四月馬鹿にはなれなくて 嘘をつくのは諦めた。
四月一日、エイプリルフール。その日付に変わった瞬間、服も着ないままに二人でベッドに寝そべる中でひとつだけ決心した。
嘘はつけない。ただ騙されないようにはしよう、と。
遡るのは去年のエイプリルフール。ひどく真面目な顔をして起きてきたやつは、のんびりと朝のコーヒーを楽しむ自分に言ったのだ。
「辰伶。俺、仕事やめて歌で食べていこうと思うんだけど」
言われた瞬間固まった。
「は?」
面食らった。
なぜ? なぜ歌なんだ? お前そんなもの好きだったか? それで食べていくということは歌手になるということか?
様々なことが一瞬のうちに頭の中をかけ巡り、どういうことかともう一度口を開こうとしたところで熒惑は小さく吹き出した。
「嘘に決まってるでしょ」
エイプリルフール、と小さく続けられそこから一気に頭の中で怒りの火が燃え上がった。
あぁくそ!! 腹が立つ!!!
今思い出しても怒りが再燃する。なぜかまるっと騙された自分が情けないし、腹立たしい。ぼすぼすと敷き布団を叩いて怒りを発散する。
今年は絶対騙されん! さぁ来い熒惑! お前の嘘を暴いてくれるわ!
隣で寝る男を睨みつけた。
しかし。
「辰伶……何1人で騒いでんの……」
眠たそうな声で目は半分も開かないままに言われた。
「……ていうか、なんでそんなはじっこにいんの?」
そこ布団から出てない? とぼやきながら、こちらを抱き寄せてくる。緩慢な動きでありながら有無を言わさず腕の中に納めてきて気が削がれてしまった。優しい体温が合わさり、ぽんぽんと頭を撫でられるとささくれだっていた気持ちがあっという間に溶けていく。
「しんれー…………すき…………」
とどめのように耳元で言われて何だか馬鹿らしくなってきてしまった。
うとうとしてきたなかで思う。
来年までにうまい嘘を考えて騙してやるのもいいな、と。
了