いつか見た夢「……ふう」
バレンタイン当日。抱えきれなくなったチョコを宿舎の部屋に持ち帰り、空いていた収納ケースに入れて整え、ソファに寝転がった。今年も食べ切るのが大変そうだ。
カリンにバレン谷に呼ばれたものの、あの阿鼻叫喚の地獄絵図に巻き込まれるのはごめんだと断り、ギュリアムに残った。だというのに、結果は似たようなものだった。一体どこから嗅ぎつけるのか、女たちはどこからともなく現れて大量のチョコを渡してくる――もとい、襲ってくる。その波の中に双眼鏡やら地図やらが見え隠れするので、複数人で結託して俺を探し出している者もいるようだ。クローナイツのファンも国民も大事ではあるのだが、ここまで来ると、自分でも本業が何なのかわからなくなってしまう。まったく、恐ろしいイベントだ。
しばらくここにいようかと思ったが、まだ昼だし、せっかくの休みなので狩りにでも行きたい。だが、いつ女たちが押しかけてくるかわからない状況だ。集中できないのは目に見えている。
「今日は仕方ねえか……」
諦めかけた時、ふと彼女のことが頭をよぎる。当然だが、女たちの中に彼女の姿はなかった。元々こういうことには興味がなさそうだし、期待しているわけでもない。むしろ、照れながらチョコを渡されたりしようものなら、何かおかしなものでも食べたのかと疑ってしまうほどだ。だいたい、アレがそんな用でここまで来るとはとても思えない。
――そういやあいつ、チョコ好きだったな。
身を起こす。ここでじっとしていてもつまらない。差し入れがてら、良さそうなのを買って行ってやろうか。男の俺がやるというのもおかしな話かもしれないが、彼女はそういうのを気にするタチでもない。
そうと決まれば、と別の服に着替え、前髪を下ろして伊達眼鏡をかけ、洗面所の鏡の前に立ってみる。……が、これだけでは変装として不十分だ。何か、決定的に自分だとバレない方法はないものかと頭を巡らせていると、ふと彼女の落とし物を拾った時のことを思い出した。そうだ、引き出しにしまったまま返すのを忘れていた。悪いが、少し使わせてもらおう。
「………………なんだその格好は」
誰だ、と驚くかと思ったが、一目で見抜かれてしまった。
まあ髪の色はそのままだったし、身長もごまかしがきかない。それでも気弱な下っ端のフリをして、なんとか抜け出してこられたのだが――ああ、そうか。ここに来るのが俺しかいないからか。
スコット高原の小さな広場、その大きな木の下で、彼女――チハギはひっそりと野宿生活をしている。俺と部下が、彼女を降魔だと勘違いして連行してしまったせいで、彼女はギュリアムの民に疎まれ、追い出されてしまった。その後、民の誤解は解けたものの、降魔を想起させる彼女の能力を不気味に思い、未だ良く思っていない者が多い。本人にそれを気にしている様子はなく、むしろこの生活が合っていると言うが、俺としては気がかりだった。そして、どうも危なっかしいということもあり、色々と世話を焼いているうちに、すっかりここに来るのが習慣になったのだ。
チハギは俺を上から下までまじまじと観察したのち、少し考えるそぶりを見せると、ああ、と手を鳴らす。
「ファンを撒いてきたのか」
「ああ、苦労したぜ」
「くっくっ……いや、すまない。君も大変だな」
必死に笑いをこらえる彼女。キリアンの選んでくれた、いつもとは雰囲気の違う綺麗めモノトーンコーデとかいうやつは、自分でも結構イケていると思っていたのだが、その他の部分のインパクトが強すぎたらしい。なんだか気恥ずかしくなってしまう。
「しかし、そうまでしてなぜここに来た? 何か用でもあるのか」
「用ってほどじゃねえよ、いつも通り遊びに来ただけだ。……そうだ、まずはこれを返しとかねぇと」
ポケットから小さなケースを取り出し、手渡した。ワコクのブランドのおしろいだ。
「これは――君が持っていたのか。なくしたと思っていたら。どこにあった?」
「グレン山林に落ちてた。前にお前が持ってたのを見たことがあるし、あんなとこでそんな独特のブランドのを落とすのはお前しかいねえだろ」
「そうか、助かった。ありがとう。……ああ、その肌の色は、これを使ったのか」
「ああ、悪いがちと借りたぜ」
「構わない。パフやブラシなどなかったろうに、よくそこまで綺麗に整えられたな」
「その程度なら、なんだって代用はきくさ」
ちょっとしたアジトのようになっているこの広場は、奥まった場所にあり、深い茂みに覆われていて外からは見えない。当然知っている者はいるだろうが、まさか俺がこんな所に隠れているとは思わないだろうし、宿舎には日が暮れてから戻ればいい。
ひとまず眼鏡を外し、化粧を落として一息ついた。そして忘れないうちにと、上着のポケットから小さな箱を取り出す。
「ほれ、差し入れだ。お前のことだからもう自分で調達してるだろうが、こういう洒落たやつは買わねぇだろ」
「こ、これは……ゴッド・イヴァ!? 質より量重視の私には、到底手の出せない……!」
箱を手にし、ふるふると震えるチハギ。ありがたい、家宝にすると言いながら、それをばあさんの遺影の前に供えた。
「おいおい、大袈裟だな……ちゃんと期限までに食えよ?」
「もちろん。それまで、ゆっくりじっくり味わいながら頂く」
遺影……いや、チョコ? に手を合わせながら、噛みしめるように言う。が、急に何かに気付いたように目を開けると、合わせた手をぽんと叩いた。
「そうだ、こちらも渡すものがあった」
そばに置いてあったバッグをまさぐり、大きな細長い箱を取り出すと、俺に手渡す。
「バレン谷に露店を開いていたドワーフの酒屋で買ってきた。君なら知っているかもしれないが、この時期限定の酒らしい。チョコに合うそうだ、ファンからもらったチョコと一緒に飲むといい」
予想外にも、贈り物を用意してくれていた。しかもチョコではなく酒とは、型にはまらない彼女らしい。
「おお、ありがとな。……初めて見る銘柄だ」
「そうか。君の好みを知らない上に、私は酒を嗜んでいないのでな。口に合わなかったら申し訳ないが、ドワーフの酒は一級品だと聞いている」
「ああ、あいつらの作る酒なら間違いはねえよ、ありがたくもらっとくぜ。……と」
ふと彼女の後ろに目をやると、そこには同じ包装の箱がいくつも積まれていた。
「そっちはなんだ?」
「ん? これは同じ店で買った自分用のチョコだ。高級なものではないが、君も食べるか?」
「自分用なのにいいのかよ」
「ああ、見ての通りたくさん買ってあるからな」
「どんだけチョコ好きなんだよ。……まあ、そういうことならもらうか。どうせならこの酒も開けるかな」
「今飲むのか!? 別に構わんが……君が勝手に置いていった栓抜きやグラスもあるしな……」
やれやれとため息をつくチハギ。もっと笑った顔を見たいのは事実だが、いつものその表情を見るとなんだか安心する――などと言えば、彼女はうんざりするだろうか。
多くの人から特別な気持ちを向けてもらえるのは、ありがたいことなのかもしれない。だが俺にとっては、彼女と過ごすこういう時間こそが何より大切で、特別だった。
チハギは本心がわかりづらい上に、おかしな気の遣い方をする奴だが、俺のことを考えて酒にしてくれたのだとしたら――それは、あいつにとっても特別、ということなのだろうか。
――あー、やめだ、やめ。何を柄でもねえこと考えてんだ、俺は。
手近にあった薪を、まとまらない思考と共に火の中へと放り込む。
「元々はチョコにする予定だったが……ファンと一緒にされたくなかったのでな、やめた」
――――と。
何気なく漏れた彼女の一言が、思考を呼び戻し、混乱させる。
「……それは、どういう――」
「そのままの意味だ、私まで追っかけだと思われては困る」
「ぶっ……! いや、それはないから心配すんな。だいたい、来てんのは俺の方だろうが」
「それもそうか」
――なんだ、驚いた。……いや、なんで驚いた? まあ……いいか。
今度こそ考えることをやめ、焚き火に手をかざすと、隣に座ったチハギがチョコの箱を火から離す。
「あまり近付けると溶けるぞ」
「ああ。野戦の非常食にチョコを持っていくことがあるからな、距離はだいたいわかってるさ」
「…………」
それを聞いて、彼女は少し表情を曇らせる。
「……君にとってチョコは、あまりいいものではなかったりするのか」
「いいや。同じ食いもんでも、食う場所や場面によって味も気分も変わるだろ? チョコにトラウマがあるならともかく、気にする奴はほとんどいないんじゃねえか」
「ならいいが……」
「じゃあ俺からも聞いていいか。お前はなんでそんなにチョコが好きなんだ?」
どこからか調達しては、毎日のように食べていることを知っている。だが理由を聞いたことはなかった。
彼女は箱からトリュフを取り出すと、親指と人差し指で小さく転がしながら、懐かしむように話し始めた。
「……昔、祖母がこっそり買ってくれていたのを、母に内緒でよく食べていたんだ。一緒に食べることもあった。単純に味が好きというのが一番だろうが、思い出でもある。
だが一度、母に見つかって捨てられたことがあってな。あの時のチョコには悪いことをした、本当に悲しかった……今でも忘れられない」
「…………」
「だが、それでも良い思い出の方が多いし、これからもそうあってほしいと思う。……だから、チョコが君にとって悪いものでなくて良かった」
小さく微笑むと、トリュフを口に放り込み、満足そうに頷きながら咀嚼する。
「……だったら、これからも俺が一緒に食ってやるよ。バレンタインの日じゃなくたっていい」
ぽつりと呟いた言葉に、彼女の口の動きが一瞬止まる。しばしの沈黙ののち、彼女は大きく深呼吸をすると、こちらに向き直った。
「ありがとう、でもいいんだ。君はよく一緒に狩りや食事をしてくれる、私はそれだけで十分だよ。……君は祖母ではないし、祖母の代わりでもない。君は君のまま、友人として居てくれればいい」
――友人、か。
確かにこいつは友人であり、狩り仲間や料理仲間でもあり、一緒にいて飽きない面白い奴だ。だが――
「そんなつもりで言ったんじゃねえよ。なんつーか……そう、だな……」
ここに来て、先程思考を放棄してしまったことを後悔する。
「俺はばあちゃんと同じポジションにつきたいワケじゃねえ、お前にとっての特別でありたいだけさ」
「…………」
いつの間にか、焚き火の炎が小さくなっていた。いつもなら、しゃべりながら無意識に追加しているのだが、今日はどうも考えることが多い。白黒つけられないことは嫌いだが、なんとなくつけてはいけない気もして、余計にモヤモヤしてしまう。だが、今言ったことに偽りはなかった。
チハギは少し考えるそぶりを見せると、手にした薪を弄びながら唇を開いた。
「君は……とっくに特別だよ。今まで君のような者に会ったことがないのでな、なんと表現すればいいのかはわからないが」
薪を火にくべ、口元を緩める彼女。……思えば、随分と穏やかな顔になった気がする。会って間もない頃は、怒りや憎しみの表情しか見たことがなかった。これが本来の彼女なのか、それとも――
「……そうか」
――いや。それ以上、何を求めることがある。
俺の願いは、行き場をなくした彼女が、笑って過ごせるようになることだ。それで十分だろう。
「大丈夫か?」
彼女に顔を覗き込まれ、はっと我に返る。
「だいぶ疲れているように見えるぞ、少し寝るか?」
「……ああ、悪い。そうするかな」
確かに、今日は朝から大勢に追いかけ回され、今は今で頭を使いっぱなしだ。
いつもの木のそばに移動してもたれかかり、腕を組んで目を閉じる。仕事の休憩中にここに寄って、そのまま昼寝することがしばしばあった。
「では、後で起こそう。20分でいいか」
「ああ、頼む」
パチパチと燃え続ける焚き火。その眠りを誘う音に、意識はあっという間に降下を始める。
その中でふと、彼女の匂いと優しいぬくもりに包まれた。今日は特に冷えるからか、気遣って何かを被せてくれたらしい。
――ああ、気持ちいいな。
ふわふわとした感覚に酔いながら、意識を沈めていく。
そして――小さな夢を見た。
イアルの服に身を包んだチハギと、一緒にギュリアムの街を歩いている。買い物をしたりカフェに寄ったり――そう、俺にとってはごく普通のことだ。それでもあまりに信じがたい光景で、ほんの少し意識も残っていたので、夢であることはわかっていた。
だがこれは、いつかあるかもしれない未来……なのだろうか。彼女が屈託なく笑って、楽しそうにギュリアムを歩く、そんな都合のいい未来。
「……カイト」
「ん?」
「……その。私、ずっと君に言いたかったことが……あってな」
彼女が俺の頬を両手で包み、そっと顔を近付ける。そして――
「起きろ!」
「どわっ!?」
間近で叫ばれ、ビクッと肩が跳ねる。目の前には確かに、俺の頬を両手で包んだ……もとい掴んだチハギがいたが、その剣幕たるや、夢の中の彼女と同一人物とは思えなかった。夢というのは不思議なもので、目を覚ます直前と直後の光景を実に上手く繋いでくる。今回はその差が大きすぎて、危うく心臓が止まるところだったが。
俺がちゃんと起きたことを確認すると、彼女はため息をつき、焚き火の前へと戻っていった。
「少し声をかけただけでは起きる気配がなかったのでな。5分後、また5分後で計10分延長した」
「そ、そりゃあ悪かったな」
意識は少しあったはずだが、彼女の呼び声を夢の中の彼女の声と認識していたのだろうか。全く気付かなかった。
のっそりと立ち上がり、再び焚き火の前へ移動すると、彼女に毛布を返す。あんな夢を見た直後ではどうも接しづらい。かといって帰るにはまだ早いし、どうしたものか。
「ほら、これでも飲むといい」
「……あ、ありがとよ」
まだ寝ぼけているように見えたのか、彼女が水を入れたコップを差し出してくれる。一気に飲み干すと、頭が少し冷静になった。
「……なあ、チハギ」
ぼんやりと炎を眺めながら、声をかける。
「お前、いつまでここにいるつもりなんだ」
「唐突に何を言う。……別に、いつまでと決めているわけではない。迷惑なら別の場所を探すが」
「そんなんじゃねえよ。ただ……ここにいたら、いつまで経っても――」
――夢の中の笑顔には、届かない気がして。
わかっている、元はといえば自分のせいだ。能力に関してはいずれ発覚していただろうから気にするな、と彼女は言ったが、事件を起こした恐ろしい人物だという先入観がつきまとっていることに関しては、責任を感じずにはいられない。
「……いや。すまねえ、忘れてくれ」
――だが。
ギュリアムに限らず、色んな奴と交流してこの世界を知って、心から笑うようになってほしいと思う傍らで、俺は――。
「……なんだか先程から様子がおかしいな、君は。これから薪と野菜を買いに行くが、どうする」
「あ、ああ、俺も行く」
「それがいい。君のようなタイプは、体を動かしていないと灰になりそうだからな。こんな風に」
薪を火消し壷に入れながら、焚き火台に溜まっている灰に目をやる。
「お前な……俺をなんだと思ってんだ。
ああ、火消しはやっとくからいい、お前は出かける準備しとけ」
「ああ、頼む」
下手だった狩りも、辿々しかった焚き火も、すっかり板についたようだ。消火するのに、水に濡らした黒衣を被せるという力技を披露された時は、どうしようかと思ったが。
「何を笑っている、行くぞ」
壺の蓋を閉めると同時に、声をかけられる。女の準備は時間がかかると言うが、チハギの場合は必要最低限の荷物をまとめてテントの施錠をする程度らしく、いつもあっという間に終わる。そこでふと、化粧を落としてしまったことを思い出すが、そろそろ日が落ちるのでまあいいだろう。
彼女の後を追い、茂みをかき分けて道に出ると、彼女は思っていたのとは別の方向へ歩き出した。
「おい、どこへ――」
「なんだ、ギュリアムはこっちだろう」
「――――」
さらりと言う彼女に、思わず絶句する。
「……先日、近くを歩いていた時に、わざわざ声をかけて作物を分けてくれた者がいるんだ。薪と野菜のつてはその者の店だよ。迷惑をかけるからと断ったんだが、主人が強面でな、今のところ逆らった者はいないらしい。
一歩国に入れば、私を白い目で見る者がいる。石を投げてくる者もいる。……それでも、ちゃんとわかってくれている者もいる。私はそういう人間を大切にしたい」
「…………」
「まだ堂々と国中を歩くことはできないが、少しずつでも打ち解けることができればと思っている。話の通じない者が一定数いるのは、仕方のないことだ」
――驚いた。まさかこいつが自ら、そんな風に思うようになっていたなんて。
俺がどうこうするまでもなく、彼女はちゃんと自分の足で、前に進もうとしているのだ。
「……なるほどな、やっとわかった」
「何がだ?」
「俺は……お前にギュリアムに馴染んでほしいと思いつつも、俺の元を離れて、どっか手の届かない所へ行っちまうのが嫌だったんだな。お前は俺の所有物でもなんでもないってのに、悪い」
「ふむ。おかしいと思ったら、そんなことを考えていたのか。いわゆる、手塩にかけて育てた娘を嫁にやる父親の心境、というものか」
「そ、そうなのか……?」
「知らん、想像だ」
何か違う気はするが、他に適切な表現が見つからないので、そういうことにしておこう。
「まあ、それはいい。ところで相談なんだが、買い物ついでに服を見繕ってもらえないか」
「え――」
戸惑う俺に、チハギは自分の服の襟をくいくいと引っ張ってみせ、小さく肩をすくめる。
「今はこのような服しかないのでな。君が今着ているようなイアルの普段着も、一枚くらいは持っておきたい」
「それは構わねぇが……期待はするなよ」
「期待はしていないが、良し悪しはわかるだろう。おかしくなければそれでいい」
「……お前もこっち側の人間か」
「こっち側?」
「なんでもねえよ」
――俺が見たあの光景は、いつかあるかもしれない未来ではなく、そう遠くない未来なのかもしれない。
嬉しさに思わず肩を抱き寄せると、俺の気を知らない彼女は、あからさまに迷惑そうな顔をする。なんだ気持ち悪い、歩きづらいから離せと言って腕を外し、さっさと歩いていく。相変わらずつれない奴だが、その背中に、以前のような冷たさや脆さは感じられなかった。
――大丈夫だ。今のこいつなら、きっとそのまま突き進んでいける。
彼女の後をゆっくりと追いながら、俺は、夢で見たあの笑顔を思い出していた。
「あ、そうだ」
ふと、彼女が立ち止まる。
「君のその服、よく似合っているぞ。なかなか格好いい」
振り向きざま。
甘い微笑みと共に、何気ない挨拶のように降ってきたその言葉は、今日一番に俺の心を乱した。嬉しいのに少し苦しいような、こそばゆくてもどかしいような、そんな感覚。
俺をずっと悩ませていたそれの正体に気付くのは、この日からほんの少し先のことだ。