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    2021年12月26日開催ガスウィルオンリー【風に草木がなびくとき】に展示させて頂いたガスウィル♀小説です。

    (注)ウィルが先天性女体化しております。また以前書いたプロポーズ小説の続きになっております。「クリスマス」ネタで書きました。オリジナルキャラが二人出ます。大丈夫な様であればお読み頂けたら幸いです。

     肌に当たる風が一段と冷たくなるのを日に日に感じているこの季節、12月に入り街はすっかりハロウィンからクリスマスモードへと切り替わり、そこらかしこでツリーの飾り物やサンタクロースやトナカイの置物が置かれたり、夜になるとイルミネーションが映える様になったブルーノースシティで今日もパトロールを終えた俺は冷えた身体を一刻も早く風呂に浸かって温めたいと早足でタワーに帰り着く。ところが、共同生活を送る部屋のリビングで俺より先に帰り着いていたらしい直属メンターであるマリオンから珍しく声を掛けられた。
    「おいガスト。オマエ、クリスマスの予定は空けておけ」
    「は? いやまた何でだ……。まさかのノースセクターでクリスマスパーティーをやるとか言わねぇよな?」
    「ボクがそんな提案をすると思うのか? 毎年ブルーノースシティではクリスマスイブの夜にツリーの点灯式を行う事は知っているな?」
    「おお、市民が楽しみにしている恒例行事らしいな。あの中央広場に飾られたバカでけぇツリーだろ?毎年カップルや家族連れで賑わってるって聞いたぜ」
     中央広場にデカデカと置かれたクリスマスの象徴とも言えるそのツリーの点灯式はブルーノースではクリスマスの恒例行事になっているらしい。そしてそのツリーの前で聖なる夜、つまりはクリスマスイブに男性から女性へプロポーズをすると永遠の愛を約束されると言ったジンクスもあり、毎年結婚を決意したカップルのプロポーズのお決まりの場所になっているらしい。俺はめでたくも既にウィルと婚約を果たしているが付き合って初めてのクリスマスイブだ。だから一緒に点灯式に行くつもりでどうやって誘おうか考えている所だった。
    「ああ、そうだ。毎年点灯式は有名な芸能人などが選ばれて行っていたが、今年は市長直々の指名でボク達が取り行う事になった」
    「はあっ!? 何でだよ!!! 俺達は芸能人じゃなくヒーローだろ!」
    「うるさい。黙れ。騒ぐな。以前街が水浸しになった時にこの状況を活かして何か出来ないか、と水辺での案内ツアーをやっただろう。あれが他の街やニューミリオン外でもかなりの評判で市長に今年の点灯式はボク達にお願いしたいとエリオスに依頼が来たんだ。セクターランキングはまだまだサウスに負けているからな、差を縮める良い機会だと思った。レンも異論は無いな?」
    「…………ああ、分かった」
    「待て待て待て。俺は異議ありだ! クリスマスイブはウィルと過ごすって決めてるんだよ。今からでもどうにかなんねぇのか?」
     俺のその言葉にマリオンは片眉を上げ、またレンも冷ややかな目で俺を見る。な、何だよ。何で二人揃ってそんな目で俺を見るんだ。こちとらずっと片想いしていた想いが成就して初めての彼女、初めてのクリスマスだぞ。浮かれて何が悪い!!
    「……オマエ、ヒーローの仕事と恋人とどっちが大切なんだ」
    「言うと思ったんだよなぁ!! 恋人って言いたいがそう言ったら俺がウィルにぶっ飛ばされる気しかしねぇ!!」
    「よく分かってるな、間違いなくウィルは自分を選ばなかった事よりヒーローとしての自覚が無いお前を怒るだろうな」
    「そんな事でレンに褒められても何にも嬉しくねぇ……くそ……何でなんだよ……」
     ガクッと肩を下げて落ち込む俺にマリオンは容赦なく”点灯式で取り行うイベント内容だ、しっかり目を通しておけ”と俺とレンに資料を渡し、さっさと部屋を出て行った。予定を空けておけ、と言われた時点でこの事は決定事項であり、ヒーローである以上俺に拒否権なんて無いのは重々承知している。だが、これでウィルに婚約破棄でもされてみろ。俺はエリオスの機関を一生恨むどころかイクリプス堕ちしかねないぞ。その俺の落ち込みっぷりを見兼ねてか、珍しくレンが俺に声を掛けてきた。
    「ウィルはそんな事で怒ったりはしない。それにまだ一緒にクリスマスを過ごす約束はしていないのだろう?」
    「え? いや、確かにそうだけど……何だ、レン。もしかしてお前もウィルとクリスマスを一緒に過ごしたかったとか、か?」
    「そうじゃない。多分例年通りなら今年も……いや、これはまだ分からないし俺の口から言う事でも無いだろうしな。とにかくウィルに正直に話してもきっと怒らないだろうから」
    「お、おう。何かよく分からねーけど慰めてくれたのならサンキューな?」
     珍しく歯切れの悪い言い方をするレンに首を傾げながらも一応礼を言うもそのままレンは素通りして自分の(俺のでもあるが)部屋へと入って行った。レンはああ言ってはいるが恋人同士ならクリスマスイブを一緒に過ごすなんて暗黙の了解なんじゃないのか? 約束はしていないがウィルもそのつもりで居るだろうと信じて疑いもしていない俺なんだがもしかしてそう思っているのは俺だけか? いやでも、弟分達で彼女持ちの奴はどこでデートするか、とかでソワソワしてたし彼女が居ない奴らには
    「ガストさん今年は彼女と過ごすんですよね!? 羨ましいッス!!」
     って言われたし俺の認識が世間とズレているワケじゃねえよな? まあここでウダウダ考えてても仕方ねえしウィルに正直に話しに行こう、と決めて俺は早速サウスの部屋を訪れた。
    「え? クリスマス、一緒に過ごせない?」
     サウスの部屋へと行けば夕食の時間を少し過ぎただけのこの時間はウィル一人だった。アキラとオスカーはトレーニングルーム、ブラッドは会議で出ているらしい。いつもなら二人きりになれてラッキーと思う所だがこういう時にアキラが居ねぇのは少し困った。   ウィルの性格上、レンも言っていたが怒る事はまず無いだろう。元々過去の俺に対しての塩対応も大事な幼なじみであるアキラを心配しての事だったし元来ウィルは人に対して怒る事は滅多に無いと付き合う様になってから知った。穏やかな性格をしているのもあるが、単に許容範囲が人よりだいぶ広いんだろうなと思う。だからそっちの心配はしていなかったが、もしかしたらガッカリさせたり悲しませたりするかもしれない。優しいウィルは自分の我儘や負の感情をあまり表に出すのを良しとしていないから、もしそれでウィルを傷付けたりしていてもウィルがそれを見せなければ俺が気付けない可能性が高い。自慢じゃねぇが俺はそういう空気を読むのに長けてはいないからな。だからこそ長年の付き合いで息をする様にウィルの感情を直ぐに読み取れるアキラが居てくれたら心強かったのだが俺の予想に反してウィルから返って来た返事は意外な言葉だった。
    「えっと……ごめん。クリスマスに何か約束をしていたっけ?」
    「へっ…………?」
    「私が忘れていただけ? だとしたらごめんアドラー! 私もその日は予定があって」
    「あ、いや……約束はしてねぇけど……」
    「え? じゃあ何で謝ったの?」
     キョトンと目を丸くして俺を見上げるウィルに俺も首を傾げる。えっと……これはどういう事だろうか。
    「いや……、付き合って初めてのクリスマスだろ? そういうもんだって思って……」
    「…………! そっか、そういうものなんだ。ごめん、私めっきりそういう事に疎くて」
     俺の言葉にハッとしてその言葉の意味を理解したウィルは明らかに目に見えてしょぼんとする。そんなウィルに俺は慌てて言葉をかけた。
    「いや!! 悪い、そうじゃない! 俺が勝手に浮かれてただけなんだ!! 約束をしていたわけじゃねぇのに!」
    「でもアドラーは浮かれるほど楽しみにしていてくれたのに私は鈍感で……」
    「いや!! だからそうじゃなくて!!」
     ヤバい。これは俺が思っていたのと違う意味でウィルを凹ませてしまった。予想外の展開にどうしたものかとすっかり意気消沈してしまったかの様に見えるウィルの前でワタワタとする俺を見てウィルは堪えきれずに噴き出した。
    「あはは……! そんなに焦らなくても。でもそうか、確かにクリスマスって大切な人と過ごす日だもんね。アドラーは一番に私と過ごそうって思ってくれたんだ。ありがとう」 
     明らかに挙動不審な動きでアタフタしている俺を見て笑いながらウィルはそう返してくれて俺は心の中でホッと安堵の息を吐き出す。
    「実はクリスマスは毎年実家の手伝いに行ってるんだ」
    「実家……って花屋だよな。クリスマスも忙しいのか」
    「意外に思うかもしれないけれどクリスマスプレゼントに花を選ぶ人も沢山居るんだよ。なかなか普段口に出して言えない言葉を花言葉に託したり、ね。まああとは年末に向けてもバタバタするから。毎年手伝いに行っていたから私その事しか頭に無かった」
    「そうか……悪い、俺も全然知らなくて。勝手にウィルと過ごそうって……俺も手伝いに行ってやれねぇのが残念だ」
    「アドラーは大切なお仕事任されてるんでしょ。でも良いなぁ、点灯式……私も見てみたかったな」
    「…………点灯式は無理かもしんねぇけどさ、ブルーノースはイルミネーションも綺麗な事で有名なんだ。だからその……今度オフを合わせて」
    「一緒に見に行ってくれるの?」
    「おお、とっておきの場所あるからさウィルもきっと気に入ると思う」
    「……うん。楽しみにしてるね」
     そう言って笑うウィルの頬に手を添えれば俺の掌に自分の頬を擦り寄せてウィルは目を瞑る。セクターは違うし住んでいる居住階も違う俺とウィルは恋人同士だがそういう関係になってからこう言った恋人らしい触れ合いはあまり出来ていなかった。ヒーローと言う立場で多忙な身であるからそんなに頻繁にデートも出来ていない。ウィル自身、真面目な性格もあってルーキーとしてまだ不慣れな間はヒーロー業に集中したい、と言っているのもあって俺達は極めて年齢の割には健全なカップルだと思う。だからこそ、このクリスマスにもう少し進展したい、と言う下心が無かったと言えば嘘になる。ずっと数年間好きだった子と恋人になれたならそりゃあ男なら誰だってそうだろう。けれどウィルを見ているとそんなに焦らなくても良いのかもしれないな、と思えた。研修期間が終わって一人前のヒーローになれば俺達は結婚する約束もしているんだしな。そう決意して久しぶりのウィルの唇に自分のそれを近付けた刹那……。
    「ふぃーーーっ! 良い汗かいたぜ~! あれ、ガスト来てたのか。ん? そんな床で寝転がって何やってんだ?」
     トレーニングルームから帰宅したアキラの声と同時に凄まじい力でウィルにソファから突き飛ばされた俺は愛しのウィルの唇ではなくサウスのリビングの床とキスをする羽目になった。

    **********

    「おお~遠目からは見た事あったがこうやって間近で改めて見るとデケェなぁ」
     クリスマスイブ当日。ちゃんとヒーローとしての役目を果たしに俺はツリー点灯式にノースセクターの面子と来ていた。
    「点灯式が始まるまではファンや一般市民への交流会だそうだ。子供にお菓子を配ったり、市民にはスープを渡したりして欲しい」
     点灯式までにはまだ時間があるがそれでももう多くの家族連れやカップルがツリーを一目見ようと集まっていた。勿論目当てはツリーだろうがノースセクターのヒーローがこの点灯式のメインを飾ると聞きつけたファンの子達も多くニューミリオン外からも駆け付けてくれていて俺達はその対応に当たっていた。特にマリオンはアカデミー在籍時からエリオスの寵児と言われて居て飛び級で卒業した天才ヒーローだ。更には四千年に一度の美少女と噂が流れただけもあって(因みに俺達がその話題を出すともれなく鞭で叩かれる)凄まじい人気だった。正直ヒーローとしての仕事なら俺はサブスタンス回収やイクリプスと対峙している時の方が遥かに楽だ。市民との交流が苦手なわけではない。こういう場に行くと必ずしも俺の苦手なタイプの女性に囲まれるからだ。そう、こんな風に。
    「やだ~! お兄さんちょ~イケメン♡ねえねえ一緒に写真撮ろうよ♪」
    「はは……。し、写真だけなら」
     俺は何故かこうグイグイ来るタイプの女性に好意を持たれやすい。もっと男らしくビシッと断りたい所だがファンサービスは大切にしろとマリオンからも言われているし下手に断れねぇのがいつも仇となっている。
    「おい! ガストさんに無理言うんじゃねえよ。この人婚約者居るんだから駄目だぞ!」
     思いっきり腕を組まれてどうしたもんか、と思案していれば意外な助っ人が入ってソイツはその女の子の腕を外してくれてその対応に目を丸くする。
    「すみません、連れが無理言っちゃって。コイツ昔からミーハーで。アイドルとかヒーローとかにも目がないんですよね」
    「ああ、いや……寧ろ助けてくれてサンキューな。てか俺に婚約者居るだなんてよく知ってるな。俺もウィルもまだルーキーだしそこまで噂にはなってねぇと思うんだけど……」
     どうやらこの男は幼なじみらしいさっきの女の子と遥々サウスからこの点灯式を見に来たらしい。(男はケン、女の子はレイラという名前らしい)
    「俺一時期荒れてた時あって、不良だったんですよ。ガストさん、サウスではすげー有名な不良だったでしょ? 一度俺のチームとやり合った事あるんすよ。まあウチのチーム勿論ボコボコにやられたんですけど。でもガストさん無駄な喧嘩はしねぇしあれだけ強いのに弟分達に純粋に慕われてて。違うチームなのにカッケェなって思ってて。ヒーローになったって聞いて更にスゲー! って思って、俺もいつまでもこうしちゃいられねぇなって思ってそれで不良抜けして今はちゃんと働いてるんですよ。だから不良抜け出来たのはガストさんのお陰ッス」
    「お、おお……俺は何にもしてねぇけど知らねぇ所で役に立ってたなら嬉しいぜ♪」
    「不良やってた時の連れに聞いたんすよ、ガストさん最近プロポーズして長年好いてた女と婚約したって。いやマジでカッケェっす!! ガストさんって不良時代からすげーモテてたのに彼女作らなかったのその人の事好きだったからなんすよね? 喧嘩強ぇのに下には優しくて一途とかもう俺推すしかねぇって思って今じゃすっかりファンっす」
     良かったら握手良いっすか? と嬉しそうに手を出してくるケンに俺は快く応え、しっかりと手を握った。自分では特別な事をしてきたつもりも何も無いがこうやって誰かの心に響いて応援して貰えるのはすげー嬉しいもんだな。
    「ありがとうございます!! ……すんません、俺の方がミーハーでしたね。実は今回ノースまで来たのもガストさんがツリーの点灯式やるって聞いて。幼なじみのレイラとの事なんすけど」
     先程俺に声を掛けてはしゃいでいた女の子、レイラは今はマリオンの握手会の列に並んでいた。俺達の視線に気付くとニコニコと手を振っている。それにハハ……とぎこちなく手を振り返してやれば俺のファンだと言うその男は小さく笑って言った。
    「俺が不良やってた時もずっと離れて行かずに幼なじみで居てくれて。周りには俺と縁切れって相当言われてたみたいなのに、ずっと俺の事を根は悪い奴じゃないからって信じてくれて隣に居てくれたんですよね」
    「へえ……いい子じゃないか。ははーん、なるほど。つまりはあの子にプロポーズしたくて遥々サウスからここまで来たってワケか」
    「流石ガストさん! そうなんすよ。だから差し出がましいお願いかもしんねぇっすけど……俺のプロポーズが上手く行く事を少しでも良いので願ってて貰って良いですか?」
    「ははっ、そんなの当たり前だろ♪頑張れよ、応援してるからさ」
     そう笑って返すとケンは嬉しそうに頬を緩め彼女の元へと駆けて行った。最初は乗り気じゃなかったこのツリー点灯式もアイツの為にも成功させてやらねぇとな、とそう思う。そうして迎えた点灯式。陽も落ちて来ていよいよツリーに灯りを点すって時に事件は起きた。
    「イクリプスだ!!!!!」
     いざスイッチを押そうとしたその瞬間を狙ってか奥の方から聞こえて来た悲鳴に何事かと意識をやれば誰かがそう叫んだ。嘘だろ……、今日はクリスマスだぞ。いや、だからこその襲撃かもしれない。人が集まる時を狙ってのこの騒動ならアイツらがやりそうな事だ。
    「ドクター、サブスタンスの反応は?」
    「ふむ……今の所ありませんね。どうやらそちらが目的では無いようです」
    「人が集まるのを狙って襲撃を仕掛けて来るとか本当に趣味が悪い奴らめ……レン、行くぞ。早急に掃討する」
    「分かった」
     そう言って直ぐ様ヒーロースーツに着替えたマリオンとレンは騒ぎが起きている場所へと走って行く。
    「私は市民の皆さんを避難させます。ガスト、貴方はここに残って誘導を」
    「分かった、皆!! 取り敢えずイベントは一時中断だ! 俺達の誘導に沿って避難してくれ。イクリプスの対応にはマリオン達が行ってくれているから心配ないからな! 焦らず前の人に続いてゆっくり避難するんだ」
     突然のイクリプス襲撃に市民の皆はザワザワと動揺はするもののマリオンの名前を出せば大きな混乱も無く直ぐに指示に従ってくれている。
    「ガストさん! 俺も手伝います!!」
     そんな中でいつの間にこっちに来ていたのかケンが声を掛けて来た。どうやら俺がここに残って避難誘導をしている姿を見て何か力になれないかと気にかけてくれたらしい。
    「……! 気持ちは嬉しいがお前は彼女に付いててやれって。すぐにこんな騒動は俺達が終わらせて点灯式も再開させるからさ」
    「でも俺、何か嫌な予感するんすよね。何で騒ぎを起こすならココじゃなくてツリーから離れた場所にしたのかって。こっちの方が人が集まってんのにおかしくないですか?」
    「……言われて見れば確かに。もしかして狙いは市民じゃなくツリーの方か?」
    「ねえ、ツリーの下に何か変な物置かれていたんだけどこれって何……? キャアアア!!」
    「なっ……、イクリプス!? 一体何処から!?」
    「レイラ!!! くそ、アイツらレイラに何しやがる!」
     レイラが手に持っているのは恐らくサブスタンスだ。あれを使って何かしらしようという魂胆だったんだろう。実際去年のクリスマスもグリーンイーストで市民の多くを巻き込む騒動があったのを思い出す。だがサブスタンスが効力を発揮する前にレイラに見付かってしまい、彼女ごと捕獲しに来たのだ。
    「レイラ!! くそっ、てめぇら! その汚い手をレイラから離しやがれ!!」
     大切な幼なじみをワケも分からねぇ奴に捕獲されてケンはイクリプスへと飛びかかる。だが到底生身の人間ではイクリプスと対峙するのは不可能だ。アイツらに手加減なんて概念は無いだろうからこのままだとケンは大怪我を負うどころか殺されかねない。
    「ケン!! もう良いよ、私は大丈夫だからケンだけでも逃げて!」
    「何言ってんだ、絶対俺が助けてやるから。へへっ……昔喧嘩ばっかしてた俺でもレイラの役にやっと立てるなら本望だ」
     くそっ、イクリプスの数が多くて銃で狙いを定められねぇ。せめてレイラを拘束してる奴だけでも何とか出来たら……。このままだとケンどころかレイラまで危ねぇ。せっかく幸せを掴む為に、ノースまで来た二人なのにこんな所で死なせてたまるか。
    「アドラー撃って!!」
     その時だった。聞き覚えのある通る声が響いたかと思いきや、立っている地面が激しく揺れてそこから無数のデカい植物が顔を出しイクリプス達の足に巻き付いて動きを封じた。それを見て瞬時に俺はレイラを拘束しているイクリプスの腕に狙いを定めて撃ち抜く。倒れる様に解放されたレイラはすぐ様ケンの腕の中へと保護されてそれと同時に大きな木が二人とイクリプスの間に壁を作った。「さあ、今のうちに逃げて。ちゃんとした手当は救護班が恐らく避難先に居ると思うからちゃんと受けてね」
     大きな木の壁から器用に降りて来たのは俺がこの世で一番愛おしいと思う相手で。ウィルは直ぐにイクリプスの攻撃によって負傷したケンに治癒効果のある能力を使った。
    「彼女を守る為によく頑張ったね。後は私達に任せて」
     そう笑いかけてウィルはケンとレイラの二人の背中を押す。二人は安心した様に頷いて避難場所へと駆けて行った。
    「ウィル……、どうしてここに」
    「妹達に追い出されちゃったんだ。せっかくのクリスマスイブに店の手伝いに来るなんて何を考えているんだって。ガストさんが可哀想!! って怒られちゃった」
    「それで来てくれたのか……。せっかくの楽しみにしていた点灯式なのにこっちで手伝わせる羽目になっちまって悪い……」
    「何言ってるの。私達は恋人である前にヒーローでしょ。市民の安全を守るのが私達の役目なんだから。さあ、さっさとあんな奴ら倒して市民の笑顔の為に点灯式再開させよう!」
     本当に……俺の好きになった奴は誰よりも優しくて温かくてそれでいて勇ましい。きっとこの先俺は何度でもウィルの事を好きだと再認識するだろう。
    「惚れ直したぜ、ウィル。お前ってやつは本当に最高の婚約者だぜ」
     そう言えばウィルは当たり前でしょ!と笑いながらイクリプスへと駆けて行く。そこからはあっという間だった。何か様子がおかしいと気付いて戻って来たマリオンとレンもこちらの戦闘き加わり一気にイクリプス達を掃討して、無事に市民たちを安全な場所へと誘導して戻って来たドクターに事情を話せばイクリプス達が持っていたサブスタンスを調べてみると、そのままラボへと戻って行き、漸く落ち着きを見せた中央広場にはいつの間にか帰って来た市民達で溢れ帰り俺達を盛大な拍手と感謝の言葉で労ってくれた。その後、無事に点灯式は再開され、メインイベントであるプロポーズ大会も開催された。その中にはケンやレイラの姿も勿論あって、無事にケンのプロポーズを受けて二人は幸せそうにお揃いの指輪を嵌めた薬指を掲げていた。
    「ふふっ、皆幸せそう……」
     その様子を俺の隣で見ていたウィルは幸せのおすそ分けを貰ったみたいだ、と嬉しそうに笑う。そんなウィルの手をそっと握れば俺を見上げてもう、人が沢山居るのに……とごちりながらも振り払う事なんてしないウィルにより一層愛おしさが募る。
    「あ、そう言えばアドラーにクリスマスプレゼントあるんだった」
    「え、嘘だろ……俺、ウィルが何も要らないからって頑なに言うから何も用意してないぞ!?」
    「お前からは指輪貰ってるからこれ以上は受け取れないって言ったでしょ。私は結局何も送れてないから……」
     そう言ってハイ! と渡された箱をウィルの了承を得て開ければ中身は手袋とハンドクリームだった。
    「アドラー、銃を扱うのに全然手先や指の手入れしていないから。この季節は乾燥して指先が割れたり切れやすいんだ。そういう些細な怪我も命に関わるかもしれないでしょ?」
     そう言ってハンドクリームを手に取った彼女は自分の手にそれを出したかと思いきや俺の手に丁寧に塗り込んでくれた。
    「勝手にお前に先に死なれるのは困るからな。まだ……結婚してないのに」
    「俺がウィルを置いて先に死ぬワケねぇだろ?でも……サンキュー。これからはちゃんと手入れする。…………あのさ、もしかして手袋はウィルの手編みか?」
     温かそうなニットの手袋を見てそう問いかければウィルは頬を朱色に染めてボソボソと呟く様に答える。
    「……お前が……アキラとオスカーさんだけ貰ってずるいって言ったんでしょ」
     そういや以前、寒さに弱いオスカーには手編みのマフラーを、そしてアキラにも帽子を編んでプレゼントをしていた姿をみっともなく物凄く妬いてお前らばかりズルいとアキラに溢したのをどうやらウィルはアキラから聞いたらしい。
    「いやぁ~……だってそりゃあウィルは俺のなのにってやっぱり思うだろ。他の男に手編みの物プレゼントするとかやっぱり妬けるっつーか」
    「アキラもオスカーさんも家族みたいなものだしそれに私が好きなのは……」
    「おう。ウィルが好きなのは……?」
    「あ、アドラーだけだし……って、もう!! 分かってる事何で言わせるの!! ばか!!」
     お互いの気持ちも伝え合って婚約も交わしているのにウィルは未だに俺に好きだとかそういう感情を素直に言うのは恥ずかしいらしい。まあそんなウィルだからこそ最高に可愛いんだけどな。そうして羞恥で怒るウィルも世界一可愛い。バシバシと俺を叩くウィルの手を取って、左手の薬指に嵌められた俺が送った婚約指輪にそっと口付ければウィルはまだ少し小言を言いながらもされるがままで居てくれた。
    「俺だって好きなのも愛してるのも世界で一人、ウィルだけだ」
     指輪に口付けたまま視線はしっかりウィルに合わせてそう伝えれば途端に周りから凄まじい歓声と拍手が沸き起こり俺達は驚いて周囲に目をやる。
    「よ!! 色男! 最高のプロポーズだったぜ」
    「流石はヒーロー。サマになってるねぇ」
    「ガストさん……もう婚約済みなのにまたプロポーズだなんて……カッケェ!! 流石です! そしてそんなガストさんにウィルさんもお似合いカップル過ぎッス!! 俺二人を一生推します!」
    「待て待て待て!! 見世物じゃねぇから俺たちは!」
     いつの間にかプロポーズ大会は幕を閉じていたらしくそんな中で情熱的な告白をしていた俺(とウィル)に注目が集まっていたらしい。皆に見られていたと知ったウィルは顔が真っ赤だしレンには殺されんばかりの目で見られるしでその後散々だったが何とか無事に点灯式のイベントを終えられて、ついでにウィルと一緒にツリーを見られて今年は最高のクリスマスだったんじゃないかと思う。翌日、デカデカとウィルの指輪に口付けている俺達の写真がブルーノースの新聞の表紙を飾り、暫くウィルに口を聞いて貰えなくなった事を除けば。


    遅くなりましたがMerry X'mas!
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    loveandpeace_kd

    DONE2023/01/14,15日開催のキスディノWebオンリーにて展示の小説です。
    キース推しのモブ子から見たキスディノのお話。以前のキデオンリーで展示していた物を加筆修正しました。
    ノット夢設定。あくまでもキスディノ前提です。
    私の推しヒーローは世界一カッコイイ!! ___キース・マックスと初めて会った日の事はよく覚えている。

     私はニューミリオンに住むしがない女子大生だ。家族構成は父と母、それに弟が一人と妹が二人。三人の下の弟妹を持つ正に言葉通りの長女として産まれた私は、物心ついた頃から多忙な両親に代わり、私が下の子達の世話をして来た。その甲斐あってか、学校でもいつも学級委員に選ばれたり、生徒会役員に選ばれたり、先生に頼られたりと、忙しい毎日を送っていた。人に頼られる事は苦じゃない。それどころか友人の世話までついつい焼いてしまう始末で、根っからの世話焼き気質だと自分でも思っている。そんな多忙な私はテレビやネットの情報にはとても疎く、ヒーローの存在もぼんやりとしか知らなかった。大学に入って直ぐに懐かれる様にして仲良くなった友人に熱弁されるまではヒーローが主にどんな仕事をしているのかすらよく知らなかった程だ。
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    loveandpeace_kd

    DONE6/25ガスウィル︎︎ ♀Webオンリーの展示小説です。

    ※私設定のウィル︎︎ ♀の妹がメインのほぼオリジナル小説です。

    ※私設定なのでガスウィル︎︎ ♀は婚約しています。(気になる方は過去の小説をお読み頂けると分かりやすいです)

    ※私設定でウィルの妹達は双子設定にしており、名前もあります。

    私設定ばかりの捏造80%ぐらいの小説になりますがそれでも大丈夫だと言う方はお読み下さい。
    アリア色の夜明け 私の名前はアリア・スプラウト。ニューミリオン州のレッドサウスストリートで花屋を営む家庭に生まれた極々普通の女子中学生だ。私には一卵双生児である双子の妹が一人と、父と母、そして少し歳の離れた姉が居る。私の姉は同じニューミリオンに住んでいるが私達とは一緒に暮らしてはいない。何故なら彼女はニューミリオンが誇るヒーローの一人なのだ。一年前にヒーローになる為の試験に見事合格して、サブスタンスに適合し、見事ヒーローとなった姉は今はルーキーとしてエリオス機関に所属している。幸運な事に姉の配属セクターがココ、レッドサウスになったお陰で私はたまにパトロール中の彼女に会えたり、休憩時間や勤務後に店に立ち寄って貰えたりで頻繁に姉の顔を見る事が叶っている。
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