曦澄 現代AU SSーーー頭が痛い。
頭に痛みを覚え、藍曦臣は目を開けた。
見知らぬ天井、ベッド、そして裸の自分。
「っ!?」
全然覚えていない。
昨日、会社のプロジェクトがひと段落し打ち上げが行われた。
プロジェクトのリーダーである藍曦臣は出席せざるを得なく、同棲している恋人の江澄に今夜は遅くなる旨の連絡を入れたのだ。
(江澄には「ああ、わかった。…酒だけは飲まないでくれ」と釘を刺された)
その後は、打ち上げに参加し、酒を飲まないようにしていたのだが…。
これは一体どういう事なのか。
今回携わっていたプロジェクトのメンバー達と打ち上げに参加したのは確かだ。そして酒を飲まないように重々に気をつけていた。だが、途中からの記憶がないのだ。
痛む頭をフル回転させたが全然思い出せない。
だが、此処がホテルである事だけは分かった。
隣からは規則正しい寝息が聞こえてくる。
自分が裸であるという事は…。まさか、自分は恋人ではない相手と…致してしまったのか。
咄嗟に血の気が引いていく。
まさか。自分は江澄を生涯愛し抜くと誓った。そして今後、未来永劫、彼以外抱くつもりはないのだ。
ん…と相手が身じろぎ、布の擦れる音がした。
此処は腹を括って相手を確認するしかない。
そして謝罪と万が一の場合はどうするか、そして…恋人の江澄へ、一生赦される事のない謝罪を。
意を決して隣を確認しようした矢先
「らん…ほわん…」
声は掠れているがよく知っている声が聞こえた。
その声に惹かれるように隣を見るとーーーなんと恋人である江澄であった。
夢かと思い、手を伸ばす。
まだ夢現な江澄は藍曦臣の手が顔に触れると猫のように擦り寄ってきた。
ホッとして目尻から涙が浮かぶ。
良かった。間違いを犯していなかった。
また江澄の傍にいられる。
ぎゅっと江澄を抱きしめた。
「阿澄…」
「らんほわん…?」
腕の中でぽやぽやしている愛おしい恋人に口づけをした。
「んっ…」
口付けに答えてくれる恋人が健気で可愛らしい。
藍曦臣は幸せを噛み締めた。
ーーー何故、江澄が居るのか?
落ち着いた頃にふと疑問が浮かんだ。
その後、完全に覚醒した江澄にいつまで抱きついているんだ!と顔を真っ赤にしながらするりと腕の中から抜け出されてしまった。
そして江澄をよく見ると目元は赤く腫れ、唇も腫れぼったい。そして身体中には無数の赤い花と歯型がチラホラ。
江澄をこんな風にしたのは紛れなく自分だろう。
ふと江澄が口を開く。
「…貴方は昨夜の事を何も覚えていないのか?」
「…はい」
藍曦臣は素直に答えた。
江澄は呆れつつもしゅんと項垂れてしまった恋人を愛おしそうに見つめると、仕方がないと言わんばりに昨夜の事を話してくれた。
プロジェクトがひと段落し、そのメンバー達と打ち上げに参加した。そこまではいい。
だが、そこで藍曦臣は間違えてお酒を飲んでしまったらしい。(この時、同僚がウーロンハイを頼み、自分はウーロン茶を頼んでいた。そして一緒に持ってこられた為、間違えて飲んでしまったそうだ)
少量のお酒で酔っ払ってしまった藍曦臣は、あろう事か江澄の名前を呼び始めたらしい。メンバー達は動揺し、何とか落ち着かせようとしたが、全然ダメだったらしい。
そこで、違う部署に所属しているが、たまたま一緒のプロジェクトメンバーであった実弟の藍忘機が兄のスマホを借り(何とFace IDが弟の顔でも反応してしまったらしい)、江澄に連絡を取り、打ち上げ場所まで迎えにきてくれた訳だ。
藍曦臣は迎えに来た江澄を見るなり、阿澄!と泣きながら抱きついてきたらしい。
メンバー達から更に動揺の声が上がり、この人は酔うと抱きつき魔になるんだと無理矢理な説明をし、その場から抜けることができた。(その後、実弟である藍忘機が上手い事説明したらしい)
こんなフラフラな酔っ払いを担いで家に帰る訳にもいかず、タクシーを呼ぼうにも満車で捕まらなかった為、近くのビジネスホテルに泊まったのである。
部屋に着くなり、藍曦臣はいきなり江澄に噛み付くような口付けをし、口付けだけで腰が抜けてしまった江澄をベッドまで運び、美味しく頂いたのである。
お互い社会人でましてや藍曦臣はプロジェクト関係で多忙な毎日が続いていた為、そちらの方は完全にご無沙汰だったのだ。
もう出ない、無理と嘆く口を自分の唇で塞ぎ、あまりの快感で涙を流す目尻に口づけを落とし、胸元の赤い果実を自分の手で更に熟させ、身体中に赤い花、歯形をつけ、そして秘められた場所をこじ開け、自分のもので激しくついたのだ。
何度目か分からない自分の欲望を江澄の中に吐き出し、満足したのかそのまま眠ってしまったのである。
一通り事の顛末を聞いた藍曦臣はさらに頭痛を覚えた。いくら酔っていたとは恋人になんて事をしてしまったんだ。
この様子では後処理もしないまま寝てしまったのだろう。これでは江澄の身体に負担がかかってしまう。
江澄の身体を清めようと手を伸ばすが、するりと避けられ、その綺麗な顔が藍曦臣の耳元に近づいた。
「…貴方、酔うと激しくなるんだな。凄く興奮した。たまには酔ってもらうのも悪くないかもな」
耳元から顔を離すとそこには妖艶な笑みを浮かべた江澄の姿があった。くすくす笑い、藍曦臣の頬に口付けるとそのままバスルームへ向かってしまった。
そのまま呆然とする。
今まで酔った事はあるが、此処までではなかったはずだ。何故こんなことになったのか。
ーーーそれはお互いが寂しかったから。
お互い社会人で忙しい日々を送っている。特に今回は特に忙しく、2人の時間を取る事が出来なかったのだ。自分の弟夫夫の様に毎日とはいかない。
そしてそれは塵に積もってとうとう放たれてしまったのだ。
本能のままに相手を求め、相手もまた求めた。
あんなに激しい行為になったのは初めてである。
ーーーそれにしても。
「…あんな笑い方が出来るなんてね。貴方には敵わないな」
くつくつと笑いが込み上げてくる。
嗚呼、愛しい江澄。貴方が恋人で私は幸せ者です。
さて。彼の中に沢山出してしまった為、かき出すのも一苦労している事だろう。手伝ってあげなければ。
まだ痛む頭を抱えつつ立ち上がり、自分の指で快感を得つつも物足りないであろう恋人の元へ向かった。