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    煙草を買いに行く
    ■猗窩煉です
    ■現代パロディ

    #猗窩煉

    「……。」
     深夜のコンビニ。店員の姿は見えない。カウンターの奥に並べてある、彩り豊かなパッケージに睨みをきかせる。先日配置換えを行ったばかりの棚の中で、小さな長方形の紙パッケージが大人しくいい子に整列していた。
    「お待たせしました、どうぞー。」
     レジ奥からアルバイトの青年が小走りで出てくる。会計待ちだと思われたのだろうが、自分の手元にもカウンターの上にも商品はない。
     目線の先に並んだパッケージから、目当ての銘柄を探す。焦点の会わない視界、僅か1メートルばかりの距離でも識別するのは難しかった。眉間に力を込めたまま、黒い紙箱を探して目を凝らす。
    「すまない、先週まで3番だった…。」
    「ああ、こちらですか?」
     仕事人を手ぶらで待たせている時間が耐え切れずに、誰に言うでもなく呟く。すると、直ぐに目当ての銘柄をカウンターに出してくれた。それも、注文する前から2箱準備をする気の利きよう。いかに、このコンビニに足繁く通っているかが分かる。
    「それだ、ありがとう。」
    「いつもありがとうございます。」
     スウェットのポケットに手を突っ込んで小銭を漁る。逃げ回るコインを追うのを邪魔するのは、部屋を出る前にレンズが割れてしまったメガネだった。障害物であるメガネを避けながら、小銭を全てレジトレイの上に落とす。ほとんど税金で嵩上げされた代金を支払うと、お釣りの十数円を受け取る。ポケットに戻すのも面倒で、レジ前に設置されている犬の置物付きの募金箱の中に流し込む。
     金額に見合わず空気のように軽い箱を二つ持って、寒いくらいに涼しかった店を後にする。つぶらな瞳の犬の置物へ小銭を食わせただけで、善行を積んだ気になった。単純な自分の胸中に気が付くと、喉が熱くなるほど声を張り上げて口論をした恋人の声が鼓膜の奥で燻ぶるように反響している。

     見上げた夜空に浮かぶ星々は失った視力分だけ滲んでいる。
     自分では吸わない煙草の箱を握って、飛び出したばかりの部屋に帰る。
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    ❤👌👌👌©⭕⭕🇱💒
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