「あ! いたいた、ファル!」
目当ての人の姿を視界に捉えて、マスターが小走りで彼に駆け寄った。目当ての人物――ファルは自室前で名前を呼び止められ足を止めた。
「おやマスター。どうしました?」
「ちょっとファルに渡したいものがあって。ごめんね、部屋に戻るところで引き留めて」
「いえ、今しがた呼び出しが終わったので部屋に荷物を取りに来ただけですから、お気になさらず」
穏やかな笑みには似合わぬ台詞に、マスターは驚きと不安が入り混じったように目を張った。
「呼び出しって…また何か…しちゃったの?」
また、というのは彼に多々前科があるからだ。と言ってもとある理由から再召銃をされたファルの状態はとても不安定で、彼が無意識下に行っていることが多くその問題行動を咎められたとて改善が中々に難しいのが現状だ。
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