ナポピエ 日差し/顔を上げる/スマホ
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長い髪だから、太陽が当るときらりきらりと輝いて、まぶしい。
見られていることに気がついたピエールがこっちを向いた。怪訝な風で顔を上げてもなお、そのおきれいな顔だって、きらきらしていた。
「何か言ったか?」近づいてくる。
「なにも」
スマートフォンのカメラを向ければ、その中でとりあえずといったように笑ってみせた。
いくらか陽は翳った。
妖精23 アイスクリーム/耳を傾ける/近くに行く
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あの大会後留学してきた少年、かつての日本の23番と、ドレスデンの妖精のお忍びデートとやらを見た。
べつにわざわざ覗き見にきたわけじゃないことは言っておこうか。どちらかと言えば、外からはっきり見えるような席で、どういうわけかわざわざ隣同士に――四人が座れるボックス席だぞ!――座っている方が悪いと思う、おれは。ちょっと近すぎやしないか。ハイネ、おまえのそれなりの変装はまだいいとしても、目立つ日本人の方をなんとかしてやるべきなんじゃないのか。あいつに隠す気はあるのだろうか。いや、まあ、あるんだろうな。そうじゃなければ、交際してるのかと聞いたおれに「なに言ってるんですか」シェスターさんってば、なんて言わないだろう。「おれが一人に絞ったりしたら悲しむ子が出ちゃうでしょ? おれはみんなのものなんですよ、まだね」だったらその意味ありげな流し目をやめたらどうなんだ。せめて二人きりのときにやれ。それで盛り上がる分にはかまわないから。なんというか、ばればれのそれは見ていてわりと恥ずかしいから。
「ほら、こっちも食べてみな」視界の端で、ひと匙の甘味を口に運んでやっているのが見える。……おまえ、恋でずいぶん馬鹿になるやつだったんだな。そう思えば、かわいげがある気がしてくるよ。
小次健 青紫/笑顔/ロッカールーム
ろんく軸です
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おれはタイガーショットの次なる進化を――若島津は、世界のシュートと戦うために――すでに明確な課題を乗り越えるため、おれたちは練習に繰り出す。ロッカールームに入り、不意に視界に、青紫が入った。若島津の体に散った大きな痣だった。恐らくは、プレマッチの時のシュートをまともに食らっての怪我だったろう。「‥‥大丈夫か?」若島津自身もおれもそういう怪我なんて慣れているだろうに、そして口にしたところでどうにもならないだろうに、そう言わないではいられなかった。この刺刺しい雰囲気のなかで、対話を求めていたのかもしれない。若島津のほうも少し面食らったような顔をしたが、ややあって答えを返す。「いつになく治りが悪くて、どうも」
何やらばつが悪そうな顔をする。「疲労が溜まってるのかもしれません。それか、環境が全然違いますから‥‥体が慣れないのかな」喋りながらも、おれたちは着替える手を止めることはなかった。互いに気が急いている。
「日向さん、おれは、若林に正GKを譲るつもりなんかさらさらないんです」
「そうだろうさ」
「ですから、付き合ってください。こんな痣、怪我の内には入らない」
「勿論。遠慮なく行かせてもらうぜ」
「ええ」
ユニフォームから首を抜いて乱れた髪のまま、そいつは笑う。
小次翼 お菓子/ショッピングセンター/靴
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桃青黄緑ぎんいろ白きんいろきらきらふわふわくるくるすやすや。甘いにおい。むせかえるような。喉が焼けるようなしあわせ。
虹色の閃光。
涙色なのは空ばかり。
‥‥いくらか、大げさでしょうか。
*
音が鳴るおもちゃも、たいしておなかの膨れない甘いお菓子も履き心地がいいらしい靴も、触れれば切れるぞとぎらぎらしている。それをかごに放り込んでいく日向くん。
「適当に買ってるわけじゃねえぞ」
「思ってないよそんなこと」いや、ちょっとだけ思ったけど。「決めてから、きたんでしょう」
日向くんは頷くだけで応えた。
祝福の日を半月ほど後に控えた冬のきょう、日向くんは運び屋になるための仕入れの真っ最中だった。それがなにがしかの反動なのかと言ったら彼は怒るだろう。
「付き合わせちまって、悪い」
「ううん。おれも大地になにか選ばないとって思ってたところだから」
「そうか、弟が」「うん」「やっぱり翼は、サッカーボールでも贈るのか」「うーん、もう持ってるし、そうだな、サッカーボール柄のなにかを」「さっき、そんな柄の菓子があった」「クッキー?」「ああ」「いいね。かわいいし」
そんなような会話を繰り返した。レジを抜けて、暗闇に踊り出たとき、「翼」日向くんがおれを呼び止める。
「うん?」おれは振り返る。
目の前に、さっき包まれたばかりの箱が差し出されている。
「これ、お前に」
たしかに、かれの弟妹の数より、ひとつだけ包みは多かった。よく考えてみればそんな気がする。でもおれはそんなこと考えもつかなかった。はっきり言ってしまって、興味なんか持っていなかった。「やるよ」
メリー・クリスマス。
囁くようなちいさな声は、けれどおれの耳にたしかに届いていた。
まだ少しだけ足早なイルミネーションに照らされながら、日向くんは暖かく笑っていた。
「ありがとう」
おれ、うまく笑えてるかな。