まん丸な瓶の中に、これまたまん丸なピンクがいっぱい詰まっている。たまにトゲトゲした水色、黄緑、黄色にオレンジも入ってた。そしてまったく同じ形の瓶に、こちらには水色がいっぱい詰まった物を隣に一緒に並べる。
靖友がホワイトデーのお返しにくれたのは、瓶詰めの可愛いあめ玉。なぜかふたつもあったそれに首を傾げたら、ひとつじゃ足んねェだろって、からかうように言われた。
そんなことはないのに。靖友にもらった物は、なんだって大切にしたい。だからこれも、一日に食べるのは一粒ずつって決めていた。右手を伸ばして、ピンクが詰まった瓶の蓋を開ける。こっちの味はイチゴソーダ、それを一粒摘まんで口の中へと放り込む。すぐに広がる甘さとイチゴの香りに、心も顔も綻んでしまう。
それにしても、靖友はこんなに可愛い物をどこで見つけてくるのだろう。自分が可愛い物をもらうのは嫌がるくせに、オレには可愛い物を結構くれるんだよな。妹が二人もいると、可愛い物を選ぶのが普通になるんだろうか。
コロコロと口の中であめ玉を転がしながら、じっと目の前の瓶を見つめた。柔らかな水色とピンク、これを靖友はどんな顔をして買ったんだろう。仏頂面? それとも少し照れてたのかな? あー、無表情ってのもありだな。
どれを想像しても、可愛くて愛おしい。
靖友がオレのために考えて、悩んで、選んでくれた。こうして口にする度に、堪らなく嬉しい気持ちを一緒に味わえるんだから、やっぱりもったいなくて一気になんて食べられない。
イチゴソーダのあめ玉は、だいぶ前に口の中からなくなってしまった。また手を伸ばして、今度は水色の瓶を持ち上げる。さっきと同じように一粒摘まんで口に入れた瞬間、扉をノックする音が響いた。
「しんかーい、いるかァ」
声の主は、今あめ玉ひとつでオレを幸せな気分にさせてくれていたその人。
「いるよ。入ってきていいよ」
返事してすぐに開いた扉から入ってきた靖友は、オレを見て怪訝そうな顔をした。
「なァに、へらへらしてんだヨ」
寄ってきた靖友に、持っていた雑誌で軽く頭を叩かれる。叩かれた場所に手を置いて、靖友を見上げるとその顔がふっと緩む。
「これ、返しにきた。で、何ニヤけてんだつーの」
雑誌をテーブルの上に置いて、靖友は側に座った。そしてオレの頬を片方摘まみながら、顔を覗いてくる。
「やすとも、いて~よ」
「はっ、んな強くしてねェだろ」
オレの訴えに指を離した靖友が、鼻をスンと鳴らしてからテーブルの上の瓶へ目をやった。
「それ、食ってんの?」
こくりと頷くと、目を細めた靖友がうまい? って柔らかく訊いてくる。その優しい表情はオレの大好きな顔で、オレしか知らない顔。
「すっげーうまいぜ! 靖友も食う?」
もう何もかも全部が嬉しくて、自然と笑顔になってしまう。すっと伸びてきた手が、やんわりと頭に置かれた。
「おまえにやったもんなんだから、おまえが全部食え」
ぐしゃぐしゃと混ぜるようにオレの頭を撫でた靖友の顔は、どこか嬉しそうに見える。これをひとりで全部食べるってことは、靖友の気持ちも独り占めしていいって、言われてるみたいだ。でも、やっぱり美味しい物は靖友と共有したい。
しばらく考えてから、思いついたまま行動してみることにした。じっと靖友を見つめると、小さく首を傾げられる。その仕草が可愛くて、また口許は緩んでしまう。
「なんだヨ」
今度は眉間にシワを寄せて少し面白くなさそうな顔をした靖友の、肩に手を乗せてそっと唇を寄せた。は? の形に開いた靖友の唇に自分のそれを重ねる。口の中で転がっていたあめ玉を、舌の上に乗せて靖友の咥内へと移してからゆっくりと唇離した。
「な、靖友うまいだろ?」
へらりとしながら問いかけても、靖友はポカンと口を開けたまま動かない。おーい、ともう一度声をかけると、次には勢いよく下を向いて、両手で頭を掻き出した。
「うまくなかった?」
もしかして、イチゴソーダのが良かったのかな? ピンクの瓶へ手を伸ばそうとしたとこで、バッと靖友が顔を上げる。
「おまえなァ、ただじゃ済ませねェからな」
ガリガリと、奥歯であめ玉を噛み砕いた靖友の瞳がギラリと光った。
あれ? なんか靖友スイッチ入ってねぇ?
気づけば床に押し倒されていて、目の前にはニヤリと口角を上げた靖友いる。
「いや、あの、オレはあめがうまいかどーか訊きたいんだけど……その、この体勢はなんだろう?」
「アー、うまいんじゃね。でもォ、オレはいまからもっと甘くてうまいもん食うから……覚悟しろよな」
噛みつくように唇を塞がれて、靖友の舌がすぐにオレの舌へと絡んでくる。咥内で暴れまわる靖友の舌は、ほんのりとクリームソーダの味がしていた。