酒は飲んでも蝕まれるな「しんれー……空いてる……」
空になった盃にまた一杯注ぎこまれる。
「あぁ……すまん……」
ふわ、ふわ、と意識の周りが柔らかいもので包み込まれ、顔の周りが熱い。
……これは、酔っている
そう自覚しつつ、飲む速度を落とすことは考えなかった。なぜならここから自分達が前に進む段階の際だったからだ。酔って、何もかもわからないうちに前に進んでしまいたい。そんな何ともふしだらな考えに飲み込まれていく。
「……うまい…………」
思っている以上にふにゃりとした声が出てしまった。飲むのに用意したつまみはわずかに残っているが、それを口にするのはもはやもどかしい。それと一緒にまともに酒を飲むのは理性を飛ばす酩酊から離れていくからだ。
酒のみを延々と口に運ぶ。わずかに残った理性が、酒が入らなければ何もできないのかと問うが、その通りだ、と頭の中で答える。理性を押し下げ、思考を停止しなければ誰が血の繋がりは半分とはいえ実の弟を誘えるというのだ。
「……酒……足りるか?」
聞いてみれば、あちらも真っ赤な顔のまま首を振り、足りない、と呟いた。
頬と同じように赤くなった唇に吸い付きたいと思った。
そんな思いをままに思い切って顔を近づけてみると、寄ってくるので思った以上にすんなりと唇が重なった。合わさった唇を薄く開くと、すぐに切羽詰まったように舌先が入り込んでくる。
「……ン…………んん……」
酒の味がほのかにするそれを味わうように絡め取り、霞んだ思考の中で弄ぶ。
「しんれー…………酔ってるでしょ?」
離れた直後に聞かれたがシラを切った。
「酔ってるのはお前だろう?」
笑って言ってやれば、向こうも笑った。
「…………今夜のことは忘れてあげよっか?」
そんな言葉を合図に2人で後ろに転がった。
了