レーヌ・ド・クーヌの甘い罠 夕方よりは夜に近いような時刻。杏寿郎はいつものように、仕事帰りに「pâtisserie rose」に足を運んでいた。
そこは小さな洋菓子店で、繁華街からはやや離れたところにある。roseはピンク色、という意味だが、そんな名前とは裏腹に店の内装は木目調のシックな感じで、黒と茶色も看板も小さくて、一見地味な感じの店だ。置いてある種類も少なく、低めのショーケースとその上に焼菓子が少しだけ。なんだか寂しい気もする。
でも「規模の大きな店はそれなりに商品を置かないと見栄えが悪いが、日持ちしない生菓子をたくさん作るのはリスキーなんだ」と、ピンク髪の若い店主が言っていた。菓子は基本的に彼が一人で作っているらしいから、言われてみればなるほど、と思う。
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