cogito ergo sum. 墨で塗りたくったような暗闇の中、オレンジの街灯が等間隔で明かりを灯して車内を照らす。部屋の蛍光灯なんかよりも随分と温かみのあるように感じる街灯が、手にしていたペットボトルに反射した自分の顔を映す。
——随分と間抜けな顔をしている
こんな顔をしているのは、運転席に座る男のせいだ。鯉登は助手席の背もたれに深く寄り掛かり窓の外を眺める。外は相変わらず真っ暗だった。
『悪いが次のライブ、車で移動してもらってもらうぞ』
九月のとある日、マネージャーの月島が練習のために集まった四人に向けてこう言い放った。
『次って、場所はどこだっけ?』
杉元の言葉に、ベースをケースから取り出した尾形が深いため息をつきながら眉間に皴をよせて答える。
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