温かくて明るい部屋で、優しい手つきで腑分けをされる 僕の腹に耳を付けるようにして頭を乗せて、真経津さんが微睡んでいる。
何かと身体的な接触を求めて来るものだから、てっきりスキンシップ好きなのかと思っていた。が、別にそういう訳でもないのを知ったのは最近だ。
「だって御手洗くん、くっつくのが好きな人でしょ」
自明のことのように彼は言って小首をかしげたのだ。確かにそうです、と僕は答える他なかった。
この年頃の男にしてはパーソナルスペースが狭い方だ、と友人や付き合ってる子に言われた事がある。他人にベタベタ触れたりする訳では無くて、相応に気安く接して構わない相手なら礼を言いがてら軽く肩を叩いたり、身体を支える必要のある場面でさほど動揺せずに実行に移せるといった程度のものであったが。
こうした気負わなさがある種の親しみやすさ(そしてある面では舐められやすさ)に繋がるのを認識したのは思春期の終わり頃であったろうか。
それでも僕にとっての理由はごく単純で、生き物って温かいし、温度を感じることが特に厭わしくない、というかむしろ好き、といった類のものだった。猫を抱き上げたり、近所を散歩する犬を撫でさせて貰うことと意味あいとしてさほどの違いはない。
そんなことをつらつらと傍らの真経津さんに問わず語りしていたら、真経津さんがくすくすと笑って、彼の跳ねた毛先が僕の脇腹をくすぐるものだから僕は思わず情けない声を上げてしまう。
「えー、それじゃあ今みたいな時も、猫を抱いて『あったかいなー』って思ってるのとあんまり変わらないんだ。感じてることは」
「いや、そんな事もないですよ!」
「そうかなあ」
伏せていた目をぱちりと開いて、真経津さんが僕を見る。多分、皮一枚よりも向こう側の、僕の中身ごと。
「真経津さんの前でそんなホッコリした気分になるだけでは済まないですって。……だから、今『こう』なってる……訳ですし……」
薄着の男二人が同じベッドの上で、心地よい疲労感でうつらうつらしながらゴロ寝しているのだから、まあ、そういうことなのだ(真経津さん愛用のベッドはでっかくて、大の大人二人前が乗ってもさして窮屈に感じもしなければきしみ音の一つもしやしない、流石の品質である)。
ふぅ~ん、と思案げな素振りを見せて、真経津さんはよじよじと腹から胸元にかけて這い上るのと共にこちらの顔と正対するように体勢を変える。
そして、ちょうど僕の胸の上に乗りかかる形で上半身を預けると、いたずらっぽい笑顔を浮かべて来た。
「うん、御手洗くんもドキドキしてるね」
「だから言ってるじゃないですか……」
「でもスキンシップで即ムラムラする方じゃないんでしょ?」
それはそうなんですが。という思考がそのまま伝わっているようで、真経津さんは僕に頷いてみせる。どうもこっちの考えというのはある種のスキルに長けた人間たちには筒抜けのようだけれど、真経津さんに読まれる分にはちっとも嫌な気持ちはしないのだ。
「……前から思ってたけど、御手洗くんって自分より頭の良い相手にメチャクチャ言われてもあんまり怒らないよね――うわ、もう即座に『なんで怒る必要あるんですか?』って顔してる……」
そこまで喋った真経津さんが「あ、」と声を上げる。この人が言葉を不意に途切れさせるのは珍しい、気がする。少しどきりとしながら、僕はその後の展開を見守る。
「じゃあさあ、御手洗くんって肉や皮より、脳に興奮するタイプなんだね。覚えとこっと」
断定されてしまった! 性癖を! ……が、考えれば考えるほどに思い当たる節しかない気がして来て、僕は黙って恥じらうことしかできなかったのだ。