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    saku2442

    pdl 荒新の字書き
    幸せな推しの妄想をするのが日課です

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    saku2442

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    彼氏力高い荒北さん×純情新開さんのシリーズの荒新でバレンタイン

     それは、学校に着いた頃からにわかに感じていた。この、なんとも言えない浮かれた空気。大々的な行事があるとか聞いていないし、もしかしてオレが忘れてるだけとか。ずっと頭の中にはてなマークを浮かべながら教室へ入ると、いくつか視線がこちらに向かって飛んできた。男女問わず送られる視線に、どこか居心地の悪さを感じる。それでも何食わぬ顔して自分の席に着くと、クラスの中でよく話すヤツがそろそろと近づいたきた。
    「なあ、新開はもうもらったよな」
    「……何を?」
     こっそと耳打ちするように聞いてきたそいつに、首を傾げ尋ねる。すると目を丸くした後で、そいつはぽかんと口を開けた。
    「え、ほんと何?」
    「いや、まさかと思うけどさ……新開今日がなんの日か気づいてない?」
    「やっぱ、今日なんかあんの?」
     こいつはさっき、もらうとか、もらわないとか言っていた。もしかして課題の提出日だった? それともテストが返ってくる日だったか。ぼんやりと記憶をたどるオレの前で、そいつは大げさなため息をつく。
    「モテるやつは余裕だよなー」
    「は?」
     やっぱりこいつの言っていることの意味がわからない。いまの流れでモテるとか関係ないだろう。
    「バレンタインだよ」
    「へ?」
    「だから、今日はバレンタインだって」
     呆れたようにそう言われ、改めて周りを見渡した。すると、あちこちにチョコが飛び交っている。慌てて机の中に手を突っ込むと、触れた硬い感触。掴んで取り出すと、可愛くラッピングされた小さな箱。少し屈んで中を覗くと、まだ二、三個入っているのが見えた。
    「やっぱあんじゃん!」
    「いや、こんなん気づかねぇって」
    「もう見た目が本命だけど、メッセージとかついてんの?」
    「わかんねぇよ」
     ちゃんと確認せずバックの中に押し込むと、クラスメートにまたため息をつかれる。
    「もう少し嬉しそうにしろよなー」
    「だって、誰からかもわかんねぇんだぞ」
    「あー、確かに。手作りとかはちょっと怖いな」
    「だろ?」
    「でも、おまえはやっぱ贅沢だって」
    「……好きでもないヤツにもらっても困るだけだよ」
    「好きなやつからは欲しいんだ?」
    「え?」
    「ん? そういうことじゃねーの?」
     そいつが小さく首を傾げると同時に始業のチャイムが鳴った。
    「お、じゃあオレ戻るわ」
     いそいそと自分の席に戻っていくそいつの背中を見つめながら、言われたことを頭の中で反芻する。
     好きな人からのチョコ。
     オレの好きな人は靖友で、それはつまり靖友からチョコを貰うってこと。靖友がチョコ……くれないだろ。だって靖友だぜ。オレ以上にイベントごとに疎そうだ。……ん? そうでもないか。そういえばクリスマスも一緒に過ごしてくれて、プレゼントもくれた。元旦にはメールもくれたし、当日はムリだったけど初詣も行ったな。どれも靖友が誘ってくれた。
     あれ? もしかして、もしかしなくても靖友ちゃんと考えてくれてた。というか、オレはいままでそれに気づかずにいたってことか。ダメじゃんオレ! 毎回ただ嬉しくてふわふわした気持ちでいたよ。
     これって、せめてチョコはオレがやらなきゃダメじゃない? それくらいしたってバチはあたらないぞ。どうする? コンビニで買ってくる? でもそんな適当な感じは嫌だ。だからって、いまさら買いに行く時間なんかないだろ。だってバレンタインは今日だぜ。なんでいまのいままで気づかないんだよ! オレって本当にバカだ。
     ぐるぐるとどうするべきか考えても、いつまでも結論は出ない。靖友と二人で過ごす貴重な昼休みも、上手く話もできなかった。たまに女子に呼び止められ、渡されるチョコも面倒くさくて受け取らなかった。別に感じ悪いとか思われてもいい。だって、オレには靖友がいるから。他の子の気持ちなんかいらないんだ。
     なのにオレは自分の気持ちを、靖友に渡すすべを持っていない。結局どうしたらいいのかわからないまま時間だけ過ぎていた。ベッドの上でぼんやりと天井を見つめながら、やっぱりいまからでもコンビニに行こうかと考える。お手軽かもしれないけど、ないよりはマシじゃないか。ぐっと腹に力を込め体を起こす。するとそこに扉をノックする音が響いた。
    「新開いるか?」
     次に聞こえてきた靖友の声に、ドクリと心臓が跳ねた。パッと時計へ目をやると、いつも二人で過ごす時間になっている。でも今日はとくに約束しなかったのに、どうして靖友がここへ来るのだろう。
    「おーい、いねェの?」
    「あ、いる! いるよ」
     ぐるぐる回る思考のせいで、もう少しで居留守を使ってしまうところだった。
    「んだヨ、さっさと返事しろっての」
     扉を開け入ってきた靖友は、口調のわりに柔らかな表情をしている。真っ直ぐこちらまで歩いてきた靖友は、じっとオレの顔を見つめていた。
    「……なに?」
    「んー、なんか変なこと考えてねェ?」
    「へんなこと?」
     隣に腰かけ、靖友はまじまじとオレの顔を覗いてくる。その探るような瞳がどうにも落ち着かなくて、思わず逸らしてしまう。すると小さく笑う声が耳に届き、次には頭の上に何かが乗った感触がした。
    「へ?」
     まぬけな声と共に顔を上げると、目の前の靖友がニッと口角をあげる。そうして目の前に突き出されたのは小さな紙袋。きっとさっきの感触の正体だ。
    「やる」
    「え?」
    「おまえチョコ好きだろ」
     そう言ってオレの手に持たせたそれの中身は、可愛いピンクのリボンがかかった小さな箱。
    「言っとっけど本命だぞ」
     ふんわりと優しく笑う靖友に、胸がぎゅうっと苦しくなる。どうしよう、またオレがもらってしまった。いつも、いつもオレは靖友にもらってばかりだ。
    「……オレ、なんも用意してない」
     零れそうになる涙をこらえるよう、うつむきポツリと呟く。すると今度は靖友の手が、オレの頭をふわりと撫でる。
    「しんかい、こっち見て」
     ふわふわと頭を撫でてくれていた手が、頬まで降りてきて優しく包まれた。つられるよう、ゆっくり顔を上げると靖友の額がオレの額にコツリとぶつかる。そうして啄むようなキスをひとつした。
    「これでいーヨ」
    「え」
    「おまえ、今日一日ずっと悩んでたんだろ?」
    「……な、んで」
    「そりゃ、あんだけ挙動がおかしいんだ。わかるつーの」
     目の前でくつくつと笑う靖友に、だんだん恥ずかしくなってくる。
    「新開」
    「へ?」
     恥ずかしさを誤魔化すように、尖らせていた唇にまた靖友のそれが触れた。
    「今日さ頭の中、オレのことでいっぱいだったんだろ?」
     ふんわりと微笑み靖友は、オレの背中に手を回してくる。
    「チョコなんかよりそのほうが嬉しい」
     きつく抱きしめられ耳元で囁かれた言葉に、一度は止まった涙が零れてしまった。
    「うん。でも、オレちゃんとお返したい」
    「ならホワイトデーはおまえがなんかよこせヨ」
    「うん、いまから考える。ずっと靖友のこと考えるよ」
     何度も頷き抱きしめ返すと、靖友の笑う音も耳元で聞こえる。
    「それ、最高のお返しだな」
     少しだけ靖友の体が離れ、もう一度唇が触れ合う。靖友がオレのためにくれたチョコレート。きっと甘くて、とろけるような味わいなんだろう。でも靖友とのキスは、もっともっと甘くて最高の味なんだ。
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    saku2442

    DOODLE大学生荒新
    お昼時にメッセージのやり取りをする荒新のお話。待宮さんも登場します。
    だって、君は特別。
     うどんを一口すすったところで、テーブルの上のスマホが震えた。すぐに止まったそれは、通知を知らせるためにピカピカ光る。箸を置き、代わりにそいつを手に持った。素早くロックを解除し、送り主を確認すると想像していたヤツからのメッセージ。
    『うまそうだろ!』
     その一言と共に送られてきた写真。そこには分厚いカツの乗ったカレーが写っていた。昼食にしては中々のボリュームだが、こいつなら平気で平らげるだろう。口いっぱいに頬張り、幸せそうに食べる姿を思い浮かべ自然と口元が緩む。
    『うまいからって早食いすんなよ』
     そう文字を打ち込んでから、テーブルへスマホを置き食事を再開させた。
     新開はこうして、自分の食べる物を撮ってよこすことがある。それ以外にも澄んだ青空、季節の花や路地裏の野良猫。何気ない日常を切り取ったようなそれらに、オレはいつも癒やされている。本音は恋人の写った写真の方がいい。けど自撮りが下手なこいつは、まともな写真をよこしたことがなかった。たまに福ちゃんが送ってくれる写真の方が、よっぽど上手く撮れている。
    2084

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