AIと書いた百合「ミカちゃんて、なんでいっつも遅刻してくるのぉ?」
隣の席のカオリにそう問われ、私は思わず顔を顰めた。
小言を言われそうな予感がしたからだ。
しかし、私の予想に反して、カオリは私の生活態度などどうでもいいかのように自らの髪を弄り出す。
自分から訊いておいてやることがそれか、とツッコミを入れたくなるが、この女相手にそんなことをしても無駄なのは経験上分かっている。
だから私も自分の髪に手を伸ばし、さっと整える作業に集中した。
「いや、なんか寝れなくて」
「昨日何時に寝たん? あー、やっぱりいいわ……言わないでね、今当てて見せるから……」
カオリはそう言うと、私の顔をじっと見つめた後、「これだ!」と言わんばかりのドヤ顔で、
「午前二時!……どうよ!?」
と高らかに答えた。
「残念。はずれでーす」
「えぇーっ、あたし超ダサいじゃん!」
「そうね」
「否定してくれ〜」
項垂れる彼女を無視して私は手元の資料に目を落とす。
そこには、明日行われる学年集会についての説明文が書かれていた。
「まぁでもさ〜、こういう行事って楽しみじゃない?」
「別に。ただ面倒臭いだけだと思うけど」
「またまたそんなこと言って、ミカちゃんは真面目に取り組んでくれるのよね、いつも」
「それは怒られたら面倒だからよ」
私は一つ溜息を吐くと、彼女の方を見ずに答える。
すると彼女はわざとらしく肩を落としながら、
「じゃあさ〜、こうしようよ〜」
と言い出した。
「なによ?」
「二人で一緒に寝坊して、二人とも先生に叱られるっていうのはどお?」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。私はもちろん、カオリにだって得は無い。それどころか損するだけでしょ、あんたの場合」
呆れを隠そうともせず、そう返す。
しかし、カオリは何故か、にまにまと含み笑いを浮かべてこう言った。
「いやぁ〜……あたしはむしろ……得をしちゃうんだなぁ〜、これが!」
「……はぁ?」
意味が分からない。
遅刻して、先生に怒られて、一体何が得だと言うのか。
訝しむ私を見て、カオリはいっそう鬱陶しい笑顔になる。
頬でもつねってやろうかと一瞬思ったが、私がそうするより先に、カオリは妙に大人びた顔で微笑んで、どこか真剣な声色でこんな台詞を吐いた。
「だって、朝からミカちゃんと一緒にいられるじゃない。あたしはそれだけで、遅刻をする甲斐があるんだよ」
「……それって、」
私が口を開くと同時に、下校のチャイムが鳴った。
「あーらら、ざんねーん!もうバイバイする時間だね!それじゃ、また明日〜!」
口ではそう言いつつも、カオリの表情には、安堵の色が滲んでいるように見えた。
幼馴染みの未だ知らない顔を見た気がして、私は呆然としたまま小さく手を振る。
と、カオリが立ち止まって、私の方を振り返った。
そしてニッと歯を見せて笑うと、
「一緒に遅刻する話、考えといてね!」
弾む声でそう言うと、逃げるように自らの帰路を駆け出した。
私はその場に立ち尽くして、どんどん小さくなっていくカオリの背中を、ただぼうっと見つめていた。
「……なに、それ」
思わず、そんな言葉が溢れる。
だって、最後に見たカオリの、あの悪戯っ子のような笑顔は──
──夕日に照らされていたから、と言い訳するには、あまりにも赤く染まっていたのだから。