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    loveandpeace_kd

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    loveandpeace_kd

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    2025.01/18~19に行われたフェイディノWebオンリーにて展示させて頂いた小説です。
    以前の2作の続きになるので前作2品を読んでから読まれた方が楽しめるかと。ギリギリ投稿になってしまってすみません💦

    Side:F

     近頃何だかディノの様子がおかしい。キースやジュニアが話し掛けてもいつもと変わらないのに俺が話し掛けると明らかに態度が変わるのだ。

    「ねぇ、ディノ」
    「ふぁい!? ど、ど、どどうしたんだフェイス!」
    「いや、どうしたんだって。どうかしてるのはディノの方でしょ?」

     こんな風に俺が声を掛けるとちょっと大袈裟なんじゃない? ってぐらい肩を跳ね上がらせ、視線はあちこち宙を彷徨うし、声も上擦っている。まあ理由は言わずもがな先日の俺のディノへの告白の一件だろう。俺がディノに好意を抱いてから色々なアピールをしてみたものの、誰が見ても自分への好意については鈍感だと言われているディノは全く俺の好意にも気付かなかった。だから気は乗らなかったものの、ディノのことなら何でも分かっているだろうキースに相談してディノへ俺らしくもない告白をしたのだ。結果は……、イエスでもノーでもなく“少し考えさせて”だった。だけれど、その言葉を返したディノの表情は今まで見た事も無い感じで、相手に俺の事を“可愛いメンティー”以上の相手、と言う感情を持たせる事が前回の目標だった為、かなり良い結果を出せたのではないかと思う。ディノには申し訳ないけれども彼のファーストキスを奪えた事もかなりの収穫だったし。だから、あの日以降もっと積極的に“好き”アピールをして俺の事が気になって仕方ないぐらいにしようと思っていたのに……。

    「俺の事、そんなに意識してくれるのは嬉しいんだけどちょっとここまで警戒されるのは流石の俺も落ち込むなぁ〜」
    「ご、ごめんフェイス!! 警戒してるとかそういう訳じゃないんだ! ただ今までどうやって話していたのか分からなくなって」
    「そんな事ある? ディノって本当に恋愛経験値ゼロなんだね。まぁそんな所も可愛いけど」
    「か、可愛いくない!! 俺は君より9つもお兄さんなんだからな!」
    「年齢なんて関係ないでしょ。それともディノは歳の差カップルに反対派?」
    「そ、そんな事は無いけれど……。愛に年齢も性別も関係無いって思うし……」
    「誰かを好きになる気持ちはラブアンドピース……☆だもんね?」
    「今のひょっとして俺の真似? 全然似てない!」
    「アハ。別に似せようと思ってやった訳じゃないからね。ディノのそれは唯一無二だし」

     どういう意味だ? と首を傾げる相手に俺は小さく笑う。俺より9つもお兄さんなのに何でいちいち彼はこんなにも愛らしいのだろう。俺より身長だって高いし、細身だけれどしっかり鍛えられた身体はどう見たって男そのものできっと抱き心地だって良くない。でもいつだって今だって俺はこんなにもディノ・アルバーニという男に夢中なのだ。だからどうしても彼と特別な関係になりたい。ただのメンターとメンティーと言う関係じゃなく、ディノにとっての唯一無二になりたいのだ。

    「おいおい、こんなリビングでいちゃこくんじゃね〜よ。うちには思春期真っ盛りのお子ちゃまが居るんだからよ」
    「あれ、キース珍しいね。今日はオフなのに外から帰ってくるなんて。しかも制服着てるし、またレポート提出忘れてブラッドに呼び出されたの?」
    「それだけじゃね〜よ。悪い事をメンティーに吹き込んだ罰だって朝一から呼び出されて今までずっと雑用を手伝わされてたんだよ。クソ〜せっかくのオフが……」
    「えっ、悪い事をメンティーに吹き込んだって……キース、ジュニアに何を吹き込んだんだ? 駄目だぞ、ジュニアは純粋なんだから!」
    「うるせ〜! 元はと言えばお前らが……」
    「お前らが……?」
    「……いや、何でもね〜よ。俺は呑みに行って来る。お前らもイチャつくなら他所でやれよ〜」
    「い、イチャついてなんていないって!!」
    「待ってキース。俺も外に出る用事あるの思い出したから一緒に出よう」
     
     そう言って俺もキースと一緒にウエストの部屋から出た。ウエストの部屋で一人きりにされたディノのしょぼん顔に後ろ髪を引かれなかったと言えば、嘘になるけれど今はどうしてもキースに確認したい事があるのだ。タワー内では当たり障りの無い他愛もない会話をして、タワーを出てしばらくしてから俺は本題に入る。

    「あのさ、もしかしなくてももしかしてブラッドに話した?」
    「……察しが良いな。流石はあのブラッドと血が繋がっているだけの事はあるぜ。だが残念だったな、話したのはオレじゃねぇよ。ディノだ。どうやらお前にいきなり告られてテンパってブラッドに相談したらしい」
    「嘘でしょ……、最悪なんだけど」
    「バッカ、お前最悪なのはこっちだ。お前にどんな悪知恵を吹き込んだんだ、とかディノへの配慮がまるで足りていないだとか、メンティーの指導をきちんとしろだとかずーっと朝からぐちぐち説教されたんだぞ」
    「えぇ? ちょっとあの人ディノに対して過保護過ぎない? て言うかディノの何なの」
    「アカデミー時代からブラッドはディノに対してだけ激甘なんだよ。つかお前、いきなりディノにキスしたとかマジかよ」
    「イヤ、それをけしかけたのはキースでしょ。まさかファーストキスだったとか聞いてないんだけど。そう言う大事な事は予め話しておいてよ。知ってたらもっとディノの思い出に残るファーストキスを演出したのに。遊びの延長線上でしたみたいになっちゃったじゃん」
    「知るか〜心底どうでも良いわ〜そんな事。何でオレがお前らに巻き込まれてせっかくのオフの半日を潰されなきゃなんね〜んだよ」
    「ディノと付き合えたらちゃんとキースにはお礼するって。良いお酒プレゼントするからもう少しだけ協力してよ」
    「はぁあ……。良いか、最初に話した通り、ディノに寄ってくる悪い虫を追い払うぐらいしかオレは協力してやれね〜からな。まぁ今更オレがそんな事しなくてもって感じだと思うけどよ」
    「えっ、どういう事?」
    「さぁなぁ〜。それはディノに聞いてみろ。ったく、な〜んでオレが他人の色恋沙汰のアレコレに手を貸さなきゃなんねぇんだ。しかも身内だしよ〜頼むからこれ以上ブラッドに首を突っ込ませる様な面倒な事はしてくれんなよ?」

     そう言ってキースは飲み屋街が多く連なる方へと歩いて行く。その背中を見送って俺はさて、どうしたものかとスマホを取り出した。
     本当はキースに絶対にディノを落としてみせるからって言いたかったけれど、こればっかりは流石の俺も分からない。何と言っても相手はあのラブアンドピース星人なのだから。本当は今日はせっかくのウエストメンバー揃ってのオフだし、ディノと二人でゆっくり過ごしたいって思っていたけれど、今のあの状態のディノにあまりグイグイいかない方が良い気がする。少なくともかなり俺の事を意識してくれているみたいだし、ここからは押して駄目なら引いてみろ作戦も良いかも。そう思い、俺は確か今日同じオフだったベスティに連絡を入れた。まさかこの時のこの判断が俺にとっての転機になるなんて思ってもみなかった。

    *****

    Side:D

     ブラッドに相談して自分の気持ちをハッキリと自覚した俺は、どうにかフェイスにそれを伝えようと心に決めていた。けれども、フェイスを目の前にすると初めて自覚したその感情に動揺し過ぎて上手く会話が出来ないのだ。好きだと思う相手に自分の気持ちを素直に伝えるのは得意な方だ。でもそれは友愛の感情で、相手に特別な何かを持っていた訳では無かったから。家族も仲間も友人もファンの人も皆、同様に大切で、守りたい気持ちは一緒だった。けれどもフェイスは違う。言われて初めて気付いた今までに無かった感情。それはまだ小さいけれども確かに俺の中にあって、日々育ち続けている。多分、フェイスに想いを伝えられたあの日よりも前から俺の心にあって、きっかけは多分ルーキーズキャンプの後。俺の拙い言葉で心を開いてくれた彼はその日から打って変わって俺に懐いてくれる様になった。きっとこの優しさは彼が元々持つものだ。まだ子供の頃のフェイスに会った事がある俺は知っている。彼が誰にでも愛される素質があって心優しい人だって事を。だから俺はそんな彼の良さを思い出させてあげただけ。でもフェイスはそんな些細な事で俺に心を開いてくれて、彼の中の大切な人の枠に俺を入れてくれた。そして、恐らく俺の中でフェイスへの今までと違った“好き”の感情を抱くきっかけになったのがバレンタインLOMの時だろう。サブスタンスの影響で思ってもいない言葉を吐き出してしまった俺はチームの皆に“大嫌い”と言い放ってしまった。キースもジュニアも勿論フェイスもそれはサブスタンスのせいだからって言ってくれた。でもあの頃の俺はイクリプスのスパイをやらされていた頃の悪夢をずっと見ていて、自分で思っているよりも吐き出したその言葉にショックを受けてしまい、塞ぎ込んでしまったのだ。幸いにもノヴァさんや研究部の人達のお陰でその効果を打ち消す特効薬を直ぐに飲む事が出来た。けれども一度吐き出した“大嫌い”と言う言葉を取り消す事なんて出来ない。それで凹んでしまった俺にフェイスは自分の気持ちを伝えてくれたのだ。

    『ディノが【イクリプス】だった時間と比べたら、【HELIOS】に戻って、俺たちと過ごした時間なんてほんの僅かだけど……確かなのは、こっちが“今”ってこと。昔のことを思い出して苦しくなったりするのはわかるけど……今、ディノがいるのは【HELIOS】で……。みんながそばにいるってことを忘れないで』

    『俺はディノみたいに、ひとつひとつの言葉をそこまで大切に思ってこなかった。好きでもない子に“好き”って言えたり、どうでもいいことに“いいね”って言ったり……。心にもない適当な言葉を散々吐き続けてきた。でもこれからは、もう少しちゃんと考えて言葉にしようと思う。言っちゃった事は取り消せないし、後悔しても仕方ない……そのくらいの気軽さで、一緒に仕切り直さない?』

     フェイスだって好んでそういう事を女の子にしてきた訳じゃない。彼がアカデミーで色んな人から受けた言葉や態度がフェイスをそういう風に変えてしまったのだ。きっと、心を殺す事が自分を守る唯一の術だったから。けれどもフェイスはその事を自分の弱さから来た欠点だったと真っ直ぐに受け止め、変わろうとしていた。そしてそれに気付けたのは俺のお陰だと伝えてくれたのだ。あの日からきっと俺は自分でも気付かない気持ちを心に宿らせている。その感情に新たな命を吹き込んでくれたのもフェイスだ。だからあんなに真っ直ぐに自分の気持ちを伝えてくれた彼に、感謝の気持ちと一緒に俺もフェイスの事が好きだよって返したい。けれども恋愛初心者な俺にはハードルが高過ぎる上に初めて誰かに対して恋愛感情と言った気持ちを抱いたせいか、今まで普通に出来ていた日常会話すらも緊張してしまって上手く話せないのだ。もうアラサーになる年齢だと言うのに何て不甲斐ない事か……。せっかく多忙なブラッドに相談に乗ってもらったと言うのに。俺が余りにも挙動不審なせいでフェイスを落ち込ませてしまったし、俺の方が9歳もお兄さんだって返したけれど、これでは本当にどちらが年上か分からない。用事があるって言ってフェイスもキースと一緒に外に出てしまったけれど、きっとあれは俺を気遣っての嘘だろう。最近はずっとセクター全体でオフの時はフェイスは俺と一緒に居てくれる事が多かった。ジュニアはバンド活動があったり、オフの時はお兄さんに会いに行く事が多い。キースもたまにピザ巡りに文句を言いながら付き合ってくれたりするけれど、ジェイやリリーさんと言った呑み仲間も居るし夜は呑みに出る事も珍しくない。今日みたいに良いバーとかを新規開拓しに一人で出かける事も多々ある。フェイスもDJの方の仕事で出掛ける事もあるけれど、それ以外は最近はずっとオフの日を共に過ごして来た。だから自分の気持ちに踏ん切りがつかない今、二人きりになるのは確かに緊張するけれど、この広いリビングで一人なのも少し寂しい。フェイスに気を使わせてしまって何を言っているんだって話だけれど。

    「俺もどこか出掛けようかな……」

     今から俺も一人で出掛けて大好きなピザを食べに行く事も出来るけれど、どうにも気分が乗らなかった。どうせ大好きなピザを食べるなら大好きな人と一緒が良い。そしてそれは出来るならフェイスとが良い。けれども自分で避ける様な態度を取ってしまった手前、とてもじゃないけれどそんな我儘は言えない。それにこれ以上フェイスに曖昧な態度を取り続けるのも気が引ける。スマホを取り出し、一度深呼吸をして俺はフェイスへ送るメッセージ文を綴った。

    『帰って来たら話したい事があるんだ』

     それだけ打って意を決してメッセージを送信する。もうこれを送った以上、逃げる事は許されない。ちゃんと伝えるんだ。自分の気持ちを。フェイスはどんな反応を返してくれるだろうか。喜んでくれると良いな。またあの蕩けた笑みで笑ってくれるかな。あんな表情のフェイスを見た事が無かったから、もしあれが好きな人にだけに見せる特別な顔だったなら俺も嬉しい。もし、想いが通じ合ったら今とは関係性が変わってくるよな。俺達はヒーローだけれど、ファンがそれぞれに居てファン向けのイベントもセクターでだけれども行ったりしている程だ。だから扱いは芸能人とほぼ変わらない。ただエリオス機関自体は恋愛を禁止しているわけじゃないし、自由恋愛を謳っているぐらいだ。けれども、ヒーロー同士の交際や結婚は今まで殆ど発表されては居なかった。元々女性のヒーローも男性に比べて少ないのもあるが、大体は一般人との結婚の方が多かったからだ。現役ヒーローであるジェイも(元既婚者になるけれど)、元ヒーローであるリリーさんも結婚相手は一般の人だった。ヒーロー同士となると交際宣言ですら人によっては大ニュースになる。ましてやフェイスはニューミリオン一の色男だと言われているぐらいだ。今は全て関係を終わらせているとは言え、未だにフェイスの女性ファンは増える一方だし、街を歩けば逆ナン、告白も日常茶飯事だったりする。それを考えると俺達の関係を発表するのはなかなかにリスクが大きい気がする。何て、まだ始まってもいなに関係にアレコレ考えても意味なんて無い。取り敢えず俺はフェイスが帰って来た時にどうやって自分の気持ちを伝えるか、今はその事だけに集中しよう。そう思い直してうん、と頷けばピロンと鳴った通知に驚いて握っていたスマホを落としそうになる寸ででキャッチした。もしかしたら先ほどメッセージを送ったフェイスから返事が来たのかもしれない。そう思って恐る恐る通知画面に目をやればそれはエリチャンの通知であった事に肩から脱力する。

    「はぁ……。メッセージの返事にすらこんなに緊張するなんて俺、本当にちゃんとフェイスに言えるのかなぁ……」

     そう呟いてエリチャンを開けばさっきの通知音はどうやらビリーくんだったらしい。情報屋も兼任している彼はSNSでの活動も意欲的だ。俺も他のヒーローに比べればエリチャンの更新頻度は多い方だけれど、ビリーくんには到底及ばない。彼は暮らしに役立つライフハックから、オススメの飲食店、猫が集まる穴場スポットとか何でも情報を提供してくれている。マネーが大好きなビリーくんがこうやって惜しみなく情報提供する様になったのも彼の中で色々と心境の変化があったからだろう。勿論、俺達ヒーローからは変わりなくしっかりとたんまりの情報提供料は貰っているみたいだけれども。ルーキーの成長は例え他セクターの子だったとしても嬉しいものだ。どれどれ、今回はどんな内容だろうと思ってエリチャンを開けば、そこに映っていた写真に俺は先程上手くキャッチしたにも関わらず、結局スマホを落としてしまっていた。

    「えっ、どういう事……?」

     そこに映っていたものはフェイスと、可愛い女の子の2ショットの写真だったのだ。ファンの子にお願いされて撮影したものでは無くとても近い距離で撮ったであろうその写真は、フェイスの表情から見ても相手とかなり親しい間柄に見える。刹那、先程まで俺の中にあった心がポカポカするような温かい気持ちが一瞬で波打ち際の様に引いていくのを感じて、俺は足を引き摺る様に自室に戻った。

    *****

    Side:F

    「はあ、もう。すっかり帰るのが遅くなっちゃった。ビリーと居ると本当にロクでも無い事ばかり巻き込まれるんだから」

     あの後、俺は偶然にも同じオフだったビリーに連絡を入れた。あまり気乗りはしなかったけれど、朝から頼みたい事があるって連絡が来ていたからだ。最近はオフの日はずっとディノと居る事ばかりを優先して、ビリーからの誘いはほとんど蹴ってばかりだった。そうすると、遂に痺れを切らしたらしいビリーからこんなメッセージが送られて来たのだ。

    『ンモ〜!! DJってば散々オイラの情報にお世話になってた癖に、必要無くなったらポイだなんて酷い!! オイラとはベスティだって言っていたあの言葉は嘘だったのネ! そうやって今までの彼女みたいにボクちんの事も捨てる気なんだ! こうなったらDJの恥ずかしい数々の写真をネットにばら撒いてやるんだから〜!!』

     ビリーが俺のどんな恥ずかしい写真を持っているかなんて分からないし知りたくも無いけれど、アカデミーの頃から散々俺の写真を女の子達に売りつけられた過去がある以上、流石にそろそろ誘いに応じないとビリーなら本当にやりかねない。まぁ俺はどんな写真だって色男だから別に困る事にはならないと思うけど。寧ろそっちよりも懸念するべき事はこれ以上機嫌を損ねると俺が付き合いが悪くなった理由を探られてディノとの事がバレかねない。俺にとってはそちらの方がかなり面倒だ。

    「はあ……せっかくディノから連絡貰っていたのに……」

     ビリーに頼まれた面倒な案件に付き合わされていたらスマホなんて全然見ていなくて。ようやく解放されてとんでもないエリチャンの通知に紛れて、ディノから届いたメッセージに気付いたのはついさっきだ。腕に嵌めた時計を見れば時刻は19時を回った所。……ディノから話って期待しても良いのかな。最近の態度を見ていると若干落ち込んだりもしたけれど、あの反応は期待も出来るとも思っている。少なくとも、気持ちを伝える前に比べたら俺の事をかなり意識しているみたいだからあのどさくさの告白はちゃんと効果があったのだろう。取り敢えず対応が遅れたお詫びに、とディノがお気に入りのピザ屋のピザを何箱かテイクアウトして、タワーに戻れば俺を出迎えたのはリビングで仁王立ちしたおチビちゃんだった。

    「えっ、どうしたのおチビちゃん。そんな所に突っ立って。まさか俺の事待ってたの?」
    「おいコラ、クソDJ!! 最近はパトロールも真面目にしているしトレーニングにも励んでいるしクソDJにしてはヒーローとして頑張ってるなって思っていたのにお前って奴は!」
    「えっ、なに。今日はオフだったしおチビちゃんだって出掛けてたよね? 何か約束してた事でもあったっけ?」

     帰宅して早々に物凄い剣幕でまくし立てられ、もしかして二人で何かトレーニングする約束でもしていたっけ? と頭を捻らせる。だが今日は朝から先に外出していたのはおチビちゃんだし、俺の記憶では何もおチビちゃんやチームでの約束は無かった筈。

    「ちっげーよ! おれの事じゃねーー!! テメーの事だ!」
    「ええ? 俺の事って何。ハッキリ言わないと分からないんだけど」
    「よくもいけしゃあしゃあと言いやがって! こんないい加減な奴に振り回されてディノが可哀想だぜ」
    「ちょっと待って、ディノが何だって?」

     そう言えば、リビングにディノの姿が見当たらない。いつも寝る時以外は誰かが帰宅した時に直ぐに出迎えてくれるあのピンクの頭が今日はまだ見えないのだ。珍しく自室に篭っているのだろうか。

    「そう言えば俺、帰ったら話があるってディノからメッセージ貰っていたんだよね。おチビちゃんのお小言は後で聞くからちょっと通してくれる?」
    「はぁ!? いや、おいクソDJ待てこの野郎!!」

     俺の行き手を阻むその小柄な体を軽く押し除けて、俺はリビングをそのまま突っ切り、メンター部屋の扉をノックする。
     
    「ディノ? 俺だけど。帰るのが多くなってごめんね。メッセージに気付いたのが遅くて。ディノの好きなジェンガピザのピザをテイクアウトして来たんだ。一緒に食べようよ」
     
     そう語り掛ければ、直ぐにでも扉を開けてくれる相手を期待して反応を窺って見る。だが、いつもならピザと言う単語を聞けばすっ飛んでくるというのに今日は一向にその閉ざされた扉が開く気配が無かった。一体どうしたんだろう。寝るにはまだ早い時間だし、俺じゃ無くてもおチビちゃんが先に帰って来ているのにリビングに顔を出さないという事はまさか体調が悪いのだろうか? そう心配していれば暫く経って部屋の向こうからくぐもった声が聞こえた。

    「……要らない。食べたくない」
    「ねぇおチビちゃん。ディノ、病気かもしれない。救急車呼んだ方が良いかな?」
    「はぁああ!? 何言ってやがる!! ディノがこうなったのは体調が悪いからじゃねーよ。お前本当に原因分かんねーのか」
    「はぁ……。だからさっきから何なの。言いたい事があるならハッキリ言ってよ」
    「あーそうかよ! なら言わせて貰うけどな。ディノの事あれだけ散々好きだってアピールしておきながら他の女と遊ぶのはフセージツじゃねーの!?」

     まさかおチビちゃんが俺のディノへの気持ちに気付いていたのは意外だったけれど(まぁ、ココでは遠慮なしに態度や言葉に出していたから当たり前っちゃあ当たり前だけれど。気付いて居なかったのはディノ本人ぐらいだ)、恐らく知ってて気付かないフリをしてくれていたって事で、今はそこに触れないでおくとして、女の子と遊ぶっていうのは一体どういう事だろう。

    「えっと、全くもって身に覚えが無いのだけれどどういう事?」
    「ふぁーっく!! シラを切るつもりか!? 証拠はキッチリあるんだぞ!」

     シラを切るも何も、バレンタインの時から何人も居た彼女は全て切ったのは紛れもない真実で、ディノという片想いの相手が居るのに女の子と遊ぶなんてまさかする訳が無い。一体おチビちゃんは何を勘違いしているのやら……。そう考えて彼が何故かドヤ顔で見せて来たスマホの画面を凝視すればそれは何故かビリーのエリチャンで、そこに写っている二人は俺自身と見覚えがある相手だった。

    「えっ」
    「そら見た事か! これを見てもまだシラを切るつもりか、クソDJ!」
    「いや、うん。シラを切るつもりも無いし認めるけど……もしかしてこれを見てディノは部屋から出てこなくなってるの?」
    「当たり前だろ! ディノの気持ちを弄ぶなんてお前はクソDJからハイパークソDJに格上げだ!」

     ……成程。だからあんなにスマホへの通知が多かったのか。恐らくビリーが俺をタグ付けして投稿したのだろう。謎は全て解けた。けれど、本当にこれを見てディノが部屋に引きこもっているのだとしたら、それはどうしてだろう。確かに俺はディノに告白して、結婚を前提としたお付き合いを申し込んでいる。でもディノからまだその返事は貰っていなくて、俺達の関係はまだただの“メンターとメンティー”の関係だ。まあおチビちゃんが言及してきた言い分も確かに分かる。おチビちゃんも普段からディノには激甘だし、基本的にあっちの味方だ。それはまあ、俺の普段の行いのせいだから何も文句なんて無い。けれど、俺とディノの関係はまだ何も変わってはいないのだ。そう、例え俺が本当にこの美少女(仮)と何かしらの関係があったとしても、誰にも言及する権利は無い。そう、ディノ以外は。

    「おチビちゃん、今からディノと大事な話があるから取り敢えず部屋には入って来ないでね」
    「はあ!? 何だよそれ! お前これ以上ディノの事を傷付けるつもりなら許さねーぞ!」
    「大丈夫。絶対に傷付けたりなんてしないから。たまには俺の言う事信じてよ。それに誓って俺はディノだけだから」
    「……フン。30分経っても出てこなかったら問答無用で押し入るからな!」
    「アハ。ありがとう♪」

     納得いかなさそうな顔をしつつもおチビちゃんは渋々俺とディノが二人になる事を許してくれた。その信頼に応える為にもちゃんとディノと話をしないと。そう決意して俺はメンター部屋へと足を踏み入れた。今はキースが不在だけれど一応小声で“お邪魔します”と告げて、入室する。入って直ぐに部屋を見渡せばいつもは目立つピンクのその髪は見えなくて、代わりにディノ側の部屋のベッドがこんもりと膨らんでいる。ああ、だからさっき声がくぐもって聞こえたのか、と少しだけ笑って俺は毛布の中の彼に声を掛けた。

    「ディノ」

     刹那、ぴくりとその塊は反応するも、中から出てくる気配は無い。まあそんな簡単に出てくるならそもそも寂しがり屋の彼がこんな風に一人部屋に閉じこもったりしないよね。そう自分に言い聞かせて、俺はそっとベッドの縁に腰掛けた。

    「ねえ、ディノ。話をしたいからそこから出てきてくれない?」
    「……俺は何も話す事は無いよ」
    「そう。でも俺はあるんだよね。ねえ、ディノがそうなっちゃったのは俺が原因?」
    「…………」
    「エリチャンの事なら、あれは誤解だよ。何を勘違いしたのか大体想像つくけど本当に俺は今はディノだけだから」
    「……俺はフェイスより大きいし」
    「うん?」
    「いっぱい食べるし」
    「うーん?」
    「よくフェイスの地雷を踏むし」
    「アハ。それは確かに」
    「……っ、あの子みたいに可愛くないし」
    「ええ、そう? 俺にとってはディノが一番可愛いけど」
    「ラブアンドピース星人だし」
    「うん、ディノと居るといつもラブアンドピースで居られるよ」
    「フェイスより9つも年上だし」
    「だからいつも色んなフォローに入ってくれて本当に助かってる」
    「朝昼晩ピザばかり食べてるし」
    「ディノのお陰で色んなピザの美味しさに気付けて良かったよ。まあカロリー調整はしないとだけどね」
    「……ものすごく寂しがり屋だし!」
    「俺も寂しがり屋だからいつも一緒に居られて一石二鳥じゃない?」
    「たまにこうやってネガティブになるし」
    「いつも頼ってばかりだから弱い所を見せて貰えて俺は嬉しいよ」
    「…………だから、俺なんか本当はフェイスに好かれる様な人間じゃないんだ」
    「もしかして、それでこうやって落ち込んで一人で泣いてたの?」

     ディノがこんな風にしょぼくれて引きこもってしまったのはバレンタインLOMの時以来だ。いつも底抜けに明るくて元気なディノだけれど、一度ネガティブスイッチが入ってしまうとこうやって一人きりで殻に閉じこもってしまう。誰かが落ち込んだりした時は全力で力になろうとする癖に、自分の時は人に入らせないようにするなんて、そんな事は俺が絶対に許さない。

    「あのさぁ、勝手に人の気持ち否定しないでくれる? 俺言ったでしょ、ディノの事が好きだって。その気持ちに嘘なんて無いよ。それにディノだって歳の差なんて気にしないって言ってたじゃん」
    「でも、フェイスはまだ若いし女の子にあんなに人気あるのに何で……」
    「何でディノが良いのかって? そんなの俺にも分からないよ」
    「…………っ!!」
    「もう、そんなに傷付いた顔するなら聞かなきゃ良いのに。本当にディノって可愛いよね」
    「な、んでそんな思ってないこと……! フェイスは意地悪だ!」

     分からないと言った瞬間にかぶっていた毛布を放り投げてやっと出てきたディノのその愛らしい顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。相手が今までの彼女だったなら、俺はこの瞬間にドン引きしていただろうし、面倒だなって思ってた。こんなに面倒な気持ちを押し付けられるなら関係を終わらせようって。今までそうやって一方的に終わらせて来た。でもディノ相手だと何でこんなにも全てが愛おしく思えちゃうんだろう。ほ~んと、俺をこんな風に変えてしまったのだからラブアンドピース星人の力は凄いよ。

    「ねえ、ディノ。こんなになるまで泣いてたのは何で?」

     やっと出てきた相手の顔を手で覆い、今度は逃げられない様にしっかりと自分に向き合わせた。

    「そ、れは……フェイスが……あんなに可愛い女の子と写真撮ってて……」
    「でもディノもいつもファンの女の子に頼まれたらツーショットの写真撮ってあげてるよね? ああ、勘違いしないで聞いて欲しいのだけれど、俺はそれはちゃんとファンサービスだって割り切れているから別に責めているつもりは無いよ」
    「そ、そうだけど!! でも最近のフェイスはそういうファンサービスも断っていたじゃないか」
    「まあ、うんそうだね。一人をOKしちゃうと際限なくなるし。あとは自分の中のけじめみたいな物もあったし」
    「けじめって……」
    「ディノに勘違いされたくなかったから。ちゃんとディノだけ見てるって思って欲しかったからね」
    「あ、あうう……」
    「アハ。そこは照れるんだ? 俺の気持ち知ってるのに可愛いね」
    「か、可愛いくなんて無いって言ってるだろ! ……でもそうだよな。俺だってファンサービスしているのにフェイスに勝手に嫉妬して落ち込む権利なんて無いよな。ううう……何かごめん」
    「いや、そこは別に全然良いんだけど。俺が聞きたいのは何で嫉妬したのかって事」

     その言葉に一瞬キョトンとした表情を浮かべるも、漸く自覚したのか直ぐに顔を赤くしたと思いきや、今度は青くなる相手に思わず噴き出して笑ってしまった。

    「な、なんで笑うの……」
    「いや、だって本当に分かりやすくて。ディノは顔に出過ぎだよ。つまりさっきの表情の感情はこうでしょ? “うわ~俺がフェイスの事を好きな事がバレちゃった~!! あっ、でもまだ気持ちを伝えて無いし付き合ってすら居ないのに勝手に嫉妬するなんて俺ってば何て自己中なんだ!!” みたいな?」
    「な、ななななな……」
    「アハ。当たってた。良いじゃん。俺は嫉妬してくれて嬉しかったよ。まあでもこれ以上ディノに辛い思いさせるのは俺も嫌だし何よりおチビちゃんに怒られちゃうからネタバラシ。ディノが言ってるこの女の子、実は女の子じゃないんだよね」
    「へっ、女の子じゃない?」
    「そもそもビリーが自分のアカウントで赤の他人の写真を上げるわけないじゃない?」
    「えっ、それってつまり……」
    「そう。この女の子に見える子は正真正銘ビリー本人だよ。情報屋のお仕事でどうしてもカップルとして潜入しなきゃいけない場所があって、それでビリーが女装して、彼氏役として俺が付き添ったってわけ。まあ普通に見たら確かに女の子に見えるし、ビリーが悪ふざけで写真撮って俺をタグ付けしてエリチャンに上げちゃったってだけ」
    「そ、そんなまさか……で、でも確かにそう言われてちゃんと見たらビリーくんだぁあ~うう、こんな事にすら気付けないなんて俺って奴は……」
    「まあ、おチビちゃんも騙されてたし。ああでも彼氏役をしたのは確かだしそれはごめん。暫くビリーからのお誘いを断ってたのもあって今回の依頼はちょっと断り辛くてさ。次からは大切な恋人を悲しませたく無いからって断るから安心してね」
    「たいせつなこいびと」
    「うん。……ねえ、ディノからちゃんと聞かせてよ。本当の気持ち」
    「……うう、本当はフェイスにメッセージを送った時には決めていたんだ。今日こそちゃんと自分の想いを伝えようって。でもビリーくんが上げたエリチャンを見たら頭真っ白になっちゃって。俺じゃあダメなんだって考えたらどんどん思考がネガティブになっちゃって」
    「うん」
    「でも、だからって自分の気持ちと向き合わない理由にはならないもんな。ずっと待たせて曖昧な態度ばかりでごめん。俺もフェイスの事が好きだ。結婚を前提に……ってのはフェイスの未来を奪いかねないからそこはもっとちゃんと二人で考えていくとして、俺の恋人になって欲しい」
    「そこは俺のこれからの人生を全部下さいぐらい言ってくれても全然構わないんだけど……まあいっか。うん、よろしくお願いします」
    「はあ~やっと言えたぁああ~緊張した~!」
    「緊張って……俺の気持ち既に知っていたんだから緊張する事なんて何も無いじゃない?」
    「こんな風に誰か一人にラブを伝えるって初めてだったし緊張するよ、そりゃあ」
    「へえ、そっか。……これも初めてなんだ。そっか、そうだよね」

     その言葉に嬉しくなって思わず笑みを零してしまえば、ディノは俺の顔を見てまた真っ赤になった。

    「その顔、本当にずるい……」
    「え、どの顔? 今俺どんな顔してた? 教えて、ディノ」
    「わあああ! 顔を寄せないで! ただでさえフェイスはイケメンなんだから!」
    「アハ。散々今まで見てきたのに今更照れるなんてディノったらおかしい。でもまあこんな可愛い顔が見れるならこの顔に産まれて良かったなぁ、んむっ」

     ラブアンドピースを常に謳っている彼がこんなに誰かに対して照れる姿なんてそうそう見れるものではない。まあこの顔を最初に見たのがアニキって言うのがちょっと、いやかなり解せないけど、これからは俺が独り占め出来るのだから良しとしよう。そう考えてご機嫌に振り返れば目の前にあったゼロ距離のディノに呆気に取られる間もなく唇を奪われ、何が起こったのかと俺らしくもなくポカンと口を半開きに開けて状況を整理していれば、にひっと悪戯が成功した顔で笑うディノが居た。

    「こないだの仕返しだ♪ファーストキスは奪われちゃったからセカンドキスは俺からで……っ、うわああ!! んっ、ンンンん!!!」

     その顔に触発されて、ここはさも押し倒して下さいと言わんばかりのピッタリの場所だったのもあり、そのままディノの上に覆い被さり俺は再度奪われた唇を取り返さんばかりに自分の物を押し付けた。先程ディノが俺にした、触れるだけのキスなんて可愛いものじゃなく言葉通り奪い取るぐらいの荒々しいディープキスを仕掛け、ンンンン!! とくぐもった声で抵抗する相手の顎を持ち上げ、口を開かせて舌を入れようかと思ったその矢先、誰かに思いっきり首根っこを引っ掴まれてディノから引き剥がされ、ベッド脇の床へと放り投げられた。

    「ちょっと、おチビちゃん。まだ30分経っていないと思うんだけ……ど……えっ」

     てっきり俺は勘違いしたおチビちゃんが部屋に突撃してきたものだと思い、いったいなぁ……と床に打ち付けた腕を擦りながら文句を言おうとその人物を見上げれば、そこに居たまさかの人物に硬直する。

    「フェイス、お前は一体何をしている」
    「えっ……ブラッド? 何でこんな所に居るの」
    「そんな事はどうでも良い。……ディノ、大丈夫か」
    「えっ!? ブラッド、どうしたんだこんな所で」
    「……ビリーのエリチャンを見てディノが何か勘違いをして落ち込んではいないかと心配になったから次の会議までの合間に様子を見に来た。そうしたらジュニアがメンター部屋の前で落ち着かない様子だったから状況を聞いて、それなら俺も時間まで待つかと思って待機しようと思っていたら中からお前の叫び声が聞こえたからな、入ってみればこの有り様だ」
    「あ、あはは。心配かけてごめんブラッド。でも大丈夫だよ。ちゃんとフェイスに俺の気持ちを伝えて、えっと……お付き合いする事になったんだ。あっ、でもちゃんと結婚とかは二人でこれから話し合っていこうなってフェイスとも約束したから安心してくれ!」
    「……そうか良かったな、ディノ」
    「えへへ、ありがとうブラッド!何か照れるなぁ」

     キースに話は聞いていたけれど、本当に誰この人ってぐらいにディノには甘々で思わずうわぁ……と声を出してしまったのが運の尽きだった。俺のその声に先程まで目尻が下がっていたメンターリーダー様は直ぐ様、床に座り込んだままの俺を厳しい目で見下ろす。

    「だが、いくら恋人同士になったからと言ってお前がしようとした事は許せる事ではない。来い、次の会議まではまだ時間がある。一度お前にはちゃんと話しておかねばと思っていたところだ」
    「はあ? アンタには関係ないで……ちょっと!?」
    「すまないがディノ、フェイスを少し借りていく」
    「ちょっと信じらんない、降ろしてよ!! まさかこのまま連行する気!? 冗談じゃないんだけど。あ~もう、助けてディノ!」

     何でブラッドの言う事を聞かなきゃいけないの? と反抗心剥き出しで返せば、刹那視界がぐるりと反転して宙に浮いたかと思いきやまさかのブラッドに俵担ぎをされて、ジタバタと足をバタつかせる。けれどもビクともしない相手に流石はメジャーヒーローでメンターリーダーだ、と理解させられ目の前に居るディノに助けを求めたものの、当の本人はキラキラと眩しい笑顔をこちらに向けており、こりゃあ駄目だと脱力する。

    「うわあ~フェイスを肩に担ぐだなんてブラッドは凄いなぁ。とってもラブアンドピースだぁ~」
    「全然ラブアンドピースじゃないから、あ~! もう分かった! 行くから降ろして! 話でも何でも聞くから!」
    「最初から素直にそうしていれば良いものを」
    「何でこうなるわけ……」

     そうして、次の会議までの時間丸々使って説教された俺が解放されたのは21時を回った所だった。まあ結果的にブラッドには認めて貰えたし(そもそも普通逆じゃない? 何で俺が許して貰う立場なワケ?)珍しく“おめでとう”とお祝いの言葉まで頂戴した。

    「あ、フェイスお帰り! 帰ってくるのを待ってたんだ♪ 皆で一緒にフェイスが買って来てくれたピザを食べよう!」

     漸く帰宅した俺を出迎えた相手の今までと何ら変わらないその態度に肩を落としかけたけれど、まあこんなディノだから好きになったのだと自分に言い聞かせて頷いた。

     俺とディノの関係がこれ以上進むのはまた別のお話って事で♪


    END
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    loveandpeace_kd

    DONE2025.01/18~19に行われたフェイディノWebオンリーにて展示させて頂いた小説です。
    以前の2作の続きになるので前作2品を読んでから読まれた方が楽しめるかと。ギリギリ投稿になってしまってすみません💦
    Side:F

     近頃何だかディノの様子がおかしい。キースやジュニアが話し掛けてもいつもと変わらないのに俺が話し掛けると明らかに態度が変わるのだ。

    「ねぇ、ディノ」
    「ふぁい!? ど、ど、どどうしたんだフェイス!」
    「いや、どうしたんだって。どうかしてるのはディノの方でしょ?」

     こんな風に俺が声を掛けるとちょっと大袈裟なんじゃない? ってぐらい肩を跳ね上がらせ、視線はあちこち宙を彷徨うし、声も上擦っている。まあ理由は言わずもがな先日の俺のディノへの告白の一件だろう。俺がディノに好意を抱いてから色々なアピールをしてみたものの、誰が見ても自分への好意については鈍感だと言われているディノは全く俺の好意にも気付かなかった。だから気は乗らなかったものの、ディノのことなら何でも分かっているだろうキースに相談してディノへ俺らしくもない告白をしたのだ。結果は……、イエスでもノーでもなく“少し考えさせて”だった。だけれど、その言葉を返したディノの表情は今まで見た事も無い感じで、相手に俺の事を“可愛いメンティー”以上の相手、と言う感情を持たせる事が前回の目標だった為、かなり良い結果を出せたのではないかと思う。ディノには申し訳ないけれども彼のファーストキスを奪えた事もかなりの収穫だったし。だから、あの日以降もっと積極的に“好き”アピールをして俺の事が気になって仕方ないぐらいにしようと思っていたのに……。
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    loveandpeace_kd

    DONE2023/01/14,15日開催のキスディノWebオンリーにて展示の小説です。
    キース推しのモブ子から見たキスディノのお話。以前のキデオンリーで展示していた物を加筆修正しました。
    ノット夢設定。あくまでもキスディノ前提です。
    私の推しヒーローは世界一カッコイイ!! ___キース・マックスと初めて会った日の事はよく覚えている。

     私はニューミリオンに住むしがない女子大生だ。家族構成は父と母、それに弟が一人と妹が二人。三人の下の弟妹を持つ正に言葉通りの長女として産まれた私は、物心ついた頃から多忙な両親に代わり、私が下の子達の世話をして来た。その甲斐あってか、学校でもいつも学級委員に選ばれたり、生徒会役員に選ばれたり、先生に頼られたりと、忙しい毎日を送っていた。人に頼られる事は苦じゃない。それどころか友人の世話までついつい焼いてしまう始末で、根っからの世話焼き気質だと自分でも思っている。そんな多忙な私はテレビやネットの情報にはとても疎く、ヒーローの存在もぼんやりとしか知らなかった。大学に入って直ぐに懐かれる様にして仲良くなった友人に熱弁されるまではヒーローが主にどんな仕事をしているのかすらよく知らなかった程だ。
    10590

    loveandpeace_kd

    DONE6/25ガスウィル︎︎ ♀Webオンリーの展示小説です。

    ※私設定のウィル︎︎ ♀の妹がメインのほぼオリジナル小説です。

    ※私設定なのでガスウィル︎︎ ♀は婚約しています。(気になる方は過去の小説をお読み頂けると分かりやすいです)

    ※私設定でウィルの妹達は双子設定にしており、名前もあります。

    私設定ばかりの捏造80%ぐらいの小説になりますがそれでも大丈夫だと言う方はお読み下さい。
    アリア色の夜明け 私の名前はアリア・スプラウト。ニューミリオン州のレッドサウスストリートで花屋を営む家庭に生まれた極々普通の女子中学生だ。私には一卵双生児である双子の妹が一人と、父と母、そして少し歳の離れた姉が居る。私の姉は同じニューミリオンに住んでいるが私達とは一緒に暮らしてはいない。何故なら彼女はニューミリオンが誇るヒーローの一人なのだ。一年前にヒーローになる為の試験に見事合格して、サブスタンスに適合し、見事ヒーローとなった姉は今はルーキーとしてエリオス機関に所属している。幸運な事に姉の配属セクターがココ、レッドサウスになったお陰で私はたまにパトロール中の彼女に会えたり、休憩時間や勤務後に店に立ち寄って貰えたりで頻繁に姉の顔を見る事が叶っている。
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