「誕生日おめでとう。今年もこうしてあんたが生まれた日を祝える幸運に感謝を」
ベッドの中で部屋の明かりが消えるのをうとうととしながら待っていると、ふいに枕に添えた右手を取られ、口付けが落とされた。
眠りに落ちかけていた意識を浮上させたリチャードは、横たわったまま、隣に座るバッキンガムを見上げた。視線が絡むと半身は黙って二度目の口付けを落とす。愛を受けた手はそのまま枕元へ返されたが、熱を持った筋張った手指は離れずにいる。
リチャードは肘をついて上体を起こすと半身の枕側にあるナイトテーブルの時計に目を向けた。二つの針はどちらも真上を差している。眺めているわずかなあいだに、長針がひとつ傾いた。
日付が変わり誕生日を迎えたのだと理解して、浮かせた身体をシーツの上へと戻しながらくすりと小さく笑った。
「このためにわざわざ起きていたのか?」
「悪いが、その質問には答えられん」
「そうか。だが、祝ってくれるというのなら、感謝よりもキスをくれ」
「それならば喜んで。あんたの望みは、全て叶える」
「誕生日だから」
「いつもそうしていたつもりだが、伝わっていなかったとはな……」
「冗談だ、拗ねるな」
「拗ねてない」
なだめるように触れ合わせた手に頬をすり寄せる。三度目の口付けは然るべき場所へと降ってきた。戯れるように啄まれ、くすぐったさに口元がゆるむ。腕を伸ばして招き入れると心地よい重みが重なった。
元々体温が高いバッキンガムの身体に覆われ、与えられるぬくもりに誘われて、姿を潜めていた睡魔が顔を出す。このぬくもりを感じながら眠りに入れば、良い夢が見られる。あるいは、夢など見る隙もないほど深く眠れる。どちらであれ、リチャードにもたらされるのは黄金の眠りであることには違いない。
誕生日を迎えてすぐに受け取るプレゼントは、キスと安眠か。至上の贈り物に、ほころんだ顔がさらに溶ける。
目を閉じ、両方の腕をしっかりと首に回して抱くと、熱いくちびるが首筋に触れた。
「明日は……もう今日だが、明日の朝はゆっくりしてくれ。朝食はここまで運ぶ。夜はディナーを予約しているが、それまで何処か出掛けるか?」
「ディナーはキャンセルしてくれ。明日はベッドから出るつもりはない。お前もな」
「俺も? 一日中か?」
「いやか?」
「まさか。主役はあんただ。どうぞ、何なりとご命令を」
「ではもう一度キスを。それから、悪いが、もう限界だ」
芝居がかった口調に取り合わず堪えきれなかった欠伸を漏らすと、気配で気付いたらしい半身のひそやかな笑い声が耳に届いた。
「承知した」
微かにベッドが軋み、ぬくもりが離れる。
目を開けるとすぐそばにいた甘いはちみつ色の瞳は細くとろけてリチャードの望みを叶えた。襟足から短い黒髪の隙間に指を差し入れ、呼吸の合間に撫ぜ遊ぶ。たっぷりと堪能してから解放すると、バッキンガムはベッドサイドの明かりを消した。
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