食後のうっすらと眠気漂うまったり時間。テレビから流れるバラエティー番組を、睡魔と戦いながらぼんやりと眺めていた。そこに映し出されていたのは、最近よく見かける女の子。名前は覚えていないけど、誰かが可愛いって騒いでいた気がする。
ゼミで一緒のヤツだったか? それとも部活の仲間だったっけ? まぁ、どっちでもいいか。
ふわりとした笑顔を浮かべながら、その子は司会者の質問に答えている。ちゃんと自分の言葉で喋っているのに、際どい質問は天然ぽく躱していて、これは人気も出るだろうなと納得していた。
「なんかさ、この子いま人気みたいだよな」
「んぁ、……あー可愛いもんなァ」
他意もなく口にした言葉に、意外な返事が戻ってきて思わず固まってしまう。チラリと視線を送り、隣に座った靖友の様子を窺った。テレビに夢中なのか、それとも彼女に夢中なのかオレの視線に気づく気配はない。
もう一度、目線を戻してテレビの中の彼女を観察する。ふわふわと、肩の辺りまで伸びた柔らかそうな髪の毛。大きくて垂れた目と、ぷるぷるで厚い唇は口角をゆるりと上げている。
うん、可愛い。可愛いけどさ、……靖友ってこういう子が好きなのかよ。
そういえば、今まで靖友の好みって聞いたことない。確かに普通に女の子が好きだとは思ってたけど、実際に聞くと嫌な感じがする。なんと言うか、胸の奥でぐるぐると何かが渦巻く感じ。横目でまた靖友を見ても、やっぱり視線はテレビに釘付けだ。
ちょっと待って、そんなにその子気に入ったの? オレと一緒にいるのに他の子に夢中とかあり得ないだろ。久しぶりに会った恋人より、可愛い女の子取るなんて絶対ダメに決まってる。だいたいそこまで夢中になるほど可愛いか? ずっとヘラヘラしてるのって嘘くさいじゃん。その天然ぽい発言だって絶対作りだからな、計算して言ってんだって。心の中でこれでもかと毒ついて、はたと気づく。
うわっ、ダッサ! これ完全に嫉妬じゃん。
実際に側にいるわけでもない、テレビの中の住人に嫉妬するってどういうことだよ。急に恥ずかしくなって、思わず膝に顔を埋めて隠した。別に靖友がこっちを見てるわけじゃないけど、でもさすがに自分がダサ過ぎて堪らない気持ちになってしまう。
「新開?」
突然そんな行動をとれば、そりゃあ靖友にも気づかれる。不思議そうに呼ばれたけど、それは無視してやり過ごすことにした。
「おーい。どしたァ?」
ふわりと靖友の手が頭を撫でてくる。だけど、やっぱり顔は上げられなくて膝を抱えたまま頭を横に振った。
「……なんでもない」
全然なんでもないって態度じゃない。自分でもそう思うんだから、靖友にはもっと変に見えてるはずだ。ふっと靖友の指が耳元を滑って、次にはこめかみにキスされた。そのまま唇は耳殻を食んで、舌先が穴の中に差し込まれる。ビクリと身体が震えた瞬間、靖友に押し倒されていた。
「なァに、拗ねてんのォ」
間近で見えた顔は、なぜか少し楽しそうに笑ってる。
「……拗ねてなんかないよ」
「ふーん、じゃあ何考えてたの?」
そんなの言えるわけがない。ふいっと顔を反らして口をつぐむと、頬に柔らかなキスが降ってきた。そろりと目だけ動かして靖友を見ると、ちゅっと可愛い音を立ててまた頬にキスをくれる。
「新開、おまえが一番かわいいヨ」
ニッと口角を上げた靖友にそう言われて、一瞬呆けてしまう。もしかして全部バレてた? そう理解した途端、信じられないくらい顔が熱くなる。
ヤバい、恥ずかしい。どこから? え、どこから気づかれてたんだ。
頭の中はパニックで言葉なんか出てこない。くつくつと靖友の笑う音だけが聞こえて、余計に恥ずかしさは増してくる。
「一番になれた気分はどーですかァ?」
人の顔を覗きながら、からかってくる靖友はたちが悪い。悔しくて責めるように視線を送っても、気にする素振りもなくずっとニヤニヤしている。
「靖友なんて、知らない!」
覆っていた体を押しやろうと伸ばした手は、掴まれ床に縫いつけられた。笑った靖友の顔が近づいて、ふわりと唇がおでこに触れる。瞼、頬、鼻の頭と降りてきて最後は唇にキスされた。
「しんかい」
口づけも、呼ぶ声まで柔らかくて胸がキュンとする。あ~、もう好きだ! そうだよ、一番可愛いって言ってもらえて嬉しかったんだ。腕の力を抜いて見上げると、靖友の手が頬を撫でてくれた。そこにすり寄って、手のひらにそっとキスする。
「靖友の一番はずっとオレじゃなきゃヤダ」
すっと首に手を回したら、靖友は満足そうに微笑んでまた柔らかな口づけをくれた。