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    conomi_i

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    conomi_i

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    アシュビリ
    身体だけの関係に🍭が恋人という名前をつけてしまった話
    ハピエンイチャイチャ🍗🍭の練習です…

    名前をどうぞ 熱い夜、と形容するにはあまりに淡白な情事はこれで何回目だろう。キスはしない。最中愛を囁くことはおろか互いの名前を呼び合うことすらない。どちらから言い出したわけでもなく、これは名前のない関係をぐずぐずと続ける俺たちの明確な境界線であり、暗黙の了解だった。精を吐き出し快楽を貪るだけの背徳的な行為、理想を語るならばそこに付随する感情など余計なものはなるべく削ぎ落とし、もっとシンプルであるべきだ。誓いのキス。本来恋人たちが愛を確かめ合う神聖な行為を、ただセックスをするための舞台装置にするのは些か気が引けたのかもしれない。この質素な狭いホテルの一室は、身分にがんじがらめにされ、何をするにも理由や証明が必要な堅苦しい社会からほんの一時だけ非現実に逃げ込むには都合がよかった。臆病な俺たちにとってはどうせすぐに忘れてしまう熱に、胃もたれしそうな後を引く甘さなどそれすら枷になり得る気がした。
     まだ覚醒に至らないふわふわとした頭で、きっちりと支度を終えたメンターの姿を、ひとりベッドに蹲りながらぼんやりと眺めていた。ほんの数時間前までシーツの海に沈められ、熱を帯びた吐息がかかる程の距離にいて肌に体温を感じ、身体を這いずり回る無骨な手の感触や、今尚内側に孕んだままの熱の余韻を俺だけに押し付けて、きっと何食わぬ顔で再び社会に溶け込んでいくのだろう。いつものように俺を置き去りにして。それでよかった。それを望んだのは俺のほうだ。変な期待をする余白があるよりかはむしろそのほうがありがたかった、のに。例えば、その日は重苦しい曇り空だったとか、仕事での小さなミスを無意識のうちに引きずっていたとか、お気に入りのハチミツ味のキャンディをあいにく切らしていたとか。そんな些細なことの積み重ねが脳内を蝕み、その日だけはなぜだかこの光景に無性に腹がたった。
    「アッシュパイセン」
    ちり、と微かに主張する喉の痛みなど無視して、少し掠れた声でその男を引き留めた。まるで自分のものではないように思える重たい身体をなんとか起こし、予期していなかったであろう呼びかけに多少なりとも生じた、驚きを隠しきれないいつものしかめ面を出迎えた。

    「恋人になってみない?」

    放り投げた言葉は見事目的のものに命中し、扉に向けられた爪先に絡みつき離すものか、と未練がましいわがままな執着をみせた。自分で言っておいてなんだけど、心底おかしな提案に乾いた笑いがついてでた。そんな現実味のないことを望んだことは一度だってなかったのに。恋人に憧れが全くないわけではないが、ブラウン管の中の物語のようなどこか別次元のものとして諦めていた節はある。誰かに愛情を注がれるなんてむず痒いこと、耐えられる自信もない。そんななんの恋情も抱いていないはずの、利害の一致という免罪符を振りかざしながらつい先刻まで抱き潰していたメンティーの問題発言を前にして、アッシュパイセンは今どんな表情をしているのだろうか。興味はあったが咄嗟に俯いて視線を躱す。目を合わせたら本当に大声で笑ってしまいそうだ。怒声か呆れの混ざったため息がすぐに飛び込んでくるだろうと予測していたのに、意外にも彼はしばらくの間なにも言わなかった。あ、もしかして失敗したかもしれない。本気で怒らせた、嫌われちゃうカモ。自然とはやる鼓動と反比例するように、いつもはよく動くゆるゆるのお口をきつく結び、次の一手を慎重に吟味する。やがてコツコツと靴音を踏み鳴らしこちらに近づく気配を感じ、今まで脅しだけで一度たりとも手をあげることは無かったけれど、今度こそ本当に殴られるかもしれない、だなんてぎゅ、と目を瞑りひとり身構えていた。
    「オイ、こっち向け」
    「あはは…もしかしてアッシュパイセン、本気にしちゃった?」
    身体の底から痺れるような耳触りのよい低音をいなすように、これは軽い冗談だと弁明しようとした。いつもの調子で煙に巻いてさっさと逃げ切ろうと画策するよりも先に、大きな手で髪を掴まれぐい、と抵抗など出来ぬまま顔を上げさせられると、意地の悪い愉悦を浮かべた深い琥珀色の視線にばっちりと射抜かれてしまった。らしくもなくどき、と心臓が跳ねる。そして、である。
    「悪くない提案だな」
    「…………え?」
    こぼれ落ちた間抜けな疑問符を聞くと、満足そうににやりと笑い、まるで何事も無かったかのように踵を返してその場を去っていった。残された自分はというとわしゃわしゃと乱雑に撫でられ酷い有様になった髪を直すこともできず、静寂を取り戻したこの部屋で一人、無機質な扉のある方を呆然と見つめたまま……。


    それからというものの、俺はビリー・ワイズを上手く演じることが出来なくなった。


     こんなのはおかしい。絶対におかしいんだ。
    あの時と同じホテルの簡素な部屋、見慣れたベッド、そしてあの時とはまるで違うふたり。ほんの僅かばかりの距離なのに辿り着くのが酷く困難に思えて、ベッドに腰掛ける彼の側に行くのを躊躇した。ああ、俺があんなことを言い出さなければ。必要以上に干渉しないあの関係に名前なんて必要なかったんだ。アッシュ・オルブライトの恋人になってから俺の頭はまるで使い物にならなくなってしまった。彼の一挙手一投足をじっと見つめてしまうようになった。知らぬ間にその横顔を目で追いかけて、恋人であるビリー・ワイズにだけ向ける表情、仕草、声色のすべてを余すとこなく享受しようと、わずかな与えすら喜んで待ちわびてしまうのだ。思い返せば、俺は最初から彼のことは相当気に入っていた。身体の相性も悪くない。それでもふたりの間には確実に隔たりがあって、それはメンター、メンティーという立場でもあり、出自という明確な身分の差でもあった。彼がそんなことを気にするような男だとは思わないけれど、出自に囚われないのはこの狭い【HELIOS】という組織の中だけの話であって、これは卑下しているわけでもなんでもなく、傍からすれば俺なんてただの乞食にしかみえないのだろう。だから俺は安心して甘えられた。これ以上の関係は有りえないことがわかっていたから、煩わしい感情に振り回されることもなく、隔たりの一部であるメンティーという立場を逆に利用してしつこく付きまとってやろうと、狡猾にもそう思っていた。

    それが一体どうしてこうなってしまったのだろうか。

    あんなの、大人の気を引くための可愛らしいいたずらじゃないか。忘れなければならないのに自分の中に確実に積もりゆく熱の記憶。そのすべてを無かったことにされるのが嫌だった。悔しかった。寂しかったのだ。こちらから関係を持ちかけた手前、至極当然の事後処理を咎める権利など一片もないのに、である。名前なんて無機質なもの、それ自体に意味なんかなくて、関係性を表す記号でしかないはずだ。恋人という肩書を欲しがったのはある種の嫌がらせのつもりだった。気持ちよくなるだけでは味気なくて、物足りなくて、……ただ、本当に、どうこうなりたいわけじゃなくて、構ってほしかっただけなんだ。

    (あ、はやく、隣に行かないと……)

    誤算だった。
    いとも簡単に要求をのまれてしまったとき、確かにそう思った。そばにいること、時間を共有すること、俺という特別とそれ以外の2種類を区別すること…今まで一線を引いていた、例え冗談だとしても口にするのも憚られるような度が過ぎたわがまま。そんな身に余るほどの大層なもののすべてが、あの男がひとつ頷いただけですべて手に入ってしまった。それは恐ろしいことだ、と警鐘をならす冷静な頭と、矛盾するように喜び飛び跳ねる浮ついた心に掻き回され、ぴくりとも動かない足に一向に縮まらない距離。ついにはもうここから一歩も動くことが出来なくなってしまった。
    俺は自ら望んで、決して望まぬものに完全に包囲されたのだ。
     
    契約でもない。利益なんて一つもない。金銭のやりとりが発生する関係のほうが幾らか健全で建設的だとすら思える、不確かな口約束にこうも足をとられるだなんて。一夜を共にしたあと、日常に潜り込む背中を追いかけながら自分だけが知っている熱を想い、そして誰にも知られてはいけないふたりだけの秘密が酷く甘美で魅力的だった。そう優越感に浸っていたにもかかわらず、今は彼の手を引き、ビリー・ワイズの恋人です、とあちこち吹聴してまわりたい気分だ!愛することを許され、封じてきた恋心を自覚してしまった途端に手放しで喜び、変わり果てていく自分を律することができない。今まで不必要と判断し避けてきたものに人生を支配されてしまうのは恐ろしかった。俺には守りたいもの、手放したくないものなんてひとつあればそれでよかったのに、無償で与えられる不確かなものに縋り付くつもりはなかったのに、会えない時間まで明け渡すつもりなど、本当に本当に、ひとかけらもなかったのだ。
    期待と恐れと、すこしの焦りと、喜び、劣情、いろんな感情がごちゃまぜになって……はた、と視界に怪訝そうな仏頂面を捉え、先程よりこちらを伺っていたことをようやく認識した。そしてそれと同時に異変に気づく。
    「……あれ、おかしいな」
    泣いていた。自分でも理解が追いつかないことがあるもんかと、頬を伝う生温かい液体を必死になって拭っていると、はあ、とため息が放られた。反射的に身体がびくりと跳ねる。
    「どうした、ビリー」
    今まで急かすこともなく大人しく待っていたそれはいよいよしびれを切らし、なかなかベッドに辿り着けないままの俺の元に簡単に歩み寄ってみせた。乱暴に俺の手を払い、そしてそれに似合わないほどに優しい手つきで代わりに涙を拭った。
    「する気がねェならはっきりそう言え」
    「……ち、ちがう」
    咄嗟に出た否定の言葉はあまりに拙くて、それを笑うわけでもなく、端からわかっているとでも言いたげにオレンジの頭を撫でる。少し俯いた顔にぱさりとかかる髪を丁寧に掬い上げ、顔を見せろとでも言わんばかりにそれを耳にかける無駄のない所作のなんと心地良いこと。慈しみをもって放たれるそのくすぐったい誘うような行為は今までになく初めてで、たったそれだけで、恋人という立場を手放したくないと強く願ってしまうほどに、唯一残っていたプライドは呆気なく陥落してしまった。
    「……す、好きなひと……恋人とするのは、初めてだから、緊張してるだけ……ちょっとネ」
    一瞬だけ大きく見開かれた瞳。吸い込まれそうなほどにキレイだ、と見惚れていると、ふいに強い力で抱きしめられた。すこし苦しいくらいだったが、こちらも負けじと応戦する。冷静になってみれば酷く恥ずかしいことを吐露してしまった、と、からかわれないか気が気でなかった。紅潮した顔を見られることのないこの距離に安心しつつ、鼻をくすぐるふわりと香る上品で色気のある香水に脳内を侵され、くらくらと目眩がしそうだ。
    「ビリー」
    あぁ、だめだ。こんなの、本当はだめなんだ。耳元で囁かれた熱に身体は跳ね、もう境目なんてもとから無かったみたいにどちらのものともわからない体温がじわりと溶け出していたけれど、確かに聞こえる互いの心音がかろうじてふたりを別の存在として隔てていた。自分より少し背丈の高い彼はこちらの肩に顔をうずめるように背中を丸め、より一層強い力で、それでいて酷く優しく包み込むように抱きしめながら、大きく息を吸い込み呼吸を整える。はあ、と息をつき、そして再び俺の名前を呼んだ。
    「……ヤダ、名前呼ばないで」
    比喩でもなんでもなく、本当に溶けてしまう前にぐ、と腕に力を入れてようやく引き剥がす。顔をあげると見るからに不機嫌そうな表情でオイ、とひとつ零し、なにやら文句を言いたそうだ。厚みのある肩に添えたままの手をぎゅう、と握りしめ、その体温に触れられる事実に安堵を覚えた身体は彼に習い、反復するようにふかく呼吸を繰り返す。じ、と目を合わせれば揺れる瞳は意思など関係なく、自身の動揺を簡単に映し出してしまう。オレンジの分厚いレンズを介さない視線の交わりは誤魔化しがきかなくて、すべてを見透かされているような錯覚はどうにも慣れそうにない。す、と息を吸い込む。真っ直ぐに向かい合うこのひとになら、すべて受け止めてもらえそうだ、なんて、らしくないよな。
    「……もぉ〜!アッシュパイセンのこと、本当に好きになったらどうしてくれるの!?」
    「はぁ?今更何言ってんだテメェ……」
    「ボクちん、もっと欲しがっちゃうヨ!そしたらアッシュパイセンだって困るデショ?」
    なんとか一矢報いようと、しおらしさをかなぐり捨て、普段どおりの自分をなぞるように声色を真似てみせた。妙に察しのいいメンターの前では、きっと相当下手な作り笑いなんかじゃ取り繕うことなんて出来っこないのだろうけれど。目の前のしかめ面はというと呆気にとられたのか、ぴくりと眉が動く微かな反応を俺は見逃さなかった。先程までの不機嫌な険しい表情は姿を変え、暴君と呼ぶに相応しいイジワルな笑みが眼前に広がる。ぞくり、と下腹部を伝う期待が頭のてっぺんまで登ってきて、自然と目尻は下がり口元が緩むのを見もせずとも手を取るようにわかる。顔を覆ってしまいたい気分だ。
    「いいぜ、欲しいモンなんでもくれてやる」
    甘ったるい聞こえの良いセリフも、きっとこの男なら本当に叶えてしまうのだろう。まったく、一体どこの御曹司なのか。するりと再び伸びてきた手が腰を引き寄せ、呼応するように小さく声が漏れる。続きを待ち焦がれる気持ちを必死に鎮めようにも、よく教えこまれた身体がそれを許すはずもない。堪らず顔を背け、それでもここでいいようにされるのは少し悔しかった。
    「……アッシュパイセンの名前がほしい、とか?」
    腰に添えられ好き勝手していた手は一旦動きを止め、訪れる一瞬の沈黙。アッシュパイセン?と顔をあげようとすると待っていたのはデコピンの応酬だった。酷い音がした。ずし、と頭の骨にひびくようなそれは女子供相手にするような可愛らしいものではなく、少なくとも俺の知ってるデコピンではない。少しは加減してくれてもいいのに、と思うところが無いわけではないが、有象無象の一部ではなく、ビリー・ワイズがきちんと個として認められ選ばれたような気がして、すこし嬉しかった。
    「いっ……ヒド〜イ!いいじゃん、ちょっとくらい!カワイイメンティーのジョークだヨ」
    「ハッ、もう少し大人になってから言うんだな」
    「……へぇ、アッシュパイセンはてっきりお子様が好みかと思ってたヨ。直属のメンティーに手を出すなんて!」
    額をさすりながらわかりやすくむくれて、多少の恨めしさを込めた眼差しで相対する楽しげな表情を浮かべる瞳を見上げた。先程までの素直な発言から一転、鼓膜を撫ぜるような軽口を叩けば少しは自分のペースに持ち込めるかも。だなんて淡い期待を抱きつつ余計なことを考えていると、ぐいと手を引かれ、なんの警戒もしていなかった身体は容易に体勢を崩し呆気なく背中からベッドに着地した。ギシ、とスプリングを軋ませ、視界を遮るように上から覆いかぶさるそれは、今まで何度も見た光景のはずなのに妙に新鮮で、期待からか笑みがこぼれるのを直で感じた。
    「ガキになんか興味ねェよ」
    じりじりと詰められていく距離にもはや逃げ場などなく、鼓動と熱に急かされ奪われた思考はあっさりと主導権を渡し、もういっそのこと、このまま食べられても構わないとすら思える。自らテリトリーに捕食者を迎え入れるように両腕を伸ばし、罠に誘い込む如く無防備に眼前に差し出された首に手を回すと、従順な素振りがえらく気に入ったのかご満悦の様子だ。
    見知ったあたたかな手のひら、踊る指先がふに、と唇に触れた。今まで自分の意思では誰ひとりとして受け入れたことのない桜をなぞるように滑る、指先の与える艶めかしい微かな感触に思わず喉を鳴らす。その先を案じ緊張で強張るそこを解くように、確かめるようになだめすかされ、まるで言い聞かせるみたいに、怖いものではないと教え込まれているかのようだ。警戒を解く行為の根底に確かに存在する情欲にあてられているこちらの気も知らないで。

    「……ねぇ、ほんとうに俺でいいの?」
    「最初からお前だから抱いたんだよ、ビリー」

    ああ、後戻りなんて今更出来そうにない。
    ギラギラと獲物を見定めるその双眸に、今どんな表情が映り込んでいるのだろうか。
    はしたないと思いつつも、お願いキスして、と強請る前に許可もなくその唇に近づくと、まるでそうするのを待ち望んでいたかのように開かれた口から覗く赤い舌は、なんと扇情的だったことだろう。
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    Replies from the creator

    conomi_i

    MAIKINGアシュビリとサインとバースデー
    ありがちなやつです❗
    🍭誕までに書こうと思ってたのにだめでした😆
    先着一名様「アッシュパイセン、サインちょうだい!」
    「はぁ?なんだよ急に」
    突如部屋に入ってきたかと思えば、第一声がそれだった。一体なんの企みが、とも思ったが、知り合いに頼まれて、とか一種の小銭稼ぎだとか、そういった類のものではないことなどすぐにわかった。狡猾なビリーはたまにこういった不可解な行動をとることがある。その手に握られたのは素朴なデザインの手帳だった。
    「まぁなんでもいいけどよ、どうせならもっとマシなもん持ってこいよ」
    「これでいいの!あ、めいっぱい大きく書いてネ」
    そう言ってビリーはぱらぱらと手帳をめくり、怪訝そうな表情を浮かべるアッシュにずいと新品の手帳を差し出した。開かれたページの日付は7月30日。アッシュに心当たりがあるのかちらりとビリーの方を伺えば、にこにこと満足げに笑うだけでしらを切り通すつもりのようだ。そうかよ、と鼻で笑う。どこか勝ち誇ったような笑みは些か腹立だしくも、悪い気はしなかった。開かれた手帳をビリーの手から奪い取るようにし、そのページに望み通りサインをしてやると突き返すような粗雑な態度でビリーに手渡す。そんながさつな対応も慣れっこなのか、はたまた本心などとうに見透かしているのか定かではないが、気にも留めずにサンキュー、などと軽くお礼を述べたビリーはすぐにそこに視線を落とし、ボールペンの跡を指でなぞりじっと見つめれば顔を僅かに紅潮させ手帳を胸に当てる。
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