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    煉獄兄弟の鬼ごっこシリーズ、続きの掲載です。
    一部書き加えました。
    ここから💎さんが登場です。今後修正が入ることが増えると思います。支部に載せていたものとは変わる可能性もあるのでご了承下さい🙇‍♀️

    千寿郎の天敵この所、俺は気掛かりな事があるのです。兄上は元柱だった父の代わりに柱合会議と呼ばれる鬼殺隊の極秘であり雪洞ぼんぼりの明かりだけが灯る閉め切った密室の薄暗闇の中で、超機密文書の開示が行われる場に半年に一度出席せねばなりません。兄上は真面目な男なのでその日は朝から早起きをして顔を洗うと軽くその辺を光の速さで走って来てから朝餉を食べ、服装をきちんと整えて俺に左右に流した赤い前髪の一部があさっての方向に跳ねてないか聞いてきて、俺が大丈夫ですよ、と言うと安心して気合い十分でその会議に望むのですがその中に一人派手派手しい忍が混ざっておりました。兄上よりも三つ程歳上で光る石をいくつも連ねた飾りを額当てにぶら下げ、顔に花模様のいたずら書きをし、両腕に目立つ金色の輪っかを嵌めた忍というには余りにも忍らしからぬ風貌のこの男は宇髄天元と言う名前なのですが、柱の構成員の中で二番目に歳を重ねていて、お館様や一番歳上の怒ると怖い悲鳴嶼さんが目が見えないのを良いことに兄上の前で薄暗闇の中だと云うのにこっそり目くらましの術ばかり使ってきて、真面目に話を聞いている兄上の目を眩ませて翻弄しては楽しんでいる実にたちの悪い男で御座います。
    この男は以前俺と兄上が二人で街へ買い物に出掛け、俺が食材の品定めをしている間に離れた所で待っていた兄上に声を掛けてきて、俺が誰だろうと思いながら見ているとやけに馴れ馴れしく兄上の肩に腕を回し顔を鼻先まで近づけて話をしていたのです。兄上も熱くなると結構顔を近づけてくる節があるのですがそれは相手を鼓舞する為であって野卑た下心などは一切無いのですが、この男は何か妙な色気を放っていて、確かに見た目も二枚目で綺麗な顔つきをしてはいましたが何か兄上に対して下心がある様に感じてならなかったのです。俺は読唇術など使えないので何の話をしていたかは知る由もありませんが兄上は彼の話を聞いた後に頬を染め、少し困った様な顔で首をふるふると横に振っていたのが見えました。兄上に何かを断られた彼は残念そうに後頭部で手を組むと何か言いながら兄上から離れて行きました。俺が買い物を終わらせて兄上に駆け寄り、今のは何処のどちら様で何の話をしていたのか聞くと鬼殺隊の柱の一人というのは教えてくれたのですが当の話の方は「千寿郎は知らなくて良い話だ。」と言いました。俺が知らなくて良い話とは何だろう、と俺は更に気になり始め、先程の好色そうな男といい考えに考えすぎてそれ以降は妄想ばかりが膨らんでいってしまいました。
    柱合会議が終わり皆が解散した後、この男は後方から兄上に近寄りまたもや気安く話しかけて来るので兄上はむすっとした表情で振り向くと彼をじろりと睨みつけました。
    「君はお館様の話を真面目に聞く気がないのか!」
    兄上が怒ると彼はにやにやと笑い兄上に寄り掛かる様背中側から肩に腕を置いてきました。
    「なに、ちゃんと聞いていたさ。だけど堅苦しいのは俺は好きじゃないんでね。」
    「幾ら柱と言えども君の悪ふざけに付き合わされる俺の気も考えて欲しいものだ!迷惑千万極まりない‼︎」
    「あの程度のことで怒るなよ、血管切れるぞ、派手に。」
    この宇髄という男は過去に圧制的な教育方針を掲げる父親の元で育ち、幼少期から忍になる為兄姉弟妹けいしていまい共々生きるか死ぬかの猛特訓をさせられて生き残った者が後継ぎという秋霜烈日阿鼻叫喚地獄に疑念を持ち、ウゼェんだよ、くそダッセェんだよ、やってらんねぇよ、と心の中で猛反発、親が買い与えた地味過ぎてださい忍服の上にじゃらじゃらと光物を身につけ始め、でも親は何ら変わりなく厳しい修行を強いてきて、そうこうしている内に次第に強くなってそのまま大人になってしまった様な人物でした。
    「君のそういう態度が俺には理解出来ない!お館様の手前耐えはしたがそうでなければ俺は君を殴っている!」
    兄上は今は酒に溺れてはいるものの昔は男気があって教育熱心だけど優しかった父上の記憶がある為、彼とは真逆な育ち方をしており、考え方もまるっきり反対で、でも鬼を殲滅して人の為に生きるという目的は彼と一致しているので性格は違えど同じ類いの人間でした。彼は自分と同じように家庭問題に悩み、葛藤し、それでも自分の考えを貫こうとする兄上が気になっている様で普段から兄上の姿を見るとちょっかいばかり出してくるのでした。
    「まあ落ち着けよ煉獄。」
    兄上は肩に置かれた彼の腕を払い除けると背を向けて歩き出しました。しかし彼はそんな兄上の態度を露程も気にせず飄々として悪びれる様子もないまま後からくっついて来ました。無言で歩いていく兄上を後方から眺めると背中で俺に話しかけるなと訴えているのが伝わってきた様ですがむしろ彼は声を掛けずにはいられなかったみたいです。
    「久々の再会だ、昼飯でも行かねえか、煉獄。」
    「行かない、行きたければ一人で行くといい、俺は帰る。」
    「つれないねえ。もっと派手に楽しんで行こうぜ、俺達は命懸けの仕事してるんだ、いつ死ぬのかもわからねぇ、糞真面目に生きたって面白くも何ともねえだろ。」
    確かにこの男の言う事も一理ありますが、でも兄上は兄上です。俺の兄上はこんな色情そうな男とは違うのです。兄上は昔ながらの日本男児で冷静沈着、包容力と経済力もきちんと持ち合わせ、人を楽しませるおもてなしの心も忘れない立派な方なのです。だのに聞けばこの男、嫁が三人もいるとのことで、一夫一妻制のこの日本という国で何と言う破廉恥な男でしょう。そりゃ忍の家に生まれたからには当人にしてみれば普通の事なのかもしれませんが俺達は忍では無いのです。俺達にしてみたら嫁が何人もいるなどとは考えられない事なのです。ましてや煉獄家は情熱的な人間が多く歴代の煉獄家の男子は一人の妻に寄り添い全ての愛情を注いで参りました。それを複数の人間を囲うのがさも当たり前といったていでこの男に世間一般的な常識や良識という概念は無いのでしょうか。こんな男ではそのうち度を超えて兄上にも手を出し兼ね……。きゃあっ!そんなこと!そんなこと俺は考えただけで身震いがします!危険、嫌気けんき、危険!兄上の貞操が脅かされている今、俺はこれまで努力して身に付けてきた剣技を披露する時が来ていると思いましたが何せその場に居ない為遥か彼方から祈る事しか出来なかったのです。俺の家族に近づくなぁー!と何処かの山に住み着いているお化け蜘蛛が言っていた様な気がしましたがその場に俺がいたら日輪刀や包丁、脇差、弓、薙刀、鉄砲、竹槍、木刀、竹刀、棍棒、金槌、のこぎり、鎖の付いた鉄球と斧などありとあらゆる武器を手に此奴の前に武装して立ち塞がり兄上を魔の手から守る所だったので御座います。
    常識の通用しないこの男に常識で立ち向かおうとしても意味はありません。自由闊達と言えば聞こえは良いのですが自由過ぎて危ないので俺は歩いて家に帰って来た兄上に何故かくっついて来たこの男を警戒しながら門の前で迎えました。幸い門の前が落ち葉で汚れていた為丁度掃き掃除をしていたので俺の手には竹箒があります。かたわらには金属製の塵取りもあり、いざとなったらこれも武器や盾代わりに使えます。俺は竹箒をぐっと握り締めると幾分身長の高い天敵を下から睨み付けました。
    「おかえりなさい、兄上。」
    俺はまず兄上を屈託のない笑顔で迎えると敵に顔を向け、眉間に皺を寄せて目を大きく見開き「うちに何の御用でしょうか?」と、どすをきかせて言いました。
    「おい、煉獄。何だこのお前にそっくりな小僧は。俺のことすげぇ睨んでるぞ。」
    俺の睨みが効いているのか彼は少し怯んでいる様でした。
    「小僧では無い!私は煉獄千寿郎だ!」
    「俺の弟だ、宇髄。」
    兄上が俺の肩に手を置き彼に俺を紹介しました。
    兄上の手前、俺は丁寧に頭を下げると、上げた顔は口だけ笑い、目は無表情のままで顳顬には血管が浮き背中側には黒いもやのようなものが漂っていました。
    「ほぉ〜、弟ね、っつーかどこ見てんだよこいつの目。」
    俺もどこを見てるのかわからない顔をしている時があるそうです。でも其れは兄上と同じ顔なので仕方ありません。それに俺達は鬼狩りの家系の為夜闇の中でも目が効くようにならなければならなかったのと何時でも鬼からの襲撃に対応出来るように眼は格段に大きく発達し、常に様々な方向を見て状況把握するよう本能に組み込まれているのです。多分。
    「宇髄、君は俺の家に何か用でもあるのか。君が俺の後をついて来るのを黙認してはいたが俺は特に君に用は無いぞ。」
    「用事ねぇ…、用事用事、あるとしたら俺はお前の事をもう少し知りたい位だなぁ。」
    敵がそう言いながら兄上の正面に立つと、ぐっと前屈みになり兄上と距離を縮めて来たので、俺は血管に音を立て、急いで兄上と敵の間に身体を滑り込ませ兄上を守る様に両手を広げました。
    「兄上に近づくな、この痴れ者‼︎お前が兄上を狙っているのはわかっているのですよ!」
    俺がそう叫ぶと彼はぽかんとした顔をして俺を見下ろすと何かを察した様に口元の片側を引き上げました。
    「へぇ、兄を守る弟か。美しいねぇ。」
    「この…!」
    俺が竹箒を振り下ろすと敵は腕を顔の前に出して俺の攻撃を防ぎました。
    「痛ぇっ、何すんだこの餓鬼!」
    もう一発敵に攻撃を加えようと竹箒を掲げると兄上が竹箒を持つ俺の手を制し彼の方を見ました。
    「俺の弟をからかわないで貰えるか、宇髄。」
    同時に同じ顔二つに睨まれた敵は恐れをなした様で、一歩後ずさりをしました。
    「はいはい、何か今日は俺お前らに歓迎されてないみたいだから帰るわ。じゃあな、煉獄。」
    思ったよりはあっさり引き下がった敵に俺は胸を撫で下ろすと次の襲撃に備えて戦略をたて始めました。敵に家を特定されてしまったので巨大な鼠取りでも兄上の部屋の天井裏に仕掛けようかとも思いましたが人間用の鼠取りなど規模が大き過ぎて敵に直ぐばれてしまう上避けて通られたらおしまいなので其れは無意味として、では引っ掛かると槍が飛んでくる縄を張る、地面に棘のついた鉄を幾つか置いておく、穴の中に棘を仕込み踏むと地面が抜けてそこに落ちる、と色々考えて見ましたがどうもしっくり来ずやはり此処は煉獄家の者らしく正々堂々と剣技を持って戦うべきか悩んでいたら一足先に玄関の方へ歩いて行ってしまった兄上に名前を呼ばれて家の中に入るよう促されたので急いで兄上の後を追って家の中に入り昼餉に用意していた饂飩と薩摩芋を茹で始めました。

    敵はまた数日後に家に現れました。どうやら兄上に稽古ついでに手合わせをしたいと言ってきたらしく、彼曰く、他の柱は忙しくて今は暇が無いと言われたらしく、では他の鬼殺隊士はと言うと弱すぎて相手にならないので、甲の隊士の中で強さにおいては横に並ぶ者のいない兄上を直接指名してきて、武の道にも殉ずる兄上はこれを快諾、家の庭先で俺が見守る中、木刀を手に打ち合いを始めました。二人の地を蹴る音の後、激しい打撃音と高速移動の風を切る音が響き、二人の姿を目で追えない俺は巻き上がる土煙だけを見ていました。そんな中突然ドカンと音がして庭の地面が抉れ「人の家で爆薬を使うな!」と言う兄上の苦情の声と共に「派手で良いだろ。」と言う楽しそうな敵の笑い声が聞こえ、兄上の炎が下から上に円を描いて立ち登るのが見えました。
    それから二人は軽く半日は打ち合っていて、それをずっと見ていた俺は段々焦りを感じる様になって来ました。兄上も確かに強いのですがこの宇髄という男もかなりの腕前で時折二人の姿が現れ兄上が押されているのを見てしまうと背中に冷たい汗が噴き出てくるのがわかりました。兄上と敵の方をじっと直視していると敵が俺の視線に気付いたのかこっちを見てにやりと笑いました。嫌な予感がしました。敵が木刀を振りかぶって兄上の頭上に振り下ろすと兄上は自分の木刀でそれを受け止め、じりじりと力比べを始めました。敵の方が体格に恵まれている分力が強いらしく兄上が地に片膝を付くと何を思ったか敵は兄上の左頬に顔を寄せ、舌を出して兄上の頬を一舐めしました。あっ、と俺が声を上げて立ち上がるのと同時に敵の不意打ちに驚愕した兄上は「ぬああああああっ‼︎」と声を上げて力一杯に敵を振り払うと左手の甲で頬を拭き、身体を硬直させている俺の方をちらりと見ると全身に闘志を漲らせて楽しそうにくつくつと笑う敵に激しい斬撃を打ち込んでいきました。
    正直とても俺なんかが敵う相手ではありませんでした。剣術でも実力の差を見せつけられてしまい、幾ら策を練って罠を仕掛けようとした所で相手は忍なのです。その辺に関しては誰よりも長けているので全ては無駄なのです。わかっていた、わかっていたのです、俺なんかでは到底敵わないことは、だけど、だけどこのままでは兄上の貞操が…!
    「兄上ぇっ‼︎」
    居ても立っても居られなくなった俺は二人の間に飛び出しました。
    「馬鹿っ…‼︎あぶねぇっ…‼︎」
    「…千っ……‼︎」
    二人が同時に木刀を振り下ろそうとしている所に入ってしまった為、兄上達は攻撃の手を緩めるのが間に合わず俺の背中に二人の振り下ろした木刀が直撃しました。鈍い音が二つ響き渡り俺は背中に受けた衝撃で頭の中に閃光が飛び散り目の前が真っ白になりました。そのまま勢いで地面に叩きつけられると俺はぴくぴくと痙攣し兄上が「千‼︎」と俺の名前を呼ぶ中で少しづつ兄上の声が遠のいて行って意識を失いました。
    俺が目を覚ましたのはもう夕餉の時間も過ぎた頃でした。俺は自分の部屋の布団に寝かされていて、兄上が心配そうに俺の顔を覗き込んでいました。
    「気付いたか、千!」
    「兄上…、俺は…。」
    起きあがろうとすると背中に何とも言い難い激痛が走りました。俺が顔を歪めると兄上は俺の身体を押さえ「今はまだ動くな。」と言いました。兄上の話では俺が気を失っている間に脚の速い宇髄さんが蝶屋敷まで走ってしのぶさんを連れてきてくれて、俺の怪我を診て貰った様ですが骨に問題は無いそうでした。だけど腫れが酷いので少なくともニ週間は安静に、とのことでした。
    「すみません、兄上…。俺、馬鹿な事を…。」
    自分の取った行動を冷静に思い出すと俺は兄上と宇髄さんの稽古の邪魔をした訳で、何とも浅はかな考えで二人の前に飛び出した自分を恥じると俺は項垂れて兄上の顔を見ることが出来ませんでした。
    「全く、俺らの間に飛び込んでくるなんて自殺行為だ、派手に馬鹿だなお前。」
    「宇髄。そんな言い方は無いだろう。」
    部屋の壁に寄り掛かってこっちを見ていた宇髄さんに言われ、何も言い返せない俺は小さくなってしゅんとしました。
    「千、宇髄の言うことは気にするな。お前は今は怪我を治すことだけ考えるんだ。」
    「はい…。」
    「宇髄、とりあえず今日はもう帰ってくれ。後は俺が見る。」
    「わかった、じゃ、俺は帰らせてもらうわ。嫁が待ってるからな。」
    宇髄さんはそう言って手をぷらぷら振ると部屋を出て行きました。兄上が戸を閉めようとすると玄関の方から「何かあったら呼べよ。」と言う声が聞こえてきました。
    兄上がまた俺の傍に腰を下ろし胡座をかくと俺の頭をそっと撫でてきました。
    「すまなかった、千、痛かっただろう。」
    「いえ、俺こそいきなり飛び出して…、ごめんなさい。」
    「胡蝶が言っていたぞ。普通の人なら骨を折る大怪我だが千寿郎は普段から鍛錬していたからこの程度で済んだそうだ。日頃の成果だな。」
    兄上は俺を褒めると優しい笑顔を浮かべました。俺は少し恥ずかしくなって布団の衿元を掴んで顔の方に引っ張り赤くなった顔を隠しました。
    「今日はこのまま寝てなさい。暫く食事は出前でも頼んでおこう。後で千寿郎の部屋まで持ってこよう。」
    「ありがとうございます、兄上。」
    兄上の心遣いに俺は感謝すると兄上の食事も用意出来ない自分を不甲斐なく思いつつ一日でも早く怪我を治す事を考えました。怪我が治ったらまず先に兄上が食べたい物を沢山作ってあげよう、そう心に決めました。

    それから二週間、俺は一日の殆どを布団の上で過ごしでいたのですが腫れがあるうちは風呂に入れず兄上に服を脱がされて身体を隅々まで拭かれるという何とも恥ずかしい経験をすることになりました。また赤ん坊の時に兄上におしめを替えられて尻を拭かれたことがあるにしてもその頃と今では違うので、また少し前に犬の一件があって以来兄上の前で裸になるのはどうも抵抗がありました。「千寿郎が怪我をしているうちは何もしないから安心しろ。」と兄上は言うのですが、その言い分では怪我が治ったら何かするのか、と思うとその場から一目散に逃げ出したい気持ちになるのです。
    早く怪我を治して兄上の好物を作りたいと思う自分と怪我が治ってしまうのが怖いと思う自分が混同して段々と何だかよく分からなくなってきて、もうどうにでもなれと思う様になったそばから俺の背中を湯で濡らした手拭いで拭いている兄上に「もう腫れはひいた様だな。」と言われてびくりとし、戦慄わななきながら後ろを振り返ると兄上がにこりと笑っていて、その笑顔が余りにも爽やかすぎて怖いので、もう動けるようになった俺は兄上の手をそっと押し退けると「まだ痛みが残っていますので。」と視線を落としてしおらしく言ってみたりしたのでした。兄上が一瞬息を呑んだのがわかり、ふと、兄上の顔を見てみると俺を直視して頬を少し赤くしていたのでこれはまずい、と予想外の展開に慌てた俺は更に怖くなって腰の辺りで丸まっていた寝衣を急いで纏い、布団を頭から被って亀の甲羅の様になりました。兄上が湯桶を持って「任務に行ってくる。」と一言言い、部屋を出て行った音がしたので布団から首だけ伸ばすと閉められた襖と兄上の姿がない事を確認して安堵し、温まり過ぎた布団から手足をぴょこ、と突き出して涼を取りながらそのまま寝てしまいました。
    次の日俺は朝日が登る前に起きて久々の風呂へ入りました。身体と頭を綺麗に清めてからゆっくりと湯船に浸かり身も心もほぐれたところで湯から上がりました。脱衣籠から手拭いを取って身体を丁寧に拭き、壁の柱に掛かっている鏡で自分の背中を確認してみると兄上と宇髄さんの二人に付けられた痣の跡がまだ薄っすらと残っていました。我ながら説明の仕方がなんかおかしいと思い、もう一度説明すると兄上と宇髄さんに殴られた打撲痕、いや、これでは俺が暴力を振られたみたいじゃないか、再々説明すると兄上を守ろうと思って飛び出した時に出来た痣がまだ少し残っていました。痣を覆い隠す様に着物を着て袴を履くと厨へ行き、たすき掛けをして任務に出ている兄上の為の食事を作り始めました。暫くすると兄上が帰ってきました。
    「おかえりなさい、兄上。」
    「千寿郎、もう身体は良いのか?昨日の時点ではまだ痣が残っていたが。」
    必要以上に心配をする兄上に俺はくすりと笑うと心の中で兄上らしいと思いました。
    「ええ、もう大丈夫ですから、兄上には色々として貰ってお陰で良くなりました、ありがとうございます。」
    「そうか、それなら良かった。千寿郎が元気になったなら俺はそれで充分だ。」
    俺と兄上は同じ顔を向け合うと同時に笑顔を作りました。
    「ところで兄上、何か食べたい物はありますか?お礼に何か作って差し上げたいのですが。」
    「そうだな、久しぶりに千寿郎の薩摩芋の味噌汁がいいな!」
    「承知しました、ではもう風呂も沸いているので先に入ってきて下さい。それまでには準備しておきますので。」
    「よし、わかった!行ってくる。」
    兄上が風呂へ向かい俺は手早く薩摩芋やその他の食材を切り分け、いつもより具沢山の薩摩芋の味噌汁を作ると味見をしてこれなら兄上も喜んでくれるだろう、と美味しそうに食べる兄上の姿を思い浮かべてにんまりとしました。先程作った食事を箱膳に並べて部屋へ運ぶと丁度兄上も風呂から上がってきました。浴衣姿で畳の上に胡座をかいた兄上は濡れた頭髪を手拭いで強くバサバサと拭いていたので「そんなに力を入れては髪が痛みますよ。」と俺は兄上の手拭いを取ると髪の根本の方を指圧を加えながら丁寧に拭き、毛束を手拭いで挟んで叩く様に水気を取っていきました。
    「千寿郎に髪を整えて貰うと気持ちがいいな。」
    兄上が目を閉じて気分が良さそうに言うので俺は「兄上が気持ち良くなれる様にやってますので。」と答えました。
    兄上が後ろを振り返って俺を見上げたので目を細めて笑いかけると、これまでの感謝と労いの気持ちを一杯こめて「いつもご苦労様です、兄上。」と伝えました。すると兄上の俺を見る目がぐっと大きくなり、突然手拭いを持つ手を強く引かれると兄上に横抱きにされ顎を取られて間髪入れずに唇を被せられました。
    「……‼︎」
    声を上げる余裕も無く下唇と歯を親指で押されて口を開けさせられると兄上の舌が入り込んできて、後方に退け反ろうとしたら片手で後頭部を抑えられどうにも逃げることも出来ずに兄上にされるがままの状態で、交差させた衿元に顎を捕らえていた手が伸びてきたのでこれ以上は、と思い呻き声をあげて身を捩ると唇を離して今度は俺の首元をはだけさせて自分の所有痕を付けようと肌に吸い付いてきました。
    「待って…!兄上!」
    視界の片隅に俺の作った薩摩芋の味噌汁が食されるのを今か今かと待ち構えているのが映り込み、兄上に味噌汁が冷めてしまうと言ってみたのですが兄上はせっかく背中の痣が消えかけた俺の身体にまた痣をつけるのに夢中になっていて、俺も俺でこんな身の危険が迫っている時に何を味噌汁の心配をしているのかと思い、でもせっかく兄上の為に作った特別な味噌汁だったので「味噌汁が…!、味噌汁が…‼︎」としか呟くことが出来ませんでした。
    一番驚いたのはその後でした。いきなり庭側の戸ががらりと開き、「はい、そこまで。」
    と言う声が聞こえて驚愕してその方を見ると宇髄さんが俺と兄上の姿をすっとぼけた顔で見ていました。
    「わあああっ‼︎」
    俺は慌てて兄上から飛び退き首元の衿を両手を交差させて引っ張ると顔を真っ赤にしてへなへなとその場に座り込みました。
    「何の用だ宇髄、覗きはいくら何でも趣味が悪いぞ。」
    「別に見たくて見たんじゃねえよ。胡蝶が千寿郎の心配をしてたから代わりに様子見に来たんだよ。そしたら何でぇ、おまえ人に恋話しておいてやっぱり相手は弟かよ。やるねぇ。」
    「知っていたのか。」
    「お前の視線追ってればわかるんだよ。弟も弟で満更でもなさそうだから少しからかっちまったけどな。」
    俺様を箒で殴った礼だ、と彼はにやにやしながら俺の方を見て言いました。
    つまり兄上は自分の恋の手解きを彼に受けていた、ということです。相談された宇髄さんの方も兄上が恋をしていると聞いて面白がっていた様で、俺と兄上が買い物をしている時はいざと言う時困らない様に手練手管を身に付けておくと称して遊郭へ誘ったり、家まで後をついて来たのは恋の相手が誰なのか兄上が一言も漏らさなかったものだから一度相手の顔を見てやろうと機会を伺っていたとの事でした。俺が宇髄さんの前で両手を広げて兄上を守ろうとした時、俺は見えませんでしたが兄上は俺の行動を見て本人も気付かない内に表情が僅かながら緩んでいたそうです。
    「では俺は宇髄さんにとんでもない勘違いを…。」
    二人の視線がこちらを向く中で俺はがたがたと震えました。宇髄さんが俺に近寄って来て「俺には愛する嫁が三人いるんだよ。」と言うと、もう帰るから後は勝手にやれと言って一瞬のうちに姿を消しました。兄上が一言「馬に蹴られてしまえ。」と言った様な気がしましたが良く聞こえなかったので余り深くは考えませんでした。俺はその場で深い溜息をつくとわだかまっていたものが消え、心の中で宇髄さんに何度も謝っていました。兄上は宇髄さんが消えた方角を向いて、何故かどこを見ているのかわからない表情をしていました。
    流石に兄上もあの続きをする気分では無くなった様で、俺は急いで味噌汁を温め直すと兄上と向かい合って朝餉をとりました。着物の衿から僅かに兄上の付けた痣が覗き、俺は恥ずかしくて仕方なかったのですが兄上は満足そうに薩摩芋の味噌汁を啜り、うむ、と頷くとわっしょい!と大きな声を上げていました。
    蝶屋敷では宇髄さんの報告を待っていたしのぶさんが俺の身体に痣が増えていた、と報告を受け驚愕して、まさか煉獄さんが弟さんに手を上げて…、いや、まさかそんな…、と困惑した後その綺麗な顔に血管を浮き上がらせ毒でも盛りそうな勢いで怒りながら薬を調合していた、と聞きました。
    後々兄上はしのぶさんの誤解を解くのに大変苦労したらしく、心の中で、宇髄め…、と呟くと、暫くの間彼に対して鹿十しかとうを決め込んだと言う話でした。
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