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    Walnut_51

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    Walnut_51

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    自分はこんなに強い恨みを人に向けて生きているのに、誰からもその思いを返されない、かわいそうで愛おしいタチアナ様。
    そんなタチアナ様に、永遠の命を与えてみました。たぶん。徹頭徹尾、私の妄想。私にしか需要がない。

    消えない炎コツコツコツーー
    冷たいコンクリートの床を打つ革靴の音が、並んだ鉄格子の扉の一つを選んで、止まった。

    「…タチアナ・バラノフ」
    扉に書き留められた名前を、警察官の格好をした男が静かに読み上げた。
    「タチアナ・バラノフ……俺のことがわかるか?」
    コンクリートで囲まれた部屋の格子のついた窓から見える空は、どんよりと鼠色をしている。部屋の主人は、その視線を壁のシミから男に向ける。
    「……さぁ、わからないわ…面倒なことを聞かないで、早く自分の仕事をなさい」
    タチアナは錆びたパイプ椅子を鳴らしながらゆっくり立ち上がり、男の前に手を広げたーー

    思ったより早かった。
    タチアナが真実を話すことで都合が悪くなる人間なんて、掃いて捨てるほど居る。裏社会の人間はもちろん、政界にも経済界にも、もちろん警察関係にも。そのうちの誰かが暗殺者を送り込んでくるだろうことは、想定の範囲内であった。
    ただ、勾留中に来るとは。思ったより仕事の早い人間がいたようだ。まあ大方、留置場にいる時の方が手を出しやすい、警察関係の誰かであろう。


    目的を悟られた男は、怒りに顔を歪ませながらその瞳に恨みの炎を一層宿す。
    あぁ、この眼は。この眼を、タチアナは知っている。
    「ーーーッ!お前のーーのせいーーーッ!俺は一生ーーー許さなーー!!」
    激昂した男が吐き散らす暴言。自分に向けられたマカロフの銃口。そんなものはどうだって良い。
    彼のその眼、一体どうして。どうしてこんなに知っているのだろう。
    「警察を騙してッ!俺はここまできたーー俺がお前を殺さなければッ!」
    お世辞にもプロの仕事とは言えない。個人的な恨みを晴らすための行為。
    騒ぎを聞きつけた警察官の集まる気配がする。
    「お前、何をしている!銃を下ろせ!」
    「ッ!クソッ!」

    ーーーバンッ!バンバンッ!!

    焦った男が引き金を引いた。


    世界がゆっくり傾いて、ぼやけていく。恨まれて殺される、私に似合いの死に様じゃないか。

    「ーーお前のこともッ!俺に流れるお前の血もッ!俺はッ!俺は一生恨み続けるからなァ!!」

    集まった警察官に取り押さえられながら喚く男。
    燃えるような恨みの炎を湛えたその瞳。ああ、なんてことはない、あれは私だ。毎朝鏡で見ているのと同じ。

    私は知っている。
    その炎は何をしても消えることはない。殺しても征服しても、時間が経っても。
    私のこの体が朽ちても、私はその炎の中で焼かれ続けるだろう。
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