そのブーケ木々の間から零れる暖かな木漏れ日の中、降り注ぐライスシャワーと色とりどりの花びらたち。
教会の扉が開き光の中を歩く新郎新婦。
村の人々と顔見知り面々の祝福の声。
「素敵ですね、マァムさん」
隣に立つ、少しばかりおめかしをした私の好きな人。
ポップさん。
「な~ようやくって感じだよな」
マァムさんの隣を歩くのはヒュンケルさん。
今日はお二人の結婚式だった。
招待された私とポップさんは少し離れたところから祝福されるお二人を見ていた。
幸せの洪水が溢れる中ではにかむお二人は本当に幸せそうだ。
「お二人にしか分からないこともあるのでしょう」
「そういうものかね」
「水晶を覗かなくともお二人が想い合っているのは見ればわかります」
「間違いねぇや…」
少し寂しそうな声音に思わずポップさんを見れば、思いがけず目が合った。
そして寂しそうな顔をしているかと思ったのに、その顔は優しく微笑んでいた。
「俺だってさ、二人は口に出さなくとも想い合っているなんて、当の昔に分かっていたんだ。本当は」
「ポップさん…」
「ヒュンケルにはマァムが、マァムにもヒュンケルが必要だ、なんてな」
視線を新郎新婦に戻したポップに気づいたマァムさんがこちらに向かって小さく手を振る。それにポップさんが大きく手を振り返す。
「お二人さ~~ん、お似合いだぜぇ~!」
ポップさんの大きな声にマァムさんは赤くなり、少し困ったように眉を寄せた。
そんな彼女の肩にヒュンケルさんがそっと手を乗せる。
「でもさ、初恋だったんだ」
「…はい」
「とっくに諦めはついてたんだけどさ、女々しいよな」
それなら、私だって同じだ。
ポップさんの好きな人を知っていて、その人を長く想っていることを知っていても女々しく想い続けている。
「でも今日ついに、俺ぁ腹をくくったぜ」
そう言うとポップさんは隣に立つ私の手を握ぎった。
ポップさんのその手の中にあった何か「小さなもの」が私の手の中に。
「メルル…受け取ってほしい」
「…え?」
「俺ぁ、やっぱり女々しくて弱っちぃから、中々言えなかった。マァムが好きなはずの自分が変わるのが、今までの俺を変えてしまいそうで怖かった」
ポップさんの胸で印がほのかに緑に光っている。
「なんつうか、まるであん時と一緒だよな」
あの時、ポップさんの印が光らなかったあの日のこと。
「それなのに、メルルが昔と変わらない態度で俺に接してくれるから、伝える事を先延ばしにしてさ…甘えてた。本当にごめん」
「そ、んなこと…は」
まさか、こんな…私は期待していいのだろうか?
「メルル…手ぇ、開いて」
手の中には緑色の小さな石のはまった金色の小さなリング。
「これ…は」
その瞬間に新郎新婦を祝福する声が遠くなった気がした。
そのかわりにあふれる木漏れ日の光が私たちを包み、周りの喧騒から遮断された世界に私たちを閉じ込めてしまったように感じる。
「いつ…から?」
「そうだな…結構前かな。少なくとも、アイツらの婚約が決まる前から」
人差し指で頬を掻く、ポップさんの照れた時の癖。
「いつも、メルルはただ俺の側に変わらず居てくれてた…本当にありがとう。君が変わらないで俺を好きでいてくれた、それに救われて気付いたんだ」
メルル…俺は君が好きだ。
ポップさんの言葉が切り取られたように、心に浮かび上がる。
占いなど、恋の前では役には立たない。
こんな奇跡に気づけなった、感知すら不可能だった。
「これからも一緒にいてほしい」
嬉しくて嬉しくて…涙が溢れそうになる。
「あ、その指輪さ、慌てて買ったからサイズがあわ…」
「待って、待ってポップさん、聞いて」
あの日、二人だけ心を通じ合わせたあの日のように、今二人だけに通じる気持ちがここにあるから私も伝えたい。
「ポップさん、私も好きです…ずっとずっと好きでした」
指輪を乗せた手のひらをギュっと握ると、今度こそ涙が溢れて手のひらに零れて落ちた。
「メルル…もっかい手ぇ、開けて」
言われた通りに涙が落ちた手のひらを開けると、ポップさんが涙を指先で拭い、そしてそのリングを私の指に嵌めてくれた。
ポップさんの言った通りサイズは合わない。
私の指にはゆるゆるだ。
それもポップさんらしい。
サイズはこれから二人で直しに行けばいい。
これからは二人で歩く道がある。
私の指先でくるくる回る指輪をみてポップさんが慌ててるのが可笑しくて思わず笑えば、急に現実の世界が戻ってきた。
遠くあった結婚式の声が戻ってきた。
「わぁっ!」
という歓声とともに花嫁が投げた手作りのブーケがこちらに向かって飛んでくる。
慌てて手を伸ばせば、ポップさんの初恋の人が微笑んでいた。
とても、とても美しい花嫁。
「おめでとう、あなたも幸せになって」
私にだけ、そんな優しい花嫁の声が聞こえた気がした。
手の中に落ちてきた花束は花嫁の幸せに満ち溢れて輝いている。