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    アメチャヌ

    ガムリチャか捏造家族かガムリチャ前提の何か。
    たまに外伝じじちち(バ祖父×若父上)

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    アメチャヌ

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    現パロ、ガムリチャ。
    リチャを瓶に詰めたい・閉じ込めたい(願望)
    閉じ込めるのは無理でも、閉じ込められるのは割りと簡単。

     リチャードが小さくなった。片手に収まる程度の背丈しかなく、羽根ペンよりも軽い。風が吹けば飛んでいってしまうのではないかと不安になって瓶の中に入れると、所在なげだった顔はみるみる悲しそうなものにかわり、ほろほろと涙を流してあっという間に内側を満たしてしまった。バッキンガムは慌てたが、リチャードは涙を止めて不思議そうな顔でぷかぷかと己が零した水にたゆたんでいる。膝を抱えて体を丸め、縦にくるりと一回転。色の異なる双眸を細めてくすくすと笑う。透明な瓶の壁を蹴って、涙の中を移動する。狭すぎて、こつんと後頭部をぶつけた。慰めるように指先でガラスに触れると、リチャードも同じように内側からガラスに触れる。つるりとした表面の、無機質な冷たさしか感じられず、切なくなった。

    「もっといい場所を用意しよう」

     こんな狭く寂しいところではなく、彼に相応しい場所を用意しよう。初めからそうすべきだった。大嵐が数多を吹き飛ばしても決して壊れない彼だけの楽園を作ろう。深さのある皿がいいだろうか。口も底も広いガラスがいいだろうか。木桶では駄目だ。味気ない。
     バッキンガムの提案にリチャードは気乗りではなく、耳を傾けながらも何処か遠くを見ていた。

    「リチャード?」

     視線の先をたどると、大輪の瑞々しい薔薇があった。いつ摘み取られたのか。いつから飾られていたのか。白い花びらは眩しく輝いている。

    「あれが欲しいのか」

     聞くと、リチャードはバッキンガムを見上げて頷いた。しかし瓶の口は薔薇の花よりも細く、一輪すべては入らない。試しにむしり取った花びらを入れてみると、瓶の中からリチャードが引き込んだ助けもあり、難なく収まった。彼の望みを叶えられたことにほっとする。花びらを手に入れたリチャードは嬉しそうにそれを抱きしめ、涙に浮かんだ。もう一枚、二枚と、請われるまま差し出す。おもむろに揺れる花びらと戯れるリチャードの姿は、まるで白いドレスを纏っているかのようだった。彼に相応しい場所と共に本物のドレスを贈るのもいい。
     思案しながら彼の望み通りにしていると、瓶の中はいつしか白い花びらだらけになってしまった。

    「リチャード?」

     目で追っていたはずの姿が見えず、動揺のあまり声を荒らげる。消えてしまったのかと恐ろしくなったバッキンガムをよそにリチャードはすぐ顔を見せた。僅かな隙間から髪が、表情が、手指が覗き、落ち着いている様子はどうにか窺えた。だが、花びらが彼を覆い隠すたびに次は姿を現さないのではないかと不安になる。

    「リチャード、リチャード」 

     名を呼んで存在を確かめる。花びらが動いて彼がそこにいるのだと教えるが、やがて白い揺らめきすらもなくなった。

    「リチャード」

     瓶を逆さまにすれば彼は出てくるだろうか。涙をなくしたら、まとわりつく薔薇に苦しむかもしれない。外からゆらすなど論外だ。瓶になど閉じ込めなければよかったのだろうか。これが最善だと思った。けれどそうではなかったのだ。バッキンガムはどうすることも出来ず、リチャードがいるのかいないのかも分からない瓶の前で深く項垂れた。
     
     

    ***
     
     

    「いつまで辛気臭い顔をしているつもりだ。いい加減見飽きた。うんざりする」

     リチャードの辛辣な言葉に反論もできず、バッキンガムは鬱屈を晴らすように(リチャードに気付かれないように)ため息をついた。
     すべては夢見が悪かったせいだ。と口にすることは簡単だが、そんな子供の言い訳じみたことを伝えるつもりはない。そもそも、辛気臭い顔をしているつもりもない。

    「いつも通りの顔だ」

     気にとめず答えたはずがリチャードは素直に受け取らず、呆れの混じった目付きでバッキンガムを一瞥した。
     珍しくよく晴れていて、公園内には人が多い。大人しくて気味が悪いと揶揄するリチャードに連れられて日光と緑を楽しみに来たはいいが、清々しい空気のなかにいてもバッキンガムを沈める胸の重りは軽くならなかった。
     夢は所詮夢でしかない。深層心理のあらわれだという俗説もあるようだが、スピリチュアルもオカルトも信じていないバッキンガムにとっては関係ない。アイスクリームスタンドのカウンターにドライフラワーを閉じ込めた小瓶など飾られていなければ、忘れられるはずだったのだ。間の悪い偶然に嫌気が差して、気分も口もますます重くなる。
     店員からアイスクリームを受け取ったリチャードの後ろを歩きながら、飲み込み損ねたため息をまたそっと吐き出した。
     陽の光が降り注いだ細い黒絹は、輪の輝きを戴いている。優しく風が吹けば毛先は揺れ乱れ、押さえる手指にも、風を受ける横顔にも、確かなぬくもりが感じられた。
     立ち止まって見つめていると、遅れたバッキンガムに傷一つない繊手が伸ばされた。振り返ったリチャードは無言で待っている。眉を寄せても、手が下げられることはなく宙に浮いたままだった。仕方がなく距離を埋めて手を握ると、リチャードは満足気に口角を上げてアイスクリームを舐めた。
     ほのかにキャラメルの甘いにおいがする。
     絡めた指も、てのひらも、少し冷えてはいるが、切なくなるような冷たさではなかった。
     やはり、あの光景は夢でしかない。
     音もなく、薄っぺらで、自分勝手な殴り書きを無理やり読まされたような、ざらついた後味を、今になって覚える。
     悲劇はいつの世も人気のジャンルだが、夢にまで観たくはないものだ。

    「さっさと機嫌を直せ」

     アイスクリームを向けられ、首を横に振る。

    「元々悪くない」
    「そんな訳がないだろう。今朝なんか……」

     コーンを齧る音に消えていく声を訝しんで目をやると、物言いたげな濃い瞳とかち合った。

    「今朝? 今朝がなんだ」
    「朝の挨拶もなかった」
    「しただろう」
    「そうかもしれないな。だが、俺はされた覚えは無い」
    「馬鹿な。忘れるはずがない」

     不平が滲んだ顔をそらされ、バッキンガムは眉を寄せて朝のことを思い返した。
     眠るリチャードを置いてベッドから抜け出し、塞いだ気分のままコーヒーを淹れていた。程なくして起き出してきた彼と言葉を交わし、コーヒーか紅茶かと尋ねた。同じでいいと言うので、丁寧にドリップしてカップを渡した。ソファに座る彼とは並ばず、クッションの形を整え、イノシシとは名ばかりの、豚のような縫いぐるみをリチャードの膝に置いて、植物に水をやっていると、起き抜け特有のやわらかい笑みでからかわれ……。
     あることにふと気がつき、バッキンガムはばつの悪さに遠くの緑に向けて口を開いた。

    「……ひとつ、忘れていたことがあったな……」

     すかさず、リチャードの低い声が耳に届く。

    「ひとつ?」
    「いや……いくつか……」
    「そうだろう」
    「帰ったらあんたの気が済むまで」

     誠心誠意、謝罪を。そう告げるつもりで話していると、繋いでいる手をくいっと引かれた。揺れる木の葉から隣へと視線を下げるとアイスクリームコーンまですっかり食べ終えたリチャードが有無を言わせぬ強さで「言ったな?」と念を押してくる。穏やかではない空気を感じながらも頷くと、リチャードは足を止めた。

    「なら、帰ろう」
    「来たばかりなのにか?」
    「俺はまだ朝を迎えてはいないからな。朝を迎えにいく」

     踵を返し、今までのゆったりとした歩調が嘘のような機敏さで公園の入口へと戻っていく。
     散策を楽しみ、帰り着いた家で、朝に忘れたキスとハグを念入りに出来ればよかっただけなのに、リチャードには別の思惑があるようだった。

    「俺の気が済むまで、なんだろう?」

     何を、と口に出しそびれたのはバッキンガムだ。半端に渡してしまった言葉をリチャードがどう受け取ろうと、それは彼の自由だ。訂正するのは簡単だが、彼を再び失望させることは避けたい。
     鬱屈は跡形もなく消え去ったが、新たな問題がバッキンガムの胸の内を乱し始めた。

    「すぐ夜になりそうだ」

     リチャードの様子だと、軽い触れ合いだけでは済みそうにない。
     太陽とはこれで暫しの別れか。贅沢な嘆きを漏らすと、リチャードが可憐な笑みで振り返る。

    「そういう日もある」

     あまりの眩しさに目眩がした。


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    アメチャヌ

    DONE*最終巻特典の詳細が出る前に書いたものです、ご承知おきください。

    69話の扉絵がバッキンガムが65話で言ってた「美しい場所」だったらいいな〜、地獄へ落ちたバッキンガムがリチャードのお腹にいた(かもしれない)子とリチャードを待ってたらいいなぁ〜……という妄想。
    最終話までのアレコレ含みます。
    逍遥地獄でそぞろ待ち、 この場所に辿り着いてから、ずっと夢を見ているような心地だった。
     
     薄暗い地の底に落ちたはずが、空は明るく、草木は青々と生い茂り、湖は清く澄んでいる。遠くの木陰では鹿のつがいが草を食み、丸々と太った猪が鼻で地面を探っていた。数羽の鳥が天高く舞い、水面を泳ぐ白鳥はくちばしで己の羽根を繕う。

     いつか、あの人に見せたいと思っていた景色があった。

     まだ乗馬の練習をしていた頃。勝手に走り出した馬が森を駆け、さまよった末に見つけたその場所は、生まれた時から常に血と陰鬱な争いが傍にあったバッキンガムに、初めて安らぎというものを教えた。
     静謐な空気に包まれたそこには、あからさまな媚びも、浮かれた顔に隠れた謀略も打算もない。煩わしさからはかけ離れた、ほかの誰も知らない、誰もこない、自分だけの特別な場所だった。
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