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    零凪/小説/たまにイラスト

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    La Mortの世界観をお借りした死神パロ。少しだけストーリーの内容も含みます。零くんと凪砂くんの空気感が好きです。

    同じ内容の小説をpixivに上げております→ https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19242218

    #零凪
    reinagi
    #小説
    novel

    午後五時の朝食 そろそろ、人間界でいう日没の時間になるのだろうか。厳密にはこの「世」に日没という概念はなく、二十四時間毎日薄暗い世界で雪がしんしんと降り続いている。自分の仕事は墓守をするだけの単純な作業だが、それ以外はずっと書庫に箱詰めで本を読み耽っていた。
     寂しいこの世界で、楽しい事はなかなか見つからない。外の世界の事をたくさん書いてあるここが自分の楽園だった。知らない事を知る事はとてもわくわくする。だからこそ、凪砂はこの喜びを共有したかった。一冊の本を手に取ると急いで書庫を飛び出した。
     古城の屋敷は歩くだけで音が鳴り響く。この屋敷の者たちはオルガンを演奏したり、儀式を行ったり、様々な自分の役割を行うのだが、それもしばらくは見ていない。何年か前に訪れた人間の少年が最後の訪問者で、ここに訪れる者も随分減った。あの時から消沈していた零に少しでも喜んで欲しかった。
     屋敷の一番奥、彼の部屋の扉を控えめにノックした。当然だが返事はない。当たり前のように凪砂は扉を開けた。薄暗い部屋には大きなベッドが一つ。あとは乱雑に積まれた本や埃被った全身鏡があるのみで、文字通り殺風景な部屋だった。
    「……朔間くん」
     ベッドの際に座り込み、なるべく優しくシーツの膨らみを揺さぶった。ここは万年薄暗い世界だが、「世」の日没の時間帯は零にとってそれが起床時間だった。大きな膨らみがごそりと音を立てて身じろいだ。
    「……おはよう。朔間くん」
    「……んんっ……乱くん?」
     シーツから顔を覗かせた彼が酷く美しいと思った。端正な顔立ち、白い肌、黒々と艶がある髪の毛。思わず死人のように冷たい頬を撫でるとやっと零の赤い瞳が覚醒した。最も、彼は死人でなければ死者でもない。死神の中でも高貴なる存在、凪砂が憧れる位の高い死神でもあった。
    「……まだ眠い?」
    「ちっとな……凛月ではないが、最近やたら眠気が酷い。動ける時間に動かんとどんどん老いぼれてしまうわい」
    「……あれから人間の魂を刈ってないよね? なんでもいいから人間を刈らないと栄養不足になっちゃうよ。この場合、栄養不足というのかな? 私たち死神の生態はいくら調べてもよく分からない、不透明な存在だね」
    「また書庫に籠っていたのかえ? 相変わらず勉強熱心じゃな。……ふわぁ。乱くん、我輩はまだ眠いのじゃ」
     体を起こした零が甘えるように自分の胸に体を預けてくる。いつも着こんでいる黒いローブは無く、白いシャツだけを羽織った零は普段より余計妖艶に見えた。ふわふわの黒髪を撫でると、大人しく零は口を開いた。
    「あの時から、人間の魂を刈ることに躊躇しているのは間違いない。恥ずかしながら我輩は怖いのじゃ。人を愛すること知ってしまった我輩は失う事が怖い。死神でありながら、自分のやるべき仕事を放棄した落ちぶれた死神じゃ。だからこそ凛月にも見放されるんじゃがな」
     決して彼が落ちぶれた死神とは思わない。凪砂にとって零はすさまじい魔力を持った憧れの存在だ。心身ともに弱っている彼を見るのは凪砂にとっても心苦しいものだった。どうしたらいいのだろう。人間の少年を愛した彼と同じように、凪砂も彼を愛してあげたいと思った。
     髪の毛を撫でていた手を滑らせ、そのまま頬を包むとじっと零の顔を見つめた。彼の表情はいつもより悲しげで、憂いを持っていて、凪砂はそっと零の唇にキスを落とした。
    「……いつも言っておるじゃろう。唇と唇を合わせる行為は人間界でいう好意の証じゃ。そう簡単に我輩へ使うのではない」
    「……別に人間だけがこの行為をする決まりはないよ。私は朔間くんを愛してあげたいと思った。それはダメな事なのかな?」
     言葉とは時折難しいと思う。ただ言葉を伝えるだけでは相手に伝わらない。凪砂は困ってしまった。愛する彼への表現が分からなかった。どの本よりも難しい感情だと思った。
    「乱くん」
     零の唇が凪砂の首筋に触れる。味わうように舌で舐めたら、凪砂の肩がピクリと反応した。
    「申し訳ないが、いいかのう……?」
     それに拒否権はない。拒否するつもりもない。それをして貰えることを望んでいたのかもしれない。軽く頷くとローブのボタンを一つ二つと開けた。待ちきれないように零が凪砂の肩へ顔を埋めた。
     たぶん、おそらく、この世界で一番生産性のない行為をしている。人間の魂を刈らない零は少なからず魔力を失っており、最近は睡眠時間が幾らか増えていた。死神としての役割を果たさない零は同じ死神である凪砂から直接魔力を貰っていた。
    「……っ」
     鋭い牙が凪砂の首筋の肌を突き破り、人間と似たような真っ赤な血液が流れ出す。厳密には血液ではないのだが、人間と同じように痛みを感じた。死神については、死神自身の自分でも分からないことだらけだった。いくら本を読んでも分からない。だから、零に感じるこの感情になんと名前を付けていいか分からなかった。ただ、零の役に立ちたいと思った。夢中で自分の血液を舐めとる零に満足感を覚えた。
    「……んっ。そういえば朔間くん。吸血鬼って知ってる?」
    「はっ……吸血鬼……?」
    「さっき書庫で見つけたんだ。民話や伝説の一説だけど、蘇った死人が人間の血を吸う怪物になるらしいんだ。だから吸血鬼。文字通り不死の存在の化け物だよ」
    「ふむ。既視感じゃな」
    「……朔間くんに似てると思って吸血鬼についての本を持ってきたよ。あとで一緒に読もう」
    「相変わらずムードも何もない男じゃな。すぐ一緒に読むから黙っておれ」
     魔力を供給して貰った零はようやく元気を取り戻したようだった。喋り続ける凪砂は唇を塞がれるとその独特な鉄の味に顔をしかめた。
    「……まずいよ」
    「我輩も美味しいと思って飲んでおらん。しかし、世話をかけた。おかげで調子が戻ったわい」
     先程まで沈んでいた零の表情は明るさを宿していて安心した。啄むように零が凪砂の唇へキスを落とす。
    「……そう簡単に私とキスをしてもいいの?」
    「我輩も乱くんを愛しておるからのう。心配してくれたんじゃろ? いつもありがとう」
     目の前でにこりと微笑まれると何も言えなくなる。これが死神である「朔間零」の魅了する力なのだと思い知らされた。
     この寂しい世界にも楽しみはある。初めて本以外の楽しみを知った凪砂は死神で在ることも悪くはないと思えた。


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    不純異族交友
    智紫国基



     目を開くと、そこは、真夏の海辺だった。



    「────、は?」
     いやいやいや、ちょっと待ってくれ。海辺だった、じゃない。
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    「………夢じゃ、ない」
     何度目を擦っても、頬を抓っても、やたら難しい数式が並んだ黒板もハゲた講師も、眠たそうな同級生も現れない。
     俺が立っているのはやっぱり白い砂浜で、眼前に広がるのは青い海と雲ひとつない晴天。あとそろそろ頬が痛い。
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     私は再び机に向かった。次にキミに会えるその日まで、私も先へ進まねばならない。

       了 488