たいみつ・バレンタイン柴大寿は、落ち着かない。
それは、バレンタインデーが近づいているからである。色恋沙汰に興味はなく、毎年スルーしてきたのだが、今年は違かった。好きになった者がいる。しかしその者は友人で、恋愛対象は異性であろう同性で、貰えるはずがないと分かっているのに、ひょっとするとと心のどこかで期待してしまうのだった。
大寿にはカリスマ性があり、密かに思いを寄せる女子たちもいるのだが、近づくことが出来ない。コワモテで、彫りの深い日本人離れした端正な貌立ちをしているが、額には血管が浮かびあがり威圧感があるし、大人と子供ほどの圧倒的身長差で萎縮してしまう。学校のロッカーにこっそりとチョコを入れたくても南京錠でロックされているし、渡せる機会がないのだ。それに渡せる勇気のある女子もいなかった。たとえ勇気を振り絞って渡そうとしても、大寿が受け取ることはないのだが。学校カーストの頂点に君臨するような大寿の隣に立てるような者はいなくて、崇める存在になりつつある密かなファンの女子たちにとって、彼が誰かからチョコレートを欲しているなど、夢にも思えないことだった。
大寿は今までバレンタインデーをスルーしてきたので詳しくないが、バレンタインデーといえば、女子が男子にチョコレートを渡す印象が強かった。しかし最近は友だち同士で交換する『友チョコ』が流行っていてるようで、三ツ谷に友チョコを交換を持ちかける手もあるかもしれないが、普通は女子同士で交換するものだろうし、違和感しか生まれないだろう。
大寿は三ツ谷からチョコが欲しいあまり変に意識してしまい、三ツ谷にバレンタインデーの話題をすることは出来なかった。
◇
休日、三ツ谷に誘われて、新規オープンしたパフェが美味しいと評判のカフェに行くことになった。
「今年のバレンタインデーは、なに作ろうかなー」
「!?」
今はその店舗が入っているショッピングモールをぶらついているのだが、バレンタインデーのディスプレイを見た三ツ谷が徐ろに呟いた。
「……誰かに渡すのか?」
三ツ谷がチョコを作るとは思ってなく、一瞬固まってしまった大寿は、すぐに返事をすることが出来なかった。幸い三ツ谷は見上げてこなったので、引き攣る顔を見られることはなかった。
渡す本人に向かってこのような事を言うだろうか?
否。だとすると、見込みがないということでは?と、心が重くなった。
「あ、いやオレが渡すんじゃなくて、妹たち。ほら、今友チョコが流行ってるって言ったじゃん?ルナとマナ合わせて、大量にチョコを作らなくちゃいけないから、大量生産で低コストにするには何がいいかなって悩んでてさ、大寿くん、なんかアイデアある?」
「……チョコなど作ったことないから、分からないな」
「ハハハッ、笑わすなよっ」
突如周りを気にせず声を張り上げて笑う三ツ谷。大寿が怪訝そうに何がそんなに可笑しいのかと問うと、
「大寿くんが慣れない手つきでチョコ作って、エプロン意味ねぇくらいチョコまみれになってる姿を想像しちまって……」
と、目の端に涙を浮かべて説明した。
随分と想像豊かなことだ。どうも三ツ谷は、一緒にクレープ食べた時に、大寿が服にクリームを零したことをいつまで経っても覚えていて、何かに変換しては笑うのだ。なんでも不器用だと思われるのも癪である。
「ねえ、大寿くんが作ってるとこ生で見たいから一緒にチョコ作んねえ?こんな面白いの、ひとりで独占したいし、ふたりっきりがいいから、大寿くん家でさ!」
「ゴメンだ。なんでテメェのネタ作りに付き合わなきゃなんねぇんだ」
「えーっ……大寿くんのケチ」
要求を却下されて、分かりやすいように唇を尖らせて不貞腐れる三ツ谷。
人を笑いものにするなと怒りに任せて断ってしまった大寿だが、後から引き受ければ良かったと少し悔やんだ。一瞬にチョコを作って、出来たチョコを交換しあえば良かったのではないかと。
「去年は簡単にたくさん作れるトリュフを作ったんだけど、ココアパウダーが高いから、代わりにココアでいいだろとまぶしたら、もの凄く甘くなってビビったワ」
懐かしいそうに言葉を弾ませる三ツ谷。妹の友だちには甘くて美味しいと大好評だったようで、失敗もいい思い出になったようだ。
「なら今年もトリュフにすればいいんじゃねぇか?」
「でもさ、去年と同じって芸がないじゃん。ルナマナも、今年は違うのにチャレンジしたいっていうしさ」
三ツ谷家の子どもたちは揃いも揃ってチャレンジ精神が旺盛のようだ。一見すると妹の為に悩める兄のようだが、三ツ谷自身もチョコを作るのが楽しそうである。
「それに、友チョコで貰うのはトリュフが多いんだよ。だからインパクトねぇよな。オレが貰うのだっ……」
そこまで言って、三ツ谷はハッとしたようで、言葉を呑み込んでしまった。
「あっ、いや、そのっ、オレが貰うのは、義理チョコとか友チョコだからなっ?オレは去年まで手芸部部長で、オレ以外全員女子だったから、義理チョコが集中しただけだし、学校の女子たちは、オレの手作りお菓子のお返し目当てで渡しただけ。はは…友だちとしか思われねぇの」
何をそんなに慌てる必要があるのか、三ツ谷は手を横に大きく振って否定した。
心なし、頬が赤く染まっている。
三ツ谷に女友だちが多いのは知っている。母親と妹ふたりの4人暮らしで、女性に慣れているのか、女子に気さくに話すことが出来る。困ってる人がいたら手を貸す世話好きな性格、明るく多くの人を魅了するであろう柔和で甘いマスク。加えて育児や料理や裁縫などの家事はお手のもので家庭的で、不良とはいえ野蛮ではなくモテるようだ。本命チョコだって貰っているだろう、最も三ツ谷自身が硬派で女子を友だちとしか見てない節があり、女子たちの淡い思いに気付いているかは定かではない。
それに、三ツ谷は豪胆で鋼の意志を持っていて、かなり頑固であり、誰とでも仲良くなれる愛想の良さだが、その実、女性に対してガードが硬く、作ろうと思えばいつでも簡単に彼女を作れるだろうが、その気はないようなのだ。
「義理とはいえ、チョコをたくさん貰ったということは、ホワイトデー大変だったんじゃねぇのか?」
「あ……うん。はは……バレンタインデーもホワイトデーも大忙しだった……」
どうやら三ツ谷はバレンタインデーで相当大変な思いをしてるらしかった。女友だちが多いのも楽ではないのだなと同情したくなる。
「今年は、お世話になってるデザイナーの先生や同僚たちがチョコくれるようで、去年より楽だとは思うけど、ホワイトデーも何作るか考えないとな」
「ホワイトデーにお返ししなくて済むように、予めお返し分も作ったらどうだ?」
「!? それいいな!流石大寿くん、ナイスアイデア!」
三ツ谷はえらく感心したようで、即採用することに決めたようだ。
三ツ谷は今、通信制高校に通いながら、デザイナーの元で働いている。少しでも母に楽させたくて、小さい頃からの夢であるデザイナーを目指せる職場を選んだようだ。
今年は予めお返しを用意することに決まり、大寿がチョコを渡しせば、お返しにチョコを貰えるのだろう。
ただ、男友だちがチョコを渡すのは変わっているだろうから、訝しがって理由を問われるかもしれない。
考え込んでいると、バレンタインコーナーが目に入った。
「おおっ、大寿くん見てみて!このチョコ、宇宙に浮かぶ宝石みてぇ!」
それこそ瞳をラベンダーアメジストのようにキラキラと輝かせている三ツ谷。
オマエの瞳の方の綺麗だと言えば、気障だと大爆笑されるだろうし、そんな歯が浮くようなセリフ言えないのだが、大寿にとって一番魅力的なのは目の前の男だ。
「デザインカッケーし、食べるのもったいねぇ、どんな味がするのかな?」
「さあな。見た目は綺麗だが、普通のチョコの方が案外美味いかもな」
「いくら外見が綺麗でも、味は普通のチョコより劣るかも知れないのか……美人でも性格が…と言うし、なんか哲学だな」
唸りつつも三ツ谷は、ロイヤルブルーに銀河が広がっているチョコ、もしくはルビーやサファイアのような星が浮かぶチョコの詰め合わせをいたく気に入ったようだ。値段はそれなりで、本命チョコとして購入するものだろう。
デザイナーとして服で人を引き立てたくて、デザインが魅力的なチョコに惹かれるようだが、気になりつつも自分用に買う予算はないと、未練たらたらで諦めた。
大寿自身は味にも質にも拘るし、三ツ谷は大寿の好みそのものである。
(欲しかったろ?と、バレンタインデーにさりげなく渡すのはアリか?)
大寿は逡巡した。
三ツ谷が喜ぶ姿を想像すると大寿まで嬉しくなり、三ツ谷と別れた後、買いに戻ろうと密かに決意を固めた。
三ツ谷とはあくまで仲の良い友だちで、告白するつもりはないし、本命チョコとして渡すのではないと言い訳しながら。
その後、大寿は三ツ谷と新規オープンしたカフェでパフェを堪能し、早く買いに行かないと良いラッピング袋がなくなると言うので、100均に付き合って別れた。
三ツ谷は分かっているだろうか、大寿をこんな風に付き合ってやるのは、三ツ谷だけである。
◇
バレンタイン当日。
大寿は三ツ谷に、どういう風に会う約束をしようか考えあぐねていたところ、三ツ谷から「家ん中甘ったるいから、大寿くん家で休ませて」と意味不明な電話が来たので、いいように利用されてるなと思いつつも承諾した。
「おじゃまします。大寿くーん、無事作り終わったよ」
「お疲れだったな。結局何を作ったんだ?」
「ガトーショコラ。簡単に作れるレシピ教えてもらったから、ルナマナと挑戦してみた。パウンド型で焼いて小分けにすれば大人数分作れるけど、4回作らないと足りなくて、ルナマナがいなかったらしんどかったな。思ったより大変だったけど、いい感じにできたよ」
ルナ+マナ+三ツ谷の分で、50個以上は必要な気がする。
「ガトーショコラか。美味そうだな」
「へぇ……大寿くんも食べたかった?」
三ツ谷が上目遣いで伺ってくるから、大寿は咽せるような咳が出た。分かりきったことを訊かないでほしい。それより「はい、大寿くんの分ね♡」と渡してほしい。♡を付けることはなさそうだが。
手ぶらでなく、紙袋を持ってきたので、ひょっとしてと気になるのだ。来る途中に女子からチョコを渡されても大丈夫なようにお返しを準備している。既に交換済み。という可能性も十分あり得る気がする。
「それより……三ツ谷」
大寿は用意していたチョコレートを取り出した。
「やるよ」
「……え?」
なんて言えばいいか分からず、ぶっきらぼうに渡す。
ラッピングを開封した三ツ谷は、驚きで目を丸くした。
「……このチョコ……オレが、食べたいって言ってた……」
「ああ、食べたがったよな。街でたまたま見かけたから、プレゼントしようと思って買ったんだ」
「……オレが食べたがってたから……優しいね。でもこれ、本命チョコ……だろ?」
本命チョコと言ったら受け取りを拒否されるかも知れない。それだけではなく、友情が壊れる可能性すらある。
「いや、三ツ谷には本命並の値段かも知れねぇが、オレにとっては大した額ではねぇ、本命なわけないだろ」
だから気にせず食べろと言おうとしたのだが、三ツ谷の顔色が変わった気がして、思わず言葉を呑み込んでしまった。
金があることをひけらしてしまっただろうか、そんなつもりはなかった。
「はは……だよな。どうもありがとう、すげー嬉しい」
三ツ谷は笑顔を見せたが、それは大寿が想像した笑顔とは違かった。欲しかったチョコをプレゼントされ、もっと無邪気にはしゃぐと思っていたが、返ってきたのは、どこかぎこちない笑顔だった。
三ツ谷はプレゼントを紙袋にしまった。不快にさせてしまったのではないかと一抹の不安が過るが、受け取ってもらえたのだから、安心すべきなのだろう。
「あ、お返しを渡さないと。金額に見合うものじゃねぇけど」
「お返しがあるのか」
「………はい。これ」
予想通り、三ツ谷はお返し用のチョコを持ち歩いていたようだ。
大寿は念願のチョコを手に入れた。
「……これは……?」
「お口に合うか分からないけど、一生懸命作ったよ」
三ツ谷が100均で買っていた、ミニサイズのラッピング袋に入ってる小分けしたガトーショコラだと思いきや、渡されたのは、あの日三ツ谷が買ったラッピング袋ではなかった。
おそらく100均で買ったのだろうが、水色のお洒落なケーキ用のボックスに入っている。
「これがお返しの友チョコか?」
「大寿くんは特別。デカいからたくさん食うだろ?」
「……ボリュームがあるのは嬉しいが」
「気にすんなよ。材料が余って使い切りたかったから作ったんだよ。気持ちが重いってことは全然ねぇから」
「……そうか」
開けてみると、12センチの丸型のガトーショコラが入っていた。十字の形に粉糖が掛かかっていて目を瞠った。明らかに大寿を意識していて、愛情を感じたからだ。
店で買ったと言われても分からないレベルで、どう見ても本命チョコに見えるのだが、たまに妹ふたりにねだられて一緒にお菓子作りをしてる三ツ谷だから、簡単に作れてしまうのかもしれない。
「ありがとう」
「……どういたしまして。じゃあ、そろそろ帰るワ」
「は?来たばかりだろ」
「あーでも…貰ったチョコ早く食いてぇし、夕飯の準備もあるから」
「少しは時間取れるだろ?コーヒー淹れるし、三ツ谷が作ったんだガーショコラを一緒に食べないか?」
引き止めようとするも、三ツ谷は顔を合わせずに「じゃあまた」と帰ろうとする。
唖然とする。『大寿くん家で休ませて』と言っていたので、もっとゆっくりするつもりだと思っていた。
──気が変わったのか。
大寿のプレゼントを受け取った時の、三ツ谷の作り笑いのような笑顔を思い出した。
靴を履こうとする三ツ谷の後ろ姿を見て、ふと疑問に思った。
三ツ谷がお返しにくれたガトーショコラ。大寿の体格に合わせた大きさで、粉糖で十字を浮かび上がらせていて、余り物で作ったと言うには手が込んでいた。
そもそも三ツ谷は、大寿がチョコを渡すと見越して作っておいたのだろうか。渡されなかったら、どうするつもりだったのだろうか。
お返し用に用意していたのではなく、三ツ谷は初めから大寿にチョコを渡すつもりで訪問したのだ。
手作りのチョコケーキ。
たとえ義理チョコだと言われようと、三ツ谷以外からは受け取りたくないものだ。
「三ツ谷待て。お返し関係なく、バレンタインチョコをオレに渡すために来たのだろ?」
「……大寿くんには日頃からお世話になってるから、感謝の気持ちで渡したかったんだ」
だとしても、他の友人同様、小分けしたガトーショコラでいいではないかと思わなくもない。
ついでとはいえ、明らかに手間ではないだろうか。それに、いくら三ツ谷に女友達が多いとしても、バレンタインデーに自ら進んで友チョコを渡すつもりはなかったようだ。元東卍メンバーにも渡してはないだろう。
三ツ谷の声は、まるで絞り出すようで、いつもより掠れていて衝撃を受けた。
大寿は三ツ谷が大切な友人だからこそ、友情を壊したくなくて真実を告げられずにいた。
だが、もし、三ツ谷も同じ気持ちならば、ここでこのまま帰したら、後悔することになるし、男が廃る気がした。
「三ツ谷、オマエに渡したチョコは、友チョコでも、勿論義理チョコでもねぇっ!」
友情が壊れる覚悟で言い放った言葉には効果があったようで、三ツ谷の動きが止まった。
後ろ姿で表情は伺えないが、時おり肩が小刻みに震えている。先程から感情の昂りを必死で抑えようとしているようで、そのことに触れるのは野暮だろう。
三ツ谷のことが、どうしようもなく愛しく思えてきた。しかし気持ちを伝えるのは勇気がいる。
心臓の鼓動が激しい。
かつて、ここまで緊張したことがあっただろうか。
「……じゃあ、なんだよ?本命チョコでもねぇんだろ」
拗ねているような声が聞こえてきた。
「大本命チョコだ」
「は?」
三ツ谷は後ろ向きのまま、拳をググっと握りしめて立ち上がった。
「なんだよそれ。“大した額ではない大本命チョコ”って、そんなのあるかよ」
震えている。殴られるかもしれないが、大寿は三ツ谷を後ろから抱きしめた。
かつて殴り合いをした相手、だが不良をやめて鈍ったのか、思ったより小さくて細くて壊れてしまいそうだ。抱擁を嫌がる素振りはない。
最も、抗ったとしても離す気はない。
「ある。三ツ谷、愛してる」
「………ッ、んだよ、オレからのチョコは、義理でも友チョコでも本命チョコでも大本命チョコでもねぇからなッ!」
「そうか……」
早口で捲し立て、感情を荒立てる三ツ谷を落ち着かせるように、更にぎゅっと包み込むように抱きしめた。
「ッ、納得するなぁ。大大本命チョコだワ、バカやろう……」
腕の中の三ツ谷が照れ臭そうに答えた。
大大本命チョコ。
大寿は素直でなかったが、三ツ谷も相当だ。
「ハッ、ならオレのは大大大本命チョコだな」
両想いだったと解って凄く嬉しいが、妙に愉悦な気分になり、負けずと言い返した。
「ッ、オレのは大大大大本命チョコだし!」
予想通り三ツ谷も言い返してきた。
「それならオレのは大大大大大本命チョコだ」
「ふん、まだまだだな。オレのは大大大大大大本命チョコだからな!」
三ツ谷が『大』を何回言えばいいか分からなくなったところで、この不毛なバトルは幕を閉じた。
「……はぁ、なんでオレ、大喜びするとこなのに、ムキになってるんだよ」
疲れたように嘆息する三ツ谷。
既に腕は離していて、向き合っている状態だ。
「ったくオマエは意地っ張りだな」
「大寿くんだって」
漸くふたりの間に朗らかな笑みが生まれた。
「ところで三ツ谷、オマエ、オレのことが大好きすぎるだろ」
「大寿くんだって、オレのこと大好きすぎるじゃん」
ニヤッとすると、三ツ谷も同様に強気な笑顔を見せた。
「まあな。両想いなのが判明したのだし、このまま帰るとは言わねぇよな?」
「ッ……母さんに、今日は夕飯作らなくていいって言われてるから、ゆっくりしてく」
「ん?夕飯の準備があるんじゃなかったのか?」
「明日の夕飯の買い出しに行こうかと思ったけどやめたワ」
三ツ谷は誤魔化しつつ、冷蔵庫に食材あるなら夕飯作るよ。と申し出てきた。
大寿は三ツ谷と少しでも長くふたりの時間を過ごしたいので、出前を取ると断った。
「三ツ谷の手作りのガトーショコラを早く食いてぇな。一緒に食わねぇか?」
「いいな」
こうしてふたりは、生まれて初めてバレンタインデーで、恋人同士の甘いひとときを過ごすのだった。
【おしまい】