「なぁ、靖友はオレのどこが好き?」
口の中にアーモンドチョコを一粒放り込み、新開は尋ねてくる。ガリッと音を立てアーモンドを噛み砕き、何度か口をモグモグ動かしてから新開はこちらへ顔を向けた。
「ね、どこ?」
少し首を傾げじっと見つめる瞳から、視線を反らさず様子を窺う。新開がこういうことを訊いてくる時は、何かに不安を覚えていることが多い。けれど今日はそういう感じでもないみたいだ。だったら真面目に答えてやる必要もないな。
「さァね」
「なんでだよ、教えてくれてもいいだろ!」
「い、や、だ」
「……靖友のケチ。なぁ一個だけでいいから」
どうしても訊き出したいのか、新開はどんどん距離を詰めてくる。両手でオレの二の腕を掴み、顔はすぐにキスが出来るくらい近くにあった。
「っせ、つーかなんで急にこんなこと訊いてくんだヨ」
「なんとなく気になって」
「だからァ、それがなんでだって訊いてんの」
「……今日クラスでそんな話しになったから」
ここまで問い詰めて、やっと新開はモゴモゴと理由を話し始める。続きを促すよう視線で合図すると、新開はスッと瞳を反らす。
「みんな彼女のここが好き、とか言ってて……それ聞いてたら、靖友はオレのどこが好きなのかなって」
「そいつらはドコつってたんだ?」
「ん? あぁ顔とか、胸とか……あと優しい、守ってやりたいとか?」
「ふーん。じゃあ、おまえは?」
「え?」
「新開はオレのドコが好きなんだヨ」
きょとんとしてから、すぐに新開は首を捻り考える素振りをみせた。しばらく黙って観察していると、だんだん眉が下がり困った顔へと変わっていく。なんだこれ、ひとつも思いつかないってオチじゃねぇだろうな。人に訊いといて、自分は何もないとかありえねぇだろ。
「えっと、ぜんぶかな」
「……全部ってェ?」
ゆっくりと新開の口から零れた言葉は、考えていたものとは全く違った。でも、もっとハッキリと言ってほしくて、わざと訊き返す。
「んと、靖友の全部が好き! 靖友が靖友だからオレは好きなんだ」
パッと顔を上げへにゃりと可愛く笑った新開に、オレの口許も緩くなる。
「んじゃ、オレもそれで」
くしゃりと頭を撫で、覗くように視線を合わせると新開はむぅとむくれた。
「なんか、ズルくねぇか」
「なにがァ」
「だって靖友、結局答えてねぇだろ」
誤魔化されてやるもんかと、食い下がってくる新開の可愛さに口許はさらに緩くなる。
「やすとも!」
「そーいうとこォ」
「へ?」
「おまえの、そうやってコロコロ変わる表情も、甘えたなトコも、めんどくせートコも……とにかく全部だヨ」
軽くキスしてもう一度顔を覗いてやると、今度は真っ赤な顔がそこにあった。
「しんかァい」
「や、まって、不意打ちはムリ」
「んだヨ、それ。自分で訊いたんだろ」
「だって、なんか、……もう、靖友カッコいい。好きだ」
両手で顔を隠した新開の手を取って、そっと唇を近づける。ふわりと重なったそれに、あぁ、ここも好きだなとか思ったりしていた。