってどれだと思う?」
    「それは」
     思わず口を閉じたが遅かった。にこにことランガが得意気に笑う。
    「やっぱり玩具でいいと思わない?」
    「君は何というか……おおらかだな……」
    「そんなことないよ。一番じゃなくなったら多分落ち込む。でもあんまり気にすることじゃないと思うんだ。俺だって愛抱夢のこと好きだけど、あとでこれ好きじゃなくて別の何かだなーって思い直すかもしれないし」
    「それ、最後の一言。愛之介様に言ったか」
    「言ってない」
    「今後絶対に言わないと約束してくれ」
    「わかった。……意外と気にする人だよね、愛抱夢」
     意外とは何だ。愛之介様は昔から人の気持ちに敏い。馳河ランガが深層を悟るなら愛之介様は表面を察知する方。だからこそ気苦労も多い。無視する術を身に付けても感じることには変わらないから。
    「色々気にしなくていいのに。せめて俺たちくらいにはもっと適当でも、それこそ愛之介くらい思ったことを言えればあの人楽になれるだろうになあ」
     酷なことを言う。だが馳河ランガはあの、何をしても良いあなたは自由なのだと変化直後私から告げられた愛之介様としか接していない。仕方のないことだ。
    「それは君の願望であって愛之介様の望みではないな。愛之介様は君にあるべき己を見て欲しいのだから」
    「あるべき愛抱夢」
    「一振で海を割り一声で天を割る大胆不敵天下無双の」
    「つまりは?」
    「かっこいい自分だ」
    「それなら大丈夫じゃないのか、いつもちょっとかっこよくしてる」
    「愛之介様は向上心に溢れた方だからそんなものでは納得出来ないんだ。だというのに子供の姿で君と会いましてやはしゃぐなど、耐えられなかったのかもしれない」
    「子供……」
    「ああいやこれは私のとるに足らない想像だが……どうかしたか?」
    「……ほんと、気にしなくていいのにって思っただけ」
     指をふきながらランガは目を伏せる。
    「愛之介と俺はそんなに仲良くなれなかったし」
    「……いいや?充分仲は良かったと思うが」
    「そんなことない。愛之介はスネークとばっか一緒にいた、最初話しかけたのもスネークだった」
     話しかけたと言っても幽霊でも見るような目で見られたうえ「……忠、の……叔父?」と問われただけなのだが。一緒に居たのは単に誤解が解けたからだ。その頃から共にしていたわたしの方がそれは当然馳河ランガと居るよりは気安いだろう。しかしすぐに打ち解け、共に居る時間が長かったこともあり最終的にはかなり懐かれていた筈だが。
    「手は繋いでもあんまりこっち見て話してくれないし、俺のことを置いて二人でどこか行くし。そのまま戻ったから俺はお別れも言えなかった」
     しかし馳河ランガは次々不満だと言わんばかりに幼い愛之介様が自分より私を選んだ根拠をあやふやなまま並べ立てる。
    「あの……君……」
    「何?」
    「それは……もしかして……嫉妬なのか?」
    「…………はい?」
    「私には君が、幼い愛之介様が君ではなく私ばかりと居たことに嫉妬しているように聞こえるんだが……」
    「……」
    「……」
     
    「愛之介様――!!」
    「待ってスネーク!待って!聞いて!」
     高校生の脚力に負けるほど柔な秘書はしていない。追い付かれることなく高速ノック。即座に入室。じろりと向けられた視線に陳謝。緊急事態につきお目こぼしください。
    「失礼します!今彼が」
    「わーっ!」
     む、なかなか速い。
     突然飛び込んできた子供に愛之介様は少々驚いていた様子だったが、
    「愛抱夢!」
    「……なに」
    「あの……違うから!」
     馳河ランガが真っ赤な顔で叫ぶのに途端笑みを見せた。
    「ええ?何が違うのかな?」
    「だから、その……嫉妬じゃない!俺全然、そんなこと思ってない!」
    「そう、嫉妬じゃないんだ。そうなんだ。ふ、ふふ」
    「!?わ、笑……」
    「ああ失礼、かわいくてつい」
    「……っ、……だからあ……!」
    「大丈夫。分かってるから。ゆっくり聞かせて、君の言い訳を」
     一瞥に全てを察し速やかに退室。撤回は果たせなかったが愛之介様の勝利は決まったようなものだし良しとしよう。
     しかし、さて。
     私にとっての主人は愛之介様である。ならば幼い愛之介様も当然私の主人である。彼の想いが間違って伝わっているのならそれを訂正するのも私の仕事だろう。
    『……忠、聞いてもいい?ランガって許嫁とかいる?』
    『居ないでしょうね』
    『今だけ?』
    『いいえ。これからも、おそらくずっと』
    『!じゃあ僕がいつかランガのこと好きになっても、誰も怒ったり、駄目って言ったりしない?』
    『ええ』
    『……じゃあ、じゃあさ』
     子供のそれにしては不可能を知りすぎた目が、
    『僕は彼を、好きになっていいのかなあ』
     肯定されるのに合わせわずかにきらめき、ほっとしたように細くなった。あの光景を私は馳河ランガへ、私と幼い愛之介様が交わした会話と共に伝えねばならないのだが。一体いつなら良いだろう。少なくとも今は駄目だ。もう一度喧嘩をするには流石に全員余裕が無さすぎる。
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