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    3/8~3/9に行われたフェイス×ディノWebオンリー【ショコラはピザと夢を見る】に展示させて頂く小説です。時間の都合上、お付き合いまで書けなかったので後日この続き~お付き合いになるまでのお話も書こうと思ってます😌

    キスから始まるプロローグSide:Dino

     アレ? と意識し始めたのはいつの頃だったか。気が付けば最近いつも身近に存在を感じる様になっていた。初めはよくピザを奢ってくれたり、一緒に出掛けようと言ってくれたり。俺の趣味の一つの深夜のテレビショッピング視聴にも嫌な顔しないで付き合ってくれたり。次第にそれは機会が増えて行って例えば二人のオフが被った日はソファに二人並んで座って一緒に映画鑑賞したりとかもあったっけ。俺と違ってパーソナルスペースが広いって最初は言っていたのにも関わらず最近は俺にピッタリくっついて横に座ってくれる彼に少しは懐いてくれたんだろうなって微笑ましく感じていた。そんなどこかくすぐったい日常を送っている毎日で、確実に俺の中の彼への気持ちが変わったのはこの日だった。

    「ただいま〜おっ、フェイス」
    「お帰り、ディノ。検査はどうだった?」
    「え、あっ……いつも通りだよ。特に何も異変は無いって。健康状態もバッチリ‪☆にひっ」
    「アハ。ディノはキースと違って煙草は吸わないし、お酒も頻繁に呑むワケじゃないしね。健康なら何より。長生きして貰わないとだから安心した」
     そうニッコリと、彼のファンが見たら卒倒するんじゃないかと言う程の綺麗な笑顔で笑ってフェイスは呟いた。

    「検査前って空腹状態で行かないとでしょ? きっとディノ今はすごくお腹空いているだろうなって思ってピザを頼んでおいたよ。一緒に食べない?」
    「わぁあ♪やった‪☆食べる食べる!」
     ピザ、と聞いて目を輝かせてフェイスの隣に座ればふふっ、と小さく笑ってフェイスは俺をじっと見つめる。

    「ん? どうしたんだ?」
    「ううん、ただディノは可愛いなぁって思っただけ」
    「ええ? 俺はこう見えてもうアラサーだぞ。キースやブラッドと同じ年齢だし」
    「アハ、そんな事知ってるってば。でもあの二人に比べたらだいぶ幼く見えるよね。見た目だけなら俺より年下って言われても疑わないよ」
    「う〜ん確かに年齢より下に見られる事は多いけどフェイスより下はちょっともう無理があるんじゃないかなぁ」
     フェイスより下って事は10代だ。アキラくんやレンくん、ジュニアと同い年ぐらいって事になる。流石にそれは無理だろう。

    「俺が幼く見えるのもあるのかもしれないけれど、フェイスが大人っぽいって言うのもあるんじゃないか?」
    「へぇ、ディノから見たら俺って大人っぽく見えるんだ?」
     不意に零したその言葉にフェイスは嬉しそうに笑んだ。どうやら彼は大人に見られる方が嬉しいみたいだ。そうか、これぐらいの年齢って早く大人になりたいって思う頃か。俺はアカデミーの頃から今に至っても年下に見られる事が殆どだったけれど、それをネガティブに捉える事はしないで元気があるとか、パワーを感じて貰えてるとかそう受け取っていた。でも大人に見られたいって思う人の方が大半だろう。

    「うん、俺がルーキー一年目の頃は好奇心旺盛過ぎてキースやブラッド達には随分迷惑かけまくっていたからなぁ。フェイスはその年齢で周りをよく見ているし、落ち着いているし、もう立派な大人だよ。あっ、でも俺から見たら可愛いメンティーな事には変わりは無いからな☆」
    「う〜ん……可愛いメンティーかぁ〜まだまだって事か……」
    「えっ、何か言ったか?」
    「ううん、ピザ美味しいなぁって言っただけだよ」
    「うん! ピザは本当に美味しいよな♪フェイスもピザを好きになってくれて嬉しいなぁ」
     自分の好きな物を自分の好きな人達と食べられるって本当に最高にラブアンドピースだ。フェイスも最初はカロリー調整しているからって一緒に食べてくれなかったけれど、最近はこうやって自分から用意して俺を待っていてくれたりする様になった。ルーキーズキャンプを終えて、バレンタイン騒動も終えて、そこから彼はすっかり俺に心を許して受け入れてくれた様に思える。フェイスとベスティの中だと言っているビリーくん曰く“DJがこんなに誰かにべったりなのは初めて見るヨ。ディノパイセンはDJにとってトクベツ枠なんだネ”って言っていて本当にそうだとしたらこんなに嬉しい事は無いだろう。フェイスの事は彼がまだ小さい子供だった頃から知っている。ブラッドにべったりで、お兄ちゃん大好きッ子で、あの頃のフェイスは本当に純粋で可愛くて天使みたいな子だって思ったっけ。数年経って、ブラッドと二人の間にあった事は詳しくは分からない。ブラッドが話したがらないから俺もそれを無理して聞き出そうとは思わないし、久し振りに会ったフェイスが少し変わっていて驚いたりはしたけれど、彼の根がとても優しい子だって事はあの頃から全く変わっていなかった。少しだけ捻くれてしまっていたけれど、それは彼が大人になるに連れて感性が更に敏感になったからだ。フェイスにはフェイスにしか出来ない事が沢山ある。優秀過ぎる兄を知っているから、その兄と比べる雑音ばかりが聞こえてしまって、彼にしか出来ないその大きな可能性を見失って、自信を無くしてしまっただけなのだ。残念な事に今まで彼の才能に気付き、向き合って話してくれる大人が周りにいなかっただけ。だから、こんな俺の拙い言葉でフェイスが自信を取り戻して前向きになってくれたのは本当に嬉しい。そしてそんな彼にこんなにも懐かれているのも。

    「ねぇ、ディノ。ちょっとしたゲームをしよう。好きって10回言ってみて?」
    「えっ、何だか恥ずかしいなぁ」
    「アハ、深く考えなくて大丈夫だから。ね、お願い」
     不意に言われた内容に目をぱちぱちと瞬かせ、その意味を理解すれば少し上目遣いでお願いするフェイスの可愛さに負けて、俺は分かったと頷き食べていたマルゲリータをごくん、と飲み込み口を開いた。

    「すきすきすきすきすきすきすきすきすきすき! ハイ、これで良い?」
     いい年しながらこんな他愛もない事で照れてしまって少し早口になってしまった。ラブアンドピースな言葉は積極的に口に出して言う方だけど、誰かに面と向かって好意的な言葉を伝えるのはやっぱり照れてしまう。まぁこれはただのゲームなのだけれど。

    「よく出来ました。じゃあ、“好き”の反対の言葉は?」

     そう問われて俺はその言葉の意味を理解した途端に緩く首を横に振った。たかがゲームの一種なのかもしれない。けれども俺はどうしてもその言葉をフェイスに向けて言いたく無かった。単純な言葉を使わなくても、その否定的な表現は人に向けては言いたくないのだ。

    「ごめん、フェイス。その言葉は言えない。言いたくない」
    「ああ、そっか。普通に考えたらそっちの言葉になっちゃうか。ディノに嫌な思いをさせてごめんね?」
     俺が表情を曇らせたからか、フェイスは直ぐにそれに気付いて申し訳無さそうに眉を下げた。けれども直ぐにニッコリと見惚れる笑顔を浮かべたかと思いきや、グイッと距離を詰めて来てその綺麗な顔を至近距離に感じる。

    「フェ、フェイス?」
    「“好き”の反対はこうだよ」

     ピンクサファイアの瞳に思わず見惚れていれば、その瞳はそっと長い睫毛の奥に伏せられて、気付いた頃には俺とフェイスの距離は1から0へとなっていた。唇に感じる温もりと柔らかさ。ああ、キスってこんな感じなんだ……。と何処か他人事の様に考えていれば、いつの間にか離れてしまったそれをつい目線で追いかけてしまい、小さくふふっと笑われて初めて自分が今どういう状況に置かれていたのかを理解する。

    「ふぇっ!? へっ、えっ!?!?」
    「アハ♪“好き”の反対は“キス”だよ、な〜んてね」
    「い、いま、き、きすし……!?」
    「ディノってキスする時、目を瞑らない派? 結構大胆なんだね」
    「ち、違……っ、いや、違うって言うかした事無いから分からない……」
    「えっ、まさかのファーストキス?」
     動揺が凄くてフェイスに問いかけられた言葉に返事を返すだけで手一杯だ。と言うか本当にどういう事だ。何故俺はフェイスにキスをされたのだろう? あの流れでどうしてそうなった? ずっと頭にクエスチョンマークを浮かべて混乱している俺とは打って変わってフェイスは何でも無い事のように飄々としている……様に見えたけれど、何故か少し俯いて口元を手で覆っている。えっ、どうしよう気分が悪くなったとか!?

    「……フェイス?」
    「そっか。初めてなんだ」

     刹那、ゆっくりと上げられた顔に俺は瞳を思わず見開いた。彼の何がそうさせたのかは分からないけれど、急に蕩ける様な笑みを浮かべた相手に俺はブワっと顔が赤くなるのを感じる。いつもは余裕そうに、年齢以上の大人びた笑みで笑う彼は色気も相まって女の子が黄色い悲鳴を上げる様な微笑み方をする。けれども今のフェイスは年相応の……もしかしたらそれよりもっと下に見える様な無邪気な、それでいて花が綻ぶ様な幸せを全面的に出した笑い方をした。こんなフェイスの表情は初めて見た気がして、そのあどけない笑顔を直視した俺はものすごく照れてしまって慌てて視線を逸らす。

    「初めてって大切な物なのにこんな形で奪っちゃってごめんね。その責任は取るから」
    「えっ!? いや、別に大切にしていたとかじゃなく機会が無かったってだけでそんな真剣に考えなくても……。って、責任取るってどういう意味で……?」
    「結婚しよう、はちょっと飛躍し過ぎか。……なら、それを前提に付き合おう、ディノ」
    「へっ!? えっ!? えええええええ!?」
    「あっ、大丈夫だよ。責任取るとか言っちゃったけど、俺はちゃんとディノの事が好きだから。勿論恋愛的な意味でね。……って言うか、俺の事を意識して欲しくてキスしたんだ。いつまでも可愛いメンティーのままは嫌だからね」
     そう言ってウインクするフェイスはアカデミー時代に出会ったあのあざとく可愛い悪戯っ子の少年と何一つ変わっていなくて、外見は大きく変わったと思っていたのはもしかしたら俺だけだったのかもしれない、とこの時の俺は頭の何処かでそう感じた。

    .˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.

    Side:Faith

     最初は不愉快でしか無かった。せっかく居心地の良い場所を確立出来た所に突如舞い込んで来た邪魔な相手。それが自分のメンターが命懸けで取り戻したかった人だったとしても俺には何の関係も無いワケだし。そりゃあおチビちゃんが変に首を突っ込みたがるから協力はしたけど、こんな形で自分の日常を壊されるなんて思ってもみなかった。キースとおチビちゃんとの共同生活が思っていたより居心地が悪く無かったのは二人が俺にそこまで干渉して来ないからだ。おチビちゃんはたまにちゃんとしろとかうるさいけど、それでも俺が揶揄うと直ぐに顔を真っ赤にして怒って、上手く話を逸らせたり出来たしね。そしてメンターであるキースは俺と同類で、煩わしい事が嫌いで極度の面倒臭がりで自分と波長が合ったから楽だった。
     家でも、アカデミーでも自分はどこか浮いた存在で居心地良く無かった事もあって、任務やパトロールとかはちょっと面倒だけど今のこの生活は割と気に入っていたんだ。それなのに、キースとアイツ……、ブラッドの同期である彼ことディノ・アルバーニがウエストのもう一人のメンターとして正式に着任するってなって、勿論共同生活も共にする様になって俺の心地良かった場所は一瞬にして奪われた。キースはディノの監視役も兼ねている為か、四年間探し求めていた相手が帰って来て嬉しいからか、サボり協定は破られつつあった。おチビちゃんもおチビちゃんで、やっとやる気のあるメンターが来たからかずっとディノにベッタリだ。面白くない。我ながら酷く子供っぽい事をしている自覚はあったけれど、俺はどうにもこの新しいメンターを手放しで受け入れる事が出来なかったのだ。

     (俺の居場所を取られた……)

     何故だかそう捉えてしまい、今でも自分でも大人気ない事をしていたと思う程にディノにキツく当たってしまった。ルーキーズキャンプではその苛立ちがピークに達してしまって、関係のないウィルにまで八つ当たりして、レンにまで言及されて、自分は一体何をやっているのだろう、と頭を冷やす為に一人になろうとした俺にディノはそうさせてくれなかった。
     ディノ・アルバーニという男は人の感情を読み取る事に非常に長けている。だからこそ、知られたくない俺の本心を言い当てられて、それを認めたくなくて、随分と酷い事を言った自覚はある。自分がずっとイライラしているのは、俺の居場所を奪ったアンタが原因なのだと。
     それでもそんな俺にディノは怒る事なんて決して無く、俺がずっと長い間コンプレックスに思っていた事をあの短期間で見破り、諭してくれた。

    『フェイスくんにも、フェイスくんの良いところがたくさんあるよ。ブラッドみたいになれなくても、フェイスくんは【ヒーロー】になれる。実際、トライアウトに受かってこの場所にいる』

    『君にも十分【ヒーロー】になる素質があるってことだよ。君自信が認めなくても、俺はそうだって思ってるから』

     アカデミーに入ってからあんなに俺に優しかったブラッドは一転して俺に厳しくなった。最初はブラッドの後を追う様にヒーローを目指した俺を温かい言葉といつもの優しさで“応援している”と言ってくれていたのに。俺がアイツに何かしてしまったのか、それともヒーローになって、何かがブラッドを変えてしまったのか。それは俺には分からない。でも少なくとも、俺がアカデミーに入る前まではずっと気にかけてくれていたのだ。
     それに付け加え、アカデミーでは事ある事にブラッドと比較された。教師にも、同級生にさえ。

    『あのブラッド・ビームスの弟だと聞いていたから期待していたのに』
    『本当に血が繋がっているのか?』
    『あんなに優秀な兄を持つと弟は大変だな』

     俺はフェイスだ。ブラッドじゃない。アカデミーの誰もが俺じゃない、“ブラッドの弟”として俺を見た。そして勝手に期待して、勝手に落胆される日々が続き、俺は自分の心を守る為にいつからか努力する事を止めた。頑張っても認めて貰えない、どんなに努力して優秀な成績を取っても、必ず言われる言葉が“まああのブラッド・ビームスの弟だしな”だった。でも、それでもきっと、ブラッドがいつまでも俺の味方で居てくれたら俺はそんな事は露ほども気にも止めずにいれたと思う。だってアイツが凄いのは本当の事で、幼い頃から俺は何でも出来る兄に尊敬と憧れを抱いて生きて来たのだから。
     でも、アイツはそんな俺を無惨にも突き放した。

    『やる気が無いならアカデミーを辞めろ』
    『【ヒーロー】は生半可な気持ちではやれない、中途半端な気持ちでいるのは本気で目指している者への冒涜だ』
    『俺と比較されたから何だと言うのだ、悔しければそれを超える成果を出せば良いだけの事だ』

     ブラッドが言った言葉の数々は正に正論だった。だからこそ俺の心に刃の様に突き刺さった。優しい言葉を求めていなかった、と言えば嘘になる。けれども、俺はたった一言尊敬するたった一人の兄にこう言って欲しかっただけだったのだ。

     “大丈夫だ、お前なら出来る”

     と。それすらも叶わず、返ってくる言葉は鋭利な刃物の様なものばかりで。そうして俺は自分自身を守る為に努力する事をやめてしまったのだ。皮肉にも音楽の才能には子供の頃から恵まれていたのもあり、アカデミーに居る間はDJの仕事を楽しくやって何とか心を保っていた。それでも、心のどこかで兄と同じ【ヒーロー】を目指す事は諦められなくて、結局トライアウトを受けてこの道に進む事にした訳だけれど、まさかの今年の研修チームのリーダーがブラッドで何故運命はこうも自分に試練を与えるのか、と思っていたけれど幸いにも配属されたセクターではそれなりに楽しくやれていたのだ。
     口では面倒くさい、やりたくないなど言ってはいたけれどそれはアカデミーの頃から諦め癖をつけてしまったからに他ならない。本当はディノの言った通り、真面目に向き合ってまた傷付くのが怖かったからだ。ブラッドの弟だからってまた言われるのが嫌だったからだ。だからいつも適当にやって、極力人と関わらない様に面倒事は避けて、それが俺なりの弱い自分を守る為の処世術だった。それを見事言い当てられてムキになって、八つ当たりしてしまったにも関わらず、ディノは俺に手を差し伸べてくれた。俺は俺だと、【ヒーロー】の素質がちゃんとあると。

     ずっとずっとその言葉が欲しかった。認められたかった。俺を一人の人間として見て欲しかった。それをディノ・アルバーニと言う男は一瞬にして全てを俺に与えてくれたのだ。あんなに辛く当たった俺に。……何て温かい人なのだろう。きっと、キースもこうやってディノに何度も救われたのだろう。あんなに面倒臭がりの自堕落な彼があんなにも固執して、自分の時間も財産も命すらも懸けて探し出したのだから。そして、ブラッドもディノの前では昔の彼らしさを見せる事が多々あった。キースもブラッドも、オスカーもこの人を大切に思ったり、慕う理由がこの時初めて理解出来たのだ。
     それと同時に、生まれて初めて手放したくないと思う相手が出来た瞬間だった。今までビジュアルと音楽の才能で散々女の子にチヤホヤされて来た俺は、本気でその子達に向き合ってなんて来なかった。自分の寂しさを埋める為に、暇な時間潰しの為に、そんな事ばかりに女の子を利用して、煩わしくなったら距離を置いて、何人も彼女を作って、今思えば最低だったと思う。勿論、俺自身を好きと言うより俺の顔とお金目当てだけの子も何人も居た。けれども俺を好きだと言ってくれる相手にさえ、俺は表向きのみで良い顔をして、そういう人達の真剣な気持ちを踏みにじったのだ。ディノに会って初めて誰かをこんなにも欲して、愛おしいって思える感情に気付いて、その時漸く今まで自分のしてきた愚かさを知って、このままじゃ駄目だと、彼女達とちゃんと心からの謝罪と共にそういう関係をキッパリと切った。
     初めて好きになった人。誰かを好きになるって気持ちがこんなにも幸せで、でも時に辛くて、こんな感情を自分が持つ日が来るなんて思ってもみなかった。何せ相手はディノだ。ラブアンドピースをモットーにしている彼は常に、誰に対してもそれで。何度ヤキモキさせられた事だろう。しかもそれでいて彼は自分に向けられる圧倒的好意に鈍感なのだ。一度、余りにも距離が近い間柄だからキースに問い掛けた事がある。

    「ディノに対して恋愛感情があるか、だってぇ? やめろやめろ~アイツとはそういうのじゃねぇよ」
     ファンの間では阿吽と呼ばれ、ペアで推してる人達も多いキースとディノ。キースは死んだと聞かされても頑なにそれを信じず四年もディノを探し求めていた男だ。こんなにやる気がない自堕落メンターなのにディノを探す為にメジャーヒーローにまでなってしまう程だし、よっぽどのクソデカ感情を抱いているのは確かだ。ディノが戻ってくるまではウエストのセクタールームのリビングでしょっちゅう酔っ払って寝言で名前を呼んで泣いてたぐらいだし、恋のライバルなのだとしたらアカデミーからの同期で俺よりディノを知り尽くしているキースは強敵過ぎてどう挑むべきかと探りを入れてみたのだけれど……。返って来た言葉は意外なものだった。

    「アカデミーの頃にしつこく声掛けて来てよ。そこからブラッドと二人腐れ縁みたいな感じでつるんで来たってだけでそういう感情はオレ達三人の中ではねぇの」
    「ホントに? 後出しでやっぱり好きとか言わないよね?」
    「何だぁ? お前にしてはヤケに突っかかって来るな。まさかディノに惚れたのか?」
     ここまで必死になればそりゃあいくら鈍感なキースでも気付くだろう。まぁキースなら誰彼構わず話したりしないし、同じチームに協力者が居れば色々動きやすいのもあるから話しておくのも良いだろうと思って俺は正直に頷いた。

    「別に協力してやらなくもねぇけど、かなり手強いぞ。何せ相手はラブアンドピース星人だからな。あと何故か知らねぇけどアイツ自分の事に関しては鈍感無頓着人間だしよ」
    「そんな事はキースに言われなくても毎日ディノを見ていれば分かるってば。協力してくれって頼みはしたけどキースと居る時に変な虫が寄って来たら追い払ってくれるぐらいで良いから」
    「めんどくせぇなぁ~アイツモテるんだよすっげぇ。しかもディノ自身はそういう自覚ねぇし」
     それも知ってる。何度か一緒にパトロールしていた時に女の子のファンだけじゃなく男のファンにまで声を掛けられるのがディノだ。何なら老若男女問わずだ。しかも俺に声をかけてくるちょっと俺と遊んでみたい、とかそういう軽い女の子だけじゃなくガチ恋ファンとやらも多数居る。こちらも男女問わず。まああれだけ人当たりが良くてファン思いで優しい男がモテない筈が無いのだ。けれどもディノはあの通りのラブアンドピース星人なのもあってアカデミーの頃から恋愛関係はからっきしだったらしい。実際に告白された事も何度もあったみたいだけれど、【ヒーロー】としての自分を優先したいから。と言った理由で断っていたらしい。何ともディノらしい返しだ。でもそんな事も想定内。ディノの事を意識し始めてから俺なりに色んなアピールをしてきたつもりだ。最初はピザを奢ったり、クラブに招待したり、休みの日に一緒に出掛けようとか、夜中のテレビショッピング視聴に付き合った事もあったっけ。最初はそう言った軽いコミュニケーションからスタートして、最近はそれに付け加えてスキンシップも多めに取っている。けれども元からパーソナルスペースが極度に狭いディノには何も響かなかった。いや、正式には懐いてくれて嬉しい☆って思ってる程度だって事がよく分かった。良くも悪くもディノにとって全ての人が皆平等に同じなのだ。そりゃあ、ファンとかに比べたら俺やおチビちゃんはディノの中である程度の特別枠には入っているのかもしれないけれど。でもそれで満足するワケが無い。だから俺よりもっとディノの事に詳しいキースには絶対に協力者になって貰わないと困るのだ。

    「どうしたら意識して貰えると思う?」
    「まさかニューミリオン1のモテ男のお前にそんな質問されるなんて意外だったわ〜」
    「ちょっとビリーみたいな言い方はやめて」
    「イヤ、オレなんかに聞くよりアイツに聞いた方がよっぽど良い情報買えるんじゃね〜の?」
    「それより高く俺がディノを好きだって情報を女の子達に売られる可能性があるから怖いんだってば。だから余計な事は言わなさそうなキースに聞いてるの」
    「と言われてもなぁ〜オレだってそっち方面は全然だしよ。……ああ、そうだな。ディノは自分から積極的に好意を出していくのは得意だが、相手に出される事には弱ぇ」
    「へぇ? 例えば?」
    「前にジェイとブラッドと四人で呑んだ事があるんだよ。珍しくブラッドが良い感じに酔っててよ、ディノに尊敬しているだの、頼りにしているだのまぁオレ相手には絶対ェ言わねェ褒め言葉のオンパレードでよ。その時のディノは褒め殺しにあってすげ〜照れてたんだよ」
     それは何て言うかちょっと違うんじゃない……? そんな疑問符を頭に浮かべた俺にキースはすかさず言葉を続ける。
    「オイオイ~何かちょっと違う、みたいな顔すんなって。ここからが本番だ。その後、ブラッドがいつもの澄ました笑顔じゃなくて割とゆるっと、と言うか何て言うんだ? あ〜〜こう、気の抜けたちょっとあどけない笑顔でディノを真っ直ぐに見つめて言ったんだよ。“お前と親友になれて俺は幸せ者だ”って。そしたらアイツ顔真っ赤にしてマジ照れしてやがんの。多分アレは言われた言葉の内容もだが、ブラッドみたいな正統派イケメンに気が抜けた笑顔で微笑まれた事による照れだな」
    「……つまり何が言いたいの? 俺にはディノがブラッドの顔に弱いって話にしか聞こえないんだけど?」
     普通にイラッとした話をヘラヘラと笑いながらキースに話されてその怒りをぶつける様に問いかける。そりゃあブラッドの顔が世間一般的にイケメンだとか綺麗な顔をしているなんて事は分かるよ。我が兄ながらそこは認める。せっかくそんな顔してるのにいつも仏頂面の無愛想なのはどうかと思うけど。まぁでもファンの前ではちゃんと笑顔でファンサービスしているらしいし。って別にアイツの話はどうでも良いんだって。

    「分かってねぇなぁ。そうじゃね〜んだよ。恐らくディノ自身も気付いてねぇけどアイツはイケメンのちょっと気が抜けた笑顔に滅法弱いんだよ」
    「はぁ、それで?」
    「ここまで言ってまだ分かんねぇの? ブラッドの顔に弱いって事はお前の顔にも弱いんだよ、アイツは」
    「え、喧嘩売ってる?」
     俺にとってブラッドと比べられる事は何よりの地雷だ。それはキースも勿論熟知している。なのにここに来て地雷踏んで来るとか喧嘩を売られている他に何があるの?
    「バッカ、ちげぇよ。そういう事じゃねぇって。遺伝子は一緒なんだから使えるモンは使っておけって話だよ。なにふりかまってる余裕なんてねぇだろ。相手はラブアンドピース星人なんだからよ」
    「そうだけど……でもいつもこの顔で至近距離で見つめたりはしてるけどディノは照れたりした事無い けど」
    「言っただろ、普段から見てる顔じゃなくてちょっといつもと違う顔してみろって。それでキスの一発でもぶちかましたら意識するぐらいは効果あるんじゃねぇの?」
    「え~……そんな事で変わるかなぁ。それで駄目だったら俺、自分の顔に自信無くしそうなんだけど」
    「色男がなぁに言ってんだよ。信じられねぇならこの話は無かった事にして精々他の攻略方法とやを探すんだな。オレが協力出来るのはこれぐらいだ」
     そう言ってタバコ吸いに喫煙所行ってくるわ~とヒラヒラと片手を上げて部屋から出て行ったキースの背中を見送り俺は首を傾げる。
    「本当にそんな単純な事で意識してくれるんだったら有難いんだけど」

     しかし俺の予想と反して、キースの助言が思っていたよりディノ本人にクリティカルヒットしたらしい事をたった今感じた。恒例の検査後、同じくオフ日だった俺はディノを部屋で待ち構え、当たって砕けろでキースの助言通り行動してみたのだ。まぁ、どうしても気が抜けた顔とやらが自分の中では理解出来なくて、苦戦していた所でまさかの俺とのキスがファーストキスだと知り、思わず心の底からの喜びを我慢出来ず、笑みが零れたのだけれど、自分的にはだらしない顔になってしまった自覚はあるので、こんな顔駄目だと思っていた矢先、ディノは刹那顔を茹でダコの様に真っ赤にして、その真っ赤な顔のまま口元を抑えて、俺の告白の後、
    「す、少しだけ考えさせて!!」
     とバタバタと走ってその場を後にしたのだ。その姿を見て俺は思わず一人呟いた。
    「嘘でしょ……」
     あんな顔を真っ赤にして照れたディノの顔は初めて見た。羞恥で自身も気付かない内に込み上げたらしき涙は零れはしなかったものの、あの綺麗なスカイブルーの瞳が薄い水の膜を張り、うるうると潤むその姿は思わず唾を嚥下してしまう程の色気を醸し出していて。明朗活発、元気はつらつの言葉が正に似合う彼のあんなにセンシティブな表情を見られるなんて。

    「……はぁ、もっと見たいな」
     きっと恋人になって、関係がもっと進んだならば、あの表情が、いやあれよりもっと色気に満ちたディノが見れるのかもしれない。そう考えたら自分でも無意識に舌なめずりしていて。その時にふと、気付いた。

    「あ、マルゲリータの味」

     それは、先程までディノが美味しい美味しいと口にしていた物だ。生まれて初めて好きな子とキスをしたその味が余りにも彼らしくて思わず一人吹き出し、俺はこれからどうやってじっくり攻略していこうか考えるのだった。

     一方、そんな俺の計画なんて全く知らないディノはあの後直ぐにブラッドの所に駆け込んでいた事実を俺が知るのはまた別のお話。

    「うわぁ~ん!! ブラッド!! 俺ブラッドの義弟になるかも!」
    「……???? ディノ一先ず落ち着け」


    続く、かも?


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    Replies from the creator

    loveandpeace_kd

    DONE2025.01/18~19に行われたフェイディノWebオンリーにて展示させて頂いた小説です。
    以前の2作の続きになるので前作2品を読んでから読まれた方が楽しめるかと。ギリギリ投稿になってしまってすみません💦
    Side:F

     近頃何だかディノの様子がおかしい。キースやジュニアが話し掛けてもいつもと変わらないのに俺が話し掛けると明らかに態度が変わるのだ。

    「ねぇ、ディノ」
    「ふぁい!? ど、ど、どどうしたんだフェイス!」
    「いや、どうしたんだって。どうかしてるのはディノの方でしょ?」

     こんな風に俺が声を掛けるとちょっと大袈裟なんじゃない? ってぐらい肩を跳ね上がらせ、視線はあちこち宙を彷徨うし、声も上擦っている。まあ理由は言わずもがな先日の俺のディノへの告白の一件だろう。俺がディノに好意を抱いてから色々なアピールをしてみたものの、誰が見ても自分への好意については鈍感だと言われているディノは全く俺の好意にも気付かなかった。だから気は乗らなかったものの、ディノのことなら何でも分かっているだろうキースに相談してディノへ俺らしくもない告白をしたのだ。結果は……、イエスでもノーでもなく“少し考えさせて”だった。だけれど、その言葉を返したディノの表情は今まで見た事も無い感じで、相手に俺の事を“可愛いメンティー”以上の相手、と言う感情を持たせる事が前回の目標だった為、かなり良い結果を出せたのではないかと思う。ディノには申し訳ないけれども彼のファーストキスを奪えた事もかなりの収穫だったし。だから、あの日以降もっと積極的に“好き”アピールをして俺の事が気になって仕方ないぐらいにしようと思っていたのに……。
    15544

    loveandpeace_kd

    DONE2023/01/14,15日開催のキスディノWebオンリーにて展示の小説です。
    キース推しのモブ子から見たキスディノのお話。以前のキデオンリーで展示していた物を加筆修正しました。
    ノット夢設定。あくまでもキスディノ前提です。
    私の推しヒーローは世界一カッコイイ!! ___キース・マックスと初めて会った日の事はよく覚えている。

     私はニューミリオンに住むしがない女子大生だ。家族構成は父と母、それに弟が一人と妹が二人。三人の下の弟妹を持つ正に言葉通りの長女として産まれた私は、物心ついた頃から多忙な両親に代わり、私が下の子達の世話をして来た。その甲斐あってか、学校でもいつも学級委員に選ばれたり、生徒会役員に選ばれたり、先生に頼られたりと、忙しい毎日を送っていた。人に頼られる事は苦じゃない。それどころか友人の世話までついつい焼いてしまう始末で、根っからの世話焼き気質だと自分でも思っている。そんな多忙な私はテレビやネットの情報にはとても疎く、ヒーローの存在もぼんやりとしか知らなかった。大学に入って直ぐに懐かれる様にして仲良くなった友人に熱弁されるまではヒーローが主にどんな仕事をしているのかすらよく知らなかった程だ。
    10590

    loveandpeace_kd

    DONE6/25ガスウィル︎︎ ♀Webオンリーの展示小説です。

    ※私設定のウィル︎︎ ♀の妹がメインのほぼオリジナル小説です。

    ※私設定なのでガスウィル︎︎ ♀は婚約しています。(気になる方は過去の小説をお読み頂けると分かりやすいです)

    ※私設定でウィルの妹達は双子設定にしており、名前もあります。

    私設定ばかりの捏造80%ぐらいの小説になりますがそれでも大丈夫だと言う方はお読み下さい。
    アリア色の夜明け 私の名前はアリア・スプラウト。ニューミリオン州のレッドサウスストリートで花屋を営む家庭に生まれた極々普通の女子中学生だ。私には一卵双生児である双子の妹が一人と、父と母、そして少し歳の離れた姉が居る。私の姉は同じニューミリオンに住んでいるが私達とは一緒に暮らしてはいない。何故なら彼女はニューミリオンが誇るヒーローの一人なのだ。一年前にヒーローになる為の試験に見事合格して、サブスタンスに適合し、見事ヒーローとなった姉は今はルーキーとしてエリオス機関に所属している。幸運な事に姉の配属セクターがココ、レッドサウスになったお陰で私はたまにパトロール中の彼女に会えたり、休憩時間や勤務後に店に立ち寄って貰えたりで頻繁に姉の顔を見る事が叶っている。
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