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    こむぎこ

    千銃士Rの文字書きアカウントです。
    銃マス(特にエルマス/ライマス/スナマス多め?)しか書いてません。
    R18も書くので18以下の方はごめんなさい🙇‍♀️

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    こむぎこ

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    ライマス♀/シリアス
    ふとした拍子に親友のことを思い出してしまったマスターのお話。

    ※貴銃士ストーリー最終話を読み終える前に書き始めたので、解釈に齟齬がある可能性があります※

    ヴィヴィアンちゃんを(作者が)引きずっているので書きました。

    #銃マス
    gunSquare
    #ライマス
    reimas.
    #千銃士R
    theThousandMusketeersR
    #1014Rプラス
    1014rPlus

    Phantom pain(ライマス) 今日の最後の授業が終わり、生徒達は帰寮する者、座席に残り復習をする者など各々ばらけていった。
     今日は特に頼まれごとも残っている雑務もない為、マスターは教科書やノートをまとめて帰寮する支度を進めていた。
     一冊の教科書が机から滑り、バサッと音を立てて床へ落ちてしまった。
     落ちた衝撃で見開きページが潰れてしまい、ページの端が折れてしまったらしい。

    (やっちゃった…でもこのくらいなら重しで直るかな)

     などと考えつつその折れたページの端を真っすぐに戻していると、その次のページに見慣れぬものを見つけた。歴史の教科書には不釣り合いな可愛らしいイラスト。
     デフォルメされたラッセル教官らしき人物が指を差し、ここテストに出まーすと吹き出しがついている。
     勿論彼女が描いたものではない。

     ――ヴィヴィアン。

     小さい声で、その名が口からこぼれた。
     いつだったか、ヴィヴィアンに教科書を預けた日があった。おそらくその時にこっそり描いていたのだろう。
     心の奥が、しん、と冷え込む。
     これまで見て見ぬ振りをしてきた、彼女の痕跡。
     共に食事をとった食堂。彼女と共に教材を運び込んだ準備室。あれこれ言いながら調達した薬品庫。
     この構内にはいたるところに彼女との思い出…在りし日の、彼女の幻影が、そこにいた。
     けれども見ないふりをした。気づかない振りをした。だって気づいてしまったら、悲しくなるから。叫びだしたくなるから。心が壊れてしまいそうになるから。
     フラフラとした足取りで、マスターは自室へと戻った。荷物を置き、自室の向かいの220号室の扉に手をかける。カチャ、と小さく音を立てて扉は開いた。
     もう誰も使っていない部屋。この部屋の住人がいなくなった後、誰も入居していない。備え付けのベッドと机、椅子がただそこにあるだけで、生活感はまるでない。
     マスターは静かに部屋に踏み入ると、ぼんやりとベッドに腰かけた。誰も掃除をしていないからか、微かに埃が舞った。
     遺品などはすべて回収されたので彼女のいた痕跡は跡形もないが――やはりそこには、確かに彼女がいた。
     椅子に座り、愛銃の手入れをする彼女の後ろ姿が見える。

     どのくらいそうしていただろうか。静寂の世界に、コツコツという足音が響いた。
     マスターが部屋の入口へと視線を向けると、そこにはヴィヴィアンの元の愛銃UL85A2が立っていた。その顔は、明らかに不機嫌で穏やかではない。

    「…また泣きべそかいてんのかよ」
    「…かいてないよ」
    「嘘つけよ、そんな顔して。いかにも感傷的になってますって顔だ」
    「…ごめん」

     容赦ない辛辣な言葉を投げられ、マスターは俯き気味に謝った。ヴィヴィアンのこととなると、ライク・ツーも平穏ではいられないのだろう。

    「なんで謝んの?」

     そう言って、ライク・ツーはベッドに腰かけるマスターの目の前まで歩いて立ち止まる。

    「謝る暇があったら。前にも言ったけど、もう振り返ったって…いくら悔いたってあいつは元に戻らない。前向いていくしかねーんだよ」
    「…わかってる」

     視線を伏せたまま顔を上げないマスターに、ライク・ツーは「どうだか」と呟いた。
     椅子を見やると、もうそこに”彼女”はいなくなっていた。

     ―――――。

     どこかで、誰かが何か言ったような気がした。
     マスターはすうっと立ち上がり、その場に佇むライク・ツーを通り過ぎる。そのすれ違いざまに、消え入りそうな声で呟いた。

    「私が…もっと強ければ…ヴィヴィアンは死なずに済んだかもしれないもんね」
    「!!」

     ライク・ツーが息をのむ。それはライク・ツーが以前にマークス達に向けてはなった言葉だった。

    「おい、マスター」

     ライク・ツーが部屋を出ようとしているマスターの肩を掴んで引き寄せると、目に入ったマスターのその横顔があまりにも苦しそうで、悲痛で。思わず手を離してしまった。何も言えなかった。
     その僅かな隙に、マスターは静かに部屋を立ち去り、ライク・ツーだけが取り残される。

    「…なん、だよ」

     初めて見る彼女の顔に、罪悪感からか胸が痛んだ。チッと舌打ちをして、ライク・ツーはベッドに乱暴に腰かけた。勢いよく埃が舞い上がる。
     腰かけたところは、マスターは一体どのくらい座っていたのか、まだ温かかった。

     ■

     それから数日。
     マスターの悲痛な面持ちを見たライク・ツーは、罪悪感に苛まれていた。間違ったことは言っていないという自負はある。が、やはり言い過ぎたかもしれないと感じていた。

    (…謝った方がいいのか)

     そう心の隅で思うものの、中々行動には移せずにいた。
     授業後、射撃場へ足を運ぶと、そこには自主的に射撃訓練に取り組むマスターの姿があった。射撃の腕前は相変わらず見事なもので、その様子を見学している他の士官候補生達も歓声を上げている。
     何を話しているかまではわからない距離だが、和気あいあいと話している様子からは普段と違ったところは見受けられない。
     この数日、謝ろうか悩んでいたライク・ツーは密かにマスターを観察していたのだが、いたっていつも通りだった。いや、いつも通りどころか、むしろ鍛錬にこれまで以上に身が入っているようにも見えた。ラッセルや恭遠達からも褒められていたほどだ。そうして、謝るタイミングを失ってしまった。

    「うーん。ちょっと、危ういね」

     隣に立っていたエルメがそう口を開いた。

    「は?」

     隣に来たわりに何を黙り込んでいるのかと思えば、とライク・ツーは面倒くさそうに眉根を寄せる。
     エルメは薄い笑みを浮かべたまま、ライク・ツーと同じ視線の先、マスターを見ながら言った。

    「君にはどう見える?」
    「マスターか? どうって言われても…いつも通りじゃねーの」

     ライク・ツーの返答を聞いて、エルメは「そうか」と目を伏せた。

    「俺にはね。グラスに並並と注がれた水が今にも零れそうに見えるよ」
    「…なんだよ、それ」
    「溢れたら、マスターはどんな風になるのかな。ちょっと興味あるね、正直」

     エルメはそう言ってにっこりと笑うが、ライク・ツーはその意図を図りかねていた。

    (…溢れる…あいつが…?)

     危ういというほどの状態なのか。
     ライク・ツーは再びマスターを見たが、候補生達と笑いあうマスターの横顔は、やはりいつも通りに見えた。

     エルメの杞憂なのではないか、と思った。
     けれど、その日は突然やってきた。

     突然の大嵐だった。
     朝に報が届いて、ばたばたと職員生徒が備えているうちに間もなく天気は大荒れになり、外へは出ないようにとの達しが出た。貴銃士達には、この雨の中好き好んで出ていく者はいないだろうが。
     外で予定されていた訓練はもちろん中止になり、表向きは自習となった。教官や一般の士官候補生達も嵐の対策で駆り出されていたりと慌ただしいので、誰も貴銃士クラスの貴銃士達が全く自習をしていなくても咎められることはなかった。
     真面目なドライゼに咎められる前に早々に教室を抜け出していたライク・ツーはしばらく空き教室で寝ころんでいたが、ここもいつ教官が来てもおかしくないと思い移動することにした。
     食堂にでも行くか、と歩きだし、窓の外を見る。暗雲が空を覆い尽くし廊下の窓には風に打たれた大雨粒が叩きつけられていた。

    「すっげー天気だな」

     ぼそっと呟く。
     すると、どうにも進行方向の廊下側が騒がしいことに気づく。

    「マスター! どこだ、マスター!!!」

     大声を上げて駆けて来るのは、顔を見なくてもわかる。マークスだ。相変わらず騒々しい。

    「なんだよマークス。騒がしいぞ」

     面倒くさそうにライク・ツーが声をかけると、マークスはキッと視線鋭くライク・ツーを睨みつけた。

    「うるさい、俺は今マスターを探すのに忙しいんだ!」
    「探すって、今は授業中だろ」
    「いないから言っているんだ!」

     苛立った様子で、マークスが言う。

     ――いない?

     おそらくマスターの授業も自習になっているはず。真面目な彼女が自習をすっぽかすとは考えにくい。
     ライク・ツーが黙り込んでいると、マークスの来た方向から十手とジョージもやってきた。どうやら彼らもマークスと一緒にマスターを探していたらしい。

    「別のクラスも覗いたがいなかったよ」
    「食堂にもいなかったぜ」
    「あぁ、どこに行ったんだマスター…」

     雨に打たれた子犬のように不安げな表情で嘆くマークスに、ジョージが元気づけるようにぽんと肩を叩いて笑いかける。

    「大丈夫だよ、マークス。この天気で外には出られないんだから、構内のどこかにいるって」
    「そうそう。案外、ラッセル教官あたりに雑務を任されているだけかもしれないしね」

     十手もそう続くが、マークスの表情は晴れない。

    「さ、皆で探そうぜ。ライク・ツーも―――」

     ジョージがそう言いかけたが、ライク・ツーは言い終わる前に走り出していた。

     ――嫌な予感がする。

     ヴィヴィアンの部屋の扉が取れてしまいそうなほど勢いよく開けた。そこにマスターの姿はない。
     マスターの教室。いない。
     食堂。いない。
     準備室。いない。
     薬品保管庫。いない。

    「っざけんなよ」

     全速力で駆け回ったせいで荒れた息のまま言葉を吐きだす。
     思い当たりそうなところはあらかた回ったが、マスターの姿はどこにもなかった。
     エルメの言っていた言葉が思い出されて、妙な不安に駆られる。

    「あいつ、一体どこに……」

     ふと、視線を窓へとむける。
     容赦なく降り続く雨。あと一か所だけ、マスターが行きそうな場所の心当たりがあった。

    「まさか―――」



     嵐の中、マスターは傘もささず一人慰霊碑の前に立っていた。
     ごうごうと吹き荒ぶ雨風に晒され、当然だが全身はずぶ濡れになり、足元は泥だらけになっている。
     マスターが大事そうに胸元に抱える手の中には、無残に折れてしまった白い花。その花を掘り出したのか、手も泥だらけだった。

    「…一緒に植えた花、折れちゃったよ。やっと、咲いたのに…」

     雨音と風のせいで、か細い声はかき消される。けれどもマスターは誰かに語り掛けるように、続けた。

    「…急いだけど、間に合わなかった」

     朝食堂で嵐の知らせを受けた後、教官らに頼まれ補強作業を行っていた。それが終わる頃には嵐がやってきてしまい、マスターは花壇へと急いだがすでに時は遅かった。

    「…ねぇ、ヴィヴィアン。私…ちゃんと出来てるのかな」

     微笑むその顔には、力がない。
     こんな時、ヴィヴィアンならなんと言ってくれるだろう。

    (…そうだ。あの時。私がこうして不安そうにしていた…射撃大会の時)

     ついこの間のことのはずなのに、とても懐かしく感じるような、大切な記憶。

    『大丈夫、自信もって! 一番の応援隊長として、私も応援してるからね!』

     そう言って力強く笑ってみせた、彼女の顔。
     花を持つ手に力が入る。ぐしゃり、と花がひしゃげた。
     身体が冷たい。胸の奥がひんやりとする。

    『この封筒を開けてほしいんだ』
    『この、箱を、ラッセル教官、に…』

     胸が、苦しい。
     誰が喋っている。あれは誰だ。誰が言った。
     頭の中に声が響く。ノイズのように頭の中を掻きまわす。

    『可哀想に』『両親はレジスタンスで』『連合軍の小隊と』
    『どうするの?』『誰も引き取り手なんて…』
    『君を援助したいと申し出てくれた人が』
    『ダンローおじさん』
    『もし私が死ぬようなことがあったら』『彼女は機能を停止した』
    『見殺し』
    『君に会いたい』『薔薇の傷が』
    『私は長くはない』

    『―――死』

    「…ー! …ス…! …マスター!!!!」

     肩を揺さぶられて、意識が引き戻される。
     顔を上げると、そこにはずぶ濡れになり必死そうに名前を呼ぶライク・ツーの姿があった。

     ――UL85A2と一緒に…
     寂しげな顔の彼女の姿と、重なる。

    「なにしてんだこんな嵐の中で!」

     雨に負けないように、ライク・ツーは声を張り上げる。

    「…ごめん」
    「とにかく中へ戻るぞ」

     そう言ってライク・ツーは制服のブレザーを脱ぎ、マスターの頭にかけた。もはやずぶ濡れだがないよりは多少マシだと判断したのだろう。
     だがマスターの足は一向に動く気配が無いまま、そこに佇んでいる。

    「ごめん」

     それは、誰に対しての謝罪だったのか。
     マスターは、手の中の潰れてしまった花を、ぎゅっと抱きしめた。

    『どんな花が咲くのか、楽しみだね』

     花を抱く彼女の手が震えているのに、ライク・ツーは気づいた。そして、自分を恥じた。

    (俺は一体何を見ていたんだ。今まで通りだって? こんなに――今にも壊れてしまいそうなのに)

     ライク・ツーはマスターへと手を伸ばすが、その手は、彼女に触れてもいいものかと迷った。そしてその手が届くよりも前に、マスターが静かに口を開いた。

    「…私が…もっと…強ければ…ヴィヴィアンはまだ一緒にいてくれたのかな」
    「…マスター」
    「みんな、私のことよくやってるって言ってくれるけど、全然そんなこと、ない」

     いつだってちゃんと出来ているか、不安で。そのたびに誰かに助けられて。

    「私…もっと頑張らなくちゃ、強くならなきゃ、いけないのに」

     一度黒い感情が溢れると、堰を切ったように止まらなくなった。

    「両親も、ヴィヴィアンも、大切な人たちがいなくなって、あの日…ドイツの戦場で、ダンローおじさんまでいなくなってしまうんじゃないかって」
    「そう思ったら、怖くて怖くて仕方なかった」
    「自分が疫病神なのかもしれないって、そう思えて――
    「マスター」

     自らに対する呪詛のような感情を吐露するマスターを遮り、ライク・ツーは話しかける。マスターと呼んだその声は、とても優しかった。

    「ごめん。俺があんたのことを追い詰めた」
    「ライク・ツーは何も悪くない。正しいことを言っている」

     彼が投げかける言葉はいつでも正論だ。確かに配慮はないかもしれないが、間違ったことは言っていない。それはマスターにも痛い程わかっていた。

    「いや、俺は…前の持ち主…ヴィヴィアンの為に、やつらをぶっ潰すとか大口叩いたのに、全然思うようにいってないことに焦って…マスターに当たった」

     アウトレイジャーと交戦することはあれど、トルレ・シャフの情報や目的などは一向に掴めていないことに、内心ライク・ツーは焦っていた。それはマスターのせいではないというのに。

    「あんたの周りにはどんどん貴銃士が増えてうるさいくらい賑やかになって。俺は学生ごっこしてる場合じゃねぇのにって、イラついて…」

     こうして言葉に出してみると、なんとも幼稚な自身の行動にため息が出た。

    「あんたは十分よくやってる。あんたの傍でずっと見てる俺が…あんたの貴銃士であるこの俺が言ってんだ。周りの教官や、生徒たちなんかの言葉と一緒にすんなよ。まぁ、こんな風になってるあんたに気づけてなかったから、説得力に欠けるかもしんねぇけど」

     ばつが悪そうに言うライク・ツーに、マスターは小さく首を横に振る。
     そしてライク・ツーは今度は迷いなく、マスターの両肩に触れ、手を置いた。マスターがようやく顔を上げると、自分を見下ろす優しい双眸と視線が交わる。

    「…振り返ってほしくないってのは今も変わってない。ヴィヴィアンを失った痛み…それを抱えたまま、前向いていてほしいんだ」
    「…うん」
    「たまに、立ち止まりたくなったら、俺も…隣で止まるから」

     肩を置く手に力が籠められる。

    「だから勝手にいなくなるな、俺の目の届くところにいろ」

     そう言って、ライク・ツーは汚れるのも厭わず、泥だらけの花ごとマスターを抱きしめた。自身の両腕にすっぽりと収まってしまうくらいに小さな体。

    「…俺しか見てないから、泣いてもいいぞ」

     マスターの顔はブレザーに隠れていて、ライク・ツーからは見えない。

    「マスターは疫病神なんかじゃねぇよ。絶対、違う」

     静かにそう言うと、マスターの小さな肩が震え始めた。
     相当我慢していたのだろう。彼女は時折嗚咽を漏らしながら、泣きじゃくった。

    「っ一緒に、花、見ようねって…」
    「うん」
    「約束って、言った、のにっ……」
    「うん」
    「ごめん、ごめんね、ヴィヴィアン…」

     ライク・ツーは何も言わないまま、ぎゅっとマスターを抱きしめた。この世界から、今だけは自分が彼女を隠してあげたいと思いながら。



     濡れ鼠で校舎入口へと戻ったマスター(とライク・ツー)を見て、マークスは悲鳴をあげた。

    「マスターーーー!!!」
    「うるせーなでかい声出すな」

     不快そうに顔を歪めるライク・ツーなど眼中にないらしく、おろおろした様子でマークスはマスターに駆け寄る。

    「マスター、どこか痛むか? 怪我はしていないか?」
    「大丈夫。ありがとうマークス」
    「でもマスター、目元が真っ赤だ」

     この時ばかりは人間レベル1のマークスに助けられたようだ。どうやら目を泣き腫らすということがわかっていなかったのだ。もし泣いていたのが悟られていたら、一緒にいたライク・ツーに嚙みついていたかもしれない。
     マスターは何でもないように笑って見せる。

    「雨が入ってちょっと擦りすぎちゃったみたい」

     おそらくジョージと十手はその目の赤みの原因に気が付いたであろうに、何も言わなかったのは、マスターが否定したからだろう。触れて欲しくないという彼女の意志をくみ取ってくれたようだ。
     ジョージが心配そうな面持ちで、おずおずと口を開く。

    「マスター、俺…いつでも聞くからな。何でも言ってくれよ」

     その言葉に、十手も大きく頷いた。

    「そうそう、マスター君もたまには俺たちを頼ってくれて構わないんだからな」
    「うん、ありがとう二人とも」

     二人の心配りに笑顔で礼を言う。

    「しかし濡れに濡れたなぁ。早くしないと風邪引いちまうぞ」
    「風邪!? 風邪って…人間の免疫力が低下して現れる不調のこと、だよな。それはダメだ。マスター一刻も早く身体を温めないと!」

     マスターが心配で仕方がないがどうしたらいいのかわからずおろおろとするばかりのマークス。彼の相変わらずの優しさに、申し訳なさを感じつつも嬉しくなる。

    「あー全身張りついてきもちわりぃ。俺シャワー浴びてくる」

     そう言って、ライク・ツーはマスター達に背を向けて歩き出した。

    「ライク・ツー」

     その背中に、声をかける。
     ライク・ツーは足を止め、顔だけ振り向いた。

    「ありがとう」

     マスターの礼に、ライク・ツーは何も言わずに再び背を向け「じゃーな」と手を軽くあげてさっさといってしまった。

    「マスターになんて態度だ!」

     憤慨するマークスを十手が苦笑しながら宥める。

    「まぁまぁ、今回は彼のおかげで何事も無かったわけだし」
    「そうそう。というかマスターも早くシャワー浴びた方がいいぞ」
    「はっ、そうだった! 行こう、マスター! 俺が送っていく!」
    「HAHA! マークス、シャワー室の中までは入るなよ」

     ワイワイと賑やかな面々に、マスターは堪えきれずにふふっと声を漏らした。こんなに優しい貴銃士達に囲まれて。なんと自分は幸運なことだろうかと。
     辛いこともあったが、紛れもないこの”幸せ”を噛みしめながら、マスターは笑った。

    「みんな、ありがとう」

     今はここにはいないかの人にも、最大限の感謝を込めて。

     嵐は、もう去っていた。

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