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    ふつきのとー

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    ふつきのとー

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    #毎月第3日曜は進化リの日
    お題『コスプレ』『本』


    🎇🌳

    自分たちも適合率を上げる特訓だ!
    大石さんに相談し、彼女のアイディアで簡単なお芝居に挑戦してみることにした二人。
    果たしてうまく行ったのでしょうか

    ドリーマーズ・ドリームカーン カーン

    真面目な木こりは懸命に働いていた。
    大きな斧を長年育てた木の幹へ振るう。
    一振り、一振り、力と思いを込めて。
    ところが勢いをつけすぎたのか、手が滑って大事な斧がすぐそばの泉へ落ちてしまった。
    何てことだ。これでは仕事ができない。
    泉の畔で途方にくれる木こりの前に、泉の精が現れた。
    なんも鉄の斧と金の斧を持っているではないか。

    「ええーと。お前が落としたのは…普通の斧と、金の斧。どっちだ?」
    「普通の斧です」
    「だよな」
    「……」
    「……」
    「(ハナビくん、セリフ!次のセリフ!)」

    泉の精、のつもりでシーツを体に巻き付けた格好をしていたハナビくんは両手に持ってた斧(段ボール製)を放り投げて頭をかきむしった。

    「だああー!! 泉の精の気持ちなんてわかんねぇーー!! 普通に返してやりゃいいじゃんか!」
    「確かに金の斧をもらっても切れ味がいいとは」
    「はいカットー!」

    このままでは違う路線に行きそうなので、私はパンッと手をひとつ鳴らして二人を止めさせた。
    まだなお、本当に性格が悪いのは泉の精じゃないかと議論してる二人に私は苦笑する。
    仲いいなあ


    なぜ二人がお芝居に挑戦していたかというと、話は1時間前に遡る。
    発端はタイジュくんからだった。

    「特訓?」

    私は思わず聞き返す。
    今日の訓練を終えた彼に、廊下で呼び止められたと思ったら、突然そんな相談をされた。
    丁寧に「今お時間大丈夫ですか」と前置きされた後に。
    両手に握りこぶしを作って、彼は大きく頷いた。

    「はい。シン君たちを見ていて思ったんです。自分も何か特訓するべきだって。良いアイディアはないでしょうか」

    そんな大事なことを私に相談して良いのかしらと戸惑いはしたが、先日共に行動し同じ本好きという共通点も見つかったから、相談しやすかったのだろう。
    タイジュくんの意外と大きな目はまっすぐ私を見て訴えてくる。少し太めの眉が、きりりと斜めに持ち上がっていて真剣な気持ちが伝わってきた。
    もちろん断るつもりなんてない。

    「分かったわ。一緒に考えましょう! でも適合率を上げる特訓…かあ」

    私は専門ではないし、適合率については解明されていないことばかりなので何が良いかなどとはすぐには思い付けない。
    タイジュくんも腕を組んでうーんと唸っている。

    「シン君たちがやっていたのは、餅つき…二人羽織…保線作業…キャッチボール…よね」
    「自分は合体するわけじゃないので、もっと違うのでもいいかもしれません。けどこれといったものが思いつけなくて」
    「じゃあ…なにか簡単にお芝居をやるのはどうかしら?」
    「お芝居、ですか?」
    「昔読んだ本の話で申し訳ないんだけれども、そんなお話があったのよ。集中力とイメージ力を上げるためにお芝居に挑戦する物語」
    「イメージ力…確かに上がりそうですが…自分お芝居は幼稚園のお遊戯会でやったのが最後ですから大丈夫ですかね」
    「あら、何をやったの?」
    「浦島太郎です。自分、カメ役でした」
    「タイジュくんに連れてってもらえる竜宮城はきっと楽しかったでしょうね」
    「ふふ、そうだと嬉しいです」
    「そんなに構えなくても誰かに見せるわけじゃないんだから、試してみましょうか」
    「…そうですね。ちょっとだけ。やってるうちに他のアイディアが思いつくかもしれませんし」

    ふふふ、と二人で笑いあう。
    特訓というには和やかな空気だった。まあ、もし駄目でも息抜きになれば良いと願う。
    タイジュくんを初め、近頃の皆は頑張りすぎている。彼らのまだまだ成長途中な肩に掛かっている重荷を、少しでも軽く出来るなら何でも協力してあげたい。
    私はスマートフォンを取り出した。

    「じゃあ、台本置場サイトからちょうど良さそうなのを探すわね」
    「あんまり自分からかけ離れたものは自信ねぇです」
    「分かったわ。あと、タイジュくんだけだと逆にやりづらいかも、せめてもう1人…」

    「おーい、タイジュ。訓練終わったんだから早く帰ろうぜ」

    元気溢れるロックな少年が、飛んで火に入る…じゃないけれど。
    私たちは顔を見合わせた。同じことを考えてる顔だった。

    というわけで冒頭に戻る。
    案の定、彼はすぐに乗ってくれた。
    タイジュくんをイメージして『木こりと泉の精』をやってみたのだが、ご覧の結末である。
    これで目的が達成されるとはとても思えなかった。

    「音楽にしねえ?たしかタイジュ、歌ってくれるんだったよな」
    「あ、あれはシンくんを励ますつもりで」
    「いいじゃねーか。タイジュの歌、聴きたい」
    「ま、また今度で。そうだ、ハナビくんこそ聴かせてくださいよ。この前、部屋で練習してたやつとか」
    「おう。すぐにでもやれるぜ!」
    「……」
    「…どうした?」
    「…ハナビくんはすごいですね。自分ももっと前に出ていける度胸があったら良いのですが」
    「タイジュは度胸あるじゃねえか。目立つことは苦手っぽいだけで。それに近くに居てくれるだけで安心できる」
    「何だかくすぐったいですね。自分がいることが誰かの為になればそれで…それがいいんです」
    「お前のそういうところ、ほんっとにロックだぜ」

    二人が話してるのを聞いて、私はスマホをいじる。
    台本置き場的なサイトをいくつかめぐり…見つけたある台本を二人に見せた。

    「なんかロックですね」
    「お前、それは俺の…」




    まだ格納庫で何やらやっていたらしく、支部に残っていたシンくんとスマットが空いていた小会議室に来てくれた。
    机は壁際に全て寄せられ、一脚だけ椅子が用意されているのを見て戸惑ったようなので、私は簡単に事情を説明する。

    「二人のお芝居かぁ!」

    物語の舞台は、19世紀半ば、ゴールドラッシュに沸くカリフォルニアの小さな街角。
    タイジュくんとハナビくんの二人は、当時の格好を意識した衣装に身を包んでいた。
    といっても、無地のシャツの袖をまくり、簡素なズボン、長靴といった簡単な格好だが。
    小道具は保線作業でも使用する大出のスコップのみ。
    それでもシンくんはわくわくした様子で椅子に座る。
    スマットもシンくんの膝上にお行儀よく着地した。

    「俺が見てもいいの?」
    「オーディエンスがいねぇとつまらねぇだろ」
    「自分も、最初は恥ずかしかったんですが、シン君には見てほしくて」
    「じゃあ、はじめるわね」

    それぞれの了解の返事を聞いて、私は照明のスイッチを一度切った。



    ざっくり ざっくり

    二人の男が振るう大ぶりのスコップが地面を掘る。
    その音は大地の咀嚼音みたいだ。

    「俺が掘ってるのは土くれじゃねぇ。夢だ!」

    ざっくり ざっくり

    「他人の評価なんかいらない、賞賛も名声も栄誉もいらない。俺が欲しいのは魂を震え上がらせるロックな夢だ」

    男はもう1人の男に訪ねる。

    「そういうお前は何を夢見て俺についてきてくれるんだ」
    「自分の夢は、夢追う人ですよ」

    ざっくり ざっくり

    「黄金が見つかるかどうかじゃない。全力で夢を追う姿を自分は近くで見ていたいんです。それが自分の夢」

    ざっくり! ざっくり!

    「夢見るほど夢中になれるもの、掘り進めろ」
    「そんなあなただから、色あせない。そんなあなたを見ていたい」
    「掘ろう、大地を。足元を。地球を。未来を。人生を。その下に何があるかなんて知らない。輝く黄金か、ただの土くれか。あるいはもっと別の何かか。
    自己満足、上等だ。
    そんな不安は夢を見てはいけない理由にならねぇ。
    ロックに行こうぜ!」

    ざっく!

    最後に何かを掘り当てた。二人はスコップを取り落としてそれを拾い上げる。
    それはーーー

    暗転



    再び照明をつけ主演の二人が一礼をすると、これでもかとシンくんは拍手を送ってくれた。

    「すごいすごい!二人ともすごいよ。面白かった!」

    照れながらも、もう一度礼する二人。
    ハナビくんまで照れているのは珍しい。
    鼻の下を指で擦りながら、ハナビくんはタイジュくんに笑いかけた。

    「本当に何かを見つけた気がしたぜ。これがシンクロってやつかな」
    「自分、ハナビくんを支えてあげたいって。この人の目指す夢を一緒に見たいって入り込めました」
    「タイジュ…へへ。サンキュな。芝居じゃなくてもオレを支えてくれるんだろ?」
    「もちろん」

    カシャ

    何故か距離が近かった二人は、シャッター音に驚いたらしく慌てた様子で離れた。
    スマットが二人を撮影している。
    その横で、どんな顔をしたらいいのか分からないと言わんばかりの半端な笑顔のシンくんが言葉を模索していた。

    「ええと…二人って…そういう」

    完全に観客を忘れていたらしい。
    二人そろって大口を開けて絶叫するであろう三秒前に私はそっと部屋を後にした。
    せめて自分だけでも聞かなかったことにしてあげないと。


    どうやら彼らが掘ったのは、大きな大きな墓穴らしい。




    終幕
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