アンモビウムに懸ける願い 洗濯かごに入れられた洋服を洗濯機の中に入れ、洗剤を入れてボタンを押す。
「灯世、水遣りを頼めるか」
「ああ、もちろんだ」
恩田がじょうろを持ってシンクに向かうと、玉ねぎの皮を剥いていた新名が水を出してくれる。
窓辺に置かれた鉢植えに近づいた。真っ白な花が咲いている。恩田はしゃがみ込んで、じょうろで花に水を遣る。
先日事務所に立ち寄った際、城瀬から渡されたものだった。イベントのため、カフェの飾り付けに使われていた花を配っていたのだ。当日のカフェは天井から壁からテーブル、床の隅に至るまで華やかな花々で飾り立てられていた。一日限りのイベントのため、すでに撤収を終えていたが、用意した花の処理に困っていたようだ。事務所に置けるほどの場所も無く、そこでスタッフに配ろうと思いついたらしい。恩田と新名にもドライフラワーや切り花を持ち帰らないかと声が掛かったが、花と無縁の二人は断っていた。しかし、「捨てるのは勿体ないから」と城瀬に言われてしまい、それならと鉢植えをひとつもらって帰ることにしたのだ。
それから数日、二人の生活に花を育てるという日課が追加された。花に詳しい在間に育て方を教わり、水はやりすぎず、日の当たる場所に置くことを心掛けている。キッチンを出てすぐの窓辺が、このアンモビウムの鉢植えの定位置になった。
「もう出来る。……何かあったか?」
「いや、なんでもない」
「……カフェ、盛況して良かったな。たまにはいいな、ああいうのも」
「有のケーキ人気だったな」
「花のある生活も良い。アンモビウムは秋に種まきするといいらしい」
「……また育てるのか」
「灯世は、面倒に思うか」
「いや。上手く育てられるといい」
「そうだな」