Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    loveandpeace_kd

    @loveandpeace_kd

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 11

    loveandpeace_kd

    ☆quiet follow

    2023/01/14,15日開催のキスディノWebオンリーにて展示の小説です。
    キース推しのモブ子から見たキスディノのお話。以前のキデオンリーで展示していた物を加筆修正しました。
    ノット夢設定。あくまでもキスディノ前提です。

    私の推しヒーローは世界一カッコイイ!! ___キース・マックスと初めて会った日の事はよく覚えている。

     私はニューミリオンに住むしがない女子大生だ。家族構成は父と母、それに弟が一人と妹が二人。三人の下の弟妹を持つ正に言葉通りの長女として産まれた私は、物心ついた頃から多忙な両親に代わり、私が下の子達の世話をして来た。その甲斐あってか、学校でもいつも学級委員に選ばれたり、生徒会役員に選ばれたり、先生に頼られたりと、忙しい毎日を送っていた。人に頼られる事は苦じゃない。それどころか友人の世話までついつい焼いてしまう始末で、根っからの世話焼き気質だと自分でも思っている。そんな多忙な私はテレビやネットの情報にはとても疎く、ヒーローの存在もぼんやりとしか知らなかった。大学に入って直ぐに懐かれる様にして仲良くなった友人に熱弁されるまではヒーローが主にどんな仕事をしているのかすらよく知らなかった程だ。
     その友人は所謂ヒーローオタクと言うやつで。年頃の女の子がアイドルやイケメン俳優にハマる中、彼女はヒーローにご執心だった。熱心に語り聞かせてくれる彼女の熱意に負けてその話を毎日の様に聞いていれば、いつしか私も自然と今第一線で活躍しているヒーローについて詳しくなっていった。
     ヒーローはランクが上であればある程に人気も上がると認識している。今や私が住むニューミリオンでは当たり前な存在である彼らは、メジャーヒーローともなればそこらの芸能人よりよっぽど有名人だ。レジェンドと言われるレオナルド・ライト然り、この近年ではスーパーヒーローと言われ、市民に好かれ、親しまれるジェイ・キッドマンも誰もが知るヒーローだった。だが、私はそこまでヒーローに対してミーハーな気持ちも持っていた訳でもなく、耳にタコが出来る程にヒーローの話をよく話を聞くから知っている程度だった。

     そんなある日の事。そのヒーローオタクの友人とイエローウエストでショッピングをしていて、彼女のお気に入りだと言うショップはどうしても自分の服の系統とは真逆で。店内に居辛かった私は彼女の買い物が終わるまで店の外で待っていた。その時だ。不意にけたたましいサイレンが鳴り響き、辺りは騒然とした。何が起きたのかも分からずに、周囲を見渡すも休日で人がごった返すこの道では全くと言って良い程に状況は掴めない。やがて誰かがイクリプスだ!!と声を張り上げた事で辺りは一瞬でパニック状態になった人々の悲鳴に囲まれた。イクリプスの襲撃から逃げる為に皆が一目散に逆方向へと走り出す。私も、店内に居る友人を連れて急いで避難しようにもその店までの僅かな距離が、逃げ惑う人々で溢れかえったその通路では難しい状況だった。漸く人の合間を掻き分け辿り着いたその店先には、見た事も無い出で立ちの人間なのか機械なのかも分からない存在が私を待ち構えて居た。その時に私は直感で気付いたのだ。ああ、多分これがイクリプスという存在で、私は今ここで死ぬんだ。短い人生だったなとか、どうかせめて店に居る友人だけは無事で居ます様にとか、まだ大した親孝行を出来ていないのにお父さん、お母さんごめんなさいとか、そう心の中で祈る様に呟いていれば、いつまで経っても自分に降り掛かって来ない衝撃に疑問を感じながら恐る恐る目を開けると、目の前に映ったその光景に私はポカンとただただ口を開く事しか出来なかった。
    「怪我はねぇか、お嬢ちゃん」
    「え、えええ!? ヒーローのキース・マックス!?」
    「おお、オレなんかの事を知っててくれてんのか? 嬉しいねぇ〜」
     私が目を開けた刹那に飛び込んできたその光景とは、先程私が出会ったイクリプスをヒーロー能力で軽々と浮かび上がらせて、地面に叩き付け、何でも無い様に煙草を吹かしながら私に話しかけるヒーローの姿だった。彼の名前はキース・マックス。確かヒーローランクはまだAAで、ヒーローとしてはあまり有名じゃ無いけれど彼はかの有名なジェイ・キッドマンが初めてメンターを務めた研修チームのルーキーだった。ジェイが指導した三人のルーキーはジェイ命名、ミラクルトリオと呼ばれ、ファンの間でも大層有名でルーキーを卒業した今では徐々に人気が出ていると聞いている。特に今のヒーローの中ではダントツに容姿端麗だと言われているブラッド・ビームスはルーキーの頃から注目を集めており、凄まじい人気を誇るヒーローだ。先程まで一緒に居た私の友人がミラクルトリオの一人であるディノ・アルバーニの大ファンな為、ディノと一番親しいとファンの間で囁かれているキースの事は私も良く知っていた。
    「だけどよ、街の奴らは安全な場所に避難したっつ〜のにお嬢ちゃんは何でこんなトコに居るんだ? オレが来るのがあともうちょい遅かったら怪我するどころじゃ済まなかったかもしれねぇぞ」
    「あっ! すみません……実は店の中に友人が居て……。彼女がイクリプスの襲撃に気付いていなかったら逃げ遅れちゃうと思ったら私、居ても立っても居られなくて」
     私のその言葉にキースは一瞬驚いた様に目を丸くして私を見るも、直ぐにフッと力を抜いて優しく笑んだ。ディノ推しの友人に無理矢理見せられるSNSではいつも気だるげな表情の彼しか見た事の無かった私はその見た事の無い彼の優し気な表情に一瞬にして目を奪われてしまう。

    (えっ!? キースってこんな風に笑ったりするんだ。ディノがよく一緒に載せている写真は笑ったとしても苦笑って感じが多かったイメージだったけれど……)

    「成程な。お嬢ちゃんは友達想いなんだな。……だが、自分の命が最優先だ。もしまたこう言う事があったとしても、ちゃんと自分の身を一番に案じてくれ。その友達もお嬢ちゃんが自分の所為で何かあったと知れば責任を感じちまうだろ?」
    「確かにそうですね……、私が軽率でした。キースさんにも迷惑かけちゃってすみません」
     彼のごもっともな指摘に頷いて素直に謝罪の言葉を口にすれば、彼は徐に私の頭に手を置きポンポンと優しく撫でた。
    「まぁ、そうならねぇ為にオレ達ヒーローが居るんだけどな。次に何かあってもまた守ってやるよ。いや……流石にこれはクセぇな。俺のキャラじゃね~わ」
     そう言いながら苦笑して自分の頭をガシガシと掻くその姿を見て、私が彼のファンになるきっかけとしてはもう充分過ぎる出来事だった。
     それから暫くして街がヒーロー達の活躍により落ち着きを取り戻した頃、憧れていたディノに連れられて危険な目に遭ったにも関わらず、目を見事なハートマークにしながら無事に再会出来た友人の姿に改めて彼女の逞しさを感じ、私たちはすっかりエリオスの阿吽コンビと呼ばれる彼らのファンになったのは言うまでも無い。今まで芸能人にすら憧れを抱かなかった私に初めて【推し】と言う存在が出来て、ディノ推しの友人とキースの応援をしたり、たまにあるファンの為のイベントに行ったりとても楽しい大学生活を送っていたそんなある日の事だった。とんでもないニュースが私達ファンの間に舞い込んできたのだ。

    *****

    「嘘でしょ……?」
     それは私がキース推しになって半年の月日が流れた頃だった。ディノ・アルバーニがロストゼロにて殉職したとエリオスから発表があったのだ。ディノは本人の性格も相まって、ヒーローランクは低くてもかなりのファンを持つ期待のヒーローだった。メジャーリーグが大好きで、オフの日にキースと球場へ観戦しに行って二人で客席をカメラに抜かれても笑顔でファンサービスをしてくれたり、パトロール中に見掛けた時にサインや写真を頼んでも快く引き受けてくれる、正にファンサの神だと言われ、ジェイとはまた違った人気を誇っていた。そんな彼はヒーローとしての実力もかなりあるらしく、AAと言うランクながらでも対イクリプス部隊に抜擢される程の実力者だ。実際に彼の活躍を目の前に見た友人もあっという間に敵を殲滅出来る程の強さを持つヒーローだ、と言っていた。そんな彼が殉職だなんて。確かにロストゼロは街の人達を全員避難させるぐらいの凄まじい戦闘だったと聞いている。ディノの他にもエリオスでも多くの殉職者を出したとニュースでも話していた。……本当に、ヒーローって死と隣り合わせなのだと私達はその時に初めて知ったのだ。当たり前だがディノ推しの友人は酷く落ち込み、暫くは塞ぎ込んで慰めるのに苦労した。自分が大好きなヒーローが殉職したのだ、無理も無い。私だってもしキースがそうなっていたなら同じ気持ちを抱いただろう。ヒーローと言えど、私達は何度か彼らと会った事があり、会話もした事がある身近な存在だったのだから。しかしそれでもやっぱり逞しい友人は一年も経てば恋人が出来て順風満帆な毎日を送っていた。現金な様に見えるかもしれないが人間とはそういう生き物だ。私も落ち込んで悲しんでいる彼女を見るより幸せそうに笑っている彼女を見る方が嬉しい。けれどその反面で、ディノの殉職のニュースを聞いてからすっかり表舞台には顔を出さなくなったキースの事が私は気がかりで仕方無かった。彼にとってディノ・アルバーニと言う存在が大きいのだと言う事は、SNSを見ても直ぐに分かった。ヒーローとしてだけでは無く彼らはプライベートでも阿吽と呼ばれる程に仲が良かった。ディノのSNSにキースと出掛けた! キースとご飯! などよく名前を見たしキースの方も滅多にエリチャンを更新しない事で有名な彼が更新する内容はディノにせがまれて飯作った、やら野球観戦に連れ出されたと言った内容の、殆どがディノの事ばかりだったのだ。恐らく彼の性格上、キースは狭く濃い友好関係しか築かない。それこそディノ以外に見かける名前はアカデミーの頃から一緒のブラッドさん、そして元直属メンターのスーパーヒーローのジェイ、あとは飲み仲間だと言っていたリリー様。それぐらいで、キースのエリチャンの9割は殆どがディノの事ばかりだった。恐らくキースにとってディノは特別な相手なのだ。だからディノの殉職をキースがどう受け止めたのか、私は心配で心配で仕方なかった。ヒーローになると決めた時点で殉職は覚悟の上なのかもしれない。けれどもヒーローだって人間だ。親しい人の死をそんなに簡単に受け入れる事なんてきっと出来ないだろう。直接のファンではない私ですら直ぐに受け止める事なんて出来なかったのだから。それから全く表舞台に姿を見せなくなったキースと偶然にも再会を果たせたのはディノの悲報が流れてから三年程の月日が流れた頃だった。

    **********

     大学生活も残り一年となったとある日、溜息を吐き出しながら私は通い慣れた道を歩いてバイト先に向かっていた。溜息の理由は専ら二年前から付き合っている恋人の事だ。私の彼氏は人が良いものの、どこか頼り無い人だった。友人には私がしっかりし過ぎているから少しぐらい抜けている相手の方が合っているんじゃない? と言われたものの、もう大学卒業まで一年を切ろうとしているのに全く就職について真剣に考えようとはしていないのだ。いつまでも学生気分で居られる程、私達はもう子供じゃない。それに私には子供の頃からずっとなりたい職業があった。その夢を叶える為に真っ直ぐにその道へと歩む私を彼は応援はしてくれてはいるけれど、口を開けば“お前には立派な夢があって良いよなぁ……”とボヤくのだ。目標がある私に自分は夢も何も無いから、とどこか拗ねた様に呟く相手に私はここ最近困り果てていた。それでもそんな困った彼氏でも私は別れようと思った事は一度も無い。私が彼を好きになった理由。そこに彼の良さがあるのを十二分に知っているからだ。だから何としても彼には頑張って欲しい。そう考えながら数ヶ月前からバイトしている、とあるこじんまりとしたバーで私はまさかの人物と再会した。
    「いらっしゃ…………、えっ」
    「何でも良い。強めの酒を出してくれ」
     そう一言だけ呟いてカウンター席へと私と向かい合う形で座るその人はエリオスの制服を着ていた。三年前に見た時より更に鍛えたのか制服を着ていても尚、逞しい肉体は彼を更にカッコ良く見せていた。表舞台にはこの三年全く姿を見せなかったが、良かった。彼はまだヒーローを辞めた訳では無かったらしい。そう、偶然にもこの店に訪れたのは私の推しヒーローのキース・マックスだったのだ。チラリと失礼にならない程度に胸に刻まれた勲章を見れば、何と彼は私の知らない間にメジャーヒーローになっていた。
    「メジャーヒーロー……」
     思わず洩れたその私の呟きが聞こえたのかキースは自嘲する様に笑う。
    「オレみたいな自堕落な奴にこんなヒーローとしての最高ランクを寄越すなんてエリオスもいい加減だよなぁ〜笑ってくれて良いぜ」
    「そんな……」
     私は貴方ががまだヒーローを続けてくれていただけでも嬉しいのにメジャーヒーローにまでなっていたなんて、ファンとしてどんなに嬉しいか……そう言いかけて、彼の三年前とは違った翳ったその瞳を見て止めた。元々いつも気だるげで、やる気は無さそうではあったが三年前の彼はここまで何もかもを捨てた目はしていなかった。良かった、ディノの殉職を受け止めて彼は更に強くなる為の努力をして、それが実ったのだ。そう一瞬でも思った自分が恨めしい。彼がヒーローとしての任務で会っただけの只の一般人な私の事なんて覚えている筈が無い事よりも、私はキースの、親友を喪って壊れてしまった様に見えるその姿の方がショックで仕方なかった。当たり前だ、そんなに簡単に受け入れられる筈なんて無いのだ。ディノはキースにとって私達ファンとは全く違う。同じ立場に居て、何年もの月日を共に過ごして、キースの数少ない彼の理解者で大切な存在だったのだ。すっかり変わってしまった様に見えるキースに私は何て言葉を掛ければ良いのだろう。いや、只のファンである私なんかがそもそも声を掛ける事すらあってはならない。でも、それでもココにキースが来たのはきっとただの偶然では無い。私に出来る事は何か無いだろうか。数年前、私の命を救ってくれた彼に私が出来る事は……?
    「……私の恋人なんですけど、来年は社会人になる年齢なのにもう今から働きたく無い、ずっと学生で居たいって言ってて困ってるんですよね」
    「は?」
    「もう子供じゃ無いのに真面目に将来の事を考えてくれなくて。私、今の彼とは結婚も考えてるのに本当にどうしたものか……」
    「お、おお? そりゃあ困った彼氏だなぁ〜」
     私の突如始まった自分の恋人の話にキースは驚いてポカンと口を開いて私を見るも、直ぐに私の話に合わせてくれた。その対応に心の中で安堵しつつ、私は例え数年経っても、大切な人を喪って心が壊れてしまっても、変わらない優しさを持ったキースに少し安心した。結局その日は最後まで私が彼に一方的に話し掛け、キースはほぼ相槌を打ったり、たまに私の恋人の立場に立っての意見をくれたりしてあっという間に店じまいの時間になった。少し酔っては居たけれど、自分の足でしっかり歩いて帰って行った彼はお会計を済ませ、少しだけ振り返って一言呟く様にありがとな、とだけ告げて店を出た。
    (少しでもキースの気を紛らわせる事が出来たのなら良かった……)
     もう会う事は無いかもしれないけれど、どうか彼にはいつまでも健在で居て欲しい。そう願わずには居られなかった。

    *****

     それからまた一年の年月が経過した。私は無事に子供の頃から憧れていた宝石店への就職の夢を叶え、しかも第一希望だった高級ジュエリー店への配属が決まり、毎日を慌ただしく過ごしている。私が就いたこの店はニューミリオンに店を構え、芸能人もよく訪れる店で、ミーハーな友人にはかなり羨ましがられた。そんな慌ただしい日々を過ごす傍らで何と殉職したと言われていたディノが生きていて、エリオスに復帰したのだと言うとんでもない大ニュースをディノ推しの友人に興奮気味に伝えられた。
     ーーやがてディノがエリチャンに上げた偽りの無い、彼が消えていた四年間の真実にはかなり驚かされたが、ディノの誠実さは殉職が伝えられる前からもファンの間ではかなり有名で、多くのファンが彼のヒーローとしての復帰を喜んだ。勿論私の友人も然りだ。(最近までは彼氏に夢中だったのにディノの復帰を知ってからはディノの事ばかり話していたため、振られてしまったらしい。しかし現金な彼女は今度はディノに猛烈アタックすると息巻いていて相変わらずの彼女に笑ってしまった)私はここ最近仕事がかなり忙しくてエリチャンを見ている暇が無かったがずっと心の中でキースに本当に良かったね、と呟いていた。
     そんなある日の事、漸く大物芸能人の高級ジュエリーのオーダーの全てを終えて肩の荷が降りた私の所に何の運命の悪戯か先程まで関わっていた大物芸能人よりも更に私を驚かせる相手がこの店に来店した。
    「あ〜……えっと、プロポーズしようと思っている相手への指輪をオーダーしてぇんだけど」
    「ハイ、婚約指輪ですね、少々お待ち下さい。ただいまカタログをお持ち致します…………へっ!?」
     婚約指輪の対応は宝石店での仕事の中でも最も重要で負担も多い仕事だけれども、私はこのオーダーが一番好きだった。誰かの幸せに携われるこの仕事に誇りを感じるからだ。この仕事をする為に子供の頃から憧れていたと言っても過言では無い。気合を入れ直し、笑顔で来店相手を迎え入れれば私は声を掛けて来たその相手を見て硬直した。慣れないだろう高級ジュエリー店でその高身長を少し屈ませて、周囲を気にする様に佇むその相手は何とキース・マックスだったのだ。私の驚いた態度に彼はヒーローとして今はかなりの有名人になった自覚があるのか気まずそうに小声で話しかけて来た。
    「ココ、客のプライベートにも考慮してくれるって話を聞いたから来たんだけどよ……、その辺も信用して良いんだよな?」
    「は、はい。勿論お客様の事は個人情報含め、全てのプライバシーの保護に万全を期して対応させて頂いております。当店は芸能人の方のご来店も少なく無いので……勿論それはヒーローの方も同じくです」
    「そうか、そりゃあ助かる。今年のルーキーに情報通の奴が居てよ、ソイツの耳にでも入ったら一瞬で広まっちまうからそれだけは避けたいんだ。指輪を渡そうと思っている奴がかなり人気がある奴だから変な噂が立っちまうのも困るし」
    「ご安心下さい。必ず約束はお守り致します」
     その私の言葉にキースは助かる、と安堵した様に頷いた。嘘でしょ、あのキースが結婚だなんて……!! ディノが生きて帰って来た事で彼の中でも何かしらの心境の変化があったのだろうか。一年前にあのバーで見た時に抱えていたあの仄暗さは今は見る陰も無く、ただただ愛する人へと送るサプライズの事で頭が一杯な彼はとても幸せそうに見えた。推しの幸せな顔がこんなにも嬉しいなんて。……それにしてもキースが結婚したくなる程の女性って一体どんな相手なのだろうか。彼が仲が良い女性なんて私の知っている限りはリリー様一択だけれど、そんな彼女は既に何年前かに一般人とご結婚されていて可愛い娘も居ると聞いている。キースが選ぶ相手の女性像が全く想像出来ないけれども……、何て言うかとにかくその相手が物凄く羨ましい。あくまでも私にとってのキースは、推しのヒーローで彼に恋愛感情を抱いている訳では無い。それに私にはどうしようもない奴だけれど、放っては置けない彼氏が居る訳だしその人との結婚もずっと考えているのだ。
    (あ、そう言えばキースにも話したのだっけ。私のどうしようもない彼氏の話!)
     あの頃のキースはいつ死んでもおかしくない程に憔悴していたし、酔っても居たからフラッと立ち寄ったバーの店員の話なんてきっとこれっぽっちも覚えてなんて居ないだろうけれど。でも、ヒーローなんて何人も居るのにこうやって何度も出会うのは変な意味では無く何かしらの縁で結ばれているのかもしれない。……なんて、そんな都合が良い話なんてある訳無いけれど。そう思いながらこっそり心の中でクスリと笑えば、ふとキースに書いて貰っている指輪のオーダー表に目が行った。推しの指のサイズを知れるなんて何て役得なんだろう……。決して邪な気持ちがあってこの職業を選んだ訳では無いけれどこれは本当に先程まで対応していた大物芸能人の接客を頑張ったご褒美なのかもしれない……。
    (とても気難しい方だったしかなり無茶なオーダーで頭を悩まされていたんだよね……)
     本当に頑張った、私! そしてそんな私へのご褒美をありがとう、神様!! そんな事を思いながらキースが書いたお相手の指のサイズに思わず目が止まる。ついでに思考も停止した。キースよりかは幾分細身のサイズではあるが明らかに男性サイズであるその号数に私はただただ静かに無言で大パニックになった。
    (待って!? 推しの結婚相手がまさかの同性!?)
     私が混乱しているだなんて全く知る由も無い彼は書き終えたオーダー表を何とも無い顔で私に渡して来た。そこで漸く指輪に刻むメッセージを見てその時初めてキースの想い人が誰なのかを知り、胸がいっぱいになって彼から渡されたそのオーダー表を受け取る手が震えてしまっていた。

    『Always with you(いつもあなたと一緒に)』

     ……そうか。そういう事か。キースにとっての生涯を共にしたい相手。どうして私は彼のファンでありながら今の今まで全く気付かなかったのだろう。ディノが自分のエリチャンに、自分の事をずっと信じて待っていてくれた人の為にも俺はこれからもヒーローとして生きて行く。そう綴っていた。私は単純にそれはディノのファンの事だとずっと思っていた。けれど殉職を発表されたディノのファンが彼を待っているだなんて今考えたらあり得ない話なのだ。ディノの生存を一人、ずっと信じて待っていたのは紛れもなくキースだ。バーで出会ったあの時、憔悴して見えたのはきっと何処に居るかも、生きて居るのかも分からないディノをずっと探し続けていたから。面倒くさがりで上の立場になんてこれっぽっちも興味の無い、と豪語していた彼がメジャーヒーローと言うヒーローとしての最高ランクにまで上り詰めたのはきっとその方がディノを探す為には色々と便利だから。そうすれば何故あんなにも辛そうにしていたキースがヒーローを辞めなかったのか全てが繋がる。私が推しているヒーローは、いつも気だるげで、やる気が無くて、面倒臭がり屋だけれど、でも本当はとんでもなく優しい事を私は知っていたじゃないか。
    「お、おい待て、何で泣くんだ!?」
     そんな事を考えていたら、接客中にも関わらず突然キースの目の前で涙を零してしまった私を見てキースはギョッとして慌てた。彼が驚くのも無理は無い。見ず知らずの店員がいきなり自分のオーダー表を受け取って泣き出したら誰だって驚くだろう。
    「すみません……実は私、随分前からキースさんのファンなんです。貴方が幸せなのが本当に嬉しくて」
     よく考えたらいくら自分のファンだからと、見ず知らずの相手に自分が幸せである事を喜んで泣かれるとか物凄く気持ちが悪いだろう。そう我に返った私は急いで涙を拭き取り、頭を下げた。
    「大変失礼致しました……私情が入った店員では不安ですよね!? 直ぐに違う担当に変えさせて頂きますので……!」
     そう言って別の者を呼ぼうとした私をキースは呼び止めた。
    「あ〜いや、寧ろすげぇ嬉しいから大丈夫だ。オレはアンタに担当して貰いてぇんだ。だからこの店に来たんだしな。昔から人の事ばっか考えて行動しちまうお人好しなアンタに大事な指輪を頼みたくてよ」
    「えっ、それはどういう……?」
     照れ臭そうに笑ってそう呟く様にボソボソと話すキースに私は自分の耳を疑った。まさかそんな……、覚えている筈なんてない。彼はヒーローで、私は何処にでも居る極々平凡な一般人だ。そんな都合の良い事がある訳なんてない。
    「はは、悪いがアンタの友達のディノ推しの友人に謝っておいてくれるか? アイツとの結婚は先約があるから諦めてくれ〜って」
     そう言って軽くウインクするキースに、私は溢れる涙をもう我慢する事なんて出来なかった。コクコクと泣きながら頷く私に彼は更に言った。
    「ああ、アンタの彼氏にもだ。お嬢ちゃんみたいな良い女は絶対に他には居ないんだから逃したら後悔すんぞ〜ってキース・マックスが言っていたとも」
     ああ、本当に私の推しは昔も今も私の中では世界で一番カッコイイヒーローだ。そんな彼が選んだ相手がディノだなんて、こんなにも素晴らしい事は無い。きっとキースのファンも、ディノのファンも両手を挙げて二人の幸せを祝福するに違いない。
     やがて、暫くして誕生日を迎えたディノが載せたエリチャンはキースと一緒に映ったものだった。お揃いの婚約指輪を嵌めて、“誕生日の今日、キースと婚約しました”と告げて幸せそうに笑う二人の姿にニューミリオン中はお祭り騒ぎになり、そんな私は、“失恋した〜!! でも相手がキースだなんて私に勝ち目なんて無い〜〜!!!”とまたしても落ち込む友人を慰めるのはとても大変だったけれど、それから直ぐにずっと大学の頃から付き合っていた彼氏からプロポーズを受けた、なんてキースが知ったらどんな顔をしてくれるかを考えたらそんな事は全く大変では無かった。ーーきっとまた彼は小さくフッと笑って“そりゃあめでたいなぁ〜”と言ってくれるだろうか。何はともあれ、私はこれからも変わらずキースを推して行く事だろう。
    「どうか推しがこれからもずっと幸せで居てくれます様にーー」
     そう願って、私はニューミリオンの街を今日も歩く。推しが守ってくれるこの街で誰かの幸せのお手伝いを出来るこの仕事に誇りを持ちながら。

     数ヶ月後、私達の結婚式にキースとディノがサプライズゲストで来てくれた事に崩れ落ちそうになったのはまた別のお話!

    END☆
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👏☺☺☺☺☺💒🙏🙏😭💯💯💯😭😭😭💒💒💞💞💖💘💖👏💯👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    loveandpeace_kd

    DONE2023/01/14,15日開催のキスディノWebオンリーにて展示の小説です。
    キース推しのモブ子から見たキスディノのお話。以前のキデオンリーで展示していた物を加筆修正しました。
    ノット夢設定。あくまでもキスディノ前提です。
    私の推しヒーローは世界一カッコイイ!! ___キース・マックスと初めて会った日の事はよく覚えている。

     私はニューミリオンに住むしがない女子大生だ。家族構成は父と母、それに弟が一人と妹が二人。三人の下の弟妹を持つ正に言葉通りの長女として産まれた私は、物心ついた頃から多忙な両親に代わり、私が下の子達の世話をして来た。その甲斐あってか、学校でもいつも学級委員に選ばれたり、生徒会役員に選ばれたり、先生に頼られたりと、忙しい毎日を送っていた。人に頼られる事は苦じゃない。それどころか友人の世話までついつい焼いてしまう始末で、根っからの世話焼き気質だと自分でも思っている。そんな多忙な私はテレビやネットの情報にはとても疎く、ヒーローの存在もぼんやりとしか知らなかった。大学に入って直ぐに懐かれる様にして仲良くなった友人に熱弁されるまではヒーローが主にどんな仕事をしているのかすらよく知らなかった程だ。
    10590

    loveandpeace_kd

    DONE6/25ガスウィル︎︎ ♀Webオンリーの展示小説です。

    ※私設定のウィル︎︎ ♀の妹がメインのほぼオリジナル小説です。

    ※私設定なのでガスウィル︎︎ ♀は婚約しています。(気になる方は過去の小説をお読み頂けると分かりやすいです)

    ※私設定でウィルの妹達は双子設定にしており、名前もあります。

    私設定ばかりの捏造80%ぐらいの小説になりますがそれでも大丈夫だと言う方はお読み下さい。
    アリア色の夜明け 私の名前はアリア・スプラウト。ニューミリオン州のレッドサウスストリートで花屋を営む家庭に生まれた極々普通の女子中学生だ。私には一卵双生児である双子の妹が一人と、父と母、そして少し歳の離れた姉が居る。私の姉は同じニューミリオンに住んでいるが私達とは一緒に暮らしてはいない。何故なら彼女はニューミリオンが誇るヒーローの一人なのだ。一年前にヒーローになる為の試験に見事合格して、サブスタンスに適合し、見事ヒーローとなった姉は今はルーキーとしてエリオス機関に所属している。幸運な事に姉の配属セクターがココ、レッドサウスになったお陰で私はたまにパトロール中の彼女に会えたり、休憩時間や勤務後に店に立ち寄って貰えたりで頻繁に姉の顔を見る事が叶っている。
    20657