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    アメチャヌ

    ガムリチャか捏造家族かガムリチャ前提の何か。
    たまに外伝じじちち(バ祖父×若父上)

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    アメチャヌ

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    文舵練習③-1 一段落の語りを、15字前後の文を並べて。

    カントリーハウスドラマのパロのようなもの。
    バ(11.2)×リチャ(21.2)前提ノーサン→リチャ(♀︎)

     晩餐会への招待は乗り気ではなかった。食事が済んだら早々にいとまを告げる。席に着くまでは確かにそう決めていた。
    心変わりしたのはひとりの令嬢のせいだ。短く艶やかな黒髪。暗い濃紺のドレス。レースがあしらわれた飾りの多いチョーカーが白く細い首と鎖骨を隠す。頬に落ちる長い睫毛の影。蝋燭の炎に輝く瞳は二色の宝石のようだった。打てば響く落ち着いた相槌。鼓膜をやわらかく揺らす低めの声。交わす言葉は短いものばかりだ。もっとその声を聞きたい。もっとその双眸に映してほしい。もう一方の老婦人に微笑みながらも気はそぞろだった。すぐにでも振り返りたい。身に染み付いた作法がもどかしい。すぐに話題に困る。グラスを持ち上げワインを一口飲む。老婦人との会話が途切れる。目の前にデザートの皿を差し出される。取り分ける一瞬すら惜しい。給仕に不要だと示す。無駄の無い動作で隣へ移動した。しなやかな指がサービングスプーンを握る。うす茶に焦げ色がついた生地。形を残しているがとろけてくずれた赤い果実。それを煮詰めたソース。令嬢の手元が甘く彩られる。涼やかなくちびるがゆるやかに弧を描いた。
    「クレープがお好きですか」
     カトラリーを手にした令嬢がほんの少し首を傾ける。
    「ノーサンバランド伯爵はお嫌いなようですわね」
    「甘いものはあまり口にしません。けど嫌いではないですよ。緊張しているせいで断ってしまった」
    「この程度の食事会ならば慣れてらっしゃるのではありません?」
    「美しいかたの隣は初めてです」
    「お上手ですのね」
     ナイフが生地の上を走る。果実の色が染み込んだ欠片をフォークが掬う。ひとつひとつに思わず見入る。無意識に目で追ってしまう。向かう先はくちびる。気が付いて慌てて視線をそらす。グラスを持ち上げワインを一口飲む。静かにそっと息を吐く。横目でうかがうと食器は皿の上へ戻っていた。
    「レディ。この場には私以外の伯爵もおられます。どうぞ、パーシーと……いえ、ヘンリーとお呼びください」
     不躾にならぬよう所望する。令嬢は手を止め一拍置いて笑んだ。視線はデザートでもパーシーでもない。テーブルを隔てた向こう側を見ている。
    「その名は身近に多すぎて、誰のことか分からなくなってしまいますわ。『あれ』も伯爵と同じ名を持っていますの」
     令嬢の瞳はパーシーをとらえる。微笑みを残してまたナイフを動かす。クレープが刻まれる。令嬢の横顔が名を呼ぶ気は無いと語っていた。無下にされたと怒るべきか。地位のある男であればそうする。矜恃が傷付けられたと騒ぐ。だがパーシーは誇りよりも正義を重んじている。正しくあれと教えを受けてきた。令嬢の拒絶は己の無作法のせいだ。怒りなど抱きようもない。むしろ恥ずべきだ。不愉快にさせたのなら謝罪しなくては。グラスを持ち上げワインを一口飲む。令嬢の言葉を思い返し、疑問が頭をよぎる。同じ名の『あれ』とは? 令嬢は何を見ていたのか。気になり、向かい側を眺める。そっと視線を横にずらしていくと、聡明な顔立ちの少年と目が合った。両親や祖父母ほども年の離れた相手に挟まれた少年は、幼さの残る手でカトラリーを強く握りしめ、射殺さんばかりの鋭さでパーシーを睨めつけていた。
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    アメチャヌ

    DONE*最終巻特典の詳細が出る前に書いたものです、ご承知おきください。

    69話の扉絵がバッキンガムが65話で言ってた「美しい場所」だったらいいな〜、地獄へ落ちたバッキンガムがリチャードのお腹にいた(かもしれない)子とリチャードを待ってたらいいなぁ〜……という妄想。
    最終話までのアレコレ含みます。
    逍遥地獄でそぞろ待ち、 この場所に辿り着いてから、ずっと夢を見ているような心地だった。
     
     薄暗い地の底に落ちたはずが、空は明るく、草木は青々と生い茂り、湖は清く澄んでいる。遠くの木陰では鹿のつがいが草を食み、丸々と太った猪が鼻で地面を探っていた。数羽の鳥が天高く舞い、水面を泳ぐ白鳥はくちばしで己の羽根を繕う。

     いつか、あの人に見せたいと思っていた景色があった。

     まだ乗馬の練習をしていた頃。勝手に走り出した馬が森を駆け、さまよった末に見つけたその場所は、生まれた時から常に血と陰鬱な争いが傍にあったバッキンガムに、初めて安らぎというものを教えた。
     静謐な空気に包まれたそこには、あからさまな媚びも、浮かれた顔に隠れた謀略も打算もない。煩わしさからはかけ離れた、ほかの誰も知らない、誰もこない、自分だけの特別な場所だった。
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