冬の先生 露伴は着込み過ぎなんじゃってくらい、いつも厚着している。夏はへそが見えるような服を着ていたくせに、冬になるとその真逆だ。
「寒いの苦手なんスか」
「東京と比べると桁違いに寒いからな。それに、風邪をひくと仕事に支障が出る」
それでも、俺は露伴がよくその辺を歩いているのを見かけた。寒いなら家にいりゃいいのにって思うが、あいつに会えるのが嬉しいから俺としては助かってる。家に行くのは、なんか理由がねえといけないし。
「あれ」
駅前のバス停で露伴を見つけた。いつもはダウン着てマフラー巻いて手袋も着けてんのに、ペラペラのコートしか着てない。思わず俺はそれを見上げた。さっきから、細かい雪がちらついてる。どう見ても、寒そうだった。
「露伴先生」
「……なんだよ」
心なしか声も小さい。俺は巻いてたマフラーを外して、露伴の首にかけてやった。そしたら、びっくりした顔でこっちを見る。
「なんでそんな寒そうな格好してんスか」
「午前中あったかかったろ。それで、S駅まで出たら急に冷え込んできた」
「確かに朝はあったかかったかもなぁ」
露伴は何も言わずに俺が貸したマフラーを首に巻いた。よっぽど寒かったらしい。
「タクシー使わなかったんスか」
「あ」
「え?」
「……その通りだな。全然頭が回ってなかった」
よっぽどヤバかったらしい。タクシー乗り場に行こうとしたところでバスが来た。だから、タクシーには乗らずにそのまま俺たちはバスの車内に移動する。
「はぁ、生き返る」
「露伴先生もそういうかわいいとこあるんスね」
「うっかりがかわいいもんかよ」
バスの中は暖房が効いていて暖かい。露伴は一番うしろの奥の席に座ってる。俺はその隣。
「たまに抜けてるとこ見せてくれるとグッと来るんスよ」
「お前、こんなところで口説いてくるなよ」
露伴がマフラーに顔を埋める。もしかしたら、照れているのかも。そう思って見てみるも、露伴の耳のあたりがちょっとだけ赤くなってる気がした。
「いつでも口説きますって」
「ああ、そうかい」
そこで露伴は黙ってしまった。寒くて疲れてるのかもしれない。バスが発車する頃には、俺に寄りかかって寝てしまった。やっぱ、かわいいわコイツ。
そうやって、俺は露伴の家まで肩を貸したまま乗り続けた。
「降りなかったのかよ」
自分の家の近所で降りた俺に、露伴は呆れた顔でそう言った。んで、巻いてたマフラーを外して俺に渡す。
「それは助かった。ありがとう」
「……どういたしまして」
今度は確実に顔を赤くして、露伴はさっさと自分の家に向かって歩き出した。俺は露伴の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、受け取ったマフラーを巻き直す。
「うわー……」
露伴の香水の匂いがする。俺は爆発しそうな感情と、あちこちムズムズするのを抑えながら、のろのろと家まで歩いた。
帰ってからも何度もマフラーの匂いを嗅いだのは、露伴には絶対に内緒にしておこう。