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    アメチャヌ

    ガムリチャか捏造家族かガムリチャ前提の何か。
    たまに外伝じじちち(バ祖父×若父上)

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    アメチャヌ

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    人気投票一位のご機嫌バとご不満リチャ。
    てんてーのイラストネタ。メタ発言有り。
    (担当さんからの)御達し。
    神(担当さんから)の啓示。

     広く簡素な部屋の隅で腕を組みをながら、リチャードは長いため息をついた。
     奥の真っ白な壁は幾つもの照明が当てられてひどく眩しい。少し離れた位置に一脚だけ椅子が置かれ、そばで写真機を首から下げた忠臣が、反射板や布を手にした男たちに細かな指示を出している。さらに別の場所には小さく短い筒のようなものを乗せた台があった。写真機も、写真機に必要な道具だというそれも、口髭をたくわえた臣下の私物だという。
     ひと月行われていた投票の集計が終わり、結果発表のための撮影で呼び出されたリチャードの胸中は複雑なものだった。今はまだ進軍の馬上にいる。佳境に入り、多くのものを失い、辛い真実を突き付けられている最中だ。
    最後の戦いまでもう僅かもない。まだ気を抜けない。最後までの、この数話が重要なのだ。体重を落としたせいでケイツビーには役作りが過ぎると心配されているが、『リチャードの物語』を終えるまで手を緩めるつもりはなかった。
    それなのに……。
     見るともなしに眺めていたものから視線をはずし、もう一度、今度は短くため息をつく。
     今すぐ撮影が必要だと懇願されては応じないわけにはいかない。だがリチャードの結果は二位だった。投票に関心があったわけでも、絶対的な自信があったわけでもないが、思いのほかショックだった。
     一位ではないなら急がなくてもよくないか? むしろ撮影は必要か?
     自らまとめ役に名乗り出たという臣下に問うと、返ってきたのは、そうしろとの御達しです、という言葉だった。王であるリチャードはなにも命じていないのに、誰からの指示だというのか。重い甲冑から撮影用の服に着替えても、いまひとつ釈然としないままだった。

    「本編に集中したかったんだが……」

     隣に並ぶバッキンガムへぽつりともらす。王冠を手にしたご機嫌な男は頭上の輪と同じ色の目を細め、指の背でリチャードの頬を撫でた。触れあった肌からじんわりとぬくもりが伝わるが、心を温めるには至らない。

    「神の啓示だ、仕方あるまい。それよりも、この衣装で揃うのは久しぶりだろう? せっかくならもう少し嬉しそうにしてくれ」
    「他でもないお前に王冠を奪われて喜べと?」
    「いや、これは……この結果は俺が望んだわけでは……」
     バッキンガムは金の飾りへと手を伸ばしながらそっと視線をそらした。
     庇うようなしぐさが妙に気に障る。
    「望まずして手に入れるとは、俺よりも王の素質があるのかもしれないな」
    「そんなわけがあるか」
    「そういえばガキの頃、自分も王になれると言っていた」
    「単なる血筋の話だ。あんただって、あの時は笑っていただろう?」
    「だが、こうして相応しいものを手に入れたじゃないか。よく似合っているぞ」
    「……怒っているのか?」
    「怒る? 何についてだ?」
    「リチャード……」 

     不機嫌を隠さず訊き返すと、バッキンガムの顔はみるみるうちに曇っていった。不安げにリチャードの腕を掴み、眉を寄せて縋るように見つめる。哀愁を誘う姿に、いつかの雨に濡れた子犬のような泣き顔を思い出す。
     八つ当たりを自覚していたリチャードは自らの大人げのなさを苦笑し、冗談だ、と言って取り繕った。戯れのつもりだったが、少々度が過ぎた。
     残りの時を常に意識し、張り詰めていたせいで余裕を失っていたのだと気がつき、肩の力を抜く。
     話の中では失ったことになっている半身を目の前にして、必要以上に身構えてしまっていた。
     これはほんの息抜きだ。それも長くは続かない、いち夜の夢のようなもの。いや、夢よりも儚い。待ち時間が終わり、撮影が始まってしまえば、すべては一瞬で過ぎ去っていく。傍にいる男ともまた別れなくてはいけなくなる。
     腕を掴む手をやさしく剥がし、身体のかげに連れ込んで指を絡める。
     他の誰でもないバッキンガムが王冠を手に入れたのだから喜ばなくては半身とはいえない。

    「おめでとう」

     顔を合わせてからまだ伝えていなかった祝福の言葉を口にすると、バッキンガムはほっと表情を緩めた。

    「王冠を戴いた気分はどうだ?」
    「悪くない。だが所詮急拵えの偽物だ、本物には到底及ばん。本来ならどのような名目でも王の証はあんたの頭上にあるべきだが、それにしては素朴すぎるし、絢爛さにも欠ける。かといって、敵方には渡せん。輝きはどうであれ『王冠』だからな。俺にも過ぎたものだが、断って余興に水を差すわけにはいくまい?」

     嬉しさを隠しきれていないバッキンガムの得意げな話しぶりに、リチャードは思わず目を瞬かせた。機嫌がいいのは一目瞭然だったが、表に出ている以上に浮かれているらしい。
     珍しいと思うと同時に、胸の奥に押し込めた複雑な感情が再び顔をのぞかせる。

    「歓喜のあまり饒舌になるほど、か」
    「リチャード。今日のあんたは、些か意地が悪くないか?」

     ぽろりと転がり落ちた小石はトゲとなり、予想外の鋭さでバッキンガムに刺さっていった。

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