Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ○⚪︎○(ワッカ)

    2次作品保存箱。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 58

    支部に掲載してた煉獄兄弟の鬼ごっこシリーズの続きです。(新作×)
    この手のノリでまた書きたいなぁと思っていてそんな中今迄苦手だった流血🔥さんが魅惑的でかっくいー、って今更なってます。命をかけて鬼と闘い人を守る青年🔥…、誰がなんと言おうと貴方は素敵です。あー!堪らん!☺️
    んで最後死ぬなぁー‼︎生きてる奴が勝ちなんだぞー!と胸ぐら掴んでガクガクさせてる💎が浮かぶという…。ヤメレ。

    ひっくり返ってひっくり返す桶とある日の朝方でした。まだ空が明けておらず空気がひんやりとした薄闇の中で玄関の方からゴトゴトとする物音して俺は目を覚ましました。兄上が任務から帰ってきたのだろうと思い、眠い目を擦りながら自分の部屋の戸を開けて廊下に出ると、俺は何やらいつもとは違ったおかしな光景に出くわしました。
    何故その様に感じたのかというと我が家はいつも俺が箒で履いたり廊下の雑巾掛けをしたり花瓶に花を生けたり庭の雑草をむしったり鴉に餌をやったり障子の桟の所に埃が溜まればハタキで叩き落としたり父上が空にして転がした酒瓶を一箇所に集めては溜まった頃を見計らって酒屋に返却したりと日々管理をしているので、家の中の大半の事は俺が一番理解しているので、その俺がおかしいと感じたらおかしいのです。
    まず最初に目に飛び込んで来たのは玄関の上がりかまちに何やら黒っぽい小さな物体がありました。何だろう、と思って近づいてみると兄上の足袋が片方落ちていました。きっと疲れて帰って来て窮屈だと思ったのでしょう、その足袋は強引に足から引き離されたかの様に爪先の部分が内側に引っ込んで裏返しの状態で丸まって打ち捨てられていました。俺はそれを拾い上げ裏返っていたのを元の状態に戻してから視線を先の廊下に向けました。1メートルも離れていない所にもう片方の足袋がまた同じ形で落ちていたのでそれも拾って元の状態に戻し、その足袋の数十センチ程先には焔模様の脚絆の片方が落ちていたのでこれもまた手を伸ばして拾いました。更にその先に視線を送ると今度は廊下の曲がり角の所に隊服の上着が落ちていました。俺は眉をひそめながら曲がり角まで歩いて行って上着を拾い上げると、それを更に進んだ先に隊服の中に着ているシャツが落ちていたので、俺はむっとして、これは流石さすがに注意せねば、と思い、兄上!と声を出して服の持ち主を呼びました。
    返事はなく家の中はしん、と静まり返っていました。兄上は一体どこへ行ってしまったのだろう、と思いその先へ歩を進めてみるとベルトが付いたままの隊服の履物が落ちていました。
    「あっ、…兄上⁉︎⁇」
    兄上は一体何をしているのか、と俺は動揺しました。兄上はこのように服を脱ぎ散らかすことは今までに一度たりともありませんでした。もしかして何らかの血鬼術にかかっているのでは、と警戒しながらそれも拾い上げ、兄上の服を両腕一杯に抱えながら俺は恐る恐る更に先へ進みました。
    辿り着いた場所は家の脱衣所で戸が少し開いていました。中に入ってみると脱衣籠の一つに兄上の下帯が入っていて、風呂場に兄上のいる気配がありました。裸で外へ出てなくて良かった、と胸を撫で下ろしながら持っていた服を纏めてその中に入れ、兄上をいさめるのは後にして、俺は風呂場の中に向かって声を掛けました。
    「兄上、おかえりなさい、朝餉はどう致しますか?」
    中からは何の返事もありませんでした。
    「兄上?」
    俺は再度声を掛けてみましたが一向に返事は無く、首を傾げながら風呂場の戸をそっと開けて中を覗いて見ました。
    「兄上‼︎」
    中を覗いた俺は仰天しました。兄上が風呂に入りながら湯船に身体をもたれ掛けさせた状態で寝てしまっていたのです。頭が湯船からはみ出してぐらぐらしており、自分で沸かしたと思われる風呂の温度はかなり熱いと思われ、既に兄上の身体は真っ赤になって、このまま放っておいたらいずれ脱水症状を起こして危険な状態でした。俺は慌てて兄上の元へ駆け寄ると汗をびっしょりかいている兄上の身体を揺すりました。兄上の呼気から酒の匂いがして、俺は何度も兄上に呼び掛けたのですが完全に寝入ってしまっている様でちくとも起きる気配は無く、こうなったら、と湯桶を手に取ると急いで蛇口を捻り、その中を冷たい水で満たしました。それを兄上の頭上に持っていき、俺は兄上に心の中でごめん、と言うと兄上の顔目掛けて湯桶をひっくり返しました。桶からこぼれる水の一粒一粒がゆっくりとした動作で兄上の顔に向かって落ちて行くのが俺の目に映りました。





    「兄上!」
    俺が庭で素振りをしていると背後から聞き慣れた声が聞こえた。素振りをしていた手を止め後ろを振り返ると、いつもより嬉しそうな表情でにこにことしている千寿郎がいた。
    「どうした、千寿郎、何か良いことでもあったのか?」
    弟はふふ、と笑うと傍に近寄ってきて俺の顔を見上げた。
    「実は…、兄上に会ってもらいたい人がいるのですが…。」
    弟はそう言うと顔を赤らめて下を向いた。その目は潤んだ様に輝き、まだ幼いのにも関わらず表情は艶かしく色を帯びて大人の顔をしていた。何とも嫌な予感が俺の頭を掠めた。弟がこんな表情をして俺に会ってもらいたいなどと言うということはどう考えても弟が思い慕っている相手としか思えず、弟にいつの間にその様な相手が出来たのか、と思うと心がざわついた。木刀を握る手に自然と力が入った。俺は嫉妬に狂いそうな感情を抑え込んで平常心を保ち、口角を上げたまま弟に相手は誰か、と聞いた。
    「呼んできても宜しいでしょうか?」と、弟が聞いてきたので頷くと、弟は顔を輝かせて門の方へと走って行った。
    弟が後方へ手招きしながら戻って来て、現れた人物を見た時俺は驚愕した。
    弟に連れられて俺の前に姿を見せたのは宇髄だった。
    「兄上、紹介します、今親しくお付き合いさせて頂いている宇髄様です。」
    弟が顔を綻ばせて宇髄を紹介してきたが俺は何一つ言葉が出なかった。宇髄は俺の方をじっと見ていた。俺は複雑な心を抱えながら宇髄を見つめ返した。
    「兄さん。」
    宇髄が口を開いた。幻聴が聞こえた。今何と言った。今、宇髄は俺のことを兄と呼んだのか。俺を兄さん、と。
    俺の混乱は頂点を極めた。俺には確かに弟はいる、しかしそれは俺と容姿の良く似た千寿郎只一人だけだ。俺にはこんなでかい弟はいない、しかも宇髄は年上じゃないか。今のはやはり俺の聞き間違いか、うん、そうだ、きっと聞き間違いだろう。
    自分に都合良く考えて冷静になろうとすればする程俺の心は燻り始め、火を付けられた線香花火の様に身体から徐々に火花がチリチリと音を立て始めた。
    聞き間違いであって欲しい。心からそう願った。自分で自分を誤魔化す様な真似は俺には出来なかった。俺は此奴こやつに、宇髄に兄さんなどと呼ばれる筋合いは無い。うちの千寿郎を俺に何の断りも無く"もの"にした奴になど兄と呼ばれてたまるか。宇髄、君という奴は…!どこまで俺の邪魔をすれば気が済むのだっっ‼︎
    数メートル先の地面に、この間うちの庭先で宇髄と稽古をした時に宇髄が爆薬で開けた穴があった。そこに落ちればいいのに、と思った。直ぐ埋めてやるから。
    宇髄が千寿郎の頭越しに俺の方を見ながらにやにやと笑うのが見えた。完っ全に俺を挑発していた。木刀を握る手と顳顬こめかみに血管が浮いた。だが俺は口角だけは上げたままにしていた。宇髄が調子に乗るのがむかつくからだ。
    宇髄は俺が取り乱さないのを見て口を尖らせた。ふん、誰がその手に乗るか、お前の考えなどお見通しだ、早く弟から離れろ。
    宇髄は俺を睨む様な目で見ると弟に手を伸ばし、自分の方に引き寄せて頬を染める弟の小さな顎を取った。いじらしい表情で宇髄を見つめ、唇を突き出して目を閉じる弟を見て余裕をかましていた俺は一気に取り乱した。宇髄が弟に顔を近づけていくのを前に俺の中で理性が焼き切れる音がし、気付いた時には俺は全身に炎を纏い、宇髄に向かって「穴に入れ!」と叫びながら奥義玖の型、煉獄を放っていた。




    バシャッ‼︎
    兄上の顔に冷たい水がかかり、驚いた兄上が飛び起きました。
    「ぶはっ!はあっ、はぁ…、はぁ、俺は…、一体何を…。うっ。」
    兄上は頭を押さえると前屈みになって顔を歪めました。
    「目が覚めましたか、兄上。」
    「千寿郎⁇宇髄は何処に…!」
    「宇髄さん?此処にはおりませんが。」
    「⁇…いや、…そうか、俺は夢を見ていたのか。夢とは言え我ながらえらい歪みっぷりだったが…、うぅっ、頭が痛む…。」
    「まだ酒が回っている様ですね、大丈夫ですか、兄上。」
    「酒…?」
    「覚えてないのですか?」
    「酒など飲んだ覚えはないぞ、くぅっ。」
    「なら何故酒の匂いがしているのですか。」
    兄上は頭を抱えながら家に帰る前までの事を思い出している様子で、あっ、と声を出して顔を上げたので何か心当たりがある様でした。
    「そういえば任務後宇髄に一杯付き合わされて浅草六区で甘酒を飲んだ。」
    兄上はまだ未成年なので酒を飲んでいい年齢に達してない為甘酒を選んだのでしょう。
    「甘酒だけですか?」
    「他は飲んでない。大体酒はそんなに好きじゃない。」
    「酒の成分を飛ばしきれてなかったかもしれませんね、何杯飲んだのですか?」
    「ほんの少しだけだ、二十八杯程…。」
    「飲み過ぎです。」
    「むぅっ。」
    兄上は風呂から上がろうと立ち上がりましたが足元がおぼつかず俺の目の前でひっくり返って洗い場の床に後頭部をガツン!と打ち付けていました。俺は兄上の惨事に目を覆ってしまい、指と指の間を開いてその隙間から兄上の方を伺いました。幸い腰には手拭いを巻きつけてあった為大切な物がまろび出ずに済んだのですが、目を回してひっくり返っている兄上をそのままにして置く訳にはいかず、俺は兄上の脇に後ろから手を差し込むと力一杯に引っ張りました。兄上の身体を引きずりながらせめて脱衣所まで運ぼうとしたのですが、俺の細腕では恰幅かっぷくの良い兄上を思う様に運べず、力を込めてずりずりと引きずっていくうちに兄上の腰の手拭いが外れかけてちょっと危険な状態になったので、俺は洗い場の隅に置いた湯桶をまた取ってくるとひっくり返して兄上の股の上に置きました。桶は上手い具合に何かに引っかかって、俺はこれでもう安心、とまた兄上を引きずって脱衣所まで運んで行きました。
    俺は脱衣所に敷布を敷いて兄上をその上に寝かせると、手拭いで兄上の全身を手早く拭きました。その後兄上の隣に浴衣を広げ、兄上を左右に転がしながら浴衣を着せた後、引っかかっていた桶を顔を背けながらそっと外して元の位置に戻しました。流石に下帯までは世話出来なかったので後で目が覚めたら自分でやってもらう為に替えの下帯を空の脱衣籠の中に入れ、俺は兄上をそのままにして厨へと氷嚢と水と酔いに効く梅茶を用意しに行きました。
    「おーい、煉獄、いるかー、…おーい。」
    俺が兄上を引きずって脱衣所に運んでいる時でした。玄関の方から宇髄さんが用事で兄上を呼んでいたのですが俺はそれどころではなく、呼びかけの声すら耳に届いていませんでした。
    「ったく、何で誰も出てこねぇんだよ。面倒臭ぇな。おーい、上がるぞ。」
    宇髄さんは暫く待っていた様ですが一向に誰も出て来ないことに痺れを切らし、草履を脱いで家に上がると明かりの付いている風呂場の方へ向かって歩いて行きました。
    丁度その頃俺は脱衣所を出て、宇髄さんとは反対方向の厨へ向かって小走りで行った所だったので宇髄さんとはすれ違ってしまい、またその時の俺はとても急いでいた為、脱衣所の戸を閉めるのをつい忘れていました。
    宇髄さんは戸の空いている脱衣所をひょいと覗き、兄上が赤い顔をして床に横たわってるのを見つけてぎくりとしました。
    「おい、煉獄!大丈夫か?」
    少しも呼びかけに反応しない兄上に近づいてしゃがむと上から兄上の顔を覗き込みました。
    「…あーあ、派手に酔い潰れてんな、こりゃ。」
    宇髄さんはくくっと笑いました。
    「甘酒で酔うとは、まだまだお子ちゃまだねぇ。」
    そう言いながら懐から何やら薬の入った入れ物を取り出すと、それを傾けて中から黒色の丸剤を一つ手の平に転がしました。
    「煉獄、ほら薬飲め、口開けろ。」
    宇髄さんは兄上の口元に薬を近づけましたが兄上はまだ気を失っていて口を開きませんでした。
    「あー…、ダメだな。」
    宇髄さんは兄上の頬をぺちぺちと叩きました。
    他にも兄上が意識を飛ばしているのを良いことに兄上の鼻をつまんだり、親指と人差し指で作った円を兄上の頬に押し付けて「つんのこ」と言いながら出来た膨らみを指でつついたりしていましたが、兄上は僅かに声を出しはしたもののまだ目は開けませんでした。
    「…何か反応しろよ、つまんねぇな。」
    宇髄さんは兄上の顔をじっと見下ろして兄上の片頬をつまみました。
    「…ったく、しょうがねぇ奴だなぁ、無理矢理でも飲ますか。」
    軽く舌打ちしてから片手で軽々と兄上の上体を起こすと手に持っていた丸剤を自分の口に含み、もう片方の手で兄上のこぶの触感がある後頭部を支えました。
    (くくくっ、派手にでけぇタンコブ作ってやがる…。)
    宇髄さんが笑いを堪えて小刻みに震えながら兄上の唇に自分の唇を近づけた時、俺は丁度厨から戻って来て、目の前の予想だにしていなかった光景に驚き、手に持っていた氷嚢や茶を載せた盆を取り落としました。
    「何をしているのですか…。」
    ガシャン!と大きな音がして梅茶の入った湯呑みが割れ、青褪めてわなわなと身体を震えさせている俺と宇髄さんの視線が空中でぶつかりました。
    「あん?見りゃわかるだろ、こいつに薬飲ませようとしてんだ…」
    「わかりません‼︎」
    べっと舌を出して薬を見せてきた宇髄さんの語尾に被せて堪らず叫びました。俺の目にはどう見ても宇髄さんが兄上に口吸いをしようとしている様にしか見えなかったのです。いや、口付けて薬を飲ませようとしているのだろうけど俺にはどっちでも一緒でした。
    「兄上から手を離して下さいっ!今すぐ‼︎」
    俺は宇髄さんの背中に飛び付きました。
    「あっ!こら、離れろ!危ねぇだろ‼︎」
    俺がしがみついた事で宇髄さんの兄上の頭を支える手が離れ、兄上の頭がぶらぶらしていました。
    「ほら、お前が離れねぇと煉獄に薬飲ませられねぇだろうが!」
    宇髄さんの手が俺の寝衣を掴んで引き剥がしにかかりましたが俺は絶対に離すまいと必死に抵抗しました。
    「薬なら後で僕が飲ませます!貴方はやめて下さいっ‼︎兄上の世話は僕がしますからっ!」
    「こいつこのまま此処で寝かせておく気かよ!言っとくけどなぁ、俺の薬は忍の家に伝わる酔い覚ましの薬なんだ!飲ませりゃ直ぐ治るんだよっ!お前がその辺で買ってくるやつと訳が違うんだぞっ、聞いてんのかこのガキ‼︎」
    「貴方に飲ませて欲しくありません!いいから離して下さいっ!」
    「あっ、そう。」
    宇髄さんが突然両手を離した為、ゴン!と鈍い音がして、兄上がまた床に頭を打ち付ける結果になってしまいました。
    「あああっ、兄上ーーー‼︎」
    「お前が離せって言ったんだからな。」
    俺が叫ぶと兄上の身体がぴくりと動きゆっくりと瞼が開きました。
    「兄上っ!気付かれましたか⁉︎」
    「うぅ…。頭が…、やけに後頭部が痛む…。」
    兄上が上体を起こして後頭部を押さえました。頭に二重に出来た瘤を確かめて「よもや…。」と呟くと俺と宇髄さんの方に視線を向けてきました。
    「宇髄、何故君が此処にいる。」
    「ん?ああ、そうだお前これ落としていっただろ。」
    宇髄さんは衣嚢ポケットから兄上の脚絆の片割れを取り出すと兄上に手渡しました。道の途中で別れた時に紐が解けて落ちてたんだよ、と宇髄さんが言っていて、そういえば俺も廊下で服を拾って歩いていた時に片方しか無かったのを思い出しました。
    「そうか、酔っていてあまり良く覚えていないが、すまない宇髄、わざわざありが…。」
    兄上が宇髄さんに礼を言いかけて、急に口元を押さえました。額に汗を滲ませながらはぁはぁと荒い呼吸をし始めて、近くにいた宇髄さんの隊服の胸元を掴むと切なそうな表情を宇髄さんに向けました。
    「宇髄…。」
    「なっ…、何だよ!」
    「……吐きそうだ。」
    一瞬空気がぴしりと凍りつきました。
    「馬鹿!今吐くな、堪えろ!おい千寿郎、何か受けるもの持ってこい!」
    宇髄さんは近くにあった脱衣籠の中の布を引っ張り出して兄上の口元を押さえようとしました。俺はそれを見て目を見開くと慌てて宇髄さんを止めました。
    「待って!それはやめて下さい!」
    「何でだ‼︎」
    「それは兄上の下帯です!」
    「ああ⁉︎何だよ褌かよ‼︎あー、いいよもうこれで‼︎」
    「駄目です!やめて!兄上が穢れる‼︎」
    「だったら早く別のもん持って来いよ‼︎‼︎」
    ぐわっ、と宇髄さんが怒り散らしたので俺は弾かれる様に風呂場に飛び込んでまたまた桶を引っ掴むと急いで宇髄さんに手渡しました。宇髄さんは即座に兄上の前に桶を差し出し既の所で被害は免れました。
    「俺、もう暫く煉獄は誘わねぇ…。」
    自分の前で吐き戻す兄上の声を聞きながら宇髄さんはぼそりと呟き、兄上の背を撫でさすっては光の失せた目で遥か彼方を見ていました。


    宇髄さんは兄上を部屋に運んだ後、疲れたから帰る、と早々に家を出て行きました。薬を置いていってくれたので兄上に手渡して飲ませ、一眠りさせた後には兄上はもうけろりとして稽古着を纏い庭で鍛錬に励んでおりました。
    兄上の姿を縁側で見守った後、俺は自分の部屋に戻ろうとして父上の部屋の前を通り過ぎた時、足元に空の酒瓶が転がってきました。父上の部屋は閉められていたので、どこから転がってきたのかと思いながらそれを拾い上げ、暫く考えて俺は厨へ行くと纏めてあった酒瓶を全て酒屋へ返しに行って来ました。
    店先に酒粕が器に盛られて売っていて、俺はそれを一つ購入して家に帰りました。
    早速厨で酒粕に湯と砂糖を加えて煮詰め甘酒を作ると、酒の成分が飛んだのを確認してから湯呑みに注いで一人で飲んでみました。まろやかで甘いそれはゆっくり身体に浸透して日頃の家事の疲れもなくなる様でした。
    成る程、兄上が飲みすぎた訳だ、と思い、飲み終わった湯呑みを流しに置き、残った甘酒の鍋に蓋をして、外に干してある洗濯物を仕舞いに庭へ出ました。
    「千寿郎。」
    兄上が俺の名を呼んできました。
    「お疲れ様です、兄上。」
    兄上が鍛錬を終わらせて汗だくになっていたので干してあった手拭いを手渡すと、兄上は胴着を脱いで上半身を拭き、洗濯物を取り込んでいる俺の傍に来ました。
    「朝方から迷惑をかけたな、すまない、千寿郎。」
    「いえ、少し驚きましたが何の問題もありませんので、お気になさらずに。」
    俺は兄上に笑いかけて言いましたが兄上は俺をじっと見ると顔を近づけてきました。
    「…甘酒の匂いがする。飲んだのか。」
    「あ、はい、先程少し、自分で作って…。酒の成分は全部飛ばしました故…。」
    兄上の顔が近すぎるので俺はさりげなく後退しました。
    「そうか、任務から帰ったら俺も貰えるか?」
    「え、ええ、用意…、しておきます。」
    俺は速くなった心臓を宥めながら言いました。
    兄上の顔が離れたので俺はほっとして、また洗濯物を取り込む手を動かし始めましたが、突然肩を掴まれてくるりと兄上の正面に回されると、兄上の唇が俺の唇を軽く吸ってから離れていきました。
    「美味いな、楽しみにしている。」
    兄上が家の中に戻って行き、俺は酩酊したかの様にくらくらしてその場にへたり込みました。
    (あ、兄上ーーーー‼︎‼︎)
    俺は心の中で遠ざかって行く兄上の背に向かって叫びました。


    ここ最近、兄上の行動がじわじわと大胆になってきている様に思えて、俺は兄弟という枠を越えて俺を捕らえようとしてくる兄上をどうしていいのか分かりませんでした。兄上の気持ちは充分嬉しいですし俺も兄上は大好きなのです。だけど俺の好きと兄上の好きはまるで別物で、まだ俺には到底理解出来るものではなく、時に心奪われ、時に恐怖すら感じることもあります。俺は自分がどうあるのが良いのか未だ判断も付かず、自分なりに必死に考えて、今は只、出来る範囲で出来ることをしよう、と思う次第でした。
    とりあえず今朝の事でやはり俺はどこか宇髄さんを信用しきれず、その宇髄さんについては兄上のげろに興醒めして暫く来ないと思われるので、今回も兄上の身が無事であった、という事に対して俺は心から安堵したのでした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏❤😍👏💞👍👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works