目が離せない「………なんですか、これ」
「ん?」
自分の問いかけに対し、いっそ無垢と言える瞳で見上げてくる男にため息をひとつこぼす。
小さな街の海沿いに建つオンボロアパート。世間的には死んだことになっている男が二人ぎゅうぎゅうに詰まって暮らしている部屋の狭い台所にある、不自然なほどデカいスチロールの箱。蓋を開ければ敷き詰められた氷の中に大小様々な海鮮と立派な真鯛がど真ん中に鎮座していた。
「ああ。ちょっとな」
「ちょっと、で持って帰ってくるモンじゃないと思うんですがねえ、これ…」
魚屋で買えば総額いくらになろうかというほどの中身から目を逸らしてスチロールの箱をそっと戻す。
染谷は流れ着いたこのアパートで桐生と暮らすようになってから、たびたび持って帰ってくるこのように不可解な土産にも慣れたつもりだったが、まだ面食らってしまうことがある。
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