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    6/25ガスウィル︎︎ ♀Webオンリーの展示小説です。

    ※私設定のウィル︎︎ ♀の妹がメインのほぼオリジナル小説です。

    ※私設定なのでガスウィル︎︎ ♀は婚約しています。(気になる方は過去の小説をお読み頂けると分かりやすいです)

    ※私設定でウィルの妹達は双子設定にしており、名前もあります。

    私設定ばかりの捏造80%ぐらいの小説になりますがそれでも大丈夫だと言う方はお読み下さい。

    アリア色の夜明け 私の名前はアリア・スプラウト。ニューミリオン州のレッドサウスストリートで花屋を営む家庭に生まれた極々普通の女子中学生だ。私には一卵双生児である双子の妹が一人と、父と母、そして少し歳の離れた姉が居る。私の姉は同じニューミリオンに住んでいるが私達とは一緒に暮らしてはいない。何故なら彼女はニューミリオンが誇るヒーローの一人なのだ。一年前にヒーローになる為の試験に見事合格して、サブスタンスに適合し、見事ヒーローとなった姉は今はルーキーとしてエリオス機関に所属している。幸運な事に姉の配属セクターがココ、レッドサウスになったお陰で私はたまにパトロール中の彼女に会えたり、休憩時間や勤務後に店に立ち寄って貰えたりで頻繁に姉の顔を見る事が叶っている。
     そう、薄々感じているかもしれないが私は姉こと、ウィル・スプラウトの事が大好きだ。家族だから、実の姉だから好きなのは当たり前だと言われるかもしれない。だが私は自分でも自覚する程に、姉に対してはシスコンを拗らせていると思う。私の双子の妹のステラも勿論、姉の事は好きだが恐らく私ほどでは無いだろう。姉……、お姉ちゃんは本当に世界中に数居る姉妹達の中でもお手本の様な姉だと思う。いつもニコニコしていて、性格も温厚篤実で、誰にでも等しく優しく温かい人だ。うちは、花屋を営んでいるのもあって両親は共働きだ。だからそんな忙しい両親に代わって、私とステラの面倒は殆どお姉ちゃんが見てくれていた。宿題を見てくれたり、習い事の発表会にも来てくれたり。お姉ちゃんだってきっとやりたい事もあっただろうし、遊びにも行きたかった筈だ。それでも絶対に文句なんて言う姿を見た事は無かったし、私達が成長していく過程を傍で見られるのは嬉しいからと笑って話す姿にどれ程救われただろうか。子供の頃に病弱だったお姉ちゃんは物心つく頃から、強くて市民の憧れだったヒーローに自分もなりたいと語っていた。だから見事に夢を叶えて立派なヒーローになったお姉ちゃんの事を私はとても尊敬している。

     そんな自慢のお姉ちゃんに最近初めての恋人が出来た。今まで恋人と言った存在が居なかったのは決してお姉ちゃんに問題があったわけではない。性格は勿論の事、容姿だって特別美人だとか美少女って訳では無いけれど、それでもフワフワの金色の長い髪は癖っ毛でも柔らかくて指通りも良い髪質だ。幼馴染みのレンくんが“ウィルの髪は綺麗だな”って褒めてくれたのが嬉しくて毎日しっかり手入れをしているらしい。瞳はお姉ちゃんも大好きな蜂蜜を溶かして垂らした様な甘いハニーアイで、切れ長だけれども優しく温かみのある色合いとその瞳は、穏やかな性格のお姉ちゃんを一番よく表していると思う。身長は170センチと女性にしては高めの身長だけれども、子供や動物と話す時にその高身長を屈めて相手の身長に合わせるその仕草も私は可愛いと思っている。加えて女性らしさの象徴とも言える胸のサイズは平均値を遥かに上回る大きさで、私はお姉ちゃんに抱きしめられる度にその大きな胸に包まれるのが大好きだった。レンくんの従兄弟で、現在お姉ちゃんと同セクターのもう一人の幼馴染みのアキラくん曰く、ヒーローになる為の勉強をするアカデミーでもお姉ちゃんは大層モテたそうだ。人当たりも良く、アカデミーでの成績も優秀で教師にも頼りにされているそんなお姉ちゃんがモテないはずが無いのだ。それでもお姉ちゃんはヒーローになる為に来た学校で恋愛なんてしている暇は無いと、ことごとく告白を断ったらしい(断ったと言うか持ち前の天然っぷりで告白する前に相手を玉砕させるフラグクラッシャーだとアキラくんは言っていた)そんなお姉ちゃんに遂に恋人が出来たのだ。しかも相手は同じヒーローで同期の人だった。更に言えばアキラくんが不良時代から慕っている人で、レッドサウスストリートの不良の間では知らない人は居ないと言う程の有名なチームのリーダーをしていた人らしい。初めはお姉ちゃんもアキラくんを悪い道に引き摺り込んだ人だってあんなに嫌っていたのに。私の知らない所で付き合うどころか婚約までしていて、その話を聞いた時は余りの衝撃に気絶しかけた程だ。どうしてあんな不良なんかが私のお姉ちゃんと……!! お姉ちゃんに相応しい男の人は他に居る筈。断じてあんなチャラチャラした不良なんかじゃ無い。私は断じて認めない。ガスト・アドラーって男の存在を。

    ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

    「何でアリアはそんなにガストさんの事を嫌うかなぁ〜あんなにカッコ良くて優しくてしかもヒーローなんだよ? 私からしたらお姉ちゃんにガストさんは勿体無いって思うぐらいだよ」
    「ステラはミーハー過ぎ。顔が良いとかそんな事だけでその人の本質なんて分からないじゃない。元不良だし、しかもただの不良じゃないんだよ? あちこちの不良に恐れられてるとかそんなのロクな人じゃない」
    「今は足を洗って真面目にヒーロー業に専念してるってお姉ちゃんも言ってたじゃん。アリアはそろそろお姉ちゃん離れした方が良いと思うよ」
    「うるさい、そんな事アンタには関係ない」
    「もう、本当アリアはお姉ちゃんの事になると融通効かないんだから!!」
     __そんな事ステラに言われなくたって分かってる。もう中学生にもなるんだからお姉ちゃん離れするべきなんだって。でも、そんな事言われたって。いつも他人の事ばかり考えて自分の事なんて後回しで。誰かの為にって自分を犠牲にしてばかりいる優しいお姉ちゃんを私ぐらいは心配したい。本当なら私だってやっとお姉ちゃんも自分の為の幸せを考える様になったんだって心から祝福したいよ。でも相手が元不良だなんて認められる筈が無い。
    「すみません、贈り物の花束を作って貰いてぇんだけど」
    「はーい、ただいま!! あっ、噂をすれば……♡」
     今はステラと私が揃って店番をしていた。お母さんは配達に出てしまっているしお父さんは仕出しに出掛けてしまっている。ちょっとした花束を作るのは私はお姉ちゃんから教わっていたからこういう時は二人で店番をする事にしていた。ステラは全く花の事には詳しくはないけれど、根っからの陽キャラで明るい性格の彼女は接客に向いているからだ。私は愛想が無いし、人と話す事は苦手だからお互いに足りない部分を補っての店番だった。お客さんからの呼びかけに愛想良く出て行ったステラの声音に少しばかりの色が付いた事に疑問を浮かべて私も外に出てみればそこには先程まで話していた噂のヤツが居て、私は声には出さなかったものの思いっきり顔を顰めてしまった。
    「……いらっしゃいませ」
    「よっ、今日も店番か? まだ中学生なのに家の手伝いしてるなんて偉いよなぁ。これ土産のプリン。良かったら食べてくれ」
    「キャ〜! ガストさん優しい〜流石気が利く〜♡」
    「せっかくの申し出ですが姉に知らない人から物を貰ってはいけませんと言われておりますので」
     そうキッパリ断って差し出された物を押し返せばすぐ様ステラがそれを横から奪い取った。
    「もう、アリア!! ガストさんはお姉ちゃんの婚約者なんだから知らない人じゃないでしょ。すみませんガストさん。この子超が付く程のシスコンで〜ガストさんに大好きなお姉ちゃんを取られたって拗ねてるんですよね」
    「いや、はは……まぁいきなりは受け入れられないよなぁ。俺も無神経で悪い」
    「シスコンなのは認めるけどそういう事じゃ無いから。もっとちゃんとした人が婚約者なら私だってこんな態度取ってない」
    「アイタタタ……痛い所を突かれちまった」
    「お前がいつまでもそんな風にチャラチャラしているからだろう。自業自得だ」
     私の辛辣な言葉にも苦笑するものの全然堪えた様に見えない相手に僅かながらもイラッとすれば後ろから更に辛辣な言葉が飛んで来て私は目を丸くした。
    「レンくん。そっか、同じセクターだっけ」
     ガストさんの背後から姿を見せたのはお姉ちゃんの幼馴染みでガストさんと同じノースセクター所属のレンくんだった。恐らくパトロール帰りにでも店に寄るのにレンくんも付き合わされたのだろう。レンくんは子供の頃はもっと明るくてよく笑う子だったと聞いている。けれどもあるクリスマスの日に家族を一瞬にして目の前でイクリプスに殺されて、その日からすっかり変わってしまったらしい。それでも、いつだってレンくんの事を気にかけて、本人に鬱陶しがられても幼馴染みとしての距離感を貫いたお姉ちゃんに、レンくんも少なからずお姉ちゃんの事を特別に想ってくれている節は見られた。私はそれが恋だったら良かったのに、って思っていたけれど……。
    「いらっしゃいレンくん。うちのお店にお姉ちゃんが居ない時に来てくれるなんて珍しいね」
    「ああ、この馬鹿に一緒に来てくれって言われて仕方なく来たんだ」
    「おいおいレン。確かに付き合わせたのは悪いけどさ、お前一人じゃタワーまで辿り着け無いだろ?」
    「うるさい、そんな事は無い。俺を方向音痴みたいに言うな」
     いや、誰がどう見てもレンくんは方向音痴だよ……。と言う心のツッコミはギリギリで出さない様にして、レンくんも一緒に来てくれた事に心から安堵した。恐らくガストさんは私が彼を嫌っている事を分かっている。(まぁあれだけ露骨に態度に出していれば当たり前だ)だからだろう、どうにか私を手懐けようとしているのかこうやってちょくちょく店に来るのだ。ステラは純粋に以前からガストさんのファンだったからか、喜んでいるけれど私はやりにくくて仕方ない。
    「今日は何のお花を注文に来たんですか? それもお姉ちゃんにプレゼントするんだよね? 良いなぁ〜ガストさんみたいな素敵な人に毎回お花をプレゼントされるなんて。私もカッコイイ彼氏が欲しい〜♡」
    「はは、可愛い妹に彼氏が出来たなんて知ったらウィルが血相変えそうだな」
    「そうなんですよね。お姉ちゃんにはステラに恋人なんてまだ早いっていつも言われるんです。私だってもう中学生だし素敵な恋人の一人や二人出来たって可笑しく無いのに。ガストさんだって私達ぐらいの年齢の時は彼女もより取りみどりだったんじゃないですかぁ? すっっっごいモテただろうし」
    「い、いやぁ〜そんな事はねぇよ」
    「あの!! 何も注文しないなら帰って貰って良いですか? 仕事の邪魔になるんで!」
    「もう、アリアったらそうやってまた!! 今はどうせお客さん居ないんだから良いでしょ!」
    「おっと、そうだった。悪いな。今日もアリアに花束作って貰いたくってさ。ウィルが喜びそうなやつお願い出来るか? 明日で付き合って三ヶ月になるからお祝いに渡したいんだ」
    「お姉ちゃんが喜びそうなやつって。毎回私に任せてばかりいないで少しは自分でも考えたらどうですか? 他人が選んだ花よりよっぽど気持ちが篭っていると思いますけど」
     そうピシャリと言い放つ私にステラがこの子は! と怒る。だってそうじゃない。何で私がこんな人の為に花束を作らなきゃいけないの。しかもお姉ちゃんとの記念日の花束なんて。私は認めて無いし二人の関係が更に進展する様なお手伝いを何で私がしなきゃいけないの?
    「イヤ、だって俺よりアリアの方がずっとウィルの事を分かっているだろう? 花言葉だって詳しいし。素人の俺が選んで作った花束より可愛い妹が自分の為に考えて作ってくれた花束の方がウィルだって喜ぶだろうし」
    「.............ッ!」
     ヘラヘラしているけれど私が納得する答えを返され答えに詰まる私を見て、レンくんがアリアの負けだな、と小さく呟いた。

    ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

    「別にアイツの肩を持つ訳では無いがもう少し普通に接してやれないのか」
     完全敗北した私はステラにも“ガストさんはお客さんなんだからアリアに断る権利は無いからね!!” とまで念を押され渋々店に陳列されている花を選んで花束を作り始めた。こうなったら出来るだけ値段が高い良いお花を使ってやる。私が出来る嫌がらせなんて所詮この程度しか無いのだから。だって、自分が嫌でも仮にもお姉ちゃんが選んだ相手なのだから。
    「お前がガストを嫌っている事をウィルが気にしている」
     私が渡す相手はあの人だけれど、この花束は私が世界で一番大好きな人の元に届けられるのだ。だから今店にある一番綺麗な花を集めて私は丁寧に包装した。その場所に何度か店を手伝ってくれた事のあるレンくんがやってきて苦虫を噛み潰したかの様な声で言った。確か当初レンくんも二人の婚約や付き合う事には猛反対していた筈。だから味方だと思っていたのに。きっとお姉ちゃんや二人の関係を喜んでいたアキラくんに説得させられたんだろう。
    「......お姉ちゃんを困らせている事なんて分かってるよ。でも、それでも。私はお姉ちゃんが傷付いたり悲しい思いをするなんて耐えられない」
     大好きなお姉ちゃん。いつだって私やステラの事ばかり考えて、自分の事なんて二の次。大人になったらなったで今度は困ってる人を助けたいって言って子供の頃からの夢だったヒーローになって。女の子なのにいつも顔に傷を作ったりして、サブスタンスの恩恵で治りが早くても私は大好きなお姉ちゃんの顔に一瞬でも傷がつくなんて嫌だ。
    「私ね、今よりもっと幼い頃にお姉ちゃんを失いかけた事があるの」
     物心ついた頃から私はピアノのレッスンを受けていた。私はお姉ちゃんみたいに器量は良く無いし、ステラみたいに愛想も良くない。でもピアノだけは大好きで、表に感情を出すのが苦手だった私はいつもピアノの旋律に自分の感情を乗せて引いていた。お陰でプロになれる才能は無くてもコンクールで賞を頂けたりするぐらいにはなれた。そんなある日。ピアノの発表会の日、体が弱かったお姉ちゃんは朝から体調を崩して熱を出していた。お父さんとお母さんはどうしても外せない大口の注文が入っていて発表会に来ることは出来ない。だからお母さんには
    「アリアには申し訳無いけれどお姉ちゃんは発表会には行かせられない」
    と言われた。でもまだ幼かった私はせっかく毎日必死に練習したピアノを誰にも聞いて貰えない事が悲しくて嫌だと駄々をこねた。自分にはピアノしか無いのだ。そのピアノも家族に聞いて貰えなければ私に何の価値があるのだろう。幼いながらにそう思ったのだ。結局お母さんに宥められ、どうにもならない現実に私はせめてもの抵抗で朝から家族と一言も会話をしなかった。そんな憂鬱な気持ちのまま臨んだ発表会。大好きなピアノを前にしても気持ちが上がる事の無かった私の耳に聞き慣れた声がした。
    「アリア、頑張って!」
     その声に俯かせた顔を上げて客席を見渡せば、そこには来れないと言っていたお姉ちゃんの姿があった。笑顔で手を振るお姉ちゃんに私は一気に気分が高揚し、堂々と胸を張ってピアノを演奏する事が出来た。
    (きっと熱が下がったから来てくれたんだ……!!)
     単純な私はそう考えて、全ての発表会が終わって走って客席に居るお姉ちゃんに会いに行った。でもそこで見たのはいつもの満面の笑顔で私を出迎えてくれるお姉ちゃんが沢山の人だかりの中で救急隊員に支えられ、担架へと乗せられて行く姿だった。優しい顔は苦痛に歪み、荒い呼吸に青ざめた顔。そんな状態で運ばれていくお姉ちゃんに泣きながら救急隊員にしがみついた。後から両親に聞いたらお姉ちゃんは
    「せっかくのアリアの晴れ舞台を私が見届けてあげなかったら私はあの子の姉を名乗る資格なんて無い」
     そう言って必死に止める両親を振り切って私の発表会に来てくれたのだと言う。無理をして肺炎にまでなったお姉ちゃんはその日の夜、本当に危なかったらしいと聞いた。何とか山場を乗り越え生きて帰って来てくれたお姉ちゃんに私は泣きながら抱きついてごめんなさい、と言った。でもそんな私を見てお姉ちゃんはニッコリ笑ってこう言ったのだ。
    「アリアのピアノ、すっごく良かったよ。沢山練習して頑張っていたもんね。アリアは本当に凄い! 自慢の妹だよ」

    「自分が生死の境を彷徨った事なんて何て事も無かったかの様にそう笑うお姉ちゃんを見て、私は二度とお姉ちゃんを困らせる様なことはしないって心に決めたんだ。そして誰よりもお姉ちゃんの幸せを願う存在でいようって。だから本当ならやっと自分の幸せを掴もうとしているお姉ちゃんを誰よりも祝福したい。でもあの人は信用出来ない」
    「……そんな事があったのか。成程な、ステラと違ってお前がウィルにベッタリな理由が分かった。無神経な事を言ってすまなかった。もう無理に認めろなんて言わない。俺だって未だに良く思っていないのが本音だ」
     そう小さく笑ってレンくんは私の頭を撫でた。私とは違った形でレンくんもお姉ちゃんの事をとても大切に思ってくれているのを知っているからその言葉が嬉しかった。
    「私はレンくんがお姉ちゃんとそういう仲になってくれたら良いのにってずっと思ってたよ」
     その言葉に少し驚いた顔を見せたレンくんは小さく首を横に振る。
    「ウィルの事は大切な幼馴染みだとは思っている。こんな俺をいつも気にかけて声を掛けてくれるのもウィルには直接伝えていないが嬉しく思っているのも本音だ。ただ俺ではウィルを幸せにしてやる事は出来ない」
     __レンくんは今でも家族を殺したイクリプスの事を恨んでいる。お姉ちゃんはずっとレンくんには復讐なんて止めて、自分の幸せを考えて欲しいって願っているみたいだけれども、でも私には少しだけれどレンくんの気持ちが分かるよ。だってきっと私もお姉ちゃんを目の前で殺されたりなんかしたら自分の幸せなんて考えられない。レンくんと同じ道を歩んでその相手に復讐してやろうって思う筈だから。
    「死なないでね、レンくん。レンくんが死んだらお姉ちゃんはすごく悲しむと思うし、私だって悲しい」
    「……ああ、分かっている。最近は自分の足りない部分も分かって来て、弱点克服に努めている。マリオンのトレーニングもかなり厳しいが洞察力に優れていて指導も的確だ。お陰で入所した時より遥かに強くなってきた……アリア?」
    「そ、そっか。レンくんの所のメンターだったっけ、マリオンさん」
    「そうだが……マリオンの事を知っているのか?」
    「あ、はは。ちょっとだけね。あっ!! 花束出来たから、渡さないと!!」
     そう言って慌ててレンくんの背中を押してステラとガストさんの待つ場所まで押しやって私はレンくんにバレない様に安堵の息を吐いた。

    ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

    「アリア、花束受け取ったよ。今回のもすごく可愛かった! アリアはまだ中学生なのにセンスもあるしもうお店の看板娘だね」
    「ありがとうお姉ちゃん。でも私なんてまだまだだよ。花束は作れても接客は全然でステラ任せだし。ステラは接客上手でお客さんにも人気があるし、看板娘の名前は私よりステラの方が合ってると思う」
    「アリアは本当に謙虚なんだから。それならステラと二人で看板娘だね♪」
     謙虚とか本当にそんな事無いんだけどな。私の技術なんて両親やお姉ちゃんに比べたら大したこと無いし。
    「そう言えば今度合唱コンクールがあるんだよね。またアリアはピアノ担当だったりするの?」
    「……うん、私の他にもピアノ弾ける子は居るし私じゃなくても良いんじゃ無いかなって思うんだけど……」
    「? アリアはピアノが良かったんでしょ? 選ばれて良かったじゃない。私はその日もパトロールだから観に行けないのが残念」
    「お姉ちゃんは今はルーキーとは言え、市民の安全を守るのがヒーローとしての仕事なんだからそっちが優先だよ! でも観に行きたいって言ってくれた事が嬉しい。ありがとう」
     そりゃあお姉ちゃんが来てくれたら心強いけど、今はヒーローとして多忙の身だ。その中でたまに店の手伝いに来てくれるだけでも本当に助かっているのにこれ以上の我儘は言えない。それに次の合唱コンクールは若干不安があるのだ。今回ピアノの伴奏に私が選ばれた訳だが、実は私の他にも強くピアノ担当を希望している子が居たのだ。けれども何度か賞を取っている私がピアノを弾いた方が今回のコンクールで優勝出来る筈だ! と意気込んだ担任の先生に強制的に私が選ばれた。勿論私は辞退を申し出たが担任の先生が頑なにそれを許してくれないのだ。お陰で私はピアノを希望していたその女生徒や彼女の友人達から強く恨まれ、クラスでも浮いた存在になっていた。元々、他人とコミュニュケーションを取る事が苦手で特別に親しい友人も居なくて、普段からもクラスで一人で居る私にはどうって事は無いのだが、コンクールの練習に支障が出ているのだ。どうやら、元々ピアノ担当を強く希望していた彼女の想い人が今回のコンクールの指揮者を担当している男の子らしく……、ピアノの伴奏は指揮者と息を合わせるのがとても重要だ。だから私のクラスの担任は普段から呼吸を合わせる為に、と彼と私の席を隣同士にした。授業も席は隣、先生の言い付けで学校の登下校も極力一緒にする様に、と言われ望まずに私は彼と常に行動を共にする事になってしまったのだ。そのせいか私がその指揮者の彼を狙っていると言うとんでもない噂が流され、彼を好きなその子や友人達に嫌がらせの様な事をされている。別に私個人に何かするだけなら良いのだ。だが問題なのはコンクールの放課後練習を数人でサボったり、ワザと音を外して練習を妨げたり、と他の人を巻き込むまでに嫌がらせが進展してきて頭を悩ませている。先生に指摘を受けても、
    「スプラウトさんの伴奏が適当なので音を合わすのが難しい」
     と、私に責任を押し付ける始末。挙げ句の果てに私がたかが合唱コンクールでちゃんとピアノを弾くのは馬鹿馬鹿しいと見下して練習を真面目にやらないのだ、とまで言われてしまい私まで担任に呼び出され厳重注意をされてしまった。どんな時だって私がピアノで手を抜くなんて絶対に有り得ない。ピアノの音色は私の気持ちの代弁者なのだ。それでも、私がもっとちゃんと他人とコミニュケーションを取れていたらそもそもこんな事にはなっていなかったのだろう。
    (ステラは学校でも皆から好かれていて友達も沢山居るのに……。お姉ちゃんも中学の頃も、ヒーローの事を学ぶアカデミーでも多くの人に慕われていたってレンくんが言っていたっけ。どうしてこんなに私は不器用なんだろう)
     私の家族や、レンくんやアキラくんが優しかったから今まで気付かなかった。私は周囲の優しさにどれ程助けられていたのか。こんな愛想も無くて殆ど話さない子を誰も理解してくれる筈なんて無いのだ。結局クラスメート達と和解出来ないまま、コンクール当日を迎えたその日、私は彼女達を怒らせるもう一つの事件に頭を悩ませる事になる。
    「俺、アリアの事が好きだ。今日のコンクールで優勝出来たら俺と付き合って欲しい」
     もう一人のピアノ希望をしていた彼女が想いを寄せる指揮者の彼とコンクール当日、最終打ち合わせをしていた登校時間より少し早めの教室でまさかの告白を受けたのだった。
    「えっ、嘘でしょ。私なんかのどこが良いの」
    「私なんかって言うなよ。クラスの皆は誤解しているみたいだけどさ、アリアって責任感すげー強いじゃん。皆が嫌がる掃除とかも率先して引き受けたり、誰もやりたがらない委員会も担当してくれたりさ。それに一緒に学校生活共にする様になって気付いたけどさり気無いフォローが上手いよな。当番が消し忘れた黒板いつの間にか消してくれたり、雨の日に滑りやすくなっている廊下を拭いてくれたりさ。誰も気付いてないから感謝なんてされねーのにいつも見てないトコでやってくれてるだろ? 大人だなって思った、と同時にそんなお前の事俺はこれからも見ていたいって思ったんだ」
     驚いた。彼は案外人の事をよく見ている人らしい。指揮者に立候補したのも正直目立つからなんだと思っていた。普段からも彼はクラスのカースト上位に居る所謂陽キャ代表みたいな人で。クラスの中心で人気者で私みたいな陰キャコミュ障とは無縁の正反対な人。そんな彼がそこまで人の事見ているなんて意外だった。
    「あとさ、俺こないだアリアの姉ちゃんに街で助けて貰ったんだ」
    「えっ、お姉ちゃんに?」
    「うん。不良が道を塞いでて通れなくて困ってた所に偶然通りかかって。ココは皆が使う道なんだからダメでしょってその人が言ったら直ぐ退いてくれてさ。不良達も気さくに話しかけていたしアリアの姉ちゃんってカッコいいよな。女性でヒーローってだけでも尊敬する」
    「そうなの、お姉ちゃんは凄いんだ〜! 優しくて強くてかっこいいし可愛いし! 私の自慢なの」
     そこまで一息で話して私はハッと口を噤んだ。いけない、お姉ちゃんの事を褒められて嬉しくなったからってこんな勢いで話し掛けたら相手に引かれてしまう。そう思って恐る恐る相手の様子を窺えば、彼はニコニコと笑っていた。
    「アリアは姉ちゃんの事が大好きなんだな。俺にも兄貴が居るけど喧嘩ばっかで好きとか言えない相手だから何か羨ましいよ」
     その言葉にホッと胸を撫で下ろす。この人がクラスで皆の中心に居て、人気があるのも頷けるなって思った。成程、そりゃあこんな人ならペアになりたがるのも分かる気がする。
    「で、さっきの俺の告白受けてくれる?」
    「……えっと、それは……」
    「有り得ない!!!! こんな女の何が良いワケ!?」
     真っ直ぐな彼の言葉にどう返答しようか頭を悩ませていれば急に割り込んで来た大きな声に肩を跳ね上げた。声がした方を振り返ればそこには私に敵意を向ける例の彼女の姿があって、このタイミングで登校してくるなんて、とバレないようにため息を吐き出した。ああ、面倒臭い。だから関わりたく無いのだ。私にはこう言った好きとか嫌いなんて感情はよく分からないのだから。私はお姉ちゃんみたいに愛情深い性格でも無いし、ステラみたいに愛され上手な性格でも無い。誰かと深く関わって生きて行く事に向いて無いのだ。
    「こんな自分の事しか考えられない子、相応しく無い!!」
     __その通りだ。私はいつだって他人とちゃんと関わろうとはせずに逃げていた卑怯者だ。彼の私への評価は過大評価でしかない。断ろう、それが彼の為だ。そう思って口を開きかけたその時、凄まじい振動と衝撃が教室を襲った。
    立っていられない程のその揺れに三人揃って地面に叩きつけられる。
    「な、何!? 何が起きたの!?」
     辛うじて怪我は無かったものの、状況が全く掴めず窓の外を見れば校舎はイクリプスに囲まれていた。
    「きゃぁああ!! アイツら何なのよ! 何、何が起きているの!?」
    「シッ、騒いじゃ駄目。見つかったら大変だから。それにしてもアイツら学校に何の用があって……もしかしてサブスタンス?」
     こんな学校にまでアイツらがやってくるなんて恐らく今までに無かったことだ。考えられる理由としてはサブスタンスがこの学校にあるのかもしれない。
    「アリア、何か分かったのか?」
    「多分この学校の何処かにサブスタンスの反応があったんだと思う。目的が無かったらこんな所に来る筈なんて無いから」
    「サブスタンスって何十年も前に宇宙から降って来たやつだよな? ニューミリオンの動力源にもなっている……」
    「そう。アイツら未確認のサブスタンスを回収しているってお姉ちゃんが言ってた。だからそれを阻止する為にヒーロー達が居るんだって」
     ヒーローはそのサブスタンスの能力型結晶石を使ってヒーロー能力を得ている。この街の動力になったり、ヒーロー能力を生み出したり。そんなとんでもないエネルギーを秘めた物を人類の敵であるイクリプスが放っておく筈が無いのだ。
    「取り敢えずココに居るのは危険だと思うから体育館に移動しよう。きっと先生達も居る筈だから」
     合唱コンクールは体育館で行われる。だからその準備の為に教師は殆ど体育館に居る筈だ。私達みたいに早めに登校して来た生徒達もそこに居るだろう。何か有事が起こった場合、基本的に集まるのは体育館だと決まっているし。
    「アリアがそう言うなら」
    「待ってよ、そんな事言って私を罠に嵌める気じゃないでしょうね。アンタの姉か何だか知らないけれどヒーローなんでしょ。こんな事になったのもアンタのせいじゃないの!?」
    「お前いい加減にしろよ!! アリアに何の恨みがあってこの間から辛く当たるんだ。お姉さんがヒーローならこういう時にどういう行動をするのが一番適切なのか分かるから故の意見だろ!」
    「なんで…...! 私......、だって」
    「貴女が私の事を嫌いなのは分かってる。でも今はそんな事で揉めてる場合じゃないの。いつイクリプスが襲って来ても不思議じゃない。お願いだから今は私の指示に従って欲しい」
    「うるさい!! アンタの言う事なんて聞ける筈無いでしょ! 私に触らないで!!」
     彼女の肩を掴んでそう言い聞かせる様に伝えるも、頭に血が上っている相手は私の手を振り払った。どうしよう、こんな事をしている間にもいつアイツらがここを襲って来るかも分からない。そんな時だった。先程の衝撃で天井の一部に亀裂が入っていたのだろう、パラパラと破片が落ちて来る事に気付き、天を仰げば剥がれ落ちた天井の外壁が今にも崩れ落ちて来ようとしているのが視界に入った。
    「危ない!!!」
     その言葉を発すると同時に目の前に居た相手を思いっきり手で押しやった。キャッと言う小さい悲鳴を最後に私の視界は一気に閉ざされ、背中に強い衝撃を覚えた。
    「アリア!! アリア!! オイ!!!」
    「キャァアアアア!」
     篭った音が僅かに私の耳に届く。ああ、良かった。恐らく彼女達は無事だろう。運動神経が特別良い訳では無いけれど反射神経には昔から自信はあった。咄嗟の判断で被害は自分だけに抑えられたらしい。私はヒーローじゃないけれど、ヒーローの妹だから。お姉ちゃんが誇りに思える行動が出来ただけでも良かった。
    「ねえ、嘘でしょ!! 何でよ、なんでこんな……私、アンタに酷い事ばかりしたのに!!」

    (そんなの知らないよ。だって咄嗟に体が動いちゃったんだもん。これ、今度は偽善者って言われたりするのかな。あはは、それでも私は間違った事はしていないって思いたい)

    「くっそ、重くて俺だと退かすの無理だ。誰か呼んでくる!!」
     そう言って誰かを呼びに行ったらしい足音をぼんやりと聞きながら少しだけ身体を動かした。あ、良かった。上手く瓦礫同士が挟まってくれたみたいで幸いにも大きな怪我はして無さそうだ。何より一番大切にしている指は無事で少しだけ安心した。
    「良かった……手は怪我していなくて。一生ピアノを弾けなかったらどうしようかと思った」
    「…………っ! ごめんなさ……っ、私アンタに嫉妬してた。そもそものピアノへの情熱が違う私が勝てる方法なんて無くて。こんな事したって意味無いって分かっていた筈なのに、後に引けなくて」
     きっと彼女は本当に彼の事が大好きなんだろう。誰かを蹴落として振り向いて貰いたい、と思える程に。家族以外の他人に興味が持てない私には分からない感情だ。けれど、でも。
    「私は誰かと関わりたい、関わろうって思った事が無いから……そうやって一途に誰かを夢中に想える貴女が羨ましいって思うよ」
    「……何でそんなに……っ、アンタちょっとは、怒りなさいよ!!」
     泣きながら怒ると言う彼女のその豊かな感情表現すらも私には眩しくて羨ましい。私はピアノが無いと自分の気持ちを上手く伝える事が出来ないから。
     私の名前、アリアと言うのはお姉ちゃんが付けてくれた名前だ。ラテン語で空気、音楽の世界では独唱歌曲の意味がある。私は生まれた時からどこにも馴染めず、空気の様な存在で一人なのだ。どう足掻いてもステラ(星)にはなれない。夜空に瞬く皆の中心に居る様な星の輝きにはなれない。お姉ちゃんがどういう意図を持って私にこの名前を付けてくれたのか分からないけれど、それでも私はお姉ちゃんが付けてくれたこの名前が大好きだ。
    「ねえ!! ちょっとアンタ息してる!? ああもう救助はまだなの。どうしてこんな……! 早くしないと死んじゃう」
     そう言えば何か呼吸をするのも苦しくなって来た気がする。密閉されている訳では無いけれど瓦礫の山の中に居ては上手く酸素も回らないのだろう。

    (お姉ちゃん、私もヒーローのお姉ちゃんの妹として誇れるかな。お姉ちゃんやステラみたいに皆から愛される存在にはなれなかったけれど)

     願わくは、生まれ変わったらまたお姉ちゃんの妹で在りたい。妹でなくてもお姉ちゃんの身近の存在が良い。
     ……ああ、そう言えばガストさんに最後の最後まで素直になれなかったな。本当はもうあの人への憤りなんてとっくに無かった。ただただ私の一番大好きな人を取られた事が悔しかっただけで、お姉ちゃんがガストさんの事を話す時の表情や声音を知ったら反対する気なんて起きなかった。あんなに幸せそうに、嬉しそうに、そして愛おしそうに誰かの事を話すお姉ちゃんの顔なんて今まで見た事が無かったから。
     逆も然りだ。ガストさんのお姉ちゃんを見つめる眼差しはいつだって温かくて優しさと愛おしさに満ち溢れていて。本当にお姉ちゃんの事が大好きなのだと誰が見ても分かる顔をするのだ。聞けば出会った頃からずっと、酷い態度を取られていても尚、お姉ちゃんの事が好きだったらしい。あんなに冷たくされていても好きとかとんだドMって思っていたけど、そんなガストさんだからお姉ちゃんも心を開いたのだと思う。当たり前だ、元々お姉ちゃんは誰かを嫌ったり邪険に扱ったりなんてするのは得意じゃないのだから。そんな彼女が何であそこまでガストさんに敵意を向けていたかと言うと一重にアキラくんを思っての事。それでもいつからか、自分の罪をアイツにぶつけていただけだったってお姉ちゃんは落ち込んでいたけれど。
    (私が居ない方がきっと二人は上手くいく)
     ああ、ダメだ。こんな卑屈な考えは良くない。けれどもう呼吸するのも辛くなって来て、外で必死に私を呼ぶ声にごめんね、と呟いて瞼を降ろした。思えば短い人生だったな。けれども私はスプラウト家に生まれて本当に幸せだった。私が死んだらステラはすごく泣くだろうな。喧嘩は多いけれど双子なのもあって私達はお互いの事を何でも分かり合ってた。お父さんやお母さんに産んでくれて、育ててくれて、こんな私を愛してくれてありがとうって伝えたかった。そしてお姉ちゃん。ちゃんとお姉ちゃんの幸せを心からお祝いしてあげられなくてごめんね。でも今度からは空からずっと祈っているから。
     これは幼い頃、私の我儘でお姉ちゃんを死なせかけたその罰なのかもしれない。でも、こんな私でもお姉ちゃんのこれからの幸せを祈る事は許して欲しい。その刹那、私の身体を温かな風が包んで急に息がしやすくなった。
    「もしかしてここは天国……?」
     そう小さく呟いて閉じた瞼をゆっくりと開いたら目の前に映った景色は想像していたものと違っていた。
    「はは、天国じゃなくて残念だったな。つかそんな事になっちまったら俺がウィルに殺されちまう」
    「ガストさん……? え、何で!?」
    「良かった……!! 生きてた!! アンタねぇ、返事しなさいよ!! 私がどれだけ心配したと思ってんのよ!」
     気付いたら私はガストさんに横抱きに抱えられていて、目をぱちぱちと瞬かせた。途端にガバリと私にしがみつく様に先程まで必死に私を呼び掛けてくれていた彼女が居てまた更に目を瞬かせる。いつも綺麗に整えられた髪や爪はぐちゃぐちゃで。顔や服も土埃だらけだ。どうやら瓦礫の下敷きになった私を必死に助けようとしてくれたらしい。私の事、嫌いな筈の彼女がどうして?
    「何で……私を恨んでいたんじゃあ……」
    「私を庇ってアンタが死んだりなんかしたら一生引き摺るでしょ!!」
    「アリア!! 良かった、無事だったんだな」
     泣きそうな顔で駆け込んで来たのは助けを呼びに行くと出て行った彼だった。何、えっ? ココが天国じゃないならどうなっているの?
    「司令部からイクリプス襲撃の情報が入ったんだ。それでまさかのその場所がアリアの通う学校だって言うから驚いたよなぁ。でも幸いにも俺達が近くに居たから直ぐに駆け付けられたってワケ」
     混乱した様子でポカンと状況を窺っていればそんな私に気付いたガストさんが教えてくれた。
    「あっ、何で近くに居たかって? ウィルに自分は行けないから観に行って欲しいって頼まれたんだよ。丁度俺達はオフだったしな。可愛い婚約者と可愛い義妹の為ならお安い御用だぜ、な〜んてな。まぁそれで俺達がココに来たらさ、そこの少年が助けを求めて来てな、聞けばアリアが崩れ落ちて来た天上の下敷きになってるって聞いてさ。俺のヒーロー能力が風を操れる能力で良かったぜ。ここまで一っ飛びだし、瓦礫の山を退けるのもあっという間だったしな」
     聞いてもいない事をペラペラと喋る相手に若干のイラつきを覚えながら、それでも助けて貰ったお礼はしないと、と口を開きかけるも先程からガストさんが話す“俺達”と言う言葉に今更ながら疑問を感じて私はお礼よりも先にそちらを問いかけた。
    「俺達って言ってたけど……ガストさんの他にも誰か来ているんですか?」
     見た感じこの教室には私達三人とガストさんの他には誰も居ない。お姉ちゃんにお願いされて私のコンクールに来てくれるとしたら恐らくアキラくんかレンくんかなって思っていたのだけれど、どこに居るんだろう。
    「あ〜残念だけどレンも今日は任務があって来れねぇんだ。アキラに到っては興味ねぇからパスって言われちまったし。ったく薄情な奴だよな」
     そう言えばアキラくんは昔からそんな感じだ。私が熱心にピアノの練習をしていた時もレンくんはいつも褒めてくれたけどアキラくんは全然興味無いって顔だったから。でもこの二人じゃ無いのだとしたら他に誰が……? そう思案していれば突然涼やかな声が舞い込んで来た。
    「おいガスト。救出はもう済んだのか? あれ程状況報告は素早く的確にと言ったのにオマエ……、一体何をしていたんだ」
    「ゲッ、マリオン!! もうイクリプスを殲滅し終わったのか、あんなに居たのに!?」
    「フン、あんな雑魚共はボクの手にかかれば一瞬だ。それよりボクの言いつけを破ったな? どんなお仕置きがお望みだ」
    「待て待て!! 今は生徒や先生たちの救助が優先だろ。それにサブスタンスもまだ回収出来ていないし」
    「サブスタンスならもうヴィクターが回収した。他の市民達の避難誘導も終わっている。オマエがちんたらしている間にな」
    「さ、流石はノースのメンター達……ん? アリアはどうして顔を覆ってるんだ?」
     
    (どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!)

     突然の憧れの人を目の前にして私は大混乱していた。何を隠そう、私の推しヒーローはお姉ちゃんだ。けれども、その他に推しと言うのも烏滸がましく感じる程に憧れている人が居る。それが今しがた教室に入って来たこの人、マリオン・ブライスさんだった。正確にはヒーローとして憧れていると言うよりも彼のピアノの演奏のいちファンなのだが、マリオンさんはヒーロー活動をしている片手間でたまにピアノがあるカフェやショッピングモールなんかでピアノのリサイタルを開いていた。プロでは無いにしてもその腕前は確かなもので、私は偶然街中で演奏する彼を見てからすっかりファンになってしまったのだ。その美しい容姿に見合った繊細で綺麗な音色の演奏を弾くかと思いきや、激しい演奏も音が籠もらず感嘆のため息が零れる程の素晴らしい演奏をする人だ。いつかマリオンさんみたいな誰かの心を惹きつける様な演奏が私にも出来たら……と一方的に憧れている。そんな人がこんな近い距離に……、近い距離?
    「おい、オマエ。えっと、確かオマエがウィルの妹のアリアだったな。どうした、何処か痛むのか? 何処を怪我したんだ」
     気付けば目の前に憧れのマリオンさんの顔があって、心配そうにコチラを見ていた。近くで見ても本当に何て綺麗な人なんだろうと思った矢先、私は驚きの余り声にならない悲鳴を上げた。
    「〜〜〜〜っ!? ふぇ……っ、ひぇえええ!!」
    「お、おいどうした? 何処が痛いのか言わないと分からないだろう……!」
     突然奇声の様な声を上げて顔を真っ赤にして離れていく私を見てマリオンさんは驚きながら更に距離を詰めて来る。ステラにも両親にもアリアはクールとだよね言われていて、私も自分はそうなのだと思っていたけれど、憧れの人を目の前にした場合こんなにもパニック状態になるのかと自分でも初めて気付いた真実だった。
    「アリア!? 一体どうしたんだ?」
    「こんなスプラウトさんの姿初めて見たんだけど……」
    クラスメートの二人が目を丸くして私を見ている事なんて気にならないぐらい、私は動揺していた。結果、痺れを切らしたマリオンさんにまさかのお姫様抱っこをされて(怪我をしているとやっぱり勘違いされた)死にそうになりながら私は教室を後にしたのだった。
     その後、パトロール中だったにも関わらず急いで学校に駆け付けてくれたお姉ちゃんに痛い程に強く抱き締められて、私は漸く生きているんだと言う実感と共に、初めて”死“と言うものを明確に感じて改めてヒーローの凄さを感じた。死と隣り合わせなんて大袈裟だって少し思っていた部分もやっぱりある。決してヒーローと言う職業をなめている訳では無い。だって、女の子なのにお姉ちゃんはボロボロになりながらも戦っている。そんなお姉ちゃんの支えになっているのは間違いなくあの人なんだと、やっと理解出来た。

    ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

    「で、いつガストさんに謝罪するの? アリアは」
    「もう、ステラはいちいちうるさい……言われなくても分かってるってば」
     あの事故からもうすぐ1ヶ月が経とうとしていた。すっかり学校は元通りになって、明日改めて延期になっていた合唱コンクールが開かれる事になった。以前は憂鬱な気持ちで迎えたコンクールだったけれど今は違う。何と、私を嫌っていた例の彼女が私と連弾する事になったのだ。これは私が先生に提案した事で、それに協力してくれたのは指揮者の彼だった。初め、彼女はとても驚いた様子だったけれど
    「スプラウトさん……アリアが私と一緒で良いなら」
     と言ってくれて決まった事だった。一ヶ月の間、二人で沢山連弾の練習をして、私達はすっかり打ち解ける事が出来て、彼女は今では私の数少ない大切な友達になった。音楽はやっぱり凄い。きっかけはあの事故の一件だったとしても、私達を取り持ってくれたのはピアノだと思うから。そして指揮者の彼の事。彼には取り敢えずお友達からって事でお願いした。私にはまだ恋とか愛とかそんな事は分からなくて、でも私の事をちゃんと見ていてくれる人が居るって事は本当に嬉しかったから。連弾する彼女とは恋のライバルだね、なんて言って笑ってるけど、彼女も私に対する意地を張っていただけであの一件以来、彼に執着する事は無くなったらしい。多分思春期によくありがちな、嫌いな相手に気になる男の子を渡したくない! みたいな感情だったみたいで今では彼の他に何人か好きな人が居るらしい。私にはやっぱり分からないけれど青春ってそういうものなのかなって最近は考える様になった。
    「あ!! 噂をすればガストさん!」
    「えっ!?」
    「よう、今日も二人で店番か? 偉いな。はい、これは俺とウィルから」
    「やった~♡ってこれお姉ちゃんが好きなお饅頭……和菓子より洋菓子の方が私は好きなんだけどなぁ」
    「はは、まあそう言うなって」
    「そうだよ、ステラ。せっかくわざわざ私達に、って届けてくれた物に文句なんて言ったら駄目でしょ」
    「「へっ?」」
    「な、何……。二人して」
     声を合わせて私の事を驚いた様に見る二人に思わず後ずさる。そんな私にステラはニコーーッと満面の笑顔で笑って私の手を取るとガストさんの背中を押しながらいつも花を包んでいる奥の場所へと押しやった。
    「ガストさん! アリアがね、お話したい事があるんですって」
    「ちょ、ちょっとステラ……!」
    「店番は私に任せてちゃーーーんとお話、しておいで」
     そう言ってバタバタと店先に戻って行ったステラを見て私は肩を落とした。本当に……ステラは相変わらず強引だ。
    「はは、え~~っと……話って? あ、ウィルと婚約破棄しろって話は聞かないからな」
    「そんな事言うつもりありません!! そんな、お姉ちゃんが悲しむ様な事……!」
    「な、なら良いけど……」
     冗談っぽく言った言葉に私が凄まじい剣幕で返した為、ガストさんは驚いて一歩後退する様に引いた。
    「この間……、助けて貰ったのにまだちゃんとお礼を言えて無かったから。あの時は本当にありがとうございました。正直もう駄目かなって思っていたから……またこうやって日常生活に戻れたのもガストさんのお陰です」
    「い、いやぁ~俺はヒーローとして当然の事をしたまでで……それにもしお前の事死なせちまってたら俺はウィルに合わせる顔が無いしな」
     そんな事……、ガストさんが悪い訳じゃない。けれどもお姉ちゃんは確かにどうして私を助けてくれなかったの、とガストさんを責めていたかもしれない。私のせいで婚約までしている二人の仲を裂いていたかもしれないのだ。
    「あと……今までずっと嫌な態度を取っててそれも謝りたくて……」
    「あ、あ~~はは。まぁ気にしてねぇって言ったら嘘になっちまうけどアリアの気持ちも分からないでも無いし。そりゃあ大好きな姉ちゃんがこんな元不良と……なんて気分は良くないよな」
    「初めはそうでした。大切なお姉ちゃんを何で貴方なんかに、って。でもそれって私の我儘でしかないんですよね。私はお姉ちゃんに誰よりも幸せになって欲しいと願っておきながらずっと自分の勝手な感情のまま二人を振り回していたと思います。子供の頃にもうお姉ちゃんを自分の我儘で困らせたりしないって決めたのに」
     子供の頃にお姉ちゃんを失いかけて後悔した筈なのに、私はまたお姉ちゃんを困らせていたのだ。
    「ステラって名前みたいに私も誰かの星になりたかった。私は所詮アリアだから……」
     お姉ちゃんが付けてくれたこの名前が嫌いな訳なんて無いけれど、やっぱりどうしても誰からも愛されて誰かの輝きになれるステラが羨ましい。私がもしステラと言う名前になっていたなら、私の性格ももっと可愛いかったのだろうか。
    「いやいや、アリアだって良い名前だろ。意味もピッタリだと思うぜ」
     ガストさんのその言葉に一瞬戸惑うも、確かに自分でも合っていると思ってしまうから、何も言い返せない。だってそう言われてしまっても仕方のない程に私は彼に辛辣な態度を取り続けてしまったのだから。けれども予想に反して返って来た言葉は意外なものだった。
    「俺、最初アリアって名前の意味勘違いしていたんだよな。そのままの意味で捉えちまって。ウィルがそんな意味で付けるワケねぇって少し考えたら分かる筈なのにさ」
    「えっ……? そのままの意味じゃない意味があるの?」
    「そうそう。ステラが星って意味だろ? アリアはへび座にある星らしくてさ。調べたら意味は舵を取るもの、導く光、輝きって意味みたいだぜ。アリアにピッタリだよなぁ」

     __初めて知った。私の名前は音楽の方のアリアから取られたものじゃ無かったんだ。花言葉には詳しいけれど星の意味なんて全然知らなかった。
    「こないだのイクリプス襲撃事件の時もさ、アリアは的確な判断で二人を誘導して避難しようとしていたんだろ? 流石はウィルの妹だよなって思ったぜ。ピアノの腕前だってかなりのものだって聞くし、花言葉にも詳しくて花束を作る才能まであってさ。そして何より細かい事に気が付いて他人を思いやる心を持ってる。ステラみたいに周りを明るくする存在にはなれなくても誰かを導く光になれてるって思うぜ。いや……俺なんかに偉そうに言われても嬉しくねぇだろうけど」
     そのガストさんの言葉に私は涙を堪える事なんて出来なかった。止めどなく流れる涙を拭いながら首を横に振る。ずっと、私は誰かの為に存在する事は許されないのかと思っていた。でも、ちゃんと私が存在する意味はあったのだ。そしてお姉ちゃんは私が産まれた時から私にその意味を与えてくれていた。
    「教えてくれてありがとうございます、ガストさん。お姉ちゃんがくれたその名前の本当の意味の人に在り続けられる様に私もっと頑張ります」
    「いや、俺は何も……ああでもさ、たまにはウィルに思いっきり甘えてやれよ? 最近は私に甘えてくれなくなって寂しいって言ってたぜ。俺も妹が居るんだけどさ、これがまぁ結構な我儘で。でもすげー可愛いし何でも聞いてやりたいって思っちまうんだよなぁ。これが上に産まれた特権だとも思っちまうし」
    「そっか……私、ずっとお姉ちゃんにもう我儘言わない様にしなきゃって思っていたけどそういうものなのですね」
    「おう。あ~そのなんだ……? アリアも俺の事は兄貴だと思って何でも甘えてくれて良いんだぞ……な、な~んてな!」
     言ってはみたもののこれはやり過ぎたか!? と思ったのか笑って誤魔化す相手にこの人は本当に……! って思ったけれど。でもよくよく考えてみたらいつかは義兄になるのだし、変に意地を張っていても意味なんて無いって分かったから。それなら……。
    「じゃあ一つだけ私のお願い聞いてくれますか?」
     その私の言葉にガストさんは顔色をパァァッと明るくしてものすごく嬉しそうに頷いた。不良達の間では一目置かれる程の喧嘩の強さで、沢山彼を慕う人達も居て、それなのに私やステラには優しいお兄さんで。何だか人懐っこい大型犬を見ているみたいだ。きっとお姉ちゃんはこんな所も好きなのだろう。
    そう思いながら私は恐る恐る自分のガストさんへの初めてのお願いを口にした。
    「今度……マリオンさんに、ピアノを教えて貰いたい、です」
    「って俺へのお願いじゃなくてマリオンかーーーい!」
     そんなガストさんの大きなツッコミは外に居るステラにまで聞こえていたと言う。

     正直まだ心の底から二人を祝福するには私の心が幼い事もあり難しいけれど、いつかちゃんと笑顔でおめでとうを言える日が来れば良いな、とは思っている。それまではまだガストさんの事は私の一番のライバルとして接する予定! だって、お姉ちゃんが甘えて欲しいって言っていたしね☆

    おわり☆
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    💗💗💗💗💗💗💗😍😍😍💘🙏💕💴💕💕💕
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    loveandpeace_kd

    DONE2023/01/14,15日開催のキスディノWebオンリーにて展示の小説です。
    キース推しのモブ子から見たキスディノのお話。以前のキデオンリーで展示していた物を加筆修正しました。
    ノット夢設定。あくまでもキスディノ前提です。
    私の推しヒーローは世界一カッコイイ!! ___キース・マックスと初めて会った日の事はよく覚えている。

     私はニューミリオンに住むしがない女子大生だ。家族構成は父と母、それに弟が一人と妹が二人。三人の下の弟妹を持つ正に言葉通りの長女として産まれた私は、物心ついた頃から多忙な両親に代わり、私が下の子達の世話をして来た。その甲斐あってか、学校でもいつも学級委員に選ばれたり、生徒会役員に選ばれたり、先生に頼られたりと、忙しい毎日を送っていた。人に頼られる事は苦じゃない。それどころか友人の世話までついつい焼いてしまう始末で、根っからの世話焼き気質だと自分でも思っている。そんな多忙な私はテレビやネットの情報にはとても疎く、ヒーローの存在もぼんやりとしか知らなかった。大学に入って直ぐに懐かれる様にして仲良くなった友人に熱弁されるまではヒーローが主にどんな仕事をしているのかすらよく知らなかった程だ。
    10590

    loveandpeace_kd

    DONE6/25ガスウィル︎︎ ♀Webオンリーの展示小説です。

    ※私設定のウィル︎︎ ♀の妹がメインのほぼオリジナル小説です。

    ※私設定なのでガスウィル︎︎ ♀は婚約しています。(気になる方は過去の小説をお読み頂けると分かりやすいです)

    ※私設定でウィルの妹達は双子設定にしており、名前もあります。

    私設定ばかりの捏造80%ぐらいの小説になりますがそれでも大丈夫だと言う方はお読み下さい。
    アリア色の夜明け 私の名前はアリア・スプラウト。ニューミリオン州のレッドサウスストリートで花屋を営む家庭に生まれた極々普通の女子中学生だ。私には一卵双生児である双子の妹が一人と、父と母、そして少し歳の離れた姉が居る。私の姉は同じニューミリオンに住んでいるが私達とは一緒に暮らしてはいない。何故なら彼女はニューミリオンが誇るヒーローの一人なのだ。一年前にヒーローになる為の試験に見事合格して、サブスタンスに適合し、見事ヒーローとなった姉は今はルーキーとしてエリオス機関に所属している。幸運な事に姉の配属セクターがココ、レッドサウスになったお陰で私はたまにパトロール中の彼女に会えたり、休憩時間や勤務後に店に立ち寄って貰えたりで頻繁に姉の顔を見る事が叶っている。
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