まるで舌舐めずりするみたいに俺のうなじをなぞったその指先を、振り払う事は簡単だ。
「払い退けないのか?」
「さぁ?どうでしょうか」
曖昧な言葉で誤魔化して。敷布の上で二人、夜の帳もとっくに降りた暗い部屋に、控えめな明かりが揺れて重なり合って見える二人分の影もふわり揺らめいた。いけません、とその手を払ってさっさと立ち上がれば流石に少尉も観念するだろう。上官からの誘いを無下にした所でこの人は俺には怒らない。
では何故にすぐ実行しない?簡単なのだろう?
自問自答する。そんな事をしている間に調子に乗った指先はくるくると蠢いて、柔らかな耳朶の感触を楽しんでいた。そこで一度、少尉の指が離れる。彼は俺に見せつけるようにその長くてしなやかな人差し指を一本口に含んだかと思えば唾液を纏わせたそれを再び俺の耳へと向けて伸ばす。それから逃げも隠れもせずに、だからといって自分から、というわけにもいかずただただ身を固くして構えていると、少尉の濡れた指はくちゅりと湿った音を耳元で響かせる。
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