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    アメチャヌ

    ガムリチャか捏造家族かガムリチャ前提の何か。
    たまに外伝じじちち(バ祖父×若父上)

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    アメチャヌ

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    年少バとリチャ。かんの先生の園児と水たまりネタ絵、リチャの頭に乗った年少さんバが小さすぎてクリオネみたいだな~と思ったので。

    年齢に似合わぬ精悍なキメ顔と台詞を残し水たまりに向かって飛び跳ねたピンクのレインコートは、バシャッと激しく泥水を散らすと、もがく間もなく沈んでいった。

    「わー!」
    「バッキンガム!」

    大きな口を叩いてはいたが、やはり年少さんの小さな体では水たまりを飛び越えるのは無理だったようだ。
    慌てて助けあげると半べそをかきながらびしょ濡れのリチャードに抱きついてきた。
    お互いに濁った水で汚れている。好きなようにさせ、リチャードは年少さんの頭を撫でながら「へいきか」とたずねた。

    「リチャード……すまない、あんたまでびしょびしょだ……」
    「気にするな、園に戻ったらきがえればいいだけだ」
    「わたし、先にいってきがえをよういしてくれるように言うわ!」

    思い掛けないハプニングに、先に水たまりを飛び越えていたアンとエドワードが駆け寄ってくる。しょぼくれるバッキンガムに心を痛めた様子のアンは、リチャードに告げると、ヘンリーにも「いっしょにきて」と言い、エドワードのフードを引っ張った。

    「なぜおれまで……っ!」
    「もとはといえばあなたのせいでしょう? ちゃんと、えんちょう先生にせつめいしなきゃ!」
    「あたたかいスープもよういしてもらわなきゃね」
    「いそがなくていいぞ。おまえたちまでケガをするなよ」
    「はーい!」

    離れていく背中に声をかけると、三人は綺麗にそろって返事をした。
    女の子ひとりに問題児をふたりも任せるのは気が引ける。だがアンは優しいだけではない。芯が強い女の子だ。エドワードとヘンリーを上手く操って無事にほいくえんまで辿り着いてくれるだろう。
    リチャードはバッキンガムの頭を撫でながら友人たちが消えた方向を眺めていた。
    変わらずリチャードの水色のレインコートにしがみついたまま肩を震わせている。生意気な口を利くことも多いが、水たまりで溺れかけたことがよほど怖かったに違いない。

    「リチャード、すまない……」
    「もういい。おまえは無事だったし、これくらいたいしたことでは」
    「ちがう……ちがうんだ、リチャード!」

    リチャードの言葉をさえぎり、バッキンガムが伏せていた顔を勢いよくあげた。小憎たらしさと意志の強さをあらわすキリリとした眉は八の字に垂れ、はちみつ色の瞳は涙のせいか潤んでいる。
    突然降りかかった災難に怯えるのはしかたがないことだ。だが、どうにも様子がおかしい。
    不遜なふるまい態度は取るがきちんと反省はできるし、怒られたことは決して……いや、あまり、繰り返さない。失敗をいつまでも気に留めたりはしない性格で、べそをかいても、いつもなら数分もしないうちにけろっとした態度に戻るはずなのに。
    リチャードは撫でていた頭から手を離し、落ち着かせるために年少さんの肩に手をかけた。
    濡れた頭を見下ろして、目の前の体が淡く光を放っていることに気がつく。

    「バッキンガム?」

    雨上がりの太陽はひときわ眩しい。空の光に照らされて何かが反射しているのだろうかと辺りを見渡すが、太陽を跳ね返すようなものは見当たらない。
    ずずず……と鼻をすする音が聞こえてバッキンガムに向き直ると、懸命に涙をこらえている赤い鼻が目にとまった。

    「ずっとだまっていたが、おれにはまほうがかけられているんだ……ほいくえんじになるまほうだ。あんたがいるあの『えん』にかよいたくて、もりのまじょにたのんだんだ。まじょは、よごれた水にはふれるなといった。まほうがきえ、すがたをたもてなくなるから、と……」
    「まほう……だと?」

    耳を疑うような告白に思わず目を丸くするが、否定の言葉は出てこない。とても信じ難いことだが、ピンク色のレインコートの胸元はいっそう光が濃くなっているし、心なしか、バッキンガムの体が一回り小さくなっている。

    「ほんとうのおれはあんたの半身にふさわしくない。あんたのゆびさきほどの大きさしかないし、あんたのようなてもあしもない。からだは半分すけているんだ」

    しゃくり上げるのをこらえるような声で語りながら、バッキンガムの体はみるみる縮んでいった。

    「あんたにひみつはないとちかわせておきながら、おれはひみつとうそでかためてあんたの半身になった……きっとこれは、そのばつだ……むくいなんだ」
    「バッキンガム……ッ」

    バッキンガムの体はもうリチャードの腰の高さほどもない。どんどん小さくなり、そのまま消えてしまうのではないかと恐ろしくなって腕の中に閉じ込める。バッキンガムはリチャードに応えるようにぬいぐるみのような愛くるしくも頼りない手で水色のレインコートをきつく握った。
    ぽろぽろと涙をこぼすたびに年少さんの姿は一層儚くなっていく。園で人気の白いのぬいよりも小さい。地べたに座り込んで抱いていたが、アンやイザベルが遊ぶ人形くらいの大きさになってしまい、リチャードは水を掬うような丸い手つきでバッキンガムを支えた。
    ピンク色の両腕を懸命に伸ばしてくる体は、もうリチャードの指ほどしかない。

    「りちゃーど……」

    いつの間にかリチャードの頬にも涙が伝い、てのひらに雨のように降り注いだ。涙の水たまりに浸かったレインコートの裾が揺れている。
    薄い色彩の小さないきものは、よく知る年少さんとは別の生き物のようだった。年上にも物怖じせずリチャードを半身だと公言していた自信家な面影は欠片もない。
    リチャードはいつか父と見たドキュメンタリーに出てきた、海の妖精を思い出した。寒冷海中を揺れ泳ぐ神秘的な姿から流氷の天使とも称される極小のいきものと、リチャードのてのひらにいるバッキンガム。サイズ感しか似ていないが、今の年少さんはまるでクリオネのようだ。
    今はまだ会話ができているが、これ以上小さくなったら意思の疎通も叶わなくなり、もっと多くの水を恋しがって海に還ってしまうかもしれない。激しい不安に襲われ、リチャードはくちびるを噛んだ。
    途方に暮れているあいだにも、ふたり分の涙でてのひらの水たまりはどんどん深くなっていく。
    このままでは、また溺れてしまう。今度のリチャードは両手が塞がっている。救い出すことは難しい。
    溺れる前に溜まった涙を減らさなければならない。一度手を離すか、傾けて水だけ流すか……けれど、間違えば小さくなったバッキンガムも一緒に流れていってしまう。
    どうすればいいのか、必死に頭を悩ませるが互いの涙は止まらない。
    ピンクのレインコートは半分以上が水に浸かっている。
    不思議なことに手に落ちる水滴は指の隙間や手のふちから溢れていかず、溜まり続けていった。
    このままでは助けられない。リチャードは胸が苦しくなった。

    「バッキンガムッ!」

    水面が小さくなった年少さんのあごに触れる位置にまで浮かび上がり、救うすべがない絶望にきつく目を閉じて叫ぶ。

    「なくな、リチャード……あくまのぶんざいでおおくをのぞんだおれがわるかったんだ」
    「ちがう、おまえは悪魔じゃない! おれの半身だ!」
    「いいや、あくまなんだ……よく見ろ、あんたを傷付け、苦しめる、醜いこの姿を」

    リチャードに答えたのは先程までのトーンの高い幼い声ではなく、初めて耳にする低く落ち着いた、何処かえらそうな声だった。
    ハッと目を開けると手の中にいたはずのバッキンガムの姿がない。水たまりごと消えている。

    「バッキンガム……どこに……?」

    夢のような出来事に呆然としているとリチャードの頭上に黒い影が落ちてきた。座り込んだまま顔を上げると、見知らぬ大人の男がリチャードを見下ろしていた。バッキンガムとよく似た黄金色だが、はちみつの飴玉のような年少さんの愛くるしい瞳とは違い、暗闇に浮かぶ太陽のように鮮烈な輝きだった。
    男の大きな背が光を遮っているせいで表情はわからない。身につけている黒い服は襟が高く左側にだけ飾りが幾つか付いていて、丈が長く足首まで隠れている。父も兄とも、園児の保護者とも違う。リチャードの数えるほどしかない人生の中で一度も目にしたことのない服装だった。
    「ふしんしゃ」に話かけられたら大きな声を出しなさいと園長先生から教わっていたのに、リチャードは次から次へとやってくる不測の事態に口を開くことも忘れていた。
    目はバッキンガムと同じだが、よく見ると髪の色も同じだ。短く切り整えたツンツンと立ち上がった毛先も、触れば意外にも柔らかそうなところも似ている。耳の上の方、頭の横に生えた暗く禍々しい四本のツノも…………ツノ?
    そんなもの、バッキンガムには生えていない。リチャードにもアンにも、エドワードにもヘンリーにも、当然ついていない。人間にツノなどありえない。生えている動物は、シカやウシくらいだ。
    常人には無いはずの異物に目を丸くして固まっていると、男はゆっくりとした動作でリチャードを覆い、影を広げた。
    逃げなくてはと思うのに身体が動かない。
    頬を囲む手は存外に優しくあたたかい。けれど、視界の端にうつる鋭く尖った爪と、こどもを丸呑みできそうなほど大きく裂けた口から覗く牙がリチャードをパニックに陥れた。

    「ワーッ!」



    ビクッと体を震わせた直後、リチャードの目に映ったのは保育園の天井だった。壁と同じ淡い白色の天井だが、照明が消されているせいで薄暗い。
    何度目かの瞬きのあとで首を左右に傾け、隣の布団で眠る友人たちの姿をとらえて、園でお昼寝中だったことを思い出した。誰もリチャードの叫び声には気付かなかったようでそれぞれ個性的な寝相でお昼寝を続けている。
    水たまりも、小さくなったバッキンガムも、バッキンガムに似た大きな「ふしんしゃ」も、すべて夢だった……。
    リチャードはほっと安堵の息を吐いて、滲んできた涙を乱暴に拭った。夢だとわかったあとでも、バッキンガムの姿がみるみる縮んでいった恐怖は消えない。
    離れ離れになってしまうのかと思った。二度と会えなくなるのかと、おそろしくなった。いつでも自信満々な年下の男の子が泣いていた。夢の中での出来事をひとつひとつおもい返しながらリチャードはまた薄っすらと涙を浮かべた。
    胸が苦しい。こんな苦しさは初めてだ。
    起き出して園長先生のところへ相談にいこうか。悩みながら胸に手を当てると、あたたかなものに触れた。何かが体の上に乗っている。やわらかくて、少し厚みがあって、すべすべしている。手を当てて探ってみるが、正体はつかめない。

    「なんだ……?」

    おそるおそる目を向けると、足の裏が見えた。片足が遠慮もなく胸の上へ乗っている。

    「……」

    体を起こすとリチャードを苦しめていた重みは転がって敷布団の上へと落ちた。ここまで寝相が悪い園児は年少さんしかいない。布団の並びが離れた日はいつも寝ながら転がってリチャードの布団へとやってくる。今日は斜め向かいに並んでいたはずがだ、また転がってきたのだろう。短い黒髪の頭はリチャードの足元にある。のぞき込むと、タオルケットを抱いた指をくわえ、幸せそうな顔をしていた。

    「おまえのせいで……俺は……っ!」

    ひとりで穏やかな眠りにいるバッキンガムに怒りと悲しみが混ざり合ったような感情が湧いてくる。
    リチャードは年少さんの腕を引っ張って体を引きずりながら頭の位置を正し、枕を半分分け与えて横になった。同じタオルケットにくるまり、小さな半身をきつく抱きしめる。乱暴に扱われてもバッキンガムは目を覚まさず、わずかに口を動かして寝言を漏らすだけだった。

    「俺に悪夢なんかみせるな……半身だというのなら、ずっと俺のそばにいろ!」

    他の園児を起こさぬように声を押さえて求めた。聞いているわけがないと分かっていても口に出さずにはいられなかった。
    腕のなかの体は水たまりで濡れてもいないし、縮みもしない。夢はもう終わった。
    ぬくもりを離さないようにより一層抱く力を込める。眠りに居るバッキンガムは抱擁に笑みを浮かべた。
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